終結プログレス 作:カモカモ
◆節分ディスオリエンテッド
「別に、この季節のイベントに文句は無いんですけど」
「なんだ?」
「黙って食べるっていう風習はどっから生えてきたんでしょうね」
この日ばかりは、夕御飯に何を食べるかを考えなくても良いという、素晴らしきイベントといえば節分である。日頃、適当に各々が勝手なものを作ったり食べたりしている丹月と百であるが、今日ばかりは同じものを、つまるところ恵方巻を食していた。
「もはや、そのルールを守るつもりもないお前が、それに疑問を抱くな」
「それはそうですね。 百さんもですけど」
普通に向かい合って、会話を交わしつつの夕食である。
「そういえば、今更だが」
「はあ」
「今年の恵方は、どこになるんだ?」
今更も今更であり、丹月は既に恵方巻の四分の三は食べ終えてしまっているし、百もほぼ同じくらいの進捗状況だ。
「えーと、(4,-4)の方向ですかね」
「……………わざわざ座標で説明するな。 あと、それだと南東になるだろう」
「南南東って最初から知ってたんだ……」
◆寝室モノローグ
じっとりとした熱気は、まだ寝室内を漂っている。
体温を分けるということは、水の中を泳ぐことに似ている、と斎賀百は思う。自分という存在から、ほんのわずかな隔たりを経ればすぐそこに、自分ではないものが自分自身を包み込んでくる。
自分の温度はほんの少し、相手の温度に近づいて。
相手の温度はほんの少し、自分の温度に近づいていく。
(……だから、それが何なのだ、という話だが)
脈略のない思考が、生まれては消えていく。
大体全て草餅のせいである。
鼻を摘まんでみた。口呼吸を始めて、目覚める気配はない。
恋と愛の違いは、際限の無い渇望なのかもしれない。
成就して、もしくは成就しなくとも、一応の決着がある恋に対して、愛に終わりなんてものはない。
だとしたら、自分達はどうだろうか。
(いや……これも栓ないことだな…………)
大体草餅が悪い(二回目)。
眉間をぎゅうとつねれば、皺ができる。それでもまだ、目を覚まさない。
一人で生きてきた、なんてことは言わない。そんなことが可能な人間は、存在しないからだ。百とて例外ではない。
ただ、誰か一人とずっと寄り添って生きていくつもりも、なかった。
だから、今のこの状況は、百としてはかなり予想外なのだ。
自分の内側から沸き上がってくる、温かいもの。この正体は何か。
ただ、それをはっきりさせることは、なんとなく良くないような気がする。
けれど、ひとつはっきりしているとこは。
「丹月。 そろそろ、起きろ」
大体、全ては草餅のせいなのだ。