終結プログレス 作:カモカモ
◆生誕バレンタイン
「おめでとうございます」
誕生日という日にかけられる言葉としては至極全うなそれだが、斎賀百は思わず数秒静止してしまう。
「そこまでビックリされることあります?」
同居人の久佐持丹月はややあきれ顔だ。
「いや、なんというか予想外だった。お前、どんな手を使って私の誕生日を把握した?」
「むしろ、ここまできて俺が誕生日を知らない方が問題になりますよ」
百と丹月は、世間一般的にはそれなりに深い仲と受け取られても仕方がない関係の名前がつけられていた。
「それはそうなのだが」
2月14日という日は、全国的には言わずと知れたバレンタインデーである。
「てっきりそっちにかまけているものかと」
「俺のことを何だと思ってるんですか?」
そりゃもちろん、草餅だと思っている。
「影に徹していると思いきや、要領よくちゃっかり漁夫の利を得るような男だと思ってるさ」
「褒められてるのか貶されてるのか微妙すぎるライン……!」
「なら、お前はこの私からのバレンタインに渡されるブツは必要ないか」
「いる」
そこはノータイムなのか、と思う。
「まあ、冗談は置いておくとして。 以前お願いした通り、今日は外食だから」
「ああ。 楽しみにしている」
何はともあれ、特別な日であろうと何だろうと平日であるため、百は出勤するし丹月もそうらしい。本日の必須の品が入った手さげ袋を肩にかける。帰りもチョコレートの手荷物は増えるだろうがそれも仕方がない。
「ついでにその時にプロポーズの返事下さい」
「ああ……………………ああ!?」
丹月はダッシュでドアを開けて去っていく。
「…………草餅め」
◆混迷ホワイトデー
「一説によれば、ホワイトデーの贈り物にはそれぞれ意味があるそうだ」
「はあ」
百から半目で見つめられたので丹月は両の掌を空に掲げて反抗の意思はないことを主張する。
「ならば、この場合──一つの袋にキャンディとマシュマロとクッキーとチョコレートをまとめて封入されている場合、どう捉えるべきなんだろうか」
「信じるままで良いんじゃない?」
「ややこしくしてる張本人が他人事みたいに答えるな」
「俺がそういうのを知らなかった可能性もあるじゃないですか」
というよりも、百がそういうことに詳しいというのが、かなり予想外だった。あと、気にするタイプというのも。
「学生時代に少し、な……」
「なんですか? まさかお返しでキャンディーとか渡して既成事実扱いされたとかそんな体験」
「お返し一つで号泣されたり半年間の争いの種になった」
「すみませんでした、まじでごめんなさい」
丹月の想定以上に凄絶な経験をしてきたのだろう。淡々と真顔で語られるのもかなり怖い。
「まあ、とっておきのマカロンでも食べて心を落ち着けてもらって……」
「お前確実に確信犯だろう」
「なんのことでしょう」
「草餅め」