終結プログレス 作:カモカモ
斎賀百の妹は、確かに間違いなく、恋、をしている。
好き、から始めて、追いかけて、追いついて。相手を振り向かせて。
勿論、こんなわかりやすいものじゃなくて、それは相当に紆余曲折はあったのだろうけど。まるで、物語の様にそれを成就させた。
それは、瑞々しくて、眩しくて、尊いものだと百も姉として思う。
けど。
人間にはどうしても向き不向きというものがあって、百は好きから始めるものにすさまじく向いていなかった。というか、斎賀の女は基本的に好きから始まる恋というものに向かない。
好き、から始めるのにはあまりにもエネルギーが必要すぎて、ひたむきになるのも、その感情に向き合うのも非合理であると感じてしまう。
だから、本当にコイバナというものは、面倒だと思うし。
「それで、だ。 何をどう思って、『俺って、百さんのどこが好きなんですか』と、戯けたことを尋ねようと?」
訳のわからないというか、なるべく関わりたくない事を、疑問という形で提示してきやがったこの男は、まじでどうしてくれようか。
◇
「大体、だな」
まず、根本的な所から、なのだが。
「親戚どもの好奇心に真面目に答えてやる必要はどこにもなかった」
「それは……そう。 まじで、そう」
丹月は、正座をして項垂れている。過ぎたことだし、今更言及しても遅いことは百も重々承知の上なのだが、まあ、八つ当たりくらいさせてもらいたい。
本当に、面倒だったのだ。こそこそ話なんて格好の餌を見つけて、食いついて群がってきた酔っぱらい達をあしらうのは。
「それを、踏まえてだ、草餅め」
「はい……」
「私のどこが、好きか、だと?」
「殺してください」
はあー、と深いため息が百の口から漏れていく。
なんという質問をしてくれたんだこいつは。
「それくらい、お前が考えろ」
「おっしゃる通り」
大体だ。
「お前良くもまあ、恥ずかしげもなくそんなことを」
この私に聞くことができたな、と思う。
「恥ずかしくないのか?」
「今、死ぬほど穴掘りたい」
そりゃそうだ。百だってこんなテーマを追及なんててしたくなかった。どこが、好きか、なんて。
けど、受け流すこともできなかったということは、この男のその質問が引っ掛かってしまっているということの証左であり。
それが、非常に嫌だ。
めんどくさい、そこに思考をなるべく回したくない。だから、百は今、怒っているのだ。そして、その怒りを相手にぶつけているということ自体が、この相手に甘えているということの現れのようであって。
「それで?」
「はい」
「答えは出たのか?」
ああ、本当に嫌だ。
こんなこと、聞くのは。というか、不毛すぎる。
でも、コントロールから外れた自分が勝手に聞いてしまう。
「総じて──斎賀百という人物そのものが、好ましいのかな、という結論になりました」
「……その心は」
「消去法的に。 少なくとも、自分はお見合いの時に一目惚れしたわけではなく」
「私も違う、と」
「なら、外見的要素は消せるかな、と。 いや、勿論それは少なからず外見要素を好ましいとは思っていても、それ100%というわけではないという理由で」
丹月は、しどろもどろに続ける。
百は、まるで丹月がやましいことを、たとえば浮気とか、したあとにそういうのを問い詰めてるみたいだな、と感想を持つ。
「なら、何か具体的なエピソードがあるかといわれると」
「ないな」
「ない、んですよ。 俺達の始まりが、お見合いっていうのは少なからず理由としてありますが」
好き、から始まるのではなく、恋みたいに駆け引きがあるわけでもなく、ゴールが最初から定められた出逢い方。
「けど、まあ、こういう関係まで行き着いてしまった訳で。 となると、俺はきっと百さんだから、斎賀百という人物自体に好意を持ってるとしか、考えられないな、って」
「…………」
百は後悔する。
だって、こんなの。
「なんで俺、プロポーズとっくに済んだ後に今更愛の告白みたいなことする羽目になってんの…………………?」
同じことを思うな。
お前が全て悪い。妙に気恥ずかしい気持ちにさせられているのも、なにもかも。
「…………くさもちめ」