終結プログレス 作:カモカモ
◆人力リクライニング
「座り心地が悪い」
そんなことを言われても、というのが久佐持丹月の正直な気持ちである。そして、そんな文句をつけてくる同居人は同居人で、そのクセに丹月の前から動こうとしない。
「クッション性が悪いな、お前は」
「そもそも、人間にクッションの機能を求めないで下さいよ」
トン、と丹月の胸板に頭を引っ付けて見上げてくる同居人の斎賀百は、丹月のクレームもどこ吹く風だ。
「仕方がないだろう」
「なにが?」
「私が座ろうとしたところにお前が既に座っていた」
「別の場所に座れよ」
「椅子があるから座るんじゃない、座るからそこが椅子になるんだ」
「パイオニアみたいなこと言わないで下さいよ」
しかも、なんも含蓄もない。
はあ、と隠すこともなく丹月はため息をついて、腕を緩く百に巻き付けた。
「勝手なことをするな」
「知らなかった? 最近の座椅子はシートベルトもついてるってこと」
「そんなわけあるか。 草餅め」
「なら、退いてください」
◆ほっぺたテスト
物は試しと婚約者な同居人の頬をつついたら、普通に睨まれた。丹月は素早く両の掌を天に掲げて無抵抗の意を示す。
「何がしたいんだお前は」
「表情筋が動きにくい人は、頬が柔らかいという噂が本当なのか気になっただけで、他意は無いです」
「アホなのか?」
百は無駄な言葉を費やすことなく端的に思いを丹月に告げる。
「検証は基本かなと」
「この件に関しては検証の必要性は皆無だろう」
「そうですかね」
百が人差し指を伸ばして、丹月の頬をつついてきた。
「自分のもので試せば良かっただろう」
「比較対照は必要ですよ、何事も」
嫌がられてはいないようなので、丹月は再度掌を百の方に伸ばしてみる。
こてんと、百は首を傾けてその掌に自らの頬をあてがった。
「…………え」
「なんだ?」
「そんなかわいい仕草、どこで覚えたの? さては、偽物ですか」
「草餅め」
◆服装ギャップ
「百さんが普通に美人してる……」
「いきなりなにを、言い出すんだお前は」
斎賀百という人物は、一応美女の類いである、とは久佐持丹月の評価だ。この『一応』というのが、ミソであり何をもって素直な評価を下し難くしているかというと、ずばりそのファッションにある。
「だって、体操服じゃない」
「社会人が、常時体操服で社会に出られるとでも?」
「少なくとも、家の周辺程度なら常時体操服なんだよなあこの人……」
丹月と百は、珍しく帰宅時刻が被り最寄駅でばったり遭遇したのだ。
そして、丹月の冒頭の言葉に繋がったのである。
「なにも、見慣れない姿では無いだろうが」
「それはそうですけど、新鮮な気持ちは口にしておこうかなと」
「草餅め」
本日の百の装いは、黒のパンツに白のニット、まだ朝夕は冷えるためかジャケットを羽織ってなんならメガネまでかけている。
「なにか新情報入りましたか?」
「ト、旅狼がやらかしたらしい」
ある意味の問題児集団クランの名を告げた百は、ニイっと笑みを浮かべる。丹月は、なんとなく空腹な肉食獣の姿が思い浮かんだ。
「大体、私に…………いや、止めておこう。 こう、特徴が無さすぎて、お前になにも言えることがない」
「その通りですけど、口にされるとちょっと悲しくなりますねこれ」
「半分は冗談だ」
半歩、互いの距離が縮まった。
「ひでえ」
隣同士で並ぶ。
「せっかくだし、なんか食べて帰る?」
「たまには、良いな」
歩くスピードが揃う。
夕日は沈み、空は紺碧に染まりつつあった。