終結プログレス   作:カモカモ

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夏祭りゴーアラウンド

「今って、祇園祭の時期なんですか」

 

久佐持丹月の婚約者たる斎賀百の血縁は、京の都までにも及ぶらしく、その親戚の集まりとやらに丹月が連れてこられたが故の発言だった。

だったのだが。

 

「確かに、その時期だが」

 

百はなぜかため息をついて頭を押さえ、親戚一同はそんな百と、丹月の方を向いて哀れみの表情を向けてきた。

 

「いきたいか……?」

「え、いや、そんな反応されるなら」

「丹月、正直に言え」

「ちょっと、興味あります、はい」

 

分かった、と非常に重々しく百が頷く。

そんな大儀そうになるなら、行きたくないな、と丹月は若干思わなくもなかったが、別にお祭りくらいなら、とも思っていたのだ。この時は。

 

夕刻。ぼちぼち良い頃合いとのことで、丹月と百は外に出ることにした。

 

「普通の服だ……」

「は?」

「いや、なんか百さんのお姉さんってこう言うときに、嬉々として衣装もってくるじゃん。セクハラ発言付きで」

 

夏祭りともなれば、浴衣の一枚や二枚は、用立てて来そうだ。

 

「お前は、死にたいのか?」

「死!?」

「良いか、丹月。 祇園祭とは──戦いだ」

「なに言ってるんだこの人」

 

外出た瞬間丹月は悟った。

 

「大浴場」

 

脈絡のない言葉のはずなのに、百はその意味を十全に理解できる。

 

「これが京都であり──祇園祭の時期だ」

 

夕方になったはずなのに、一向に気温が和らぐ感じはない。そして、極めつけはその湿度である。風が吹いても、涼しさはまったくなく、肌に暑さがまとわりついてくる。汗が流れることすらなく、肌の表面で何かべとべとした感覚を味わうのも不快だ。

 

「さて、丹月。浴衣で歩きたいか?」

「俺はまだ死にたくない」

「よろしい」

 

このお祭りは、一ヶ月以上も続くものだそうだ。

 

「知らなかった……」

「まあ、そうだろう。 有名なのは、今日の山鉾巡行だろうし」

 

駅周辺の大きな道路は、交通規制がされて歩行者天国となっている。さすがに、日本有数の祭りであるからか、人の数が尋常ではない。

丹月の手は先程からずっと百と繋いだままだ。

 

「ねえ、百さん」

「なんだ?」

「暑すぎませんか」

「当たり前だろう。この人に、しかも京都の夏だぞ。盆地を舐めるなよ」

 

立ち並ぶ個人商店はもとより、チェーン店もこの日のために、特別出店という名目で、店先で食べ物だったり、飲み物、もちろんアルコールも販売していた。

ふらふらと足が引き寄せられてしまうのは人の性だろう。

 

ビール一杯ワンコイン。

缶ビールを買う方がお得なのは、理解はするが仕方がないだろう。キンキンに冷えているとは言いがたいそれを口に含む。

 

「美味しく感じるのは何でなんでしょうね」

「ほふは?」

「なに食ってんの?」

「唐揚げ棒」

「いつの間に……」

 

丹月の目の前に差し出されたので、ありがたく一齧りする。いつでも買える、いつもの味だが、今このときは確実に通常ましで美味しい。

 

「そっちも一口寄越せ」

「買ったら?」

「持つ手がなくなる」

「あー」

 

一口じゃない量を減らされる。

百が、いける口ということは知っていたので、丹月に驚きはない。仕方ないので次なるアルコールとして、ロング缶のチューハイを購入した。

 

「ワインボトル一本購入すればどうだ」

「食べ歩き初心者すぎません?」

 

ワイン一本ラッパ飲みは、人としてやってはいけない。

 

「あと、重いでしょ、そんなもん買ったら」

「飲めば軽くなる」

 

普通に冗談なので、百の目は弧を描いていた。

 

「嵩は減らないんですよ」

 

 

だんだんと人ごみの、密が高まっていく。

 

「おお、あれが……」

 

遠くにある、木製のオブジェクトが丹月の目に入った。明かりがいくつもつけられていて、多分それは提灯だろう。

 

「山鉾ですか?」

「ああ」

 

ある意味で、丹月達の今日の目的地であり、すなわち今ここに来ている人々のほとんどの目的地でもある。

だから、すげえ混み合っていた。

 

「近づくのも一苦労ですね……」

「何を言ってるんだ、丹月」

「ん?」

「あんなとこに行くはずが無いだろう」

 

ぐいっと手が引かれる。少し丹月はバランスを崩しつつ、百の先導に従う。

百は遠くに見える山鉾の方向ではなく、くきっと九十度曲がり大通りから外れた路地の様なところに進んでいく。

 

「え、ここまできて帰るんですか?」

「そんなはず無いだろう」

 

大通りとは違って、人の圧がなく、心なしか涼しさすら感じる。

そして。

 

「おお」

 

出てきたのは、山鉾だった。

 

「有名なのは、あっちだがこっちの方が快適だろう」

 

手伝いなのか、子ども達がその鉾の下に集まって、『手拭いどうぞ、扇子どうぞ、団扇どうぞ』と独特の節をつけて歌っている。少し風が吹く。

町内会の人たちが、休めるようにと用意してくれているベンチに、二人で腰かける。

丹月は大きく伸びをして、空を見上げる。提灯が揺れていた。

 

「こっちの方が、なんとなくなんですけど、ぽいですね」

「ぽい?」

「京都のイメージっぽい」

「言わんとすることは、分からないでもない」

 

少し不思議で、今でもナニかが潜んでいそうな、現代にありながら過去の雰囲気が残り続けている、そういうイメージ。

きっと今の気持ちを言葉にするなら。

 

「楽しいですね」

「なら、よかった」

 

 

 

 

「そんで、なに食ってんの?」

「牛串」

「いつの間に……しかも、ちゃっかりなんか飲み物まで買ってるし、なにそれ」

「そこの日本酒バーが出している試飲セットだ。今は両手が塞がっても今は問題ないからな」

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