終結プログレス 作:カモカモ
◆百=ハンドレッド
「草餅」
「どうしました、ハンドレッドさん」
机の下で、スリッパが丹月にぶつかってきた。サッカーの要領で、それを百に蹴り返す。
「ももだ」
「じゃあ、俺も草餅じゃないですね」
今度は直接足が飛んでくる。丹月はそれを、両の脚で挟み込む。睨まれたが、そしらぬ顔をした。
「お前はくさもちだろう。こっちでも」
「そっちだって、百(ひゃく)じゃないですかこっちでも」
「読みが違う」
「俺も字が違いますね」
ぬっと手が伸びてきたから、捕まえた。指が絡んでくるのでそれにならって、きゅっと締めた。
「いいか、草餅。覚えておけ」
ぎゅうと、手が強く握られる。
「ひゃくよりも、ハンドレッドの方が──良いじゃないか」
「はあ」
力をこめて何を言ってるんだこの人は。というか感性が案外、
「大変若々しいものをお持ちですね」
「喧嘩を売っているなら、喜んで買うぞ?」
「なんのことかさっぱり」
肩をすくめて首を横にふりふりしていたら、挟んでいた足が、がこんと揺れた。丹月の膝が机に当たる。ちょっといたい。
「第一、今までも私は普通に草餅と呼び掛けていたと思うが?」
「いやだって、ぼちぼち名字一緒になるじゃないですか」
互いに年貢を納めることに決めたのは、つい最近のことだ。
「……草餅め」
「どっちのこと?」
◆客観いちゃいちゃ
川の流れは絶えることなく、しかし元の水のままではないと言ったのは昔の人だけれど、本当にその通りなのだなあ、と斎賀玲はぼんやりと思う。
大事な話がある、と姉である百から呼び出されて、家に──といっても彼女一人が住む家ではなく婚約者と住んでいる──来てみたら、想像通りというか結婚の報告だった。
玲達とは違って、姉はお見合いだったから、ここに至るまでが長いかと言われるとそうでもないような気はする。けれど、姉のお相手というのがあのサブリーダーだということも加味したら、かなり長い期間かかっていたようにも思う。
まあいずれにせよ、おめでたいことにな変わり無いのだから、そこはシンプルに祝福をした。
(そして、お手洗いから帰ってきてみたら……)
姉達がいちゃいちゃしていた。
何やら言い争いを──ハンドレッドやら草餅やら聞こえてきた──しているのに、手と手はテーブルの上で絡まっていて。
極めつけはその目だった。
ああ、と斎賀玲は思う。
(百姉さんは、今、幸せなんだ)
幸福というものはいろんな側面があって、いろんな形をしている。
だからきっと、玲の姉は。
狼を追っているとき。
カップラーメンを食べ『名水で作ってみたのだが、どうだ?』…………ちょっとノイズが走ったのでここは据え置きにしておきたい、妹としては。
そこに新しい形を、ものを加えていこうとしているのだろう。
それは、とても喜ばしい。女の幸せがどう、とかは玲は思わないけど。
幸せの総数が多いことに越したことはないということも、今の玲は知っていた。
それはそれとして。
「コホン」
ガタガタと、面白いように焦った椅子が動く。
「その……一応…………私もいますので……」
◇
「ということで」
「へえ。 お祝いとかも、しないとだめだね」
「そうですね」
「ところで何ですけど玲さん」
「はい?」
「この体勢、しんどくない?」
「それは、重い、ということですか」
「そんなことは全然無いし、俺から抱き上げといて今更だけど、膝の上ってしんどくないのかなあ、と」