終結プログレス 作:カモカモ
一時の気の迷いというものは、イベントごとの度に喚起されやすいらしく、久佐持丹月が何気なく入った無茶安の殿堂で割引されていたコスプレグッズを購入し、自室の姿見の前でポージングしていたのも、そういう理由だった。
「何やってるんだろ……」
ワクワクしながら、ということは微塵もなく、なんなら帰宅の道中で既に気づいていたことではあった。ただ、なんかせっかく購入したのに何もしないのは、勿体無いなどとよくわからない熱意に浮かされて、牙やら角やらを装着したことを、今はただただ後悔している。
こういうのは、似合う、似合わないではないことは、うっすらと感ずいていたことではあるが、じゃあ浮かれてもいない全くの正気で、似合う、似合わないという二次元の尺度以外で、何かを判断する基準は無く。
要するに。
「似合わないな……。さっさと、無かったことにするかあ……」
こんな姿を同居人に見られたら、どんな反応されるか分かったものじゃない。コスプレグッズは使用時間わずか5分でゴミ箱行きの運命が確定するが、値段を思えば全くもって残念ではない。
が。
「入るぞ、丹月」
「げ」
お互いに、ノックする程度の分別はあるが、半ば習慣としてノックと同時に部屋に入るようになってしまっていた。それが、今から悲劇を──百からすれば喜劇かもしれない──を産み出した。
「…………」
「……………………あの、百さん。これはですね」
「ああ、ゾンビの仮装か」
「違いますからね!牙と角は生えてねえよ多分!どこみてそう思ったのさ」
「顔」
「俺の顔、そこまでは多分死んでないよ!」
「冗談だ」
本当に冗談か判別しがたいくらいに、表情を全く動かすことのない同居人。
「しかしまさか、当日ならともかく、数日遅れでいまだにハロウィン気分から抜け出せないのが、ここまで身近に居たとはな……」
「これには極めて深遠な経緯があるけど、客観的に見たら誰がどうみてもそうにしか思えないですね分かっています」
なんかもう、部屋に帰って、あっちの世界にダイブして穴掘りたい。自分の部屋はここだが。
膝から崩れ落ちかけている丹月を尻目に、百は床に投げ捨てられていた角を拾い上げて、何を思ったか彼女自身の頭に装着し始めた。
そして、くるりと丹月の方を向いた。微妙に口元もなぜか綻んでいる。
「trick treat」
「なんか発音おかしくない?」
言いつつ、丹月は買い置きのお安いチョコレートを一粒取って、百にごくごく緩い力で投げた。
「なぜ、お前の部屋に菓子が常備されているんだ」
「長時間ゲームしたあとって、無性に甘いもの食べたくなりません?」
「それはまあ、分かるが」
角だけ着けた婚約者は、かさりと音をさせながら包み紙を開けて、茶色の立方体を口に入れた。
「丹月」
「はい?」
後頭部に手が回されて。
一秒。
二秒。
三秒。
雑な甘さの中に潜むほら苦さが口の中に広がっている。
「ど……うしたんですかいきなり」
「さっき宣言したじゃないか」
「もう一回、してもいい?」
「草餅め…………。ルールは守れよ?」