終結プログレス   作:カモカモ

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現実ファンタズム/粗品スリップ

◆現実ファンタズム

 

「俺みたいな、悪い男もいるんだよ?」

「…………」

 

斎賀百は思うより先に行動した。すなわち、一丁前に壁ドンなんてしようとしてる腕を全力で掴み、捻りあげる。

 

「鳥肌がたったが、どうしてくれるんだ」

「ギブ!ギブ!俺が悪かったですから!」

 

タッピングを三回されてしまっては、仕方がない。悪い男(笑)こと、久佐持丹月を解放してやる。

 

「で?」

「正気の沙汰じゃないなと思いました」

「わかりきっていたことだ」

 

わざわざこんなことを検証する必要もなかったろうに。百は呆れたため息を吐いた。

 

 

ことの発端は丹月が、友達のトモダチという完全なる他人のエピソードを訊いてきたことからだった。

曰く。

女性を口説くときに「俺みたいな、悪い男もいるんだよ?」を、決まり文句にしている、と。そして、それで成功している、と。

丹月はこう思ったらしい。

きっしょ、と。

百はこう思った。

は?

そしてこうも思った。恋、というものは、そこまで盲目になれるものなのか、と。そして、己の妹ならあの彼にこれを言われたならそれはそれで、受け入れそうだなと思い、遠い目になった。つくづく、百は恋というものに向かないらしい。

そして、検証してみようとなったのは、完全に戯れだった。というか、丹月がなんかノリノリになってやがった。

その結果は、まあ。先ほどの、百の行動が全てだろう。

 

「あれですね。自分に相当自信がないと、こんなこと言っちゃだめですね……」

「つまり、お前の友人の友人というのは」

「世界って、広い、よねえ……」

 

事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。

それはそうと。

 

「丹月、少し立ってみろ」

「はあ」

 

戸惑いが丹月の目に広がっていくのを見つめつつ、百はむくむく沸き起こるイタズラ心に従う。軽く丹月の肩を押すと、徐々に彼は壁際に追いやられる。

百は彼が逃げられないように、壁に腕を支えにするようにもたれ掛かり。耳元で。

 

 

「私みたいな、悪い女もいるんだぞ」

 

 

 

「どうだ」

「参りましたあ!」

 

◆粗品スリップ

 

「丹月……助かった」

 

斎賀百はどこまでも真剣な表情をしていた。その眼差しに嘘はないことは十全と、久佐持丹月に伝わってくる。人の入りが激しく、ざわざわと騒がしいが、少なくとも今この一瞬──ほんの1/10フレームくらいの間は、彼女の瞳に丹月しか映っていないことが、確信できる程度には真っ直ぐ見つめてくる──つまり、わりかし普段通りだった。

 

「初めて、お前がいてくれて良かったと思う」

 

二人の前にはそれぞれラーメン鉢が置かれている。それは決して発泡スチロールの使い捨て容器ではない。

要するに、丹月と百はラーメン屋にいた。

 

「もうちょい……そういう気持ち普段も持ってくれても良かったんじゃないかな…………。 ラーメン屋に来る以外も、もうちょいなんかこう……あると思うんですよ俺の価値」

「冗談だ」

 

カウンター式で、味に集中できるように設計された衝立があるタイプのラーメン屋で、わざわざ衝立を動かして二人で並んで食べられるようにする程度の関係性の片割れの女は、割り箸を二つに分けながらたんたんと麺をすすっている。

 

「思うんだけど」

「ん?」

 

双方が、替え玉を注文したが故に生まれた僅かな間隙。

 

「百さんはなんのためにここに」

「勿論──替え玉こみで五杯ラーメンを食べることでカップラーメンを無料でもらえるからだが?」

「主客転倒もいいところじゃん……」

 

それはいわゆる、粗品とか試供品的なやつなのではないのだろうか。

店員さんが、ごとりと麺が乗ったさらを二つ持ってきてくれる。

 

「価値をどこに置くのか。それをまず理解することはコミュニケーションにおける第一歩だからな」

「なに言ってんだこの人。あと、ラーメンのタレ使い終わったら俺にもください」

「コショウをくれ」

 

 

 

「それでこの前のカップラーメンの味はどうでした?」

「挑戦することにこそ、意義がありつまりそういう意味では成功と言える、かもしれない」

「微妙だったんですね……」

「草餅め」

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