終結プログレス 作:カモカモ
◆落ちものスプリング
玄関に百が落ちていた。もうちょい表現のしようはないのかと、丹月は一瞬宙を見てなんとか考えようとしたが、もろもろ含めて落ちているとしか言いようがやはりない。
「おーい、百さん……?」
「草餅め……」
「息はある、と」
「当たり前だろう……」
いつになく語気が弱々しい。そういえば、この春から配置が転換されるとか朝方に言ってたような。
「引き継ぎが、な…………」
「あー……」
要するに、新環境一日目ともなれば、さしもの百であっても疲労は感じるということだろう。
「動きます?」
「寝……る……………」
「ここで寝られたら普通にに邪魔」
しかしというか、やはりというか。
丹月の苦言(というにはやや弱い)を聞いたか聞かずして、かくんと百の首が揺れ動く。地面でも舟って漕げるんだ……と、なす術もなく眠りに落ちてしまった同居人を遠い目で見つめる。
そうこうしている内に、心地よさそうな寝息が聞こえてきてしまう。
「運べってことかあ……」
いやまあ、別に直接いわれたことではないのだけれども。流石に、ここに百を放置するわけにはいかなかった。本人はなんだかんだで玄関で目を覚めしても気にしなさそうではあるが。
衣類をどうするかは取りあえず、寝具に運び込んでから考えることにした丹月は、百の首裏とひざ裏へと手を回して、お姫様を抱っこする要領で持ち上げる。
ところで。
人間というものはかなり重く。持ち上げられる側の協力の有無がその難易度を大きく変える。故に、熟睡した人間を持ち上げると。
「重」
「すぅ……」(顔面に振り上げた腕をクリーンヒットさせる)
「いった!?」
「くさ……もち…………め」
「起きてる!?」
めちゃめちゃ寝てた。
◆三十路フォール
リビングに丹月が落ちていた。厳密には食卓というほど立派なものではないが、もろもろ便利に使う小さな四本足のテーブルに足を突っ込んで落ちていた。
普通に邪魔なので、百は足で転がそうとする。
「やめて!」
「草餅め」
成人男性の悲痛な悲鳴。良心に訴えてくるという実に卑怯な手に出た同居人に対して、自認では鬼ではない百は流石に足を止める。
「何をやってるんだお前は」
「話しても別に長くも無いんですけど」
「さっさといえ」
再度、足を構える。丹月は全力で止めてくれとばかりに手を振る。
「こうさ、ここで机に顔を乗っけながら端末を触ってたんですよ」
「ああ、まあ」
そこそこ見かける光景ではあった。百の実家ならば、確実に許されなかったろうが。姉の顔を百は思い浮かべつつそんなことを思う。
「で、ちょっと伸びをしようとしたんですよね」
百はよく伸びる緑色のお餅を想像する。
「俺が人間ってこと百さんも知ってるでしょ。で、伸びをしようとしたら、こう、ピキって」
「背中をつったと」
百はため息をつく。
「おっさんめ」
「百さんもこうなるのは言ってる間にですからね」
「草餅め!」