終結プログレス 作:カモカモ
◆木の芽時ブラジャー
「コンビニに、行ってくる」
何気ない日常のよくあるやりとりであり、だからその時の丹月を突き動かしたのは些細な違和感だった。
「百さん、タンマ!」
今にも玄関から出ていこうとする同居人を呼び止めつつ、ダッシュで百に近づき。
「なんだ?」
直感に従い、丹月は百のジャージのチャックを下ろす。
そして、露になったのは──シャツの概念すらないブラジャーであった。
「お前、なんのつもりだ」
「俺の台詞だよ!そんな格好で外出ちゃだめですよ!」
4月が終われば、当然のように5月がやってくるが、この時期は徐々に気温が高くなってくる。そして、丹月の体感的にはこの時期になると、町中で露出する嗜癖をお持ちの方々が増えてくるように思える。
まあ、だから。
「百さんも、そうなってるのかもしれませんけど」
「……草餅め。遠回しに私を、変態呼ばわりしていないか」
玄関から無理矢理室内へと連れ戻し、お話をすることとなった。外へ出ないのであればそのままで良いだろう、となんかムキになってる感がある反論を百がしていたので妥協して、ブラジャージ女をソファに座らせたのである。
「だって、普通に露出魔と一緒の格好でコンビニ行こうとしてたじゃん」
「一緒にするな。あいつらの目的は露出することであり、私の目的はコンビニへ行くことだ。全く違うだろう」
「必要なのはプロセスよりも結果なんですよねえこの場合」
「私が、出したがる女と思っているのか?」
「俺は思ってませんけど、司法は思うんですよ」
服を着るのが世間一般で求められている行為なのだ。
「出さないが?」
「百さんが能動的にそうじゃなくても、受動的にそうなったら嫌だから心配してるんですよ俺は」
あと、周りへの迷惑。まじで。
「草餅め……」
「はいはい」
「じゃあ、お前は私にコンビニに行くためだけにシャツを着ろというのか」
「そうだよ!」
「ということがあり、喧嘩中なのだが……まて、玲。なぜ、そんなクソデカ溜め息を……おい、どこに電話しようと……仙姉さんは関係ないだろう、おい玲!やめろ!」
◆散歩ミッドナイト
日中のムッとした熱気も、今は嘘のようにすっかり消え去って、キリッとした冷気が身体を包み込む。正体が分からない虫もそこら中で鳴いているようで、すっかり夜になったとはいえ意外と様々な音がする。
「なにもわざわざついてこなくても良かったんだが」
「じゃあ、別についていっても問題ないってことですよね」
「減らず口を」
社会人ともなれば、平日はせいぜいが日付が変わるくらいまでが限界であるが、連休ともなれば話は変わってくる。翌日のことを考えなくともいいがゆえに、ついあっちの世界にログインする時間も伸びてしまい今は月すらもとっくに沈みこんでしまったような時間だ。そんな時間まで、VR世界に没入してしまえば、空腹を覚えるのもやむ無しといったところで、百がコンビニへと食料を買い込みに向かおうとしたのも仕方ないことだろう。
「この時間の散歩って楽しくありません?」
「妙に機嫌がいいな、丹月」
勝手についてきやがった男の足取りはやけに軽い。
「久しぶりで、つい」
非日常って心踊りません?
「毎日のように、非日常(ゲーム)を、私もお前も体験していると思うが」
「毎日のように体験してれば、それはもう日常なんだよ。デイリーミッションとか……」
「ああ……」
そういう系がかったるくなる経験は、百も覚えがめちゃくちゃにあった。結局のところ、慣れと飽きは紙一重で、けれどその僅かな差を越えてしまえば、もう続かなくなる。
だから、その紙一枚を越えさせないために、ちょっとした刺激や報酬なんかを設定するのだろう。
それはきっと人間関係も同じようなもので。
「せっかくだし、手とか繋ぐ?」
「草餅め」
了承をとる前に、既に指を絡めてくる奴が何を言うのか。
指先から相手の情報が伝わる。手から伝わってくるのは、冷たさという刺激。
コンビニまであと少し。