終結プログレス   作:カモカモ

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同棲ハプニング

とある昼下がりのネットカフェ。

 

「一緒に住まないか?」

「はい?」

 

斎賀百からなされた、久佐持丹月に向けての提案はあまりにも唐突であった。

否、唐突というのは厳密には正確でもない。少なくとも、彼らの関係性は『お見合い後、両家共に前向きに進めているお付き合い』というものであるからだ。一応。

利害関係の一致から始まったのだが、最近はずるずる結婚までいってしまいそうな気配を、少なくとも丹月は感じ取っていた。百が断ればそれまでだけど。

だからまあ、いずれ共に暮らすことになってもおかしくない関係で、イマドキのそういう関係のようにお試し同棲をしていても不思議ではない。

ないのだが。

 

「なぜ急に」

「合理化を図ろうと思ってな」

 

合理化。意味:工程や事務処理過程にある不合理を除き、能率的にすること。

つまりだ。

 

「ええと、このお出掛け時間を短縮したいってことですか?」

「そうだ。 考えても見ろ、丹月。 どうせやることは、自宅にいても変わらんことなのに、わざわざここへ移動するのは手間だろう?」

 

丹月と百は、一応のデートの振りをして月に一回は、ネットカフェで顔を合わせるようにしている。両家の顔を立てるためというか、お付き合いは順調ですよ~、というアリバイ作りのためだ。

普段はちょっとだけ挨拶してから、それぞれ別の部屋を借り、あっちの方に行くから確かにそれぞれの自室でゲームをしているのと何ら変わりはない。

なるほど、確かに無駄といえば無駄であろう。

百は極まったシャンフロ廃人であり、可能な限り日常の無駄を削ろうとすることも理解はできる。

できるが。

 

「あのさ、百さん」

「なんだ」

「一緒に住むって言うことは、一緒に住むってことだよね」

「同じことを繰り返すな」

「ひとつ屋根の下に、俺がいることになるけど、いいの?」

 

百は、不機嫌そうにドリンクバーから取ってきた、炭酸飲料をテーブルに強めに置く。

 

「お前は、私が一緒に暮らすのすら嫌な男に同居の提案をするとでも?」

「ないです、うん」

 

口角がデンジャラスなつり上がり方をしたので、丹月は首を振って否定する。

喉がやけに乾く。

無料のドリンクで喉を湿らせた。

厄介なことになってしまったと、丹月は思う。何が厄介かと言えば、百の提案を否定する材料がなく、そして別に流されてしまっても良いかなと思う自分がいることだ。

 

「さて、どうする?」

「返事は、今日じゃないとダメなんですかね」

 

秘技、先延ばし。

 

「合理化」

「すみません。 前向きに進めましょう」

 

百に睨まれて、丹月の心臓はドキドキした。怖かった。

 

 

「………………」

「……」

「……百さん」

 

一週間後のことである。

 

「もうちょい、猶予欲しかったかな」

「身内が……すまない」

 

一緒に住むといっても、家探しやら荷造りやらで、1ヶ月は先になると丹月は思っていた。だが、昨日グラサン黒服の一団により丹月の荷物は強制的にまとめられ、ついでに丹月もトラックへと乗せられて、気づけばマンションの一室だった。

ちなみに、陣頭で指揮を取っていたのはグラサン和服の女性だった。周りからは『コードネーム:千』と呼ばれていた。

 

「仙姉さんは何を考えているんだ……」

「百さんも?」

「仕事から帰ってきたら、黒服に襲撃されてな……」

 

深くは聞かない方がよさそうだ。というか、襲撃ってなんだ。

 

「不意討ちとはいえ、仙姉さんの一撃を躱せないとはな…………」

「姉妹でなにやってんだあんたら」

 

そんなこんなありつつも、丹月は改めて部屋をぐるりと見渡す。

2LDK。

それなりに広い。

 

「家賃、高そう」

「こんなもんらしいぞ」

 

指が六本。

 

「あー、まあ」

「 折半でいいな」

「そうですね」

 

結構、破格だった。

 

前の住人が残していった、イエスノークッションを封印するなどという、些事はあれど恙無く日々は過ぎていった。

宅配で、なにやらでっかい段ボールを受け取った百が、共有スペースで丹月に話しかける。

 

「棚をつけたいから手伝ってくれ」

「はいはい」

 

同居しているとはいえど、お互いにほぼ独立して過ごしているためそういったことを頼まれるのは、珍しい。

 

「どこに?」

「上」

「百さんの部屋の?」

「そうだ」

 

よっこらっしょと丹月はソファから立ち上がる。

午前十時。

今日のシャンフロへのログインは、昼頃になりそうだ。

 

◇◇◇◇

「やらかした……………!」

 

午後十六時。

作業開始から六時間が過ぎている。

オレンジ色の光が眩しい。

丹月は、頭を抱える。その身には、何も纏っていなかった。

百の部屋。

ベッド。

当然、すぐ隣には人ひとり分の塊。律動的に膨らんでいる。

 

棚を取り付けていて。

 

日頃の運動不足のせいか、バランスを崩して。

 

倒れこんで。

 

目と目が合わさって。

 

顔と、顔が自然と近づいて────。

 

(あああああああああ!)

 

誰が悪いかと言えば、確実に丹月が悪い。

後悔はないところが、もっと悪い。

 

(あああああああああ…………)

 

そして、今も。

 

瞳に写りこんでいる自分の姿や。

 

この人、かわいいなとか。

 

土下座である。

自分にできることは、誠心誠意を籠めた謝罪しかない。

百が目覚めたら、初手土下座をしよう。

なんなら、この関係性の解消……いや、そっちの方が最低だな。

一体。

どうすれば。

 

「丹月……?」

「んぐあ!?」

 

思考を巡らせている間に百が目覚めていたらしい。

別に、このまますぐに土下座に移行すれば問題はないのだが、動揺して行動に移れない。

百は、そんな丹月を気にした様子もなく、ぐいーと伸びをする。

そして。

 

「なあ丹月…………草餅」

「はい……なんなりと……」

「ひとつ聞きたいのだが、私の指の大きさは三号なのだろうか、四号なのだろうか」

「来週、確認しに行きましょう、できるだけ急ぎで!」

 

それがいい。百は返す。

 

「今日はもう、身体がだるいからな」

「すんませんした。 責任を是非とも取らせて頂きたく!」

 

久佐持丹月、人生初の全裸での土下座だった。

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