終結プログレス   作:カモカモ

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黒兎バックショット

「こっちの方が」

 

 頭に揺れるのは、二本の長い耳。もちろん、本人のものではなくつけた耳だ。

 部屋の照明が、つるつるした素材の布地に跳ね返る。

 百のすらりと長い脚はタイツに覆われ、今惜しげも無くビリヤード台に腰掛ける為に使われている。

 背中はかなり大胆に半分以上が露出。

 ようするに。

 バニー服の百が、丹月の目の前でビリヤード台を背にしながら。

 

「狙いをつけやすいな」

「なんでバックショットなんてできんの?」

 

 かこんと音を立てて、球がくぼみに落ちた。

 

 

 丹月達は避暑も兼ねて、別荘に訪れていた。もちろん、丹月の別荘でも、厳密に言うと百の別荘でもなく、百の実家たる斎賀家が所有する別荘だった。

 

「ビリヤード台まである別荘って、あるところにはあるんだなあ……」

「何を今更しみじみと言ってるんだお前は」

 

 すでに、数ゲーム終えた上で、それ故に百がバニーなんてけったいな格好になっているのだ。

 

「庶民なら当然の感想ですよ」

「お前が、庶民を名乗るのは、少し無理もないか?」

「百さんのところみたいな、旧家じゃないですし。あと、別荘なんて持ってなかったよ、うちは」

 

 丹月の実家が、別荘を持てるか否かでいえば、多分普通に持てただろう。けれど。

 

「管理とか、絶対大変ですよね?」

「そのせいで、今私達はこんなところに来ているんだが」

 

 夏季休暇なんて制度まで充実しているのが、百の勤め先である。ただ、丹月としては、日帰りかせいぜいが一泊二日くらいどっか行ってもいいかもなあくらいしか考えてなかったところで、半ば強制的にこの別荘に行くように、百の実家から命が下ったのだ。

 

「まあ確かに、誰かが使わないと勿体ないもんね」

「だからといって、こんなものが準備されていたのは、完全に、悪ノリかおふざけか、はたまた悪夢のうちのどれかだとは、思うが、な」

 

 別荘について、ビリヤード台を丹月が見つけるのにそう時間はかからなかった。

 なんとなく、学生時代を思い出して試しにやってみるかと思ったらいつの間にか勝負になり。

 

「罰ゲームでこんなものを着させようとするとは、本当に救いがないなお前は」

「罰ゲームとか言い始めたのそっちだし、ちゃんと公平なルールでやったじゃん」

 

 もちろん、丹月が負けていたら、今バニースーツに身を包むのは彼自身だった。

 丹月の手番。

 鈍い音がして、球があらぬ方向に転がっていった。

 

「うわ、最悪」

「草餅め。なぜ、勝負が終わってからの方が、ミスが増えるんだ」

「百さんが、そんな格好してるんだから、そりゃミスも増えますよ」

 

 百の手番になる。あいも変わらず、バックショット。

 そしてなぜか、めっちゃ精度が高い。普通に丹月は、劣勢になっていた。

 

「そっちこそ、なんでさっきそれやらなかったんですか? というか、なんでそっちのほうが精度上がってんの?」

 

 百は一旦、キューをたてかける。そして、ビリヤード台に腰掛けて、足をくんだ。

 ごくりと、やけに熱くなった唾液が、丹月の喉を通っていく。

 

「普通に考えろ。まじめにやるなら、背面を向いて、わざわざ視野を狭めるような打ち方を選択すると思うか?」

「そのわざわざやりにくい、打ち方の方が上手いから不思議なんですよ」

 

 カランと、キューが床に倒れた。

 

「気づいたのはたった今なんだが」

 

 いやに強調されている、バニーガールの胸元。それを、女は自分自身の両の手で持ち上げて、すぐに手を離した。重力に従って、双房はゆさりと揺れる。

 

「邪魔」

「あー………。それで、百さん」

 

「そろそろ汗とか流さない?」

「まだ、さほど汗はかいていないし、これからもっと汗をかいた後でも、私は構わない」

 

 

 

 

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