終結プログレス 作:カモカモ
◆カスの嘘つきバル
なんかおしゃれな感じの音楽。間違っても、店員さんは来客があっても、大声で『いらっしゃっせー!』とか叫ぶことのない雰囲気。
飲み物だって、だいたいワイングラスで出てくる。
まあ、いわゆる小洒落たバルだ。
チンとグラス同士が軽くぶつかる。
「ずっと疑問に思ってるんですけど」
「なんだ」
「こういうところの椅子って、なんでこんなにも脚が長いんですかね」
丹月の問いに、ワインで喉を湿らせていた百は、呆れた気配を漂わせながら。
「この雰囲気で、その話題選びは0点になるんじゃないか?」
「え、じゃあ、全力で口説きにかかります?」
「見ろ。鳥肌」
「そんな嫌がられることある!?」
そして、実際に鳥肌が立っていた。
つき出しという言い回しが正しいのか分からないが、特段注文せずとも届くピクルスを、お互いに箸でつつく。
「ラーメン屋の床はわかるか」
「はあ」
「よく滑るだろう?」
「店によるだろ」
「あれをこういう店では防止するために、椅子が高くなってるんだ」
「絶対にうそだ!」
百の飲み物がなくなっていたから、丹月は自分の分も注文しがてら、彼女へメニューを見せる。肩と肩が、少しぶつかる。
丹月はせっかくだし、スパークリングワインとか頼んどくかあくらいのテンションで適当に注文し、百はおそらく何らかのこだわりがあるのか吟味した上で追加の飲み物を注文した。やたら横文字だったが、届いたものは赤ワインだった。
「という冗談は置いておいてだ」
「話題戻るんだ」
「バルの本場では、飲み終えたワイングラスを床に叩きつける習慣があるんだ。それで怪我することのないようにだな」
「そうなんだ」
「嘘に決まっているが」
「…………」
丹月は、百の鼻をつまんだ。デコピンが返ってきた。
「これで反撃返って来るの理不尽じゃないかなあ」
「うるさいぞ、草餅め」
◆練習レトロゲーム
いわゆるレトロゲームの類といえば、非VRゲームが一般的に想像されやすいらしく、まあ実際のところそこまで間違えてるわけでもないしなあ、と思いながら、丹月は指を動かす。
カチャカチャとゲーム機のボタンが音を立てるたびに、画面の中の怪物もダメージを受けていく。
基本的にVRゲームがメインであっても、時たまこういうシステムのゲームだってやりたくなることがある。久々に自室の隅っこで埃を被っていたハードを引っ張り出してきて、ベッドを椅子代わりにしてはや2時間であった。
「さぼり魔め………」
「ひぇ」
しれっといつのまにか、部屋に侵入していた百は、実のところあっちの世界の方のノルマから逃れようとしていた丹月を咎めるために、ゲームチェアの背後からひょっこり顔を出してきた。
「許されんぞ、怠慢は」
「乱数調整、乱数調整」
「草餅め」
まあ実際、サボってゲームをしていたことは確かではあるが。
「ゲームをサボるために、ゲームをするとは、どれだけゲーム好きなんだ、お前は」
「ゲーマーですし?」
ゲームの悲しみは、ゲームで補うに限るのだ。会話を続けつつ、丹月は無事にクエストをクリアした。
「百さんもやってみます?」
「罪滅ぼしのつもりか?」
「なんのことやらさっぱり」
この手のハードを触るのは初めてだったようで、さしもの百も操作に手間取っていた。試行錯誤もゲームのうち、と丹月は静観を決め込む。
どうせ、百さんのことだからすぐに慣れるだろうし。
ただ、予想に反してかなり苦戦していて、やがて百は舌打ちをすると。
「脚を開けろ」
半ば強引に、脚をこじあけて、丹月の脚と脚の間に割り込んだ。
「逆にやりにくくない?」
「丹月」
「へいへい」
仕方ないので、丹月は、背中に覆いかぶさるような形で、ぐるっと腕を回して百の操作を補助することにした。
「やりにくいな」
「言ったじゃん」
「草餅め」