終結プログレス 作:カモカモ
指に装着するタイプのお揃いのアクセサリーをなんやかんやあってつけることになった久佐持丹月の同居人、斎賀百がその日妙な格好をしていた。
厳密には、奇妙というところはないが丹月はこれまでに見たことがない姿という方が正しいが。
すなわち。
(メガネ……?)
眼に鏡と書いて、めがねと読むあの医療器具。
おしゃれアイテムでもあるが、やはり視力矯正器具としての側面が未だ根強いあれである。
(視力、悪かったっけ?)
寝室をともにする、なんてことは滅多にないが曲がりなりにも共同生活を送る相手である。例えば、コンタクトレンズだったら洗浄液の存在であったりといった痕跡に気づかないことはないはずで、丹月はそういったものの存在を感じたことはない。
(おしゃれ…………な訳はないな。 うん、ないない)
それこそ、これだけは絶対にありえない。なんせ、相手は、
(百さんだもん)
滅茶苦茶失礼なのだが、斎賀百という人物を知っている人間ならばほぼ全員が同意するだろう。とあるカリスマモデルならば、すさまじい速度のうなずきを見せてくれるはずである。
ならばこそ。余計になぞが深まる。
取りあえず、朝食のコーンフレークに牛乳を注ぎつつ、うんうんと難問に頭を悩ませていると、丹月の端末が震えた。
仕事を終えた牛乳パックは冷蔵庫に片付けて、端末を確認する。
『起きて早々、私の顔を見て唸るな。 気が散る』
「ああ、なるほど」
謎は解けた。
それはそれとして。
「普通に口で言ってくれれば良かったのに」
「ネットブラウジングをしながら、文字をうち、口で別のことを話す、なんてトリプルタスクをこなせと?」
百が顔から外したARグラスはコトンと音を立てた。
「できるが」
「できるんだ……」
流石である。
それにしても、と丹月は思う。
「百さんってメガネかけると」
「なんだ?」
怖い上司的な意味で。
「鬼感が増す……あ、いえ冗談ですよモチロン」
普段の百さんは鬼(ごとき)じゃないですからねー、と丹月はフォローになってないフォローをした。
人を威嚇するための笑みを顔に張り付けたままの百が怖すぎて、丹月は顔を伏せてコーンフレークを口に運ぶ。
「そういうお前はどうなんだ?」
「はい?」
「メガネ、かけてみろ」
テーブルを滑って、丹月の元へやってきたその器具を顔に装着。
すると、百の顔に張り付いていた笑みが険のとれたものへ変わっていく。
「そんなに変?」
「そのなんだ、丹月お前メガネかけると、パリピサークルに入ってる奴に毎回学生証を渡されてドアのところの機械にピッてやらされるタイプの学生みたいな見た目になるな」
「生々しい例え方やめて?」
ほぼ冗談だ、と百は笑った。