終結プログレス 作:カモカモ
◆脇腹ローリング
寒暖差が激しい今日このごろ、防寒具をぼちぼち出すべきかと思わなくもないが、まだ気合いで耐えられそうだから、そう簡単には出さないというポリシーを持つ百なので、今日も今日とてアウターの袖を無理やり伸ばして擬似手袋で耐え忍んできた。
ただ、まあ、やはり手は冷たくなるので、帰宅早々試しに、ずっと部屋で過ごしていただろう同居人の背後から、脇腹で暖をとるべく手を引っ付けてみたら。
「ぬ゜ん゜」
「え?」
「ぺきょって…………脇腹がぺきょって…………」
床に崩れ落ちてビクンビクンし始めた。
「気持ち悪…………」
「百さんのせいですからね!あっ……痛……………」
どうやら、同居人は突然の冷たさに驚いて身を捩った結果、その勢いで脇腹をつったらしい。
「…………ジジイすぎないか?」
「まだちゃんと朝のゴミ出しの時に、近所の小学生たちからお兄さんって呼ばれてるから……」
「今どきは、小学校で防犯ブザーの使い方も教えていないのか」
「俺のこと不審者って言ってます?」
少なくとも、百の目の前で未だに床でビクンビクンしてる奴は変態の類いだろう。
「丹月」
「はい……」
「日頃から、筋トレまではいかずとも、最低限は運動をしろ」
「至極まっとうな説教……!」
どうせ、筋力の低下とかそういうやつが原因でもあるだろう。
ちょっと楽しくなってきた百は足で脇腹をつついてみた。寝転がってる成人男性が、コロコロ転げる。
「健康が一番だ」
「百さんから言われると釈然としない」
「健康診断は毎年至極きれいな結果だが?」
「釈然としない……」
仮にも、斎賀家の一員として、それなりに武術も嗜んでいたがゆえかもしれない。
「でも、そうですね……始めるしかないか。"スーパージム入会目指せマッスルパワー"あたりからですかね」
「現実で、ちゃんと、運動しろ」
「ちっ」
「草餅め」
◆背中フォールダウン
洗濯物をベランダに干していたら、すっかり手が冷えたので、こたつで優雅に食後の携帯端末触りを楽しんでいる同居人の背中に触れてみた。
「ぺあ゜」
「聞いたことない声だ……」
「せなかぴきっとなって」
ふるり一度揺れてから、硬直する百。
愉快なことになったなあ、と丹月は思った。
「覚えておけ草餅め……」
「歳のせいか忘れっぽくて」
「忘れていてもいいさ。私が必ず思い出させてやる。特に痛みの記憶は長続きするという事を思い知らせてやろう」
こたつでべろーんと伸びている百を、丹月は眺める。自転車でにひかれたカエルみたいなポーズで床にのされている。
そんな事を思ってたからか、かなりキツめに睨まれた。
「その姿勢が楽なの?」
「楽というよりも、動いたら、次に背中になにが起こるかの予想がつかん」
おそらく姿勢が固定されていて、背中の筋肉が張ってたとかそういう理由なんだろうけど。
「歳くったね百さん」
「知ってるか、丹月。人に殺意を抱くには、一言で十分だ」
床で伸びてる百からそんなことを言われても、恐ろしさは全く無く、丹月は肩をすくめてみせた。諸手刈りが丹月の足に襲いかかってきて、鮮やかに丹月は諸手によって刈られてしまって。
「へぶっ!?」
床をなめる羽目になった。かなり手加減はされていたようで、コケ方はかなりゆっくりだったから、無傷ではあるけど。
必然的に、目線の高さが一緒になった。床の上なので。
「背中ダメなんじゃないの?」
「これくらいなら、たや……ぺきょっていまいって………………くさもちめ」
「自業自得が過ぎる」