終結プログレス 作:カモカモ
『百さんってきれいですよね』
『きれい』
『きれいだ』
百は辟易──迷惑と言うにはいささか悪い気持ちは少なかった──していた。ここ最近の同居人の言動が非常によろしくないからである。
具体的には、事あるごとに、それも日常のふとした隙にきれいだとかなんだとか、そういう言葉を百にぶつけてくるようになりやがった。
しかも、丹月にからかうつもりがあるのならば、百にもやり返しようもあるのだが、何割かは本心であることはわかってしまうゆえに。
さらに、悪いことに丹月がそんなことを言い始めたのは。
(あんなことを軽々しく言うのではなかった……………!)
極めて百の自業自得だった。
本当に、軽口の類だったのだ。
(なにが………!なにが、『普段は容姿のひとつもろくにほめられないたちの悪い男め』だ……………!)
そういう空気の、そういう時に、そういう発言が多い丹月を、そういう場面でからかってみようと思い立って、そういう場面で実践してしまい──そして翌朝からこれである。
(というか、お前はお前で何を考えているんだ草餅め!)
別に、百が容姿を褒められ慣れていないわけではない。むしろ、日常茶飯時でもある。
ただ、その相手が今回は問題であった。客観的に、百にもっとも近い位置にいるのは──心外ではあるけれど──丹月にほかならない。その男が、ちょくちょくきれいだとか、美人だとか、そんなことをほざきやがるのだ。
別に、照れるとか、恥ずかしいとか、そんなことはない。うそじゃない。
というか、普段は『見慣れたしなあ……』とかそんな反応しか、しないじゃないか。
そのくせ、ぽろっとこぼす感じで、きれいだとか、なんだとか。本当にタイミングに法則性が全くないゆえに、本心から言ってるんだろうな、とそんな方向の確信が深まっていってしまう。
別に、嬉しいとかそんなわけではない。断じて、ない。照れるとか、恥ずかしいとか、嬉しさ混じりとか、そんなのではない。ないのだ。ないったらない。
そして1週間が経過したわけだ。昨日も、百が風呂から上がったタイミングで、ちらっと顔を合わせた瞬間に、ぽろっと『きれい』とか言いやがった。
(いつまで……いつまで続くんだこの苦行は…………!)
そして、さらに3日が経過した。
なんか、百は慣れてきた。人は慣れる生き物だということを、思い出した。
丹月のきれいだぽろり発言も、まあそんなもんかと思う程度になった。
そんな折だったから、丹月が失言したのだろう。
「リアクション可愛かったのになあ」
「…………………」
おい待て。いま、何を言いやがった。
「…………やば」
「なにが、やばだ」
逃げようとしたアホの首根っこを掴み、そのまま床に引きずり倒した。うつ伏せでびたんとのされる成人男性。その背中に、百は馬乗りになった。ぐえっという鳴き声が、丹月から漏れた。
「どういう、つもりだ。今の、発言、は?」
「まあまあ、百さんはきれいだからさ」
「きれいを乱用するな」
「ああ……リアクションが本格的に失われている…………」
「草餅め。お前、まさかと思うが、わざと、やっていたな?」
「ナンノコトデショウカ」
「何が目的だ、言ってみろ」
「百さんって、かわいいじゃないですか」
「開き直るな」