終結プログレス 作:カモカモ
◆手繋ぎワクチン
斎賀流を嗜んだ上で、数多のナンパ男をちぎっては投げてきた百の五感は独自の気配を嗅ぎ取ることが可能になっており、ゆえに嫌な予感がしたので予防として折良く隣を歩く同居人の右手を掴んだ。
何を勘違いしたか、同居人が指と指を絡めて組み合うように繋ぎ直してきやがる。
「草餅め」
「そういうことじゃなかったかあ……」
当たり前だ。ただ、今回はある種体のいい虫よけ扱いしているわけだから、これくらいは許容してやっても構わない。
ということで、わざわざ振りほどくことはしなかった。
「珍しく百さんから手を繋いできたから、チャンスかなって思ったんですけど」
「そんなわけないだろう」
「まあ、結果オーライですし」
丹月は調子に乗っているようだった。増長させるのはよくないので、百は指を全力でもって挟み込んだ。
「いつか俺の指折れると思うんですよ」
「鍛え方が足りない」
「鍛えようあるの、指って」
「鍛えられる」
そうでなければ、百が握力でリンゴを潰せるようにはなってない。
「え」
「驚くポイントは特になかったと思うが」
「百さんのことだから、生まれつき馬鹿力なのかな、と」
「お前はデリカシーをどこかで失くしたのか?」
きゅっと、指を絡める角度を百から変えた。丹月は腕の自由を奪われた形になる。
「ごめんなさい」
「わかればいい」
ちりりと首筋になにかが刺さるような感覚は、ようやく薄れた。百は手を離そうとして、しかし丹月の抵抗にあう。ほどけない。
視線で遺憾の意を示したが、丹月はどこ吹く風だった。
「それで、どういうことだったの?」
「何がだ」
「俺の右手」
「お前がほどかないからだろうが」
「なんのことやら」
白々しすぎる。百は大きくため息を吐いて、自分の意思で深くつなぎ直した。
◆整体マッサージ
何を思ったかわからないが、同居人が丹月の肩を揉み始めた。
そうしたら、バキボキゴリゴリボコっ!とありえない音が鳴り響く。
「怖い!」
「痛みはないはずだが」
「痛みがないのに、誇張された漫画の効果音みたいなのが、自分の肉体から聴こえるのは普通に怖いんですよ」
ベキボコゴリゴリゴリポンッ!
「言ったのに、全然手を止めてくれない…………」
「怖いは、おかわりの意味だからな」
「落語の世界観で生きてる?」
ただ、痛みだけはなかった。丹月の人体から、神経がいつの間にか抜き取られてしまった可能性があった。
ベキョッベキッ!
「ん……これ、本当にマッサージですか」
「斎賀流には、人体を壊す術がある」
「やっぱり俺、壊されてるんだ」
そのせいか、やけに肩が軽くなってきている気がする。試しに、ぐるんぐるん回しても、なんら違和感なく可動域が広がっていた。
「ついでに、脊髄を伸ばすこともできるんだが」
「資格すらない人に、首をいじらせるのはやだ」
「ちっ……草餅め」
揉みたいのか、そんなにも。
「斎賀流って、逆に何ができないんですか?」
「10代でまっとうな手順およびスピード感のある恋愛」
「ああ」
「納得するな」
「えー、みえないーーーー」
「純粋に不快」