終結プログレス 作:カモカモ
◆草餅メイド
メイド服。要するに、使用人の仕事着であったそれは、現代日本ではもはや別の意味をもつようになっている。
世の中には、それに対してものすごい好事家が存在していることは承知しているし、実際シャンフロ内にも腕の良い職人プレイヤーの一人がその類いであった。
ただ、まさかである。
「丹月。お前」
「見ないで…………」
メイド服着用者は男性。
「そういう趣味があるなら、前もって『大事な話があるんです……』と言ってからカミングアウトしてくれ」
「俺の! 趣味じゃ! ないです!」
斎賀百は、いぶかしむ。
「なら、誰の」
「せ」
「身内が誠に申し訳ないことを……」
深々と謝罪する。
だが、それでも疑問が残る。
「姉さんが迷惑をかけたということは重々に承知したが、何故草餅の方にメイド服を着せたんだ?」
「あー、なんか『婿どの、私は最近気づいたのです。 マンネリ回避のためには、男性側がシチュエーションを変えることも、けっして悪く、ない、と』って言ってました」
「分かるような分からんような」
そもそも、マンネリがどうこういうようなつきあい方はしてないのだが。お互いに色々と期待してないという意味で。
「それに、最近気づいたとは」
「触れない方がいいでしょうね、そこは」
ゲンナリした顔のメイドさんと目が合う。多分、百も同じような顔をしている。
「それにしても、草餅」
「なんですか? あと着替えたいのでこっち見ないか、どっか行ってて貰えるとありがたいのですが」
「お前、ガリガリだな」
胸板が薄っぺらいせいか、チラチラと素肌が見えている。
「何も反論できない……」
「せめて私くらいの力は欲しいな、男性の一般論としては」
「あんたレベルの力持ってる男は、一般人じゃなくて一般ゴリ…………ぎゃあぁぁ!」
「草餅め」
「あああああたまわれるぅぅぅぅぅ!」
◆指輪スタンス
「百さんって、案外指輪しっかりつける派なんですね」
久佐持丹月は、斎賀百という人物とお揃いの指輪をつける程度の仲である。さらに言えば、同居もしている程度の仲でもある。
この同居人の女性は合理性を追及しすぎた結果、仕事を除いてどこにいくときも体操服着用ということに行き着いてしまったらしい。
初めてその姿を見たときは、乾いた笑いが浮かんだものだが今となっては遠い昔。もはや最近は慣れてきてしまった。
とにもかくにも百という女性は、丹月からすれば基本的に効率重視な人間、という感じなのだ。だからこそ。
「意外」
「そうか?」
「だって」
結構、邪魔になりません? その指輪っていうアクセサリー。
「存外、そんなことないぞ」
リビングの共用のテーブルで、百は今日の昼食の蓋をめくる。丹月は、冷やご飯で適当に作られた焼き飯のようななにかをテーブルにおく。
「毎日してるし」
「そこも、割りと意外と言いますか」
百は、ずぞぞぞぞと麺をすすりつつジト目を向けた。
「お前は私をどういう人間と思ってるんだ」
「ネトゲ廃人」
「お前にだけは言われたくない」
お互いに目を合わせて、そして笑う。
「まあ、私が毎日着けてる理由も、外出時に忘れないようになんだが」
「そうなんだ」
らしいといえば、らしいが。
「これが、あるとないとでは、快適さが違いすぎてな」
「あー……」
丹月の同居人は普通に美人なのだ。全身ジャージという格好も、ひょっとしたら自衛に貢献しているのかもしれない。
「そういうお前はどうなんだ」
丹月の指にはなにも着いていない。
「なんとなく?」
「なぜ、疑問形なんだ。 特に理由がないなら、お前も日頃から着けろ」
「なんで?」
「私が一方的に、これを強情ったみたいに見えるのが、嫌すぎる」
「どういう意味ですか? まあ、別に良いんですけど」
「草餅め………」
「なんで俺あきれられてるの?」