「……え?」
興奮するルトの言葉に押され、アスカはそう呟くことしか出来なかった。
「だから!この子もアスカちゃんと同じMS娘だったの!」
「いや、言ってる言葉の意味くらい分かりますけど……」
ルトの言葉に少し嫌味を含ませて返すアスカ。勿論、長時間廊下で待たされた恨みである。だが、その少し後。アスカはあることに気づいた。
「あれ?てことは、黒色機動群からMS娘が誕生したってことですよね?」
「…うん。その通りなんだよ……それに、今までそんな報告も上がっていない」
アスカとルトの言葉はその通りの意味だった。黒色機動群との戦争が始まってからとても長い時間が流れているが、MS娘が撃破された黒色機動群から発見された事例は過去ない。一般的にMS娘はごく限られた人間の少女たちがMSの魂をその身に宿していなければ誕生しない。これがM.G.Fや連合地球軍内での常識だからだ。
「……どーするんですか?」
「とりあえず、司令に報告しよっか。話はそれからだよ…君も付いて来てもらうからね」
ルトはアスカにそう言いながらガナーザクウォーリアのMS娘の少女の顔を見た。その少女は不思議そうな表情を浮かべながら、了解です。と言った。
「じゃあ通信室に行くよ。付いてきて」
ルトを先頭に、アスカとガナーザクウォーリアのMS娘の少女は通信室を目指した。
(とりあえず
その道中でまたしてもアスカは心の中で不満を呟いていた。すると、アスカの後ろを付いて来ていた少女がアスカに尋ねてきた。
「ねぇ、今から行く通信室で何やるのよ?」
「はあ?そんなの司令へアンタの事を報告するに決まってるじゃない」
「ふーん。その司令ってどんな人なのよ?」
「…そんな事、私に聞くより直接通信モニタで顔見ればわかるでしょ」
「愛想ないわね~そんなんじゃ、素敵な異性と出会えないわよ?」
「アンタには関係ないでしょ。私は、戦う為にMS娘になったんだから」
「はいはい、そーですかー」
何とも距離感のある会話をする2人。そんな会話を小耳に挟んでいたルトは、アスカの無愛想な返事に笑いを堪えるのに必死だった。そしてそんな会話をしている間に、3人は通信室へと到着した。自動扉が開き、中へ入ると数人の通信オペレーターがモニター付きの通信端末に向き合っていた。ルトがその内の1人に、司令に繋いでくれる?とお願いすると、通信オペレーターは端末を手早く操作しシンの通信端末にコールをかけた。
ユイの背中に乗っていたシンの通信端末にコールが入った。
「ルトからか」
シンたちは現在、湖周辺の黒色機動群部隊を撃破し野営地の周辺警戒を行っていたのだ。その途中でルトから通信が入ってきたのだ。シンは通信端末を起動させ通信を開いた。
〈司令、ルトです。さっきの女の子の件で報告があります〉
「何かわかったのか?」
するとルトはとんでもない発言をした。
〈身体検査の際に驚くべきことが発覚したんです。さっきの女の子、ガナーザクウォーリアのMS娘だったんです〉
「なんだとッ!!」
シンの大声がこだました。その声に少し驚いたユイだったが、すぐに平常心を取り戻し飛行を続けた。だがシンは平常心をまだ完全に戻せていなかった。
「それは本当なのかルト!」
〈はい、間違いありません。今本人と代わりますね〉
するとルトがモニターからはけると、数時間前に見た少女がモニターに映った。シンは何とか平常心を保つ様にして、その少女に話しかけた。
「初めましてだな。私がM.G.Fの司令官、シン・クロサキだ。よろしくな」
〈あ、えっと…私、ガナーザクウォーリアのMS娘だって言われた者です。よろしくお願いします?〉
「突然の事で混乱しているんだろうが焦らなくていい、まずは君の名前を教えてくれるか?」
〈え?私の名前……すみません。ちょっとわかりません〉
「(黒色機動群だった以前の事は覚えていないのかもしれないな)わかった。なら、自分の胸に手を当てて意識を集中させてみてくれ。そうしたら、君の愛称が見えてくる筈だ」
〈私の愛称ですか?わかりました〉
シンは、ヨナに自身の愛称を見つけさせた時と同じ方法を少女に教えた。すると、モニター越しに少女は胸に手を当てて目を閉じた。意識を集中させていることがシンにはわかり、それから1分ほど待つとその少女は、ハッとした表情で目を開いた。
「浮かんできた言葉を教えてくれるか?」
〈えっと、ルナって言葉が浮かびました〉
「ルナだな、よくわかった。改めてよろしく頼む」
〈は、はい。よろしくお願いします…それで、私はこれから一体どうしたらいいでしょうか?〉
「申し訳ないが、数日間はその基地内で過ごしてもらう。君はかなり特殊なMS娘だからな、
シンの言葉に少しだけ顔が曇るルナ。それもその筈だろう、目が覚めたら軍隊のような組織に拘束されている様な状況がルナの現状なのである。だがシンはそんなルナを安心させようとしてか、ある話を持ちかけた。
「その間は君を助け出したアスカって娘が面倒を見てくれる筈だ。困ったり辛かったら彼女を頼ると良い。ぶっきらぼうだが、根は優しくて素直な良い娘なんだ」
〈ちょっと司令!勝手に決めないでください!〉
するとモニターの端からアスカが顔を覗かせてきた。アスカの表情は怒っているような表情だったが、シンは落ち着いた表情でアスカに言った。
「悪いがアスカ、こちらからそっちに割けるメンバーはもういないんだ。半島攻略作戦もこれ以上遅延を出すわけにはいかん。押し付ける形にはなって悪いが、よろしく頼んだぞ」
〈……わかりましたっ〉
アスカはプイッとそっぽを向くようにしてモニターから姿を消した。そんなアスカを見て、やれやれ。と内心呟くシン。
「という訳だ。ルナはアスカの言う事をよく聞いて行動するように、いいな?」
〈わかりました〉
「ではまた、直接会える日を楽しみにしている。通信終了」
そう言ってシンは通信を切った。通信端末をコートのポケットにしまうと、ユイが話しかけてきた。
〈司令、さっきの子をどうする気だ?〉
「…調査の結果次第だな。まあ、本音を明かせばM.G.Fの戦力として招き入れたいんだがな」
〈…それもそうね〉
「今回のこの現象、以降は「D事案」と呼称する。後で他の皆にも伝えるが、D事案が発生した際はすぐに相手を確保するように」
〈わかった。さて、警戒任務に戻るとするわ〉
「了解だユイ」
ユイは純白の翼を羽ばたかせ、夜闇の空を駆けていった。
続く