「はぁ…はぁ…お、墜とせ…た?」
墜落していくGF級特殊機を視界の隅に収めながらヨナは荒く息を吐く。心臓の鼓動が早くそして激しくなり体温が高まる。恐らくは負傷のせいだろう、という実感があったヨナ。だが、意識は少し朦朧としていた。視界が陽炎の様に揺らめいているようだった。
〈―――ナ……ヨナッ!〉
「っ!?」
不意にヨナは自分の名前を呼ぶ声にハッとした。いつの間にか自分のすぐ隣にアスカの姿があった。自分と並走するように飛んでいるアスカはやがてヨナの右肩に左手を乗せて軽く彼女を揺さぶった。
〈しっかりして、まだ戦闘は終わってないんだ〉
「あ……アスカ…ちゃん…」
〈ッ!?ヨナ、アンタ被弾したの!?〉
アスカがヨナの左太腿に出来た銃創に気づいた。止血されていない銃創からは血が足を伝いゆっくりとだが、まだ流れ出ている。
「だ、大丈夫…まだ…私、戦える―――」
何バカなことを言ってんだよ!
唐突にアスカの怒鳴り、思わずヨナはビクッ!としてしまった。
〈装甲服を付けてない場所に被弾して出血もしてるのに、何が大丈夫だよ!さっさと止血しなきゃ、出血多量で死んでしまうんだぞッ!!〉
「…あ……」
〈後は任せて、さっさと後退して!…ルナ!ヨナと一緒に後退して、ヨナの止血作業を手伝って!〉
〈え!そんな、アタシ止血の仕方なんか知らないわよ!〉
〈陸軍部隊の連中に手伝って貰うなりして!私はユイさんの援護に行く!〉
〈あ、ちょっと―――〉
ルナが叫んだ時には既にアスカの姿はヨナの隣にいなかった。そしてヨナの元にやって来たルナがヨナを肩で支え、戦線から後退していった。
〈こちらM.G.F所属のMS娘、ルナです!出血した仲間の救護をお願いします!〉
ルナが地上の陸軍部隊に呼びかけを行っているのを耳に挟んでいると、ソードシルエットを装備したシルエットフライヤーが自分たちとは逆方向に飛んでいった。
「ア……スカ、ちゃ…ん……」
だがヨナはそこで意識を手放した。
「……あ…」
ヨナはベットの上で目を覚ました。目の前には緑色の天井が広がっていたが、風に揺られたのかしわを一瞬浮かび上がって消える。ヨナは顔を右側へ倒した。目の前に細い棒が見えると、視線を上へ向ける。
「……点、滴?」
そこには無色の水が入った透明の袋が掛けられていた。その少し下にある点滴筒にポタポタと小さな水滴が落ちていくのがヨナにははっきり見えた。そして意識も段々ハッキリしてきた。
「そうだ作戦は―――イタッ!」
勢いよく起き上がろうとした直後、ヨナは唐突に左太腿に痛みを感じた。そして思い出した。
(そうだった……私、あのGF級特殊機と戦って被弾して……)
「………」
そこでヨナは黙り込んでしまった。あの後戦闘がどうなったのか知らないにせよ、自分は1人戦線を離脱した。仲間を戦場に置き去りにして。そんな感情がヨナの心中を支配していた。すると―――
「あ、やっと起きたんだ」
聞き覚えのある声が部屋の中に響き渡った。ヨナは声のした方へ視線を向けると、そこには装甲服を外し私服姿のアスカがいた。
「アスカちゃんッ!作戦は!みんなは無事―――イタッ!」
「大声で叫ぶと傷が開くよ?まったく……」
焦った口調でヨナがアスカに尋ねたが、ヨナは傷の痛みで言葉が途切れてしまった。そんなヨナを見てアスカは少し呆れたように、やれやれと両手を振って語り出した。
「とりあえず作戦は成功だよ。黒色機動群の半島付け根の防衛線は無事に突破できた。被害は私が小破*1、ヨナが大破*2……じゃない、重症だけだって。それとここは陸軍陣地の野戦病院、ヨナ、丸1日寝込んでたんだよ」
「……そう」
アスカの話を聞いて作戦についての成功は嬉しく思った。だが、ヨナは別の事が気になっていて、黙り込んでしまった。
「……自分が1人だけ戦線離脱したことでも気にしてるの?」
「あ!いや…そんなんじゃ―――」
「図星じゃない」
「うう……」
完全に自分の考えている事を見抜かれて恥ずかしくなるヨナ。だがアスカは諭すようにヨナに語り掛けた。
「別に気にしなくていいと思うよ?あの時司令にヨナの事を話した時も、良く判断してくれた。って言われたし……そんな私の事、ヨナは悪者にするんだ?」
だが、一言余計なことが付け加えられていた。
「ちがっ――私は、アスカちゃんのこと―――」
「冗談だよ…ホント、気にしなくていいから」
「うん……」
だがその余計な一言も、ヨナを気遣っての事だったようだった。すると、アスカは少し砕けた口調で話し始めた。
「まあともあれ、私とヨナは一旦ハルフェースに帰還することになったし…これでお互い様」
「え、アスカちゃんも?私は重傷(?)だからわかるけど、アスカちゃんもなの?」
ヨナが不思議に思ってアスカに質問する。
「小破とは言え、装甲服が傷ついたのは事実だし。万全じゃない状態で戦場には出せない。って言ったのも司令だしね。ヨナの治療と私の装甲服の修理も兼ねて、ハルフェースに帰還しろってさ」
「そうなんだ…」
「それに―――」
何かを勿体ぶったように話すアスカに、え?とヨナは思わず聞き返した。
また司令に面倒ごと押し付けられたし
アスカがそう言った時、室内にオレンジ髪の人物が入ってきた。
続く