司令官室を足早に出て行ったアスカを追ってヨナは司令官室を飛び出した。そして廊下に出たヨナは、頭を右へ左へブンブンと振ってアスカを探した。
「えっと、あ、アスカちゃんは何処に―――」
「そんなに首降らなくてもここに居るって」
「わあっ!」
そしてヨナの背後からアスカの声が聞こえてきた。アスカは司令官室の扉のすぐ傍の壁に足を組んでもたれ掛かっていた。まさか探していた人物が背後にいるとは思わず、ヨナは驚きの声をあげた。
「お、脅かさないでよアスカちゃん…」
「そっちが勝手に驚いたんでしょ?ほら行くよ。結構広い施設なんだから」
「う、うん!よろしくお願いするねアスカちゃん!」
そう言ってヨナはアスカの後に付いていった。
「ヨナ。寮以外の所は何処か行った?」
「ううん。司令官の部屋しか行った事ないよ。今は何処に向かってるの?」
「とりあえず食堂だね。そこに行けないと何も始まらない」
「そうだね!」
2人は廊下を歩いて行った。
司令官室を出てから1分で、ヨナとアスカは食堂へ着いた。食堂はとても広く、食事できる長机と長椅子がある空間の奥に厨房があって、その壁沿いには飲料水などが飲めるドリンクスターが棚の上に置かれていた。その空間を見たヨナは少しだけ目を輝かせた。
「わあー!広いねー!」
「そりゃ広いよ。ここでM.G.Fのメンバー全員の食事を賄ってるんだから…基本的には朝の7時、お昼の12時、夜の18時からご飯が食べれるから憶えといて」
「了解!」
「じゃあ次は出撃デッキに行くよ。ここに行けないとMS娘として終わってるようなものだし」
「りょ、了解…」
そして2人は食堂を後にした。そこからまた2人はしばらく歩き、いかにも重圧そうなメカメカしい扉の前に来た。
「す、凄いね。なんか、圧倒されちゃいそうだよ」
「私も最初はそう思った。出撃デッキ以外じゃ、こんな重圧でメカメカしい扉なんて整備室以外ないし…」
そして扉を開けて2人は出撃デッキへと足を運び入れた。そこにはフォークリフトや幾つもの機械と並んでいて、内部は完全に金属で覆われていた。
「こ、ここが出撃デッキ…」
「うん。ここが基地の一番先端部に当たる部分。この基地自体がガルダ級超大型輸送機みたいなもんだから……外観もガルダ級に似せてあるらしいし」
「そ、そうなんだ…」
「で、ここから作戦区域や演習場まで出撃するの、そしてまたここに戻って来る。そんな感じ。まあ、戻ってこれるものならね……」
「え、何か言ったアスカちゃん?」
「なんでもないよ」
そう言ったアスカはドックの中を進み、柵に三方を囲まれた窪んだ空間へと向かった。アスカに続いてヨナもそこへ向かう。そこには等間隔に並んだ腰の高さほどある8つのパネルがあった。それを見たヨナはアスカに尋ねた。
「アスカちゃん。これは?」
「適性検査を受けた時に指紋認証をしたの覚えてる?」
「う、うん。覚えてるよ」
「このパネルに手を当てることで、MS娘の出撃と使用認証をするの。指紋認証なら、装備が万が一盗難に遭っても使用できないからね。で、認証が終わったら今私が立っている場所がカタパルトまで降りていくから、そこで装備を付けたら出撃だよ」
「了解アスカちゃん。でも、凄い合理的な保管システムだね」
そうだね。とアスカは呟く。すると―――
「ん?アスカじゃないか、こんな所で何してるんだ?」
2人の背後から声をかけてくる人物がいた。2人が振り返るとそこには、明るい金髪のセミロングの髪、黒地のシャツに胸元に大きな赤い星ワッペンが縫い込まれた襟元が赤と黄色で彩られた青みがかった黒いジャケットを羽織り、首には明るい青色のマフラーを撒いてジャケットよりも少しだけ青みが強くなっているジーンズとロングブーツを履いた少女が立っていた。
「リシェットさん。今日来た新人に基地内を案内してるんです」
リシェット。と呼ばれたその少女は、アスカの話を聞きながら2人の元へ歩み寄ってきた。
「そうだったのか。お前、名前は?」
「は、はい!ナラティブガンダムのMS娘、ヨナと言います!」
「ヨナか。フッ、男みたいなコードネームだな」
「え!?」
リシェットは鼻で小さく笑いながらそう呟いた。それに驚くヨナだったが、鼻で笑われた理由が彼女にはいまいちピンと来なかった。
「まあいい。私はリシェット、ガンダムMk-Ⅱ(ティターンズカラー)のMS娘だ…アスカ、こいつは何処の部隊に所属になるんだ?」
「私たちの部隊ですよ。一ヵ月前の撤退戦で私の部隊は私を除いて壊滅、丁度リシェットさんの部隊にも空きが出来たから再編成されたんじゃないですか」
「……そうだったな。こんな状況だからな、新人でも構っていられない。という事か」
(え!?)
2人の会話に戸惑いを覚えるヨナ。すると、アスカがヨナに話しかけた。
「ヨナ。次は整備室に行くから、ついてきて」
「う、うん。わかった」
「じゃあリシェットさん。また後で」
「ああ。後でな」
リシェットに別れを告げ、ヨナはアスカは出撃ドックの正面入り口扉の左右に伸びる下りの階段を降りていった。そしてしばらく階段を降りていくと出撃ドックの入口扉と同じ重圧でメカメカしい扉が姿を現した。アスカはその部屋について説明を始めた。
「ここが整備室。ここで装備の整理や確認。外付けのオプション装備や性能向上パーツなんかの選択ができるから、覚えておいて」
「う、うん。外付けのオプション装備はわかったけど…せ、せいのうこうじょうぱーつ?ってなんなのアスカちゃん?」
「詳しくは中で説明するよ。その方が分かりやすいし、何より専門家が居るから」
「専門家?」
「この整備室を切り盛りしている整備長の事。とりあえず、中へ入ろう」
2人は整備室に足を踏み入れた。重圧な扉がその重圧さとは裏腹にスッと開き、2人を室内へと誘う。室内に入ると、そこは幾つものグリスが跳ねた黒いシミや切り傷のような跡が目に付く真っ白な壁に覆われた幾つもの作業机と壁に沿って出撃ドックにあったパネルが並んでおり、机の上には数多くの工具が散乱していて床にもグリスが飛び散ったような跡があった。ヨナは、そのごちゃごちゃした室内に驚きを隠せなった。
「ルトさーん。いますかー?」
「その声はアスカちゃんだね!はいはい、今いっきまーすっよー!」
そして、部屋の奥にある周囲を仕切られた机に座っていたオレンジ色の髪を左上でサイドテールにして青いノースリーブシャツを着て、二の腕の所まではだけさせた赤い繋ぎを身につけた黒い作業靴を履いた背が150㎝くらいの青い目の少女が出てきた。
「やあやあっ、アスカちゃん!このルトさまに、何かご用でっすかー?」
「相変わらず、変な喋り方ですねルトさん。新人を連れてきたので
一歩前へ出たヨナはそのオレンジ色の髪の少女「ルト」と対面した。
「は、初めまして!ナラティブガンダムのヨナです!」
「ああー!新人ちゃんねー!んじゃ早速せっつめーいするから、ついってきってー!」
「は、はい―――って、うわぁ!引っ張らないでくださいよー!」
そしてヨナはルトに手を引っ張られて壁沿いのパネルの1つへと案内された。そして、ルトに握られていた手をそのままパネルに押し当てられた。
「ちょ、ちょっとルト整備長さん!」
「んん~?なーんだい、新人ちゃん!」
「あの、手放してくれませんか?」
「うんー!いっま放すっねー!」
そしてようやく手を放してくれたルトに安堵するヨナ。すると、突然機械の音声が流れた。
「照合確認。ようこそ、ナラティブガンダムさん」
「わっ!何今の声!」
「この機械のおんっせいっさー!んじゃあさっそくービッシバッシ確認していっくよー!」
ルトがそう言った瞬間、ヨナの目の前にとても薄い水色のディスプレイが現れた。そこには
3つの項目があり、それぞれ「装備確認/変更」「性能向上パーツ確認/変更」「大規模改装許可申請」とあった。
「じゃあまっずはー「装備確認/変更」をタッチしってみてー!」
「は、はい!」
ルトに言われるまま、ヨナは「装備確認/変更」を押した。すると画面が切り替わり、ルトがそそくさとその画面を覗き込んだ。
「わっ!ル、ルトさん!?」
「んん~?どっれどれー、新人ちゃんの初期装備はぁ………」
そこからしばらくルトはディスプレイを眺めていた。そしてヨナの、ひいてはナラティブガンダムの武装欄をチェックした時だった―――
ゑ‘’ゑ‘’ゑ‘’ゑ‘’ゑ‘’ぇぇぇぇぇぇー!!
と、先程までの子供の様な高い声ではなく、おじさんの様なとっても低い声で叫んだのだ。その叫び声を聞いたアスカは慌てて2人の傍に駆けてきた。
「どうしたんですかルトさん!?今までに聞いたことのない低い声でしたけど、まさか変な物でも食べて声変わりしたんですか!?」
「んな訳ないよっ!これ見てッ!!」
そしてルトに言われるまま、ヨナをそっちのけでアスカはディスプレイを見た。そこに書いてあったのは―――
ナラティブガンダム 武装 頭部60㎜バルカン
の、たった一行だった。
「え?」
アスカはルトとは違って、小さくそう呟いた。だが、当のヨナはあっけらかんとした表情で突っ立っていたのだった。
(私、何か不味いことしたのかな………)
続く