その後、ヨナはアスカに連れられて基地内を歩き回った。そして日が傾き始めた頃、ヨナとアスカは司令官室へと戻って来ていた。
「司令、基地内の案内終了しました」
司令官室に入るなりアスカがシンに向かって言った。そして先程と同じ執務机に座っていたシンは、ご苦労だった。とアスカに労いの言葉をかけると、続けてヨナにも声をかけた。
「お疲れだったなヨナ。疲れてないか?」
「大丈夫です!体力には自信がありますから!」
「そうか!それを聞いて安心したぞ」
ヨナの返事に笑みをこぼすシン。すると今度はシンの隣に立っていたユイが口を開いた。
「ではヨナ、明日はお前に黒色機動群についての講習を行う。
「えっと、ヒトマルマルマルだから…午前10時か…了解しました!」
「くれぐれも遅刻をするんじゃないぞ。わかったな」
「はい!」
シンの念押しを素直に受け止めたヨナは、真剣な表情で返答した。
「良い返事だ。よし、2人は下がっていいぞ」
「「失礼しました!」」
シンの言葉にヨナとアスカの2人は敬礼をすると、司令官室を退室した。その後は、夕方という事もあってヨナとアスカは食堂へと向かい夕食を取った。夕食を終えた2人は一度寮へと戻って寝間着を取りに行き、そのまま大浴場へと向かうと入浴を済ませた。そして2人はその後、寮へと戻りそれぞれのベットに腰掛けて座っていた。ヨナとアスカの部屋は入ってすぐ、左右に情報端末付きの机がありその後ろにカーテン付きシングルベットが2つ。そして入り口正面の壁には2人分のクローゼットがある白い壁で囲われたとてもシンプルな間取りだった。しばらく沈黙を続けていた2人だったが、ヨナがそれを破った。
「ねえ、アスカちゃん。さっきリシェットさんと会った時に話してたことって…」
「…一ヵ月前の話?」
「う、うん。あの話って―――」
「実話だよ。私がM.G.Fに入った時から所属していた部隊は、一ヵ月前のキャリフォルニアベースからの撤退戦で私以外みんな
「………」
「みんないい人たちだった。でも、死ぬ時って言うのは一瞬…気が付いた時にはその人はもうこの世界から完全に居なくなってる。腹が立つぐらいあっさりと、ね」
アスカは枕元にある棚に飾られた写真を一弁した。そこにはアスカの他に、オレンジ色の髪の少女と少し茶色がかった黒いショートヘアーの少女が映っていた。
「…その写真の人たちが?」
「うん。2人共、私の目の前でやられたから、よく覚えてる」
「……ごめん。辛い事、思い出させちゃったよね?」
「気にしなくていいよ……」
「………」
「でも、これだけは言っておく―――」
アスカの真剣な眼差しがヨナの目を捉え、言った。
死んだら駄目だよ
その瞬間、ヨナの心臓がドクンッ!と大きく脈打った。この時、ヨナは初めて自分がこれから向かう場所がどういう場所なのか認識した。
「アスカちゃん……」
少し弱々しい声でアスカの名前を呼ぶヨナ。
「それだけは、覚えておいて……おやすみ、ヨナ」
「うん…おやすみ、アスカちゃん」
こうしてヨナのMS娘としての初日は過ぎていったのだった。
翌日、ヨナとアスカは
「アスカちゃん、おはよう」
「うん。おはよう…ほら、早く着替えて顔洗いに行くよ」
「りょ、了解!」
既に着替え始めていたアスカにそう言われたヨナは慌てて寝間着から着替えた。そして、アスカに付いていく形で部屋を出ると洗面所へと向かった。その道中、アスカは後ろをついてくるヨナに言った。
「私、今日は朝から訓練があるから、研修室には自分で向かってよ?」
「あ、うん。場所は大体覚えてるから大丈夫だよ」
「ならいいけど…」
その後2人は洗面所で洗顔や歯磨きなどを済ませると、そのまま朝食をとる為食堂へと向かった。そして食堂に行くと、その入り口でリシェットとバッタリ出くわした。
「あ。リシェットさん、おはようございます」
「ああ、おはようアスカ…それと……」
まだ自分の名前を憶えられていないリシェットにヨナは少しガクッとなったが、慌てずにまた自己紹介をした。
「よ、ヨナです!」
「そうだったな。おはよう、ヨナ」
「はい!おはようございますリシェットさん!」
そう言って3人は食堂へと入って行った。そして朝食のプレートを受け取ると、3人横に並んで椅子に座り食事を始めた。
「リシェットさん、今日の訓練よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそな」
「ヨナは今日、講習なのか?」
ふと、食事をしていたリシェットがヨナに声をかけた。もっとも、リシェットからすればアスカ8割ヨナ2割の話のつもりであったが、アスカが話し始めようとするより先にヨナが返答した。
「はい!黒色機動群に関する講習をユイさんがしてくれるって」
「そうか…まあ、死なない為にもしっかり講習を受けてくることだな」
「は、はい!」
それから3人は談笑することなく食事を済ませた。そしてプレートを片付け、食堂から退出するとアスカとリシェットはそこで離れることになった。
「じゃあ私はこのまま訓練に行くから。研修の時間、忘れないように」
「ありがとうアスカちゃん。訓練頑張ってね!」
「うん。じゃあ、また後で」
そう言ってアスカたちと別れたヨナは2人の背中を見送った。そして食堂の入り口に駆けてあった時計を確認した。
(…まだ7時になったばっかりか…どうしよ、何して時間を潰そうかな?)
そんなことを考えていたヨナに、不意に声をかけてくる人物がいた。
「ん?ヨナ、もう食事は済ませたのか?」
ヨナが声のする方を向くとそこにはユイが立っていた。
「あれ?ユイさん、こんな所で何してるんですか?」
「何をしているも何も、朝ご飯を食べに来たんだが?」
「え、あ!そ、そうですよね!すみません…」
今は朝の7時で朝食を食べる時間と言っても何らおかしい時間ではないし、ここは食堂前だ。そんなことを当たり前のように言われたヨナは焦りながら顔を真っ赤にしていた。
「フッ、いいさ。それより10時からの講習、遅れるなよ?」
「(10時からの講習……あ、そうだ!)あ、あの…ユイさん!」
「なんだ?」
食堂へ入ろうとしていたユイをヨナが呼び止めた。ユイはその場で上半身だけを振り向かせ、顔をヨナへと向けた。ヨナは意を決して尋ねた。
「その講習の準備、お手伝いして良いですか!?」
「なに?」
ユイは少し不思議そうな表情をしていた。
続く