その後朝食を終えたユイの後に続くように、ヨナは研修準備室へと足を踏み入れていた。研修準備室は研修に使用する資料など、多種多様なファイルが仕舞われた棚が幾つか置いてある部屋だった。
「うわ!こ、これ全部今日の研修に使う資料なんですか?」
「いや、今日お前に教えるのは黒色機動群の基礎情報についてだ。だから、準備と言ってもほぼ無いに等しい」
ユイは奥にある棚へと歩いていきながらそう答えた。
「え?じゃ、じゃあ何で、手伝ってくれても構わないぞ。て言ったんですか?」
だが、ユイの言葉に疑問を感じたヨナは思わず尋ねてしまった。するとユイはフッ、と笑みを浮かべながら答えた。
「簡単なことだ。講習の時間を早めることが出来れば、その分予定を繰り上げることが出来るからだよ」
「な、なるほど…」
「それに今日は講習だけではない、講習後は基礎訓練も行うつもりだ。その時間も多く取ることが出来れば、お前が戦う術を身に着ける時間を多く取れるからな」
「え…そうなんですか?」
「そうだ。今
ユイは必要だった書類を棚から引き抜きながらヨナに問いかけた。唐突に質問をされたヨナは思わず、え?とこぼしてしまった。そして、昨日と今日の2日間で出会ったMS娘のことを考えた。そして―――
「ユイさんとアスカちゃん。それと、リシェットさんの3人です」
ヨナはそう答えた。するとユイは、そうだ。と答えた。だが、そのユイの返答の言葉にヨナは疑問を浮かべた。ここで返ってくる言葉は、そうか。や、それ以外には合わなかったのか?をヨナは予想していたからだ。
「え…なんで、そうだ。って答えるんですか?」
だが、その疑問にユイはすぐに答えをもたらした。
「今この基地に残っているMS娘が―――」
お前を含めた4人だけしか居ないからだ
「……え?」
「正確には他にもいるが、それでも今M.G.Fが運用するMS娘の総人数はたったの12人だ。一ヵ月前の大規模戦闘でも精強だったMS娘が5人
「そ、そんな……」
平静を保ちつつも何処か悔しく苦しそうなユイの言葉に唖然とするヨナ。そんなヨナの元へ歩み寄ってきたユイは、ヨナの右肩をポンッと叩いた。
「講習を始めるぞ。今の私たちには、ショックで立ち止まっていられる時間は無いんだ」
「……っ、ハイッ!」
「良い返事だ。行こう」
ユイとヨナは研修準備室を後にし、第二研修室へと向かった。
その後ヨナはユイから黒色機動群の特徴と撃墜方法を教わった。
「黒色機動群は基本的に3~5機の部隊で動き、自分たちの索敵範囲に存在する人工物や人類を徹底的に破壊し虐殺してしまう。そして、黒色機動群を撃墜するには腹部を貫通攻撃で貫くか、胴体部分を両断する。と…」
「うむ、これは黒色機動群を倒すことにおいて基本中の基本だ。忘れるなよ」
「はい!あの、ユイさん。それ以外の箇所を攻撃する必要もあるのですか?」
「良い質問だな。勿論攻撃する必要はある、特に腕部への攻撃は大抵の黒色機動群には有効だ。黒色機動群との戦闘は多数で1機を攻撃する戦法も有効だ。1人が腕を攻撃して相手の攻撃手段を奪い、もう1人が止めを刺す。簡単な例えを挙げるならこんな感じだ」
「わかりました!」
そう言いながら、持って来ていたメモ帳にユイの言葉をメモしていった。すると、ユイはまたとんでもないことを口にした。
「では講習は以上だ」
「エエッ!!」
唐突な講習の終了を言い渡されたヨナは大声を上げて叫んでしまった。だが当のユイは、驚く様子も見せなかった。それどころか、研修室から出ていこうとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいユイさん!まだ黒色機動群の特徴と撃墜方法しか教えてもらってませんよ!」
「何を言っている、今回の講習はその2つを教える講習だぞ。それを教え終わったなら、これ以上の講習は時間の無駄だ」
「そ、それはそうですけど……」
「それに、黒色機動群を倒すのなら奴らの特徴と撃墜方法を知っておくだけで十分だ。
「っ!」
ユイの言葉に、背筋をビクッと震わせたヨナ。そんな様子のヨナを気にすることなく、ユイはすぐに言い放った。
「次は基礎訓練を行う。MS娘としての戦い方を教えてやるから、付いて来い」
「は、はい」
そう言って研修室を出て言ったユイの後を追ってヨナは研修室を後にした。
ユイに連れられ、ヨナは出撃デッキに向かうことになった。そして2人は出撃ドックへと戻ってきた。ユイは出撃カタパルトの方へと歩いて行くと、MS娘の出撃時に使うパネルの前に立った。それを見たヨナはとても不思議そうな表情をした。
「ここって出撃カタパルトですよね?何でここに来たんですか?」
ヨナに質問されたユイはヨナに話し始めた。
「ここから訓練所に行くからだ」
「え、訓練所ってことは…」
「そうだ。アスカとリシェットに合流して訓練を行う」
「りょ、了解です!」
「では行くぞ」
そう言ったユイはパネルに右手を当てた。そしてシステムが「ウイングガンダムゼロ(EW版)」のデータを読み込み、ヨナも続いてパネルに手を触れた。するとシステムは「ナラティブガンダム」のデータを読み込んだ。画面の右端にはMSとしてのナラティブガンダムの画像が浮かび上がり、その横に4つの項目が掛かれた円型のアイコンが現れた。上の列は「出撃申請」「遠征」下の列は「訓練」「演習」となっていた。
「訓練をタッチしてみろ。そしたらカタパルトまで移動する、足元に気をつけるんだぞ」
「は、はい!」
ユイの指示を受けたヨナは「訓練」のアイコンをタッチした。すると、ポーン!という音が鳴り、ヨナが立っていた足元が下へ向かって坂を降りていった。
「わあっ!び、ビックリした……」
「その内慣れるさ」
「は、はい!」
ヨナが降りていってからしばらくすると、ユイがヨナの左隣にやってきた。そうしている内に、台座は坂の下まで降り切った。すると、ヨナの乗った台座は今度は前へゆっくりと動いていった。そしてしばらく行ったところで―――
「わっ!な、なに!?」
目の前に床から伸びる無数のアームが現れると、同時にヨナの台座が移動するレールの左右の床が開いた。アームは床の中から何かの部品のような物を取り出してきた。
「な、何か出てき――あれ?この部品、何処かで……わっ!」
ヨナが何かを思い出そうとした時、アームに握られていた部品…もとい、ナラティブガンダムの両肩アーマーが、ヨナの両肩に取り付けられる。そして台座が移動する中、それぞれのアームはナラティブガンダムの「胸部装甲」「背部装甲」「両前腕部装甲」「腰部前面装甲」「腰部後面装甲」「腰部両側面装甲」「両膝装甲」「両脛部装甲」「両脚装甲」「バックパック」の順に、ヨナの身体にそれぞれのアーマーを取りつけていった。ヨナはその光景を茫然とした表情で眺めるしか出来なかった。そして最後に現れた1本のアームがヨナの前髪に「二対のV字アンテナが中央に取りつけられた額部装甲」を取りつけた。そして、先程まで私服姿だったヨナは―――
「MS娘 ナラティブガンダム」の姿となった。
ヨナはナラティブガンダムの装甲を纏った自身の姿に驚きを隠せなった。ナラティブガンダムの装備をガチャガチャと鳴らしながら、自分の体のあちこちを見て回っていた。
「こ、これが……MS娘としての私?」
「それらしい格好になったな、ヨナ」
「ユイさん!?」
ヨナの右隣りには、頭部に黄色の4本のV字アンテナ、胸部中央には緑に光るサーチアイを持ち、3段に分かれた両肩アーマーと曲線的な下半身の装甲、そして背中純白に輝く大小一対の翼を背負い、両手に長大なツインバスターライフルを持ったMS娘の姿となったユイが立っていた。MS娘となったユイの天使のような神々しい姿に、ヨナは思わず見惚れてしまっていた。
「わぁぁ~」
「そんなに見惚れても、お前にこれは装備出来んぞ」
そう言ってユイは背中の翼を小さく羽ばたかせてみせた。
「そ、そうなんですね……(羽がパタパタしててちょっとかわいいかも…)」
少し悔しそうにするヨナだったが、ユイはすぐに別の方向を向いて喋り出した。
「あのエレベーターに乗った先が訓練所だ。付いて来い」
ユイはそう言って正面の出撃ゲート方向とは別の右側にあるエレベーターに向かって歩いていった。ヨナも続き、エレベーターへと歩き出した。エレベーターに乗り込み、その1番上へと向かうユイとヨナ。そしてエレベーターは最上階へと到着しその扉が開かれた。そして目の前には天井が凄く高い体育館の様な空間が広がっていた。
「こ、ここが訓練所ですか?」
「ああ。たぶんこの基地で一番広い場所だろう?」
「す、凄い広さなんだ」
そしてその訓練所内部には見渡す限り多少の起伏がある草原が広がっていた。
「この草原って…本物なんですか?」
「いや、ホログラフ映像だ。と言っても、本当に起伏は再現されているからな」
「M.G.Fって、凄い技術持ってるんですね」
そうヨナが口にした時、遠くの方で銃声のようなものが鳴り響いた。続けざまに2発目3発目と銃声が鳴り響く。
「この音って…」
「アスカとリシェットが射撃訓練を行っているのだろう。だがまずは、MS娘としての基本を押さえるところから始めよう」
「はい!」
こうして訓練が始まった。
続く