ビィー!ビィー!ビィー!
M.G.F司令部の艦橋に警報が鳴り響いた。その警報に反応するようにレーダーには4つの光点が点灯していた。
「レーダーに反応!反応パターンから黒色機動群と推定されます!」
「すぐに司令に連絡を!」
艦橋のオペレーターはすぐに司令官室に連絡を飛ばした。
M.G.F司令部・作戦指令室
「状況は!」
その後数分でシンは作戦指令室へ飛び込んだ。室内に入るなりシンは叫んだ。上段と下段に分かれた作戦指令室は、正面に大型のモニターが設置され、上段には作戦を立てる為の広いスペースと上面がモニターになっている大きな台。部屋の左右にある階段を下りた下段には数人のオペレーターが横三列に並んだコンソールのデスクで情報収集などをしていた。そして、シンの言葉を聞いたオペレーターの1人が現状について報告した。
「北西より接近してくる黒色機動群を確認しました。数は4機です!」
「識別は!」
「はい。ZK級が3機そして指揮官機と目されるZW級が1機です!」
「…偵察ドローンから映像が届きました。正面モニターに出します!」
すると正面モニターに全身が真っ黒に染まった全高2mくらいの4つの機影が映し出された。先頭を行くのは、曲線的な全身と動力パイプのような物を持ち、右肩には逆L字のシールド、左肩には横1列に並んだ3本のスパイクを備え、半円状の頭部中央には桃色に光る一つ目と前へと伸びた排気ダクトの様な部位が特徴で、その手には上面に円形のドラムマガジンを備えたマシンガンを持ち、左腰には大斧をマウントしたZK級1機。そしてその後方から2機のZK級を引き連れたZK級とよく似た曲線状の上半身と平面的な下半身、右肩には上へ向かって伸びている1本の曲がった角、左肩には3本の角が三角形の様に並べられた大盾を備え、両腰横には円筒状の物体を4つ装着した、右手にZK級のマシンガンとよく似た形状をしている小銃を手にし、背中に2つの箱型のバーニアと中央には1本のスタビライザのあるバックパックを背負ったZW級が森林地帯を掻き分けながら前進してきていた。
「他に黒色機動群の部隊は確認されているか!?」
「いえ、確認はされていません!」
「…おそらくは本隊からはぐれた部隊だな。仕方ない、総員戦闘配備!!」
そうシンが宣言すると、基地内にアラートが鳴り始めた。
ビィー!ビィー!ビィー!
そのアラートは訓練所にいたヨナとユイの元にも届いた。
「あの、この警報はいったい…」
「戦闘配備のアラートだと?まさか黒色機動群が―――」
「ユイさん!」「ユイ!」
そこへアスカとリシェットの2人が飛んできた。ヨナとユイの近くに着地した2人はその場にヨナがいたことに少し驚いた顔をしたが、やがて険しい顔になるとアスカがユイに尋ねた。
「何で急に戦闘配備のアラートが鳴ってるんですか!?」
「私にもわからない。司令からは―――」
その時、ユイにシンから通信が入った。
(※以降、長距離通信の場面では通信先を〈〉で表示します)
〈ユイ、北西からZK級が3機、ZW級が1機向かってきている!〉
「なるほど。なら、私が出よう」
〈ああ、頼めるか。戦力が足りないなら、アスカとリシェットにも出てもらうが…〉
「いや、アスカとヨナを連れて行かせてもらおう」
「え?」〈正気か!〉
突然名前を呼ばれたことにヨナは不思議そうな表情だったが、シンは驚きと焦りの混じったような声でユイに尋ねた。だがユイは落ち着いた口調で話し始めた。
「司令、ヨナの基礎訓練はたった今完了した。今こちらに向かって来ている敵戦力はヨナの訓練後の腕試しには丁度良い編成だろう。それに今は、すぐにでも戦力が欲しい状況だ。新人であるヨナの練度向上も見込める。私はそう判断した」
〈……ヨナと話をさせてくれ。確かにお前の言っていることは正しいと思う。だが、本人の気持ちが1番問題だ。そうだろ?〉
「そうだな。ヨナ、今から司令との通信をそっちに回す。時間は無いが、よく考えて回答するんだぞ?アスカ、リシェット、お前たちは出撃デッキに行って待機していろ。私も後から追う」
「え、いったい何を?」「了解です!」「わかったっ」
ユイはヨナにだけでなく、アスカとリシェットにも支持を飛ばした。アスカとリシェットの2人は指示に従いエレベーターへと向かって行った。すると、ヨナにシンから通信が入ってきた。
〈ヨナ、聞こえるか。今からお前に重要な話がある。現在、この基地へ向け黒色機動群の小規模部隊が接近中だ〉
「そ、そんな!ど、どうするんですか!?」
突然の敵襲に驚きを隠せないヨナ。するとシンは落ち着いた口調で告げた。
「っ!?」
それを聞いたヨナはビクッ!と肩をビクつかせた。そのヨナの姿を見たユイは険しい表情で2人の通信を聞いていた。
〈今のM.G.Fの現状では戦力となる人員が1秒でも早く欲しい。だが、戦場でお前の命を保証するものは何一つない。だから今回は特例として、お前に出撃承諾の可否を選択する権利を与えることにする〉
「そ、それ…は…」
シンの言葉を聞いたヨナの表情が少しだけ曇った。シンはそんなヨナの姿を見て、内心申し訳無さでいっぱいだった。
(そうだよな…怖いよな。誰だってそうだ、命が惜しくない奴なんかいない…ましてや、今基礎訓練を完了したばかりで戦い方も殆どわからないお前が、死ぬのが怖くない訳無いよな)
「………」
ヨナはそのまま押し黙ってしまった。だが、シンは焦ることなくヨナの返答を待った。強張った空気がヨナとユイの周囲を包み込む。
(怖いよ……私、まだ死にたくない。死にたくないよ……怖いよ!お母さん、お父さん!)
だがその時、ヨナの脳裏にあの時の光景が蘇った。
私のお守り、貴女にあげるね!
それは、黄金の翼を持ったあの女性が自分に大切なお守りを渡してくれた時の光景だった。
そのお守りがあれば、私がいなくても怖くないでしょ?
ヨナは、自身の首から下げた銀色の翼の形をしたネックレスをその手に取った。
(そうだ。私は、あの人に会ってこのお守りを返す為にM.G.Fに入ったんだ!)
そして、その銀色の翼を握りしめた。
(ここで逃げ出しちゃだめなんだ!立ち向かわなきゃ、あの人にも会えない!なら私は―――)
するとヨナはキリッとした真剣な表情を作り、シンに向かって言った。
私、戦います!
「っ!?」
ヨナの言葉を聞いたシンとユイは、思わず驚きの表情を見せた。予想していなかった返答が帰ってきたのだから当然ではあったが、何よりヨナの真剣な表情を見たユイは驚きを隠せなかったのだ。
〈本当にいいんだな、ヨナ?〉
「はい!私は、人に会うためにM.G.Fに入りました。その人に出会うために、私は立ち向かって進まないといけないんです!」
ヨナの覚悟を伝えられたシンはすぐに真剣な表情に戻るとヨナに言った。
わかった。頼むぞヨナ!
はいっ!
〈ヨナをユイの指揮下に臨時編成する。以後はユイの指示に従うように〉
「了解しました!」
そう言ってシンはヨナとの通信を切った。そして作戦指令室でシンは小さな笑みを浮かべていた。
(まさか、ヨナがここまで肝の座った奴だとは思わなかったな)
「後を任せるぞ!」
そう言ってシンは作戦指令室を出て行った。
「ヨナ、よく決断したな」
「ユイさん…でも私、とっても怖いです……だけど、私には会わなきゃいけない人がいるんですっ。だから、ここで逃げ出す訳にはいかないんです!」
「…君は強い意志を持っているんだな。では、私たちも行こうか」
「はい!」
ヨナとユイの2人は訓練所から出撃デッキへと向かうべく、エレベーターに乗り込んだ。
出撃ドックに降りてきた2人の元にアスカとリシェットが駆け寄ってきた。
「ユイさん、こちらは出撃準備できています!」
「とは言っても、私は留守番なんだろ?」
「そう腐るなリシェット。この基地を丸裸には出来ないことは知っているだろ?」
と、愚痴をこぼしたリシェットを宥めるユイ。フンッ。と鼻を鳴らすリシェットだったが、そこへシンが到着した。
「話はそこまでだ。カタパルトまで行くぞ」
そのことに気づいたユイが3人を先導し、先程装甲服を装着した区画の出口付近までやって来た。そこには両足を収める為の拘束具とカタパルトレールがあった。それを見たヨナは思わず、これがカタパルト。とこぼしてしまった。
「なに当たり前のこと言ってるんの?ほら、早くしないと置いてくよ」
「あ、待ってよアスカちゃん!」
アスカに急かされるように、ヨナとアスカ、ユイとリシェットがそれぞれ拘束具に足を乗せた。すると、拘束具がヨナの足装甲を固定した。すると、管制室から通信が入った。
〈拘束を確認。発進準備を開始します!〉
〈いいかヨナ。相手は黒色機動群の中でも比較的弱い分類と言われているが、だからと言って油断はするなよ!〉
続けてシンからも通信が入った。それに応えるヨナ。
「は、はい!て、あれ?司令官は何処に……」
〈ああ。私の背中だ〉
「背中って―――ええ!?」
ヨナはユイの言葉に半信半疑ながらユイのいる左側を向いた。するとどうだろう。そこにはユイの背中に捕まる普段着ているロングコートを脱いだTシャツとジーンズ姿のシンの姿があった。
「司令官!?そんなことして大丈夫なんですか!?」
〈〈問題ない〉〉
(ええ……)
ユイとシンの一糸乱れない返答に困惑するヨナだったが、そこへ管制室から再び通信が入った。
〈各MS娘のシステム、オールグリーン!発進準備完了!射出タイミングをMS娘に譲渡します!〉
「了解した。ユイ。ウイングガンダムゼロ、出るッ」
すると、シンを乗せたユイは一瞬の内に発進していった。更に続くように―――
「アスカ!インパルス、行きますッ!」
「リシェット。ガンダムMk-Ⅱ、出るぞっ!」
アスカとリシェットも出撃していった。
「みんな早すぎだよ……ハッ!私も行かないと!」
そして残されたヨナはほんの少しだけ世界から取り残されたような感覚を味わっていたが、やがて我に返り発進態勢に入った。そして―――
ヨナ。ナラティブガンダム、行きますッ!
カタパルトが一気に加速し、撃ち出されたヨナは戦場へと出撃した。
続く