あれから月日が経ち、一夏達は中学生となった。
一夏と雪奈、そして冬真と秋江は高級車であるリムジンで中学校へと向かっていた。
「一夏、答辞の文章ってこれで大丈夫かな?」
「見せて。……。うん、変な文章にもなってないし、雪奈らしい答辞になってるよ」
「そ、そう? だったら嬉しいな」
一夏の言葉に照れた笑みを浮かべながら差し出された答辞の紙を受け取る雪奈。
二人の姿に微笑みながら見つめる冬真と秋江。
そうこうしている内に2人が通う中学校近くまで来た。
「沢木、近くで停めてくれ。此処からは歩いて向かう」
「門前まで向かわなくて宜しいのですか?」
「今門前は多くの入学生達や親御さん達が溢れているだろう。それに門前で入学祝に写真を撮っている方達もいるかもしれん。折角の記念日だ。邪魔する訳にもいかんだろ?」
「確かに旦那様の仰る通りですね。では其処のコンビニで停車いたします」
そう言い沢木は中学校近くの駐車場にて車を停めた。そして4人は車を降り、徒歩で中学校の門前まで来た。
案の定冬真の言う通り門前では多くの人達が居り、中には門前にて記念撮影をしている親御さん達もいた。
「アナタの言う通り一杯おられたわね」
「そうだな。ほら、2人共門前に並びなさい。入学祝の写真を撮ってやる」
そう言われ二人は照れながらも学園名が書かれたプレート横に立つと、冬真は持っていたデジカメでパシャリと撮る。
「うむ、いい写真が撮れた」
「フフフ、それは良かったです。それじゃあ次はお母さんと雪奈の二人で撮りましょうか」
「はい!」
そして雪奈と秋江、そして次は一夏と冬真と交互に写真を撮って行った。
写真を撮り終えると
「あ、やっぱり一夏達じゃないか!」
「ん? おぉ、弾じゃないか」
声を掛けてきた赤髪でバンダナを巻いた少年、五反田弾と
「雪奈もいるじゃない。やっほー」
「あら、鈴さん。やっぱり鈴さんも此方の学校でしたんですね」
「まぁね」
茶髪のツインテールの少女鳳鈴音であった。
「あら、弾君に鈴ちゃん。ご入学おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
秋江の言葉に2人は緊張しながらも返す。
そして秋江と冬真は体育館へと向かい、4人は教室へと向かう。
4人は自分達の教室を確認すべく教室割のポスターを確認する。
「俺達の名前はと…。あ、あった。俺と雪奈は2組だな」
「俺と鈴も同じく2組だ」
「やった。それじゃあまた一緒に遊べるわね」
「そうね」
同じ教室だったことに嬉しそうな顔を浮かべながら、教室へと向かった。中に入ると既に何人か教室内におり席に着いて本や友人と駄弁っていた。
「俺達も席を確認しようぜ」
「だな」
4人は黒板に掲げられているポスターへと向かう。其処には席と名前が書かれており、一夏と雪奈は窓側、弾と鈴は一夏達の一つ挟んだ隣であった。
座る場所を確認した後4人は一夏の席に集まって談笑を始めた。暫くして教室の前方の扉から教師が入って来た。
「はい、皆さん席に着いてい下さい」
その声に席を立っていた生徒達はゾロゾロと自分達の席へと付いて行く。
全員が着席をしたのを確認した教師を優しい笑みを浮かべながら教室内を見渡す。
「皆さんご入学おめでとうございます。私が皆さんの担任を務めます、岸田さわ子です。宜しくお願いしますね」
『宜しくお願いします』
「では入学式が行われるので皆さん体育館に行きましょう」
そう言われゾロゾロと教室からでて体育館へと向かう。体育館へと入るとステージ側には新入生たちの席が用意されており、後方には親達が席に着いていた。
入って来た新入生たちはそれぞれの組の席に着く。
そしてステージ上に校長と思われる男性が上がり新入生たちの入学祝の言葉を送ってきた。
そして次に生徒会長のお言葉ですとアナウンスされステージに一人の生徒が上がった。
「あれ? なぁ、あれって一夏の姉ちゃんじゃないのか?」
「あぁ。此処の生徒会長になってるって言ってたからな」
「はぁ~、やっぱり春奈さんは凄いなぁ」
「何でもそつなくこなしますからね、お姉ちゃんは」
「まぁ、偶に天然な所があるけどな」
そう呟く一夏に雪奈は苦笑いを浮かべる。
そうこうしている内に教壇前に着く春奈。持ってきた紙に一度目線を落とした後新入生たちの方に顔を向け口を開く。
「春の桜が咲き誇り、ヒラヒラと舞い踊る様に桜が目立ってきました。新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。在校生一同、皆様のご入学を心からお祝い申し上げます」
春奈はそれから新入生たちに学校の強みなどをはっきりとした口調で語り続けた。
「――以上をもちまして、歓迎とさせていただきます」
そう言い一礼し、ステージが降りて行った。その間新入生たちは拍手でそれを送った。そして次に新入生代表の雪奈が立ち上がりステージ上へと立つ。
「春風が頬を撫で、暖かな陽の光が降り注ぐ日。本日私たち新入生を温かく迎え入れた事に感謝します」
と答辞をスラスラと語る雪奈。そして答辞を言い終えると自分が座っていた席へと戻って来た。そして司会は入学式終了を伝えると、1組から席を立って体育館から出て行く。
一夏達も2組の順番になると席を立って体育館を後にした。
そして教室に戻り席に着くと、さわ子が大きな段ボールが載った台車を押してやってきた。
「それでは今から皆さんに教科書とかこれからの学校生活に必要な物を配りますね」
そう言い前から教科書を配っていく。そして全ての教科書などを配り終えた後再び笑みを浮かべながら口を開くさわ子。
「ではこれにて本日の入学式は以上になります。明日からは授業の流れや教師の自己紹介を行いつつ、軽く授業を行いますので本日渡した教科書等忘れない様にしてくださいね」
『はい』
「では、皆さんお疲れ様でした!」
そう言いさわ子は教室から出て行った。さわ子が出て行った後早速それぞれ自己紹介をしに色々と動き始める生徒達。
一夏達は一夏の席に集まって談笑をしていた。
「さて、どうする?」
「そうだな。一夏は雪奈ちゃんと一緒にお姉さんのとこに行くのか?」
「あぁ。朝学校に行くときに終わったら生徒会室に来てって言われているからな」
「うん」
「そう。それじゃあ弾とアタシは校舎を見て回ってくるわ」
「え? 俺も行くのか?」
「あら? こんなかわいいアタシを一人で行かせる気?」
「……自分で可愛いって言うとか自意識か「フンッ‼」ゴハッ!?!!?」
小言を言った弾に鈴は容赦なく脇腹に拳をぶち込み黙らせた。その光景に一夏と雪奈は苦笑いを浮かべる。
そして弾と鈴に別れを告げて2人は生徒手帳を見ながら生徒会室へと向かった。
「えっと…」
「あ、一夏此処みたい」
生徒手帳と睨めっこしながら歩いていると、目的の部屋に到着した。2人は扉に近付きノックすると
『どうぞぉ~』
と春奈の声がしたため中へと入る。
「「失礼します」」
「お、2人共いらっしゃ~い!」
一夏と雪奈が入って来たのを確認した春奈は笑顔を浮かべ、手を振りながら出迎えた。春奈の席は生徒会室の奥側に置かれており、その左右の机には真面目そうな眼鏡を掛けた男子とニコニコと笑みを浮かべたキリッとした目つきでショートツインヘアーの女子が居た。
「会長、此方が弟さんと妹さんですか?」
「えぇ。それと今日から
「「はい?」」
春奈の言葉に2人は唖然とした表情を浮かべる。
「え? 会長、マジで言ってるの?」
「マジマジだよ、望月ちゃん」
「二人は全く知らないと言った表情のようですが?」
「だって、サプライズの方がいいじゃん。真島君」
「いや、これは流石にサプライズの域を超えて嫌がらせだと思われる恐れがあるのでは?」
「其処まで行かないよ。そうだよね、一夏君、雪奈ちゃん」
そう聞かれ一夏と雪奈は
「「はぁ~~~~」」
と盛大な溜息を吐いた。
「もう、お姉ちゃんそう言う事は大事なんだから早く言ってよ」
呆れた様な表情で零す雪奈。
「全くだよ」
雪奈同様呆れた様な表情を浮かべる一夏。するとある事を思いつき仕返しとばかりにある事を口にする。
「黙っていた罰として昨日作ったプリン、お姉ちゃんの分は沢木さんにあげようかな」
笑みを浮かべながら告げた言葉に
「へっ?」
今度は春奈がキョトンとした表情を浮かべた。一夏の意図に気付いた雪奈は同じく笑みを浮かべながら相槌を打つ。
「それが良いわね。お姉ちゃんは私達に大事な事を黙っていたんだもの。これ位の罰は当然よね」
「はい?」
雪奈も同様の事を口にすると、暫し思考が停止する春奈。そして
「ま、まままま待ってよぉ! さ、流石にそれはあんまりよぉ!」
「だって俺達にそんな大事な事黙っていたじゃないか。だからこれ位は当然でしょ」
「一夏に同意。こればっかりはお姉ちゃんが悪いと思うよ」
「やだぁ! 一夏のプリンは私の物よぉ! 誰にも渡さないんだからぁ!」
と若干涙を浮かべながら駄々をこねる春奈。その姿に真島と望月は( ゚д゚)ポカーンと言った表情を浮かべた。
暫し春奈がやだぁやだぁ!と駄々をこねる姿を見た後満足したのか、一夏が口を開く。
「春奈お姉ちゃん、嘘だよ」
「ふぇ?」
「うん、お姉ちゃん嘘だよ」
2人から嘘だよと言われ、絶望していた顔から安心したような表情を浮かべパイプ椅子に深々と座り直す。
「もぉ~、やめてよぉ。一夏君の手作りお菓子が食べられなくなるなんて、私の死活問題なんだからねぇ」
「お姉ちゃんが悪いんだよ。大事な事黙っていたんだから」
「そうそう。次大事な事を黙っておいて当日に発表するなんてことをしたら、マジでお菓子を沢木さん達お手伝いさん達に回すからね」
「はい。二度とやりません」
深々と頭を下げながら謝罪をする春奈。その光景に遂に我慢が出来なくなったのか、望月が笑い声をあげる。
「アッハッハッハ! あ、あの会長が弟達にからかわれて涙流すなんて、可笑しすぎだろぉ!」
「確かにあんな絶望した表情を浮かべた会長は初めて見るかもしれませんね」
「……二人共、このことは内密にしておいてよ。恥ずかしいんだから」
顔を真っ赤にさせながら警告する春奈に2人は笑みを浮かべながら、分かりました。と了承する。
「それで、春奈お姉ちゃん。俺達に生徒会に入って欲しいの?」
「うん。勿論部活に入りたいとかなら諦めるけど」
「俺は特に部活に入る予定はないけど、雪奈はどうする?」
「私は…。別に所属してもいいかな?」
「そうか。なら俺も参加するわ」
「うん、ありがとうね。それじゃあ自己紹介をお願いね」
「分かりました。俺が副会長の真島健吾だ。生徒会と兼任で剣道部の部長もしている」
「アタシは望月加奈。役職は生徒会会計だ。宜しくな」
「弟の一夏です」
「妹の雪奈です」
そうして生徒会の仕事や必要な物等の準備をしていった。
次回予告
中学に入学して月日が流れた頃、一夏と雪奈が生徒会室に行くと春奈の姿が無かった。
望月曰く、ラブレターを貰ったからその返事をしに行くとの事。
すると一夏は弾や鈴から聞いたある事と引っ掛かり、春奈が居るであろう場所へと向かった。