ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~   作:弱音御前

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関東でも雪が降るくらいの寒さで凍える今日この頃、みなさま、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

今回より新作、船上の戦乙女を連載してまいります。
指揮官ラブなネゲヴちゃんが海の上でどんな大立ち回りを演じるのか、楽しみにしながら読んでいただけたら幸いです。

それでは、今週もごゆっくりとどうぞ


船上の戦乙女 1話

 

 

 ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~

 

 

 

「・・・とまぁ、そんな訳なんだけど。本当にくだらない悩みでゴメンなさいね」

 

 ここは、私こと、戦術人形ネゲヴの自室。

 テーブルの向かいでは、この基地の仲間たちの中でも、私が一番の信頼を置いている戦術人形、スプリングフィールドが淑やかに座している。

 

「いえいえ、下らないなんて、そのようなことはありませんよ。指揮官様想いの貴女であれば、

それは悩んで然るべきだと思います」

 

 言って、スプリングフィールドは手にしたティーカップを口元に運ぶと、静かに一口。

 彼女が淹れてくれた紅茶と共にテーブルに並んでいる、少しお高いお茶菓子は私からのせめてもの気持ちだ。

 こんな、彼女にとってどうでもいい相談に乗ってくれたことに対しての、である。

 

「ですが、少々考えすぎなのではないでしょうか? 指揮官様からの贈り物なのですから、いつもと同様、堂々と着て振る舞えば良いのでは?」

 

「そりゃあ、私だってそうしたいわよ。けど、これは流石にちょっと恥ずかしい。私なんかが着こなせる気がしない。・・・〝どこかの私〟が着こなしていた服装っていう話だけど、そいつの神経を疑うわ」

 

 チラリと、リビングの端に目を向ける。

 そこには、ドレスハンガーにかけられた、やたらと桃色で丈の短い少女趣味な和服が鎮座している。

 此度、わざわざスプリングフィールドにご足労願ったのは、指揮官が拵えてくれたこの衣装が

原因である。

 指揮官の話では、他支部のネゲヴがこの衣装を着ている写真がグリフィン掲示板に載ってたのを見て、衝動的に作り上げてしまったものであるらしい。

 曰く、名を〝魔法少女ピーキー✮ピンキー〟。アップしてからものの1分足らずで消去されてしまっていた画像なので、今となってはその真相は闇の中だが、それが真実だとして、全くもって、私と同じネゲヴだというのが恥ずかしいくらいの体たらくである。

 ・・・でも、これは指揮官が頑張って作ってくれた、私だけの衣装だ。グリフィン購買部で入手できるような既製品ではなく、この世でたったひとつだけの衣装。

 いつもなら、これを渡してくれたその場で私は喜び勇んで着て、そんな私の姿を見て、指揮官は恍惚の表情で鼻血を出すというのがお決まりのパターンなのだが、今回ばかりは、私も気恥ずかしさが嬉しさと競ってしまい、受け取るだけで袖を通すことができなかった。

 あの時の、指揮官の残念そうな顔は、今でも鮮明に思い出すことができてしまう。

 

「う~む・・・しかし、そうなってしまうと、それはもうネゲヴ自身の気持ちの問題になってしまいますね。申し訳ありませんが、私にはどうしようも」

 

「そうよね。結局、私が覚悟を決めるしかないのだものね」

 

「ごめんなさい、ネゲヴ。力になりたいのは山々なのですけど」

 

「ううん、いいのよ。話だけでも聞いてくれてありがとう。ちょっとだけスッキリしたわ」

 

 話が切れたタイミング良く、スプリングフィールドの携帯端末から着信音が鳴る。

 確認したら? と促し、私はテーブルのお茶菓子を大きく一口ヤケ食い。

 この一件以来、私は指揮官との時間に少しだけ居づらさを感じてしまっている。

 当の指揮官は普段通りで特に気にしたような様子は無く、もしかしたら、気にしまくっているのは私だけなのかもしれない。

 今後、こんな考えがずっと過り続けたまま日々を過ごすのかと思うと、ストレスが溜まりまくって、お腹の辺りがキリキリしてきてしまう。

 

「だが・・・・・・あれはやっぱり自信ないわぁ~」

 

 魔法少女というのは、確か、昔の映像作品に出てくる、特殊能力を持った女の子のキャラクターの総称だったか。そう考えれば、これだけ目を惹く配色と可愛らしいデザインなのは頷ける。

 例えば、G41とか、ハンドのおチビ達だったらかなり似合っているのだろうが。どうしたって、私みたいな威厳に満ちたスペシャリストには荷が重すぎると思うんだ。

 コレを着ている自分を想像してみただけで、顔がオーバーヒートしたかのようにアツアツになってしまう。

 

「お取込み中の所すみません。ちょっとよろしいですか?」

 

 両手で顔を抑えていた私に、スプリングフィールドが申し訳なさそうに話しかけてくる。

 

「どうしたの? 突然、良い案が浮かんだ? なわけないよね。ははは」

 

 半笑いで返し、お皿の上に置いていたお菓子の残りをパクリ。

 

「まさにその通りです。これなら、衣装を着る口実ができるのでは?」

 

 自棄になって返した言葉に、スプリングフィールドはまさか答えを出してくれた。

 彼女が差し出した携帯端末のディスプレイには、一通のメールが写っている。

 我が基地のインフォメーションメール。件名を見るに、再来週の休日に実施される、レクリエーションのお知らせだ。

 

「今度のレクリエーションか。内容は・・・大型クルーザーで一日パーティー?かなり豪勢なものね。ここで着ろっての? みんなが豪勢に着飾ってるその中で?さらにレベル高いんですけど」

 

「私は考えました。たぶん、ネゲヴはただ着るだけだから、恥ずかしさが勝ってしまうのだと。だから、〝着るしかない〟という状況に身を置いてしまうのはどうでしょうか?」

 

「このパーティーは衣装なんかなんでもいいんでしょ? だったら、他の着ちゃうかもしれない」

 

「では、これならば?」

 

 スプリングフィールドがディスプレイをスクロールする。

 現れたメールの続きには、〝ミス・グリフィンコンテスト〟というカラフルに彩られた文字が。

 

「これ、ミスコンってやつ?」

 

「そうです。自分にできる精一杯のおめかしをして、自慢の特技を披露して、この基地で一番の

戦術人形という事を証明するイベントですね。優勝賞品は、指揮官と行く1泊2日の温泉旅行だそうです」

 

 ガタっ!

 思わず身を乗り出してしまう私。あまりの驚きに、少々取り乱してしまった。

 

「出るかどうかは聞くまでもありませんね。このコンテストならば、衣装を着て出るにちょうど良い舞台なのではないですか?」

 

「いやいや、こんな賞品ぶら下げられたら、みんな絶対にガチで来るでしょ? なら尚更あんなニッチな衣装では勝負にならない」

 

「コンテストのレギュレーションによると、着れる衣装はテーマに沿ったものでなければならないようです。そのテーマは・・・ファンタジー」

 

「ふ、ファンタジー(幻想)・・・っ!?」

 

 それは読んで字の如く、この世ならざるモノの事。普段通りの衣装がダメだなんて、乱暴なミスコンもあったものだが、そこは、せっかくのレクリエーションなのでご愛敬である。

 なるほど確かに、あの衣装ならば、レギュレーションを問題なくクリアできるだろう。

 ・・・だが、本当に着れるのか私? 指揮官との温泉旅行を勝ち取るためとはいえ、ステージの上で、あのヒラヒラ桃色な衣装を?

 レギュレーションに沿ったものであれば、私は黒石姫という衣装をすでに有している。見た目の迫力は抜群で、着慣れた衣装だ。今回、指揮官から頂いた衣装はもう少し眠らせておくとして、

黒石姫で出場するというのも

 

「ふふふ・・・黒石姫ならば勝てるだろうと、そう考えているのでしょう? 貴女はとても優秀な人形ですが、顔に出やすいのが玉に瑕ですね、ネゲヴ」

 

 耳に纏わりつくような妖しい声色にゾッとして、咄嗟に顔を上げる。

 完全に手玉に取った、と言わんばかりの微笑みを浮かべるスプリングフィールドがそこに居た。

 

「指揮官様との温泉旅行がかかっている以上、私もこのコンテストには本気で挑ませていただきます。すでに何度もお目通ししているあの衣装で、私に勝てるなどとは思わないことですね」

 

「っ!? スプリングフィールド、アナタ・・・私を裏切るつもり?」

 

「裏切るも何も、私は貴女に味方をしていたつもりはありませんよ。少なくとも、ミスコンに関してはね。初お目見えで、インパクトのあるあの衣装は脅威でしたが、ネゲヴがそれを着ないというのであれば僥倖です。一番の強敵は・・・DSR辺りになるでしょうかね?」

 

 スプリングフィールドは立ち上がると、まるで、私に対しての興味を一瞬にして失ったかのように踵を返し、部屋を出て行った。

 私一人っきりになり、静けさの漂う室内で大きく息をつく。

 深呼吸は、覚悟を決めるための私なりのスイッチだ。

 

「・・・やってやるわよ。私を安く見積もった事、絶対に後悔させてやる」

 

 仕事ではとても頼りになり、プライベートでもまぁそれなりに仲の良い彼女であるが、あれだけ軽く見られたとあっては黙っていられない。

 ミスコンは一週間後の休日。それまでに、できる限りのアピール材料を集めようと動き出した私は、いつの間にか、あの衣装を着ることに対しての恥ずかしさ頭の中から吹っ飛んでいたのである。

 

 

 

 

 

 同日 グリフィン支部 ミーティングルームE

 

 

 コンコン、とドアを軽くノックする。

 

「入りなさい」

 

 中から女性の声が返ってきたことを確認して、スプリングフィールドは再度、左右廊下の先を

チラリと一瞥。人の目が無いうちに、手早く部屋の中へと滑り込んだ。

 

「お待たせいたしました、指揮官様」

 

 一対一の対面用テーブルと椅子が置かれただけの、小さなミーティングルーム。

 すでに、椅子に腰を降ろして待つ女性、指揮官に向けて、スプリングフィールドは小さく頭を下げる。

 

「ご苦労。かけなさい」

 

 指揮官に促され、対面の椅子に腰を降ろす。

 

「して、首尾は?」

 

 テーブルに両肘をつき、口元の辺りで手を組む。どこぞの映像作品に出てくる指令のような姿勢の指揮官に見つめられる。

 なんという鋭い眼光か。普段、戦術人形達を視姦している時の緩みきったあの眼とは、全くの

別物である。

 指揮官が指揮官たるが所以を改めて見せつけられ、スプリングフィールドは改めて畏敬の念を

彼女に抱いた。

 

「ネゲヴを焚きつけることに成功しました。十中八九、彼女はあの衣装でコンテストに出場するかと」

 

 スプリングフィールドの簡潔な報告を聞き、数度、小さく頷く指揮官。

 ・・・と

 

「いょっしゃあ! さっすが春ちゃん! 上手くやってくれるって信じてたよ~」

 

 つい今までの迫力はどこへやら。ガッツポーズを伴って嬉しさを爆発させるその様子は、まぁ、いつも通りの彼女そのものな様子で、それを垣間見れたことで、少しだけ安心してしまうスプリングフィールドである。

 

「ほんとに、変な役回りを押し付けちゃってゴメンね。い~こい~こ。あら? もしかして、コンディショナー変えた? いつにも増して髪がサラツヤ~」

 

「えへへ・・・良い品が手に入りましたので、試しに使ってみたのです」

 

 指揮官に頭を撫でられ、つい表情が緩んでしまう。他の戦術人形にはまだ目撃されていない光景だが、スプリングフィールドは、指揮官のナデナデが大のお気に入りなのである。

 

「よろしければ、指揮官も使ってみますか? わ、私とお揃い、ですよ?」

 

「いやぁ、春ちゃんくらいの美人さんならいいけど、私なんかが使ったらせっかくの高級品が勿体ないわよ。それは、アナタが大事に使いなさい」

 

「そう・・・ですか」

 

 あっさりとフラれてしまい、ちょっとしょげてしまうスプリングフィールド。

 指揮官とて、突き放すつもりの言葉ではない。ただ、スプリングフィールドの事を思ってのものであり、そしてこの指揮官、〝こういう点〟においてだけ、すこぶるニブチンなのである。

 

「それにしても、大型クルーザーでの貸し切りパーティーとは、思い切った事を企画されますね。経費の面などは大丈夫なのでしょうか?」

 

 ヘコんだ気分を切り替える為、話を変える。

 此度、レクリエーションとして開催される船上パーティー及びミスコンは、指揮官が発案したものである。

 その理由は察するに易く、ネゲヴに例の衣装を着てもらう場を作るためだ。

 

〝この衣装を見てくれ。これを見てどう思う?〟

 

 そんな言い出しで指揮官から相談を受けたのは、2週間くらい前のことになる。

 自分だけではネゲヴを誘い出しづらい、という事で、スプリングフィールドは期をてらい、わざとネゲヴが食いつくような言い回しをして、あの衣装を着てコンテストに出るよう誘導させたのだ。

 

「そこんとこは心配に及ばないわ。激安プランで広告に出てたから、これでも予算にはかなり余裕がでてるのよ」

 

「指揮官様がそうおっしゃるのならばいいのですが」

 

 何かとキナ臭いこのご時世である。旅行会社なんかも、それなりにサービスしないと運営していけないという事情があるのだろう。

 ・・・そう理解しようと努めても、微かな胸騒ぎが収まってくれないのは、狙撃手故の過剰な

警戒心が原因なのだろうか?

 

「あの子があの衣装を着てさえくれれば、私はもうそれで満足だから。後の事は気にしないで、

春ちゃんもしっかりと船上パーティー楽しんでね」

 

「はい、ありがとうございます。それで、その~・・・報酬のお話で恐縮なのですが」

 

「そうだったね。なにやら、私に仕立ててほしい衣装があるとか? さぁ、詳しい話を聞かせてもらいましょうか」

 

 親愛なる指揮官の為なら、無償での協力も望むところなスプリングフィールドだ。なので、これはもともと指揮官からの申し出である。

 労働に見合った報酬を、というご厚意なので、スプリングフィールドは思いっきりおねだりする気満々。

 ネゲヴを上手く釣り上げるためのシナリオ作りは、結構大変だったりしたのだ。

 

「ネゲヴを煽るとき、私もミスコンに出ると啖呵をきってしまして。指揮官様には、その時に着る衣装を見繕っていただこうかと」

 

 ネゲヴを釣るため、というのはダシである。

 指揮官との温泉旅行、絶対にモノにしたる! という下心を悟られるのは気恥ずかしいので、スプリングフィールドは努めて落ち着いて振る舞う。

 

「お~け~お~け~。確か、テーマはファンタジーだったわね。春ちゃんが着るとなると、そうね・・・古代に封印されし黒魔女とか? あ! 悪の女幹部ってのも良いかな? エロい事されちゃいそうな感じの」

 

「そ、そうですね。指揮官様にお任せというのも良いのですが、今回は私なりに希望がありまして。・・・このような衣装はできないでしょうか?」

 

 指揮官が欲望のままに暴走してしまうその前に、スプリングフィールドは携帯端末を取り出し、画像ファイルを開いた。

 それを目にした指揮官が、えぇ? という感じでディスプレイに顔を寄せる。

 きっと、他の戦術人形だとしても、同じリアクションをしただろう画像である。

 

「なんと!? 春ちゃんってこういうのが好きだったのね? か~わ~い~い~!」

 

「いえいえいえ! これはその! 私が好きというかなんというか。今回のテーマに沿いつつネゲヴに言った通りそれなりの実績を挙げるために最適な題材を探しに探した末に辿り着いた一つの答えというか。決して、指揮官様に衣装を仕立ててもらえるこのチャンスを利用して、私の趣味全開なモノをおねだりしているわけではないので、そのようにからかうのはやめていただきたく思います」

 

 早口で捲し立てるスプリングフィールドに、ニヤニヤ顔を返す指揮官。

 絶対に顔が真っ赤なのは分かっているので、さりげなく顔を逸らせる。

 

「恥ずかしがることなんてないわよ。女の子だったら、誰だって憧れるようなキャラだもの。これだったら、そうね~・・・・・・うん、簡単に手に入る材料で仕立てられるかな。優勝間違いなしの逸品に仕上げてみせるから、楽しみに待っててね」

 

「はい、ありがとうございます! でも、それだとネゲヴとの温泉旅行に行けなくなってしまいますが、指揮官様はよいのですか?」

 

「さっきも言ったでしょ? 私は、ネゲヴにあの衣装を着てもらいたくて、ここまで手を回したのよ。あそこで優勝できるかどうかは、あの子の魅せ方次第だから。私は一番頑張った娘のご褒美としていくだけだもん」

 

 それはつまり、指揮官はスプリングフィールドにも期待をしてくれている、ということだ。

 勝ちを狙いにいくつもりのスプリングフィールドだったが、その胸中では、指揮官はやはり

ネゲヴと一緒じゃないと残念がるだろうか? という一抹の不安をかかえてしまっていた。

 そんな心配事さえ消えてしまえば、後はもう手加減ナシの全力全開。

 完成した衣装を以て、本番ではどんな魅せ方をするか。スプリングフィールドは心を躍らせながら当日までの日々を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 港湾区域イーストベイ 12番ポート

 

 

 指揮官の話によると、娯楽に使える経費がそれなりに余るくらいの費用。そう聞いていた私は、大型クルーザーといっても、何世代も前の外観も内装もオンボロのゴーストシップなのだろうと、完全に甘く見ていた。

 私と同じ考えの娘は結構居たのだろう。その証拠に、乗船待ちのエリアで佇んだまま、口を半開きでクルーザーを見上げている娘が何人も見受けられる。

 

「マジ? こんな豪華客船の一日貸し切りが・・・そんなに安いものなの?」

 

 クルーザーというか、もう、大型の客船である。

 全長200メートルはあるだろうか。高さは、見上げてもてっぺんが見えないくらいに高い。

 超長いボートの上に、5階建てのアパートメントが乗せられているという表現が一番わかりやすいだろうと思う。

 デッキにはプールやテラス、バーカウンタまで備えられているこのキラキラの豪華客船、船体の横に刻まれている名〝スノウハレーション〟は、絶対に一日やそこいらだけ借りるような代物ではない。世界一周とかする用のヤツである。

 

「はぁ~、貴女までそのようなところでいつまでも呆けていて。副官として、恥ずかしいとは思わないのですか、ネゲヴ?」

 

 隣から掛けられた声で、ふと我に返る。

 耳に慣れた声だ。振り向かなくたって、この失礼な相手が誰なのかは分かる。

 

「田舎者でどうもすいませんでした。アンタみたいな良いところ育ちのお嬢様の方が、グリフィンでは少数派ってことを肝に銘じておきなさいね、イーグル」

 

 潮風で飛ばされないよう麦わら帽子を手で押さえ、麻色の長い髪を揺らす少女。

 トラベルケースを手にしたその佇まいの美しさは、彼女が戦術人形であるという事を忘れてしまいそう。

 しかし、こう見えてコイツは生粋である。

 グリフィンにしては珍しい、女優から転向してきた人形〝デザートイーグル〟。

 私と出身を同じくする、実はそれなりに仲の良いお友達だ。

 

「育ちどうこうではなく、ただ、心構えの問題ですわ。指揮官様の部下として、恥じない佇まいで居ることは、誰にとっても、難しい事では無いのでは?」

 

「まぁ、アンタの言う事も尤もだけどね。でも、今日は休日だし、そこまで肩肘張っているのも、指揮官は良く思わないんじゃないかって思うわよ。私はね」

 

 こうやって、2人並んで言い合っているのを傍から見られると、仲が悪いと誤解されてしまいそうだが、私達は大体こうである。

 それでも、イーグルとはなんとなくウマが合う。ただ、出身が同じだという相性だけの話ではない、何かが彼女の間ではあるのかもしれない。

 

「貴女もコンテストに参加するのでしょう? それにしては、やけに荷物が少ないのではないですか?」

 

「そう? 泊りがけのイベントじゃないんだし、こんなもんじゃないかしら。ってかアンタの荷物が多すぎなのよ。なに入ってんのよ、そのデカいトラベルケース」

 

 私は、パーティー用のちょっとオシャレ仕様の服と、件の魔法少女コスが入った、中程度のボストンバックをひとつ。

 イーグルも荷物はトラベルケース一つだが、これがまた、彼女の胸元くらいの高さはある大型のものだ。コイツ、本当に世界一周旅行にでも出かけるのだろうか?

 

「元女優のプライドにかけて、ミスコンの優勝は譲れませんから。それ相応の準備をしてきました。荷物制限があるという話でしたので、これでも、半分くらい切り詰めたのですよ?」

 

 なるほど、イーグルも本気という事か。このコンテストの優勝賞品は、指揮官と行く温泉旅行券。普段は指揮官の前でもクールに装っているコイツも、指揮官のお膝の上を狙っている女狐なのだ。

 

「でもまぁ、それ以上に、皆様との立食会を楽しませてもらいますわ。グリフィンでのレクリエーションは初めてなので、どのようなものなのか、ワクワクしています」

 

「そっか、アンタが着任してから、まだそんなに経ってなかったものね。言っとくけど、アンタの古巣みたいな上等なもんじゃないわよ。バイキングの宴みたいな感じ」

 

 冗談ついでにちょっと大袈裟に言ってみたが、あながち間違いでもない例えか。

 大体、こういう食って飲んでの集まりだと、大なり小なり、酒飲み連中を筆頭にした乱闘騒ぎが発生するものである。

 

「ふふ、それは素晴らしいです。演技の場ではなく、リアルのそういう場に混ざってみたいというのが、私の夢でしたので」

 

「なんちゅう夢なのよ、それ?」

 

 そうやってお互いに笑い合っているうちに、乗船受け付けが開始された。

 陸と船を繋いだフラップを先頭に、二列に並んだ私達、戦術人形達が続々と乗船していく。

 受付をしているクルーの手際が良いおかげか、列の進みはかなり早い。

 

「ようこそ。乗船券を拝見します」

 

「はい。よろしくね」

 

 高級感のある、コンシェルジュの装いを纏った女性に乗船券を渡す。

 髪が長くて、俯いていたので顔は良く見えない。話し方もなんだか素っ気ないというか、味気ないというか。服装とのギャップを感じるのは私だけかな?

 

「あのクルーの態度、見ました? せっかく高級感のある客船だというのに、気分が台無しですわ。気品あふれる接客というのを、私が教えてあげようかしら?」

 

「同感。でも、激安プランみたいだから、そこんとこは我慢しましょう」

 

 宥めてみるも、いつまでもプリプリと怒っているイーグルと共に、客室フロアを進んでいく。

 たった一日だけだが、私達には一人ずつ客室が割り振られている。どうせ、荷物を置いておくだけの場所になるのだが、気分だけでも味わえるのはとても嬉しい。

 フロアの半ばでイーグルと別れ、自分の部屋へと向かう。

 受付で渡されたカードキーをパネルにかざすと、静かにロックが外れる。

 装飾が施された木製の扉を開け、室内に足を踏み入れて・・・

 

「うわぁ・・・すご」

 

 部屋は、基地の私達の個室よりも広い。一面がフカフカのカーペット張りのフロアには、

ベッド、ソファー、テーブル等の日用品に、大型のモニターとアンプまで備えている。

 カウンターキッチンは、ミニバーみたいなオシャレさで、スプリングフィールドのカフェにも劣らずの装いだ。今頃きっと、部屋を嬉しそうな様子で見て回っている事だろう。

 充実の品揃えだが、豪華な施設にありがちな、やたらと凝った装飾とか高いんだか安いんだか分からない絵画なんかが見当たらない、そういうところが私のような庶民にとっては高評価だ。

 初めて足を踏み入れる部屋だというのに、ソファーに腰を降ろして、もうすぐに気分が落ち着いてくれた。

 

「っと、あんまりのんびりしてる暇もないか」

 

 船は、つい今しがた港を離れたところだ。

 このまま沖へ出て、海景色に囲まれたところでパーティーが始まる予定。時間にしたら、一時間もかからないくらいだ。

 そう決めるが早いか、バッグから衣装を取り出し、クローゼットへ。

 ハンガーに衣装を掛け、生地に皺が浮かばないよう、手で優しく伸ばしていく。

 ・・・今更だが、もう吹っ切れてしまった影響なのか、私はもうこの衣装を着る事への恥ずかしさを全く感じなくなってしまっていた。

 なんなら、これを着てパーティーに参加して、みんなに見せびらかしたっていいくらいに思っている。

 

「でも、スプリングフィールドにあそこまで言われちゃあね。やられたら三倍にして返すってのが、私の信条だし」

 

 スプリングフィールドの件もそうだが、私の最終目標は指揮官との温泉旅行である。イーグルも含め、そこまでの道に立ちはだかる強敵は多いだろう。

 改めて、衣装の着こなしを確認したり、パーティー用の服を準備していたりしていたら、窓の外はいつの間にか見渡す限りの地平線。

 さぁ、パーティーを始めようか。




参考までに、作中に出てきたピーキー✮ピンキーというのは、当方の前回作に出てきた魔法少女版ネゲヴです。個人的に結構気に入ってしまったので、つい使ってしまいました。相変わらず後悔はしない方針です!

今回、初めて登場させたキャラ、デザートイーグルはネゲヴと同じ生産メーカーなので、良いコンビになるかな~と。見た目もカワイイ娘で華がありますものね。

次週も投稿を予定していますので、気が向いたたら足を運んでやって下さいな。
以上、弱音御前でした~
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