どうも、弱音御前です。
長々と続いてきた今作もそろそろ終わりが見えてきました。
初めから読んで下さっていた方も、今しばらくお付き合いいただければと思います。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ
「よ~し! そうと決まれば、早速始めるとしますか!」
「ミスるんじゃないわよ、イーグル。アンタが作戦の要になるんだからね」
「どうぞお構いなく。それよりも、アナタが切り込みなのですから、まずは自分の心配をした方が良いのではなくて?」
互いにプレッシャーをかけ合うのは、戦場においての私達の願掛けみたいなもの。
銃弾が飛び交う最前線でこそないが、今、ここはそれと同様以上に重要な場面。指揮官の命が
かかった絶対防衛ラインなのだ。
暗幕を剥ぎ取ると、指揮官がイグニッションキーを捻る。
火を入れられたエンジンが命を吹き返し、甲高い雄叫びがホール中に木霊した。
「ヘイ、かわい子ちゃん! 私達をお探しぃ?」
ピュイ、と指笛を混じえ、鮫ロボを煽る指揮官。
わざわざ、そこまですることもなかろう。エンジンの熱を感知した鮫ロボはすでにこちらへと向かってきている。
「余計なことはいいから、さっさと走る!」
「わかってないなぁ。こういうのは気分が大事なのよっと!」
蹴とばされたかのような、強烈な勢いでスタートを切るジェットスキー。
背後に鮫ロボを率いて、まず向かうはホールの反対側。
ホール外壁を沿うように、水上を駆け抜ける。
「これだけ寄せれば飛び移れるかな?」
「ええ、上等ですわ!」
ホールの隅には、火災が発生した際に起動する排煙設備が取り付けられている。
太い金属製のワイヤーがコンパネ内のリールから伸び、壁を伝い、天井付近にある排煙窓を開閉するという仕組みだ。
狙いは、排煙装置のワイヤー。すぐ横を通り過ぎ際、イーグルがワイヤーへと飛び移った。
案の定、鮫ロボは熱反応の大きいジェットスキーに夢中で、イーグルは完全に素通りしてくれた。
「ステップ1成功、と。しばらく、2人きりでランデブーね」
「こんな状況じゃなかったら嬉しいんだけど、残念」
アクセル全開で、水面を撥ねるようにジェットスキーは走り続ける。
反動で跳ね飛ばされないよう、指揮官の身体をしっかりと掴みながら、私は後方を警戒中。この広いフロアでは鮫ロボも泳ぎやすいのか、スピードはほぼ互角。一定の間隔をキープしている。
「準備できましたわ~!」
そうして、数分ほど駆け回ったところでイーグルの合図が届いてきた。
「待ってました~」
急旋回して、イーグルのいる方へと機首を向ける。
ついさっき、飛び降りた地点で待ち構えるイーグル。
スピードも落とさずに迫りくるジェットスキーに対し、少しも怯まずに飛び移ってくる彼女のキャッチは私の役目だ。
「っと! ナイスアシストですわ、ネゲヴ」
「当然、私を誰だと思ってんのよ。・・・それ、随分重そうだけど平気?」
「無論ですわ。私を誰だとお思いですの?」
戻ってきたイーグルが肩にたすき掛けしているのは、ワイヤーの束である。
イーグルの馬鹿力で排煙装置のリールを破壊して、ワイヤーを丸ごと引っこ抜いて持ってきたのだ。
全長数十メートルはあろうワイヤー束だ。こ奴は涼しい顔して肩に掛けているが、ショットの娘達でもなければ持ち歩くのも大変なくらい重いだろう。
「予想通り、ワイヤーの重さでスピードが落ちちゃってる。早速ステップ2いくよ!」
「アンタが重いってさ、イーグル」
「失礼な! 戦術人形は太りませんのよ!?」
イーグルが担いでいるワイヤーの端を受け取る。これもまた、イーグルの怪力が成せる業で、ワイヤーの端は直径80センチほどの輪っかを形作り、固く結ばれている。
「気を付けてね、ネゲヴ」
「ええ、行ってくるわ!」
狙いは、海面にプカプカと浮いている長テーブル。そこへジェットスキーが差し掛かったタイミングを見計らい、意を決して飛び移る。
「っとぉ・・・」
着地の衝撃でテーブルが揺れるが、大きさがある分、すぐに落ち着いてくれた。
そして、私の先、まだ浸水を免れている観客席の一角でイーグルが飛び降りたのを確認できた。
私とイーグルでそれぞれワイヤーの端を持ち、これでステップ2の準備完了。
次のステップ3は、指揮官がホールを一周回り、再び私の傍を通った時点で開始される。
「すぅ~・・・はぁ~・・・」
失敗は許されない。そんな、心地よいプレッシャーで高ぶるメンタルを鎮めるために、小さく
深呼吸を繰り返す。
エンジン音が再び私の方へと近づいてくる。
水面の揺らぎが段々と大きくなってくる。
勝負の時は、もう数秒の後。
「頼んだわ!」
水しぶきを巻き上げながら、指揮官の駆るジェットスキーが私の真横を通り過ぎる。
そうして、私は指揮官と鮫ロボとの直線間に立たされた。
そんな、オイシイ場所に居る私を見過ごすほど、昨今のドローンは馬鹿ではない。
海面から飛び上がる巨体。そんな体躯にはおおよそ不釣り合いなほどの速度で、凶刃がひしめく大口が襲い掛かる。
確かに、艦船や水上部隊にとって、この鮫ロボは機動性、攻撃性ともに驚異的な存在であると言えるだろう。
・・・しかし、こちとら音速に迫ろうかという速度の弾丸を日夜相手にしている身である。来ると分かっている攻撃であれば、こんなもの、飛んでくる虫を躱すようなもの。
「っ!」
横っ飛びに体を投げ出し、鮫ロボの大口を躱す。
最中、手にしていたワイヤーの輪っかを鮫ロボの頭部に向けて放り投げた。
輪っかが見事、上顎に引っ掛かってくれたことを見届け、私の身体は着水する。
「ぷはぁ! よし、逃げろ逃げろ~」
ステップ3成功。そして、私はイーグルがいる方へと泳いで向かう。
鮫ロボは指揮官が引き付けてくれているが、いつ、私が標的にされてもおかしくない。
今まで泳いだことなんかない私だが、見聞きしただけの方法でがむしゃらに海水を掻き分け進む。
「ちょっと、ネゲヴ! そんなオカシな踊りで私を笑わせないでいただけます事?」
こっちは必死だというのに、それをイーグルはニヤケ面で眺めていやがる。
見苦しいのは自分でも分かっているが、状況も状況なのだ。ちょっとくらい気を使ってくれたっていいじゃんか。
「うっさいわね! こっちばっか見てないで自分の仕事をなさい!」
「ええ、もちろん分かっていますわ・・・よっ!」
途端、イーグルが持っていたワイヤーが鋭い軋み音をあげて張り詰めた。
両手でワイヤーを握り、フロアの段差を足掛かりに体全体でワイヤーを引っ張るイーグル。
そのワイヤーが伸びる先は、ホールの中央位置に佇む巨大な石柱である。
「その調子! 死んでもワイヤーを離すんじゃないわよ!」
「うゆゅゅゅゆ~・・・デザートイーグルの名に誓いますわ~!」
ワイヤーの端は鮫ロボの上顎に掛けられている。指揮官が石柱を周回して、それを鮫ロボが追いかけ続ければ、ワイヤーがどんどんと石柱に巻き付いていくという寸法だ。
石柱は、豪奢な装飾やレリーフが施された、このホール一番のモニュメントで、周囲は十人並んだって囲いきれないくらい太い。
この石柱にワイヤーで鮫ロボを磔にしてしまおう、というのが私達の考えた作戦なのである。
2周、3周、とワイヤーが巻き付いていく。
ようやくイーグルの居る水上へと上がった私は、顔に付いた水を拭うのもそこそこに、最後の
仕上げに向けて準備に取り掛かる。
イーグルの背後に駆け寄ると、そこには先ほどよりも小さな輪を形作ったロープの端が垂れ下がっている。
私がここまで肌身離さず持ってきた杖をその輪に通して、準備完了だ。
「指揮官様が来ますわ! 準備はよろしくて?」
「おうよ!」
イーグルとハイタッチを交わし、目の前を通りすがるジェットスキーへと飛び移る。
「いやぁ~、案外うまくいっちゃうものね。少しびっくりしちゃったわ」
「そういうことは成功してから言いなさいよね。慢心ダメ! ゼッタイ!」
「分かってるって。最後、バッチリ決めちゃうよ~!」
中央の柱では、鮫ロボが暴れ藻掻き、水しぶきが盛大に舞っている。
ワイヤーが柱に巻き付き、そのワイヤーは上顎にしっかりと食い込んでいるのでそう簡単には
脱出できない。
そんな奴の周りを、ワイヤーを持った私達が逆回りに周りこむ。
ジェットスキーが柱の周囲を周る度に、ワイヤーが鮫ロボごと柱に巻き付いていく。
かなりの長さのワイヤーを調達してきたのだ、全部使い切るまで、これもかというくらいグルグル巻きにしてやるつもりである。
ワイヤーの残りが少なくなるにつれ、私達も柱へと近づいていく。
結局、何周くらいしたのだろうか? ついに、鮫ロボが身じろぎもできないくらいがんじがらめになったところで、手を伸ばせば届く位置に柱が近づいた。
「これでトドメよ!」
手間をかけさせてくれた恨みも込めて、杖を柱とワイヤの隙間へ突き立てる。
こうして最後に楔を打ち込み、ようやく鮫ロボ捕獲作戦は無事に幕を下ろしたのである。
めでたしめでたし・・・・・・とはいかない。
むしろ私達にとって、ここからが勝負になるのだ。
「作戦完了! さっさとずらかるわよ!」
柱から離れ、イーグルを回収するやホールから脱出する。
向かうは、デッキへ直通の連絡路。最後のバックストレートである。
「あわわ!? この船、傾いていませんこと!?」
通路の壁や天井が時計回りに傾いでいく。まるで、何かの娯楽アトラクションのような光景だが、今のこれはそんな呑気なものではない。いよいよもって、ギリギリ限界の瀬戸際なのである。
「出口が見えてきた! 間に合うの、指揮官!?」
「間に合うかどうかじゃなくて、間に合わせんのよ!」
指揮官がもう1段階スロットルを捻りこむ。
途端、ジェットスキーは機首を振り上げ、狂ったような加速をみせる。
水上を撥ねまわる機体を、クラッシュ寸でのところでコントロールし続け、出口から漏れていた小さな光は、瞬く間に大きくなっていく。
「や、やりましたわ、ネゲヴ! 私達、ついに助かりますのよ~!」
「そうね! ここまでくれば、私達の勝ちよ!」
EXITと書かれた出口は目と鼻の先。そこまで遮るものは何もない。
もう、私は勝利を確信した。
ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~ 完!
「もう、気が早いわね。あまりはしゃいでると舌噛んじゃうわよ?」
なのに、指揮官の声色はまだ真剣だった。
その理由に気が付く間もなく、私達は希望の光の中へと飛び込んでいく。
「・・・え?」
視界は一面の蒼だ。
雲一つない、太陽の光が燦々と降り注ぐ晴天。
そして、視界を下げて見れば、私達の遥か下も青。
汚染の少ない沖の、海本来が持つ澄んだ青色である。
「これ、もしかして」
「私達、落ちますの・・・?」
「はい、下へまいりま~す」
私の予想では、外のデッキへと出て、それから他の娘達が乗っている避難艇に飛び移るという
プランだった。
だが、実際はどうだ。すでに船は沈没寸前で傾き放題。まともな態勢を維持できてやしなかったのだ。
船内から飛び出した際の勢いも落ち着き、私達の身体はついに垂直落下を始める。
「きゃあぁぁあぁ~~~!」
「ふやぁあぁあぁ~~~!」
「いやっふぅぅぅ~~~!」
3人の絶叫が絡み合い、木霊する。
高さはどれくらいだろうか?
海面に叩きつけられた時のダメージは?
指揮官は無事でいられるだろうか?
なんとしてでも指揮官だけは守らないと!
落下の最中、様々な思考が私のメンタルを駆け巡る。
最悪の事態だけは避けなければと、私は指揮官の身体をしっかりと抱えた。
そうすることで、せめて指揮官のダメージを和らげなければと思ったからだ。
・・・でも、実際はそこまで大変な事にはならなかった。
「つっ!? ・・・着水した? 無事?」
衝撃が身体を襲い、水飛沫が舞い上がる。しかし、負傷するほど強烈なものではなかった。
「そうね。普段の行いが良かったせいかしら?」
背後、私達が飛び降りてきた先を見上げてみる。
高さは、建物の2、3階くらいだろう。
私としたことが、ビビっていたせいか、実際以上に高いところだと思い込んでしまっていたらしい。
「なんだ・・・脅かしやがって。イーグル、私達、今度こそ本当に助かったわよ」
傍らのイーグルに声をかける。
・・・しばらく待ってみても、彼女からの反応がない。
「? イーグル? お~い、イーグルお嬢様~?」
「うゆゅゅゅ~・・・」
客船からのダイブがよほど衝撃的だったのだろう、イーグルは気を失っている。
ジェットスキーから振り落とされず、座っていられるのが奇跡だ。
「なに? イーグルちゃん、もしかして気絶しちゃってる?」
「あ~、見ないであげて。指揮官は前見て運転に集中する」
こんな間抜けな顔を見られたとあれば、イーグルのプライドはズタズタだろう。最悪の場合、
自爆しかねない。
指揮官の頭を両手で挟み、振り返ることが出来ないよう固定するのが、私にできる親友への手向けの花束だ。
見事に脱出成功・・・といったところで中途半端に終わっている事からも、この後どうなるか、
お判りの方も居るでしょう。
そこは察していただいたうえで、最後の最後を見届けていただければ幸いです。
それでは来週、最終回もどうぞお楽しみに。
以上、弱音御前でした~