ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~   作:弱音御前

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まだまだ寒い日が続く中、皆様いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

指揮官大好きネゲヴちゃんのお話、ということで始まりました今作。本題に入るまで今しばらくかかりますが、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです。

それでは、今回もごゆっくりとどうぞ


船上の戦乙女 2話

 客船スノウハレーション メインホール

 

 

 我が基地に在籍する戦術人形は百数十人に及ぶ。レクリエーションへの参加は任意であるため、その全員がここに勢揃いしているわけではない。

 今回の参加人数は、百人に届かないくらいの数だが、これまでのレクリエーションの中では最多参加人数を記録している。

 そして、私達は可憐な女性の見た目をしてはいるが、根っからの戦闘屋である。そんな連中が

大勢集まれば、さぞかし荒々しい宴に発展するだろうと、私は開催前から密かに危惧していた。

 ・・・だが、それは意外で嬉しい事に、杞憂に終わってくれたのである。

 

「なにやら、今回は皆様揃って大人しいですわね。やはり、この豪奢な空気に巻き込まれて委縮しているのでしょうか?」

 

「委縮っていうのは違うわね。みんな、この雰囲気を受け入れて、楽しんでくれてるって感じ。思ったよりも適応力のある娘達で助かったわ」

 

 所狭しと並べられたビュッフェ式の料理を囲みながら、うちの娘達は楽し気に、でも、ちゃんとこの豪奢な雰囲気に沿った落ち着いた様子で談笑を交わしている。

 ホールの隅、小さなライブステージに置かれた、自動式のピアノと管弦楽器が奏でるクラシック音楽が、BGMとして聞こえるくらいの、心地良い騒がしさだ。

 

「はぁ~・・・いつか、このような社交界に足を踏み入れてみたいものですわ。要人警護の任務とか、うちには回ってはこないんですの?」

 

「仮に来たとしてさ、それを完璧にこなせるヤツがうちに何人いると思ってんの?」

 

「それはもう、最新型の私、タボールにお任せあれ! ですわ」

 

 大きなお胸を張って、私と一緒にホールを回っていた相棒、タボールが言い切る。

 今日は、パーティーという事でおめかししてきたのか、タイトなドレスを身に纏っている

タボール。

 そんな姿勢をとったら、お胸の所がはち切れちゃうぞ?

 

「それに、いざそんな任務が来た時には、貴女もご一緒してくれますでしょう?」

 

「私? そんな堅っ苦しい任務はどうかな? ガラじゃない気がする」

 

「何を謙遜していますの。今日の貴女の装い、とても綺麗ですわよ」

 

「ん・・・そう? ありがと」

 

 気品のある笑みを浮かべながら、そんなことを言われたものだから恥ずかしくて仕方がない。

 そんな様子をごまかすため、通り過ぎ際、テーブルの上に乗せられていたグラスを取り、一口煽る。

 こんな場ではオレンジジュースまで高級品なのか。普段飲んでいるものよりも自然の味が活きていて旨い。

 

「こんな綺麗な2人組だというのに、揃ってお目当ての方からフラれてしまうんですもの。不運と呼ぶ他ありませんわね」

 

「まぁ、そうね・・・」

 

 タボールが視線を向ける方に、私もつられて目を向ける。

 先には、辺りよりも一層に人口密集率の高いエリアが。その取り巻きの中心にいるのは、もう言わずもがな。愛しのマイ・ダーリンである。

 

「ワーちゃん、そのケースの中ってヴァイオリン入ってるんでしょ? もしかして、それなりに

弾けたりとかするの?」

 

「そりゃあ、ちょっとくらいはね。こんなの持ってて、全く弾けないとか恥ずかしくてしょうがないじゃない」

 

「じゃあさ、今度一緒に演奏しましょうか? 私、子供の時に習ってたから、今でも簡単な曲なら弾けるのよ」

 

「え! 指揮官、ヴァイオリン弾けるの? マジ・・・?」

 

 周りからのどよめきに、指揮官は照れ笑いを返している。

 この客船の装いは、西洋の趣だ。それに合わせるよう、参加している娘達はドレスとか、フォーマルな服装で揃えている。

 しかし、この指揮官ときたら、それを知っていてあえての和服で登場だ。

 おまけに、両肩を出したやたらと色っぽい〝オイランスタイル〟である。

 普通に考えたら、場違い甚だしいと思えるだろう。だが、それでもなぜか違和感を覚えない、むしろ、この場に似合って見えてしまうそこが指揮官マジック。

 美人揃いの戦術人形達であるが、そんな中で周囲の視線を釘付けにしてしまう、指揮官のそんな所にシビれて憧れてしまうのだ。

 

「東洋の服装までもあそこまで着こなしてしまうのですから、流石ですわね。髪型までしっかりと整えて、ぬかり無しですわ。あの髪飾り、確か、カンザシでしたか? 貴女がプレゼントしたのでしょう?」

 

「ん、そうよ。よく知ってるわね」

 

「どの口が言いやがりますか。その事、貴女が私に自慢してきたのではなくて?」

 

 もちろん、タボールに話した事は覚えている。世間話の中で、タボールには私の色々な事を話しているのだから。

 あの金色のカンザシは、マーケットをうろついている時に見つけた代物だ。年代物だが、とても状態が良く、指揮官に似合いそうなので見つけたその場で購入を決意してしまった。

 本物の金細工で、それなりのお値段だったが、アレを渡したときの指揮官の嬉しそうな顔は、私のメモリーにしっかりと記録され、いつでもすぐ思い出せるようにしてある。

 

「まぁ、指揮官の所には、取り巻きが落ち着いたときにでも行きましょう」

 

「ですわね。私、フライドチキンが食べたいですわ。ほら、無くなってしまわないうちに、速く

参りましょう」

 

「んな急がなくたって。無くなりゃあ、また補充されるんだから」

 

 タボールに手を引かれるまま、お目当ての料理が置かれているエリアへと小走りで向かう。

 やたらと脂っこい料理が密集しているそのテーブルには、すでに先客が居た。

 

「そうなんだよ。だから、ブルパップこそが至高のアサルトライフルだという事を、今こそ示さなければならないと私は思うわけ。つきましては、ぜひ95式の艶姿を今度の私の動画にアップさせていただきたい」

 

 銀色のポニーテールにドレス姿でしっかりとキメているのは、アサルトの戦術人形MDR。普段は厚ぼったいタクティカルジャケット姿なので分かりづらいが、実は結構スタイルが良い。馬鹿のクセに生意気である。

 

「それは、他支部の方々も目にするようなものなのでしょう? 私の姿なんかを載せても、面白いものではないと思うのですが」

 

 スリットの入ったタイトなドレス、確か、チャイナドレスという名前の衣装に身を包んだ95式は、動画のネタに利用せんと画策するMDRにロックオンされている。

 まぁ、この会場の中でもトップを争うくらいの美人だ。MDRが狙いを定めるのも当然といえよう。

 

「ファマスはどうでしょうか? みなさんに見てもらえるような場です。度胸を鍛えるには、ちょうどいい機会かと思いますが」

 

「え! わ、私ですか!? これ以上、心労が重なるような事は遠慮したいところなのですが・・・」

 

「そうだよ。ファマスにはこれからとっておきの舞台が控えてるんだから、あんまりイジメるなよ、95式~」

 

 MDRと95式が目立ちすぎてちょっと陰に隠れていたが、ファマスも一緒に居たようである。

 ブルパップ連中の集まりに加わり、ここ最近は戦力としても、メンタルの面でも成長が著しい

彼女。

 そんな様子を傍から見て、自然と笑みが零れしまう。

 

「・・・やっぱりチキンは止めです。あちらのスイーツエリアに参りましょう」

 

 そんな私の腕を掴んだまま、タボールは急激なUターン。おかげで、肩の関節がグリっ! ってなってちょっと痛い。

 

「ちょぉ!? いきなりなんなのよ!」

 

「急に甘いものが食べたくなりましたの。別段、他意はなくってよ」

 

 どことなく不機嫌な様子で、タボールはスタスタと歩を進めていく。

 一体、どういう心境の変化なのか? 首を傾げていたまま付いていく私だったが、すぐに心当たりが思い浮かんだ。

 

「あのさぁ、いい加減、ファマスを毛嫌いするのやめなさいよ。せっかくの休日なんだから、嫌な気分を持ち込むんじゃないの」

 

 グリフィンは、個性豊かな戦術人形達が100名近くも在籍する場である。みんな仲良く、というのが理想ではあるが、理想というのは、手が届かないが故にそう呼ばれるもの。どうしてもウマが合わない相手が存在してしまうのは仕方がない事なのである。

 タボールなんかは、ファマスがその筆頭らしい。

 他のブルパップ連中とは仲良くやっている彼女だが、ファマスだけは気にくわないご様子。

 以前、模擬戦闘訓練で上手く立ち回れなかったファマスに散々噛みついた事があったのだが、それも良い例である。

 

「貴女には関係のない事ですわ。別段、生活に支障をきたすことでは事ではありませんので、どうかお構いなく」

 

 なんだってここまでファマスを嫌うのか聞いたことがあるのだが、どうにも歯切れの悪い答えしか返ってこないので、たぶん、本人もどうしてそんなに嫌いなのか分かっていないのだろう。

 不安の種は早めに摘んでおくのも副官としての務めだが、理由も判明していないことを解決だなんて、いくらスペシャリストの私でも無理な注文である。

 ・・・でも、私はたぶんだけど、これが理由なんだろうと思っている事がある。

 タボールは仕事に対しての意識がとても高い人形だ。それは、戦績にも直結する非常に重要なファクターで、事実、彼女の戦績はアサルトの中でも常に上位に位置する。

 そして、ファマスは今、我が基地の中で徐々に伸びつつある一番の有望株だ。

 ヤル気があって真面目で礼儀正しいルーキー。仕事ができる奴からしたら、これほど構い甲斐のあるヤツはいないだろう。

 本当は、ファマスに色々と教えてあげて、戦場で一緒に活躍したい、というのがきっとタボールの本音。でも、新人の育成なんて慣れない事を考えてるもんだから、どうやって接してやればいいのか分からなくて、あべこべな態度をとってしまっているのだ。

 WA2000みたいなものだろうか。本当は指揮官の事が好きで好きでたまらないけど、つい

トゲトゲした態度をとっているアレである。

 まぁ、こんなことを本人に言ってやった日には、それこそ、火にニトログリセリンを放り込んだみたいになっちゃうだろうし、言わないが華だ。

 本人が気づくまで、口を噤んでおこうと考えている友達想いな私である。

 その後、苛立ちの反動からか、スイーツを食い漁るタボールに私も付き合ってあげた。

 私は甘いモノが得意な方であるが、それでも、タボールの勢いについていくのは少し辛かった。

 テーブル上の全種類をコンプリートした頃。突如として、ホールの照明が落ちる。

 非常用の薄暗い照明だけがぼんやりと照らす中で、周囲の娘達が騒めき立つ声が聞こえる。

 普段の任務において、照明を落としてからの急襲なんて敵の常套手段である。

 つい気を張ってしまうのも分からなくはないが、今日はお休みの日なんだから、そこらへんはちゃんと察してもらいたい。

 

「は~い、長らくお待たせいたしました~。これより、船上パーティーのメインイベント、ミス・グリフィンコンテスト〝グリフィンは異世界に放り込まれても一向に構わない〟を開催いたします~」

 

 ほんわりとした優しい声によるアナウンスで、みんなの緊張が一気に解れてくれたのだろう。ホール内に拍手と歓声が響き渡る。

 

「司会は、私、SAT8が務めさせてもらいます。よろしくお願いします~」

 

 コンテストのテーマに沿ってなのだろう、ステージ横の視界席に着くSAT8は、大きなカボチャお化けを傍に置いたハロウィン衣装を着ている。司会進行役ということはコンテストには出ないのだろうが、アレで出られたら厄介な敵になったであろうくらいカワイイ。

 

「そして、私のお隣にいらっしゃいますのが、解説兼審査委員長兼コンテスト実行委員長。みなさんお馴染み、我らが指揮官様で~す」

 

 ホールにいる全員からの視線と歓声を独り占めしつつ、指揮官が両手を振りながら立ち上がる。

 

「ハロ~、レディース&ガールズ。この逃げ場のない海上にて凌ぎを削るは、いずれも異界より招かれし泡沫の兵達。さあさあ、血沸き肉躍る狂乱と狂宴の舞台をどうぞ心ゆくまでご覧あれ!」

 

 着物の袖をバサリと振り絢爛豪華に言い放つ指揮官を前に、観客はヒートアップ。

 だが、今の指揮官の言い回しがさっぱり分かっていないヤツがほとんどだろう。

 どうせ、厨二病のKSVKが考えたセリフだ。また、変な事を指揮官に吹き込んでいやしないかと、頭が重くなってしまう。

 

「今回のコンテストは準備の都合上、前半と後半に分かれています。後半組は、途中のインターバルが終わるまでに控室にて準備をして下さいね~。それでは、ミスコンのルール説明に移ります。参加者1組の持ち時間は5分間。この間に、テーマに沿った自慢の衣装とアピールを披露してもらいます。評価点は3つのポイントに分かれていて・・・」

 

「そういえば、貴女もミスコンに参加するのでしょう? こんなところでいつまでもボケっとしていてよろしいんですの?」

 

「私、後半組だから時間あるし。着替えだってそんなに手間がかかるもんじゃないしね」

 

「まあ、随分と余裕ですのね。参加者を見たら、どうにも強敵揃いのようですので、足元を掬われないよう気を付けて下さいな」

 

 ミスコンに参加するということは、みな、容姿にそれなりの自信がある猛者共だという事だ。いくら副官の座についている私といえど、タボールの言う通り、足元を掬われかねない。

 しかし、そんな中で私にとって救いだったのは、最強の一角であるDSRと95式のエロ巨乳

コンビが参加しなかったことである。

 これだけで、私の勝率はグンと上がったと言って過言ではない。

 あとは、真正面からケンカを売ってきたスプリングフィールド。元女優のイーグルとの直接対決を気にかけておくだけだ。

 

「以上ルール説明になります。では、時間も限られていますので、早速初めていきましょ~。

1組目の紹介、指揮官様、お願いします」

 

「おっけ~。トップバッターは、P7、トカレフ、マカロフ、随分と珍しい3人組ね。タイトルは〝魔女裁判〟。いってみよ~!」

 

 魔女裁判とは穏やかではないが、ともかく、指揮官の紹介に合わせてステージを覆っていた幕が上げられた。

 

「下等な人間どもが。今すぐに私を開放するというのなら、苦しむことなく楽に殺してやろう。さもなくば、生きていた事を必ず後悔させてやるぞ」

 

 ステージ上に立てられた一本の丸太。そこに縛り付けられていつ小悪魔シスター服のP7は、やたらと偉そうな態度である。

 なるほど、アイツがこのお題目の魔女であるらしい。確かに、イタズラっ娘という点で考えればそれっぽさはある。

 

「あ~ら? 手も足も出ないくせに、口だけは随分と達者ね。口を縫い留めて、言葉も出ないようにしてあげようかしら?」

 

 P7の周りを歩きながらマカロフ。頭にデカいカボチャを乗せたその姿は、テーマに沿ったものではあるのだが・・・お前も魔女に見えなくもないぞ?

 

「そんな面倒をかける必要はありません。この弾丸で頭を撃ち抜いて、処刑完了です」

 

 片や、P7と対峙する位置に離れて立つトカレフの装いは雰囲気が出ている。中世の暗殺者、という風体だったか。黒を基調としたダークな雰囲気に程よいセクシーさが相まって、きっと、指揮官的にポイントが高いに違いない。

 

「せめてもの情けです。最後に残す言葉があるのなら、どうぞ」

 

 トカレフが銃を構える。とはいっても、ややスタンスを広げて腰を落とし、腕は降ろしたまま。

 なんだか、銃を撃つにしては不思議な構えである。

 

「無駄無駄ぁ! 貴様ごときに私は殺せない。その弾丸が私に届くことなど、ありえないのだからな」

 

「・・・どういうことです?」

 

「私は触れることなくモノを動かすことが出来る。そうさなぁ・・・ならば、貴様が撃った弾丸を曲げて、私の真後ろにある家に放り込んでやろう」

 

 そして、P7の背後には、民家を模したハリボテにガラス板がハメ込んである。

 ガラス板はそれほど大きくない。P7の身体で完全に隠れて、トカレフからは完全に見えないだろう。

 

「馬鹿な。いくら貴女が魔女だといえども、そのような事が出来る筈はない」

 

「では、試してみるがいい。一家団欒か? 弾丸が撃ち込まれたら、さぞ楽しい事になりそうだな」

 

 ククク、と卑しい笑みを浮かべるP7。

 緊張から、歯をギシリと噛み締めるトカレフ。

 一色触発の空気の中。

 

「さぁさぁ皆様、これより披露するのは絶技〝曲射〟。トカレフの弾丸はP7の横を迂回して、その後ろにあるガラス板を撃ち抜いて魅せます。成功したら、盛大な拍手をお願いします」

 

 ストーリーテラーみたいな立ち位置だったのか、マカロフが観客を煽り立てる。

 つまり、これが彼女たちの特技披露だという事か。

 

「おっと? 魔女裁判は思わぬ方向に話が進んでいるようですが。指揮官様、これは一体どういうことなのでしょうか?」

 

「ふ~む・・・曲射ね。なるほど、完全に理解したわ」

 

 ホントに分かってんのか疑わしいが、指揮官は腕組みで頷いている。

 

「トカちゃんのあの構え、銃を扱うにしては珍しい、っていうか変でしょ?」

 

「そうですねぇ。なんだか、刃を振る時のような構えなのでしょうか? 銃を撃つようなものには見えないですねぇ」

 

「今、サッちゃんが言った通り。あれは、銃を〝振りながら撃つ〟構えなのよ」

 

 指揮官の言葉に周囲がザワザワとしはじめ、タボールもスイーツを食べる手を止め完全に聞き入っている。

 かくいう私も周りの空気に呑まれて、つい固唾を呑んでしまったのがちょっと悔しい。

 

「腕を右から左へと振りかぶりながら撃つことで、弾道も右から左へと。上空から見ると、発砲地点であるトカちゃんから、反時計回りにナナちゃんを回り込んでガラス板を撃ち抜くっていう魂胆なんでしょうね」

 

「あらぁ~、そんな神業が現実に存在するんですね?」

 

 SAT8の言う通り、そんな弾道はまさに神の成せる業だ。

 戦場で使えばまさに一騎当千。スゴイ技を持ってるくせに、何で今まで使わなかったんだトカレフ! と、抗議の声を挙げたくなってしまう。

 ・・・が

 

「無理無理無理。そんなの、どう考えたって物理法則に反してるもの。腕振って撃ったって、実際は銃口に対してまっすぐ飛んでくだけよ」

 

 指揮官は、あまりにもあっさりと自分の説明を否定したのだ。

 その事態に呆気にとられる観客たち。

 

「ちょ、ちょっと待った! 存在しないって、それ、マジ!?」

 

 そしてなぜか、当事者であるはずのP7は激しく動揺している。

 

「銃弾の曲射って、確か、昔の映像作品でやってたのよね。画的には面白いけど、絶対に無理」

 

「話が違うよ、マカロフ、トカレフ! 絶対に出来るからって言ってたじゃんか!」

 

「・・・・・・できるわよ。ねぇ、トカレフ?」

 

「ええ、もちろん。・・・・・・たぶん」

 

「い、いいい今、たぶんって言った!」

 

 このまま撃たれたらたまらない、とP7は藻掻くが、ロープはビクともしていない。

 ・・・そろそろ、これがどういう見せ物なのか分かった連中も出てきた頃だろう。

 きっと、指揮官がわざわざあんな説明の仕方をしたのも、これのお膳立てにすぎないのだ。

 

「トカレフ、もう時間ないからさっさとやっちゃいなさいよ」

 

「そうですね。頑張れば、まぁ、成功するかもしれないですし」

 

「待ってよ! そんなテキトーな感じで話進めないでってば! みんなも何か言って、この2人を止めてよ!」

 

 涙を浮かべるP7の懇願を、しかし、聞き入れてくれるものは誰一人としていない。

 それどころか、早くやっちまえ~、みたいな空気が漂ってきてすらいる。

 今や、結末が分かってない奴の方が少ないほどだ。

 

「うぅ・・・止めてよぉ。私、こんなところで死にたくないよぉ~。何でもするから、お願いだから撃たないでぇ~」

 

 何でもするから。その言葉を聞いたトカレフとマカロフが笑みを浮かべる。

 

「では、もうやたらとイタズラをして周らないと約束しますか?」

 

「あと、今までのイタズラに関しての非をここでみんなに詫びなさい」

 

「今後、見境なくイタズラはしないと誓います! イタズラしてきた皆さん、本当にごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 グスグスと泣きじゃくりながら謝り倒すP7。

 これで、3人の舞台は幕引きだ。

 

「このように、P7は今後、イタズラは一切しないという誓いを立てました。ここに居る皆さんが、その証人となります。もし、P7がその誓いに反したのを目撃した、もしくは、被害に遭われた方は副官か指揮官までご一報ください。然るべき制裁を下してもらいますので」

 

 恭しくお辞儀をするトカレフとマカロフに拍手が送られる。

 イタズラっ娘P7の悪事には多くの人形達が頭を悩ませていた。

 今回、こうしてみんなの前で思い知らせてやれば、今度こそ懲りてしばらくは大人しくしていることだろう。

 

「なるほど~。魔女裁判になぞらえて、P7を懲らしめてあげたのですね。流石はハンドの娘達の中でも有数の策士、マカロフさんですね~」

 

「美しさだけでなく、エンターテイメント性も兼ね備えた、見事なパフォーマンスだったわね。これはハナッからレベルが高いわ。みんな、マカロフ、トカレフ、P7に改めて労いの拍手を」

 

 指揮官の言葉に合わせて一層大きな拍手が送られ、ステージの幕が下りていく。

 

「優勝を狙う身としては、心中穏やかではないのではなくて?」

 

「まぁ、良いパフォーマンスだったのは認めるけどね。それでも、私とタメ張るのは10年くらい早いってとこかしら?」

 

「強がりも、ここまでくると呆れを通り越して清々しく思えるものですのね」

 

 そりゃあ、強がりだって言いたくもなる。

 私が弱気なところを見せたら、ここぞとばかりにイジくり倒してくるくせに。

 

「さぁ、舞台が冷めないうちに続けてまいりましょ~」

 

「はいは~い。次の出場者は・・・おっ! ファマスちゃんだね。チームブルパップによるプロデュースって書いてるけど、出るのはファマスちゃんだけなのかな?タイトルは〝歌姫降臨〟。行ってみよ~」

 

 ホールの照明が薄暗くなり、ステージの幕が上げられていく。




洋上パーティーでのお話、ということでほとんど何事も無く進んだ回となりましたね。
次回もこんな感じですが、これから盛り上がる前のフリ、ということでひとつ。

次週更新もお楽しみに。
以上、弱音御前でした~
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