どうも、弱音御前です。
船上の戦乙女も3週目に入りまして、今だに面白みのない状況が続いているのは申し訳ないところです。
それでもお付き合いいただけている方々に感謝しつつ、投稿を続けていきますのでなにとぞよろしくお願いします。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~
「ねえ、チームブルパップのプロデュースってことは、アンタも絡んでるの?」
「そこんとこはノーコメントでしてよ」
ってことは、タボールも絡んでいるのか。ホント、素直じゃないヤツめ。
暗がりのステージにスポットライトが当てられる。
その中から姿を現したのは、1人の美女。
ファマスだという事は分かっている。でも私は、普段のファマスと、今、ステージの上に居るファマスをすぐに結びつけることができなかった。
それほどまでに彼女は
「・・・綺麗」
「ふふん」
私の呟きに対して、タボールが得意げに鼻を鳴らしたのが聞こえた。
あの衣装はタボールの案なのだろう。確かに、彼女のセンスなら、あれほどの仕上がりになるのも頷ける。
そのドレス姿は、パーティーや舞台で見かけるモノとは一線を画す。
常人では届かぬ高嶺の花。誰も触れぬが故に、それは高潔であり純粋無垢。
新雪の白と流氷の青が織りなす鮮やかなグラデーションを、霞のようなフリルが彩る様は、男女種族を問わず、見るもの全てを魅了する。
氷で形作られたような繊細なティアラを冠した、氷雪の王女を前にして、誰しもが、あの指揮官ですらも言葉を忘れてしまい。ホールは、時間が凍り付いたように静まり返ってしまった。
「ぁ・・・・あの・・・えっと、その・・・よ、よろしくお願いしましゅ!」
つい詩的な感想が過ってしまったほどに良い雰囲気だったのだが、それをファマス自身でブチ壊してしまう。
本当に王女様なんじゃないかという佇まいだったのに、ちょっと口を開いた途端、やっぱりいつものファマスだった。
「わ、私がこのミスコンに出ることになったのは、先輩方からの勧めで。このような場に出れば、もう少し自分に自信を持つことができるのではないか、と考えたからです。もっと自信と実力を付けて、早く指揮官様のお役に立ちたいなと・・・あ! もちろん、指揮官様だけでなく、基地の皆さんに追い付きたいという気持ちも当然ありましてですね・・・」
せっかく展開した素晴らしい雰囲気が、秒単位でガリガリと削られていく。
ここまでの経緯を順序良く、丁寧に説明し続けるファマスを見て、ホールからは所々から笑い声が聞こえてくる。
「あ~もう! いつまで無駄話を続けやがりますか、あのヘッポコ人形は! こんなので私達に恥をかかせたら、後でオシオキですわ!」
割と微笑ましくファマスの様子を見られる私だが、隣のタボールは苛立ちの頂点といったご様子。
そもそも、ファマスをあんなとこに出したら、こういう状況になるのは想像に容易いはずだ。ブルパップなら、95式という強豪が居るのに、何でファマスを代表として出したんだろう?
「あの~、お話のところすいません、ファマスさん。もう、持ち時間の半分を経過してしまうのですが、そのお話がパフォーマンスという事で良いのですか?」
そこへ、SAT8がナイスカットイン。流石、司会進行に選抜されるだけのことはある、空気を読める良くできた娘だ。
「えっ!? いえ! もうしわけありません! 今日は、ここで歌を披露させて頂こうと思っていましたので・・・えっと~・・・・・・とにかく歌います!」
お題目は歌姫降臨。登場時の雰囲気が凄かったのですっかり忘れてしまっていたが、あの格好で歌を披露するのが、ファマスのパフォーマンスであるらしい。
「ねえ、ファマス、あんなに緊張してて歌えるの?」
「はぁ~、なんとか、歌まで漕ぎつけることができましたわね。ここまでくれば、あとは貰ったも同然ですわ。まぁ、見ていなさいな」
怒りも落ち着き、勝ち誇ったような表情を浮かべるタボール。
さっきもそんな得意げにしてて、あの有様だったんだぞ? 大丈夫か?
ホール内に設置されたスピーカーから音楽が流れる。
ピアノの旋律に乗せたクラシックなメロディは、何かのミュージカルで使われる楽曲か。
「すぅ~・・・ふぅ~」
イントロの合間でファマスが小さく深呼吸を繰り返す。
そうして、歌が始まり
「♪~~~~~~~~♪
♪~~~~~~~~~~♪」
私達は誰もが、再び言葉を失った。
なんて美麗な歌声か。確かに、ファマスは綺麗な声をしているとは思っていたが、それとはまた別物である。
耳からだけでなく、まるで、身体に染み入るような繊細で柔らかな歌声は、本物の舞台女優が歌い上げているかのよう。
「♪~~~~♪
♪~~~~~~~~~♪」
人間で言うなら、心に響く歌声というヤツだろうが、私達、人形にとって言えば、メンタルに響く歌である。
すっかりと緩んだホールの雰囲気を、ファマスはこの類い稀な歌声だけで、また一気にひっくり返してしまったのだ。
「? あ、あれ? 私、何で・・・泣いて?」
なんか頬を伝ってるな、と思って指を触れてみれば、そこには涙の雫が。
別に、何か悲しかったり痛かったりしたわけじゃない、ファマスの歌を聞いていたら、自然と零れてしまったのだ。
周りを見てみれば、この異変は私だけに怒ったものではないことに気づく。
いつの間にか、周囲は鼻をグスグスさせていたり、嗚咽まで零している娘達ばかりになっていた。
「ぅう・・・えぐっ・・・ど、どうですの、ネゲヴ。これが・・・ぐすっ、ファマスを選んだ理由ですわ。優勝は・・・私たちがいだだぎまじだわ~」
言いつつ、タボールなんか大号泣である。
心揺さぶる歌声、というのが素晴らしいのは確かにそうだ。でも、これはちょっとやりすぎである。ここにいる100人近い人数全部が泣くなんて、凄すぎる。
〝催涙歌〟とでも呼ぶべきか。新手の化学兵器、ここに爆誕である。
「ファマスさ~ん、時間ですので・・・ぐすっ、ここでパフォーマンスを終了してくださいぃぃ~」
泣きながらも、しっかりと進行役を務めるSAT8は紛れもないプロだと言えよう。
「あ・・・はい、ありがとうございました。私なんかの歌で、少しでもお楽しみいただけていれば幸いです」
「だのじめだよぉ~! ふぁますちゃんが、ごんないいうたごえだなんてじらながったぁぁ~! ごんど、わだじのまえでうだっでねぇぇぇぇ~」
指揮官なんて、もう筆舌に尽くしがたい顔になってしまっている。
私だって、指揮官をあんな顔にさせたことないのに。ちょっと嫉妬。
ファマスがステージから退き、一同、涙が収まって平静を取り戻したところでようやくコンテスト再開だ。
その後の出場者は、まぁ、それなりな感じ。陳腐なものでは決してないのだが、予想外にファマスのパフォーマンスが凄かったため、他が霞んで見えてしまうのだ。
こればかりは、順番決めのクジ運が悪かったとして諦めるしかないだろう。
「タっちゃん、カッコ良かったよ~。みんな、盛大な拍手を~」
ヴァンパイアハンタースタイルで、楓月と一緒にド派手な殺陣を披露したTACが前半戦最後の参加者だ。
「これで、前半戦20名のパフォーマンスが終了しました。指揮官さん、ここまでの皆さんの
パフォーマンスを見て、いかがでしたか?」
「いやぁ~、みんないい仕事してるよねぇ。衣装のセンスも良いし、なによりも、みんなが普段見せないような一面を垣間見えた、っていうのが私としてはスゴく嬉しいよ。こりゃあ、激戦必至の後半戦も見逃せないね」
「そうですね。後半戦では、スプリングフィールドさん、副官ネゲヴさん、そして、今大会の大本命、元女優のデザートイーグルさんの登場となりますので、皆様、お楽しみに。では、ここで30分間のインターバルタイムに入ります。この間に、後半戦の参加者は控室で準備をお願いします
ね~」
ホールの照明が戻り、しばしの休憩時間。大抵のヤツは料理に談笑に、とゆっくり過ごすのだろうが、私はあまりのんびりもしていられない。
「準備をしに行く時間でしょう? お見送りいたしますわ」
「いいわよ、別に。時間まで、ここで好きなもの食べてればいいじゃない」
「そんなツレない事を言わないでくださいまし。親愛なる仇敵へのせめての手向けでしてよ」
自分のチームが勝った気でいるタボール。
その憎たらしい顔を悔しさで一杯にさせてやるのも、また一興である。
「そういえば、イーグルさんは見当たりませんのね。ご一緒できれば良かったのに」
「ん~・・・そうね。アイツ、かなりヤル気だったから、とっくに準備にはいってるのかもしれない」
「イーグルさんらしいですわ。是が非でも負けられないところでしょうし」
私と同様に、タボールもイーグルと同じ出身で仲もとても良い。お嬢様気質というか、佇まいも近しいものがあるので、そういった意味では、私よりも気が合うところがあるのだろう。
ホールを出て客室区画へと向かう。
参加者の控室は、この客室区画の一番端に個人単位で当てがわれていて、一緒に歩いているタボールとのお話にちょっと熱中してしまうくらいには距離が離れている。
サロンやフィットネスジムといった娯楽施設が充実しまくっているので、この客船は外観の通り広大なのだ。
控室の前でタボールとお別れして、私は早速準備にとりかかる。
準備といっても、そんな大それたものではない。予め運び込んでいた衣装をクローゼットの中から取り出して。
ユラユラ・・・と、そんな最中に船が揺れた。やや気になる程度の揺れだが、それはすぐに収まってしまう。
(波は落ち着いてる様子だったけど・・・まぁ、そんなこともあるか)
気を取り直して準備を続ける。
服を脱いで衣装を着ます。
髪型を、指揮官が話していた感じにテキトーに整えます。
スペシャリストな私にお化粧など無用なので、照明映え狙いのファンデーションを薄くポンポンします。
以上。ね? 簡単でしょう?
私は、みんなのように歌ったり殺陣を披露したり、という小細工を弄するつもりはない。
本当に美しいモノというのは、そこに在るだけで良いのだ。だから、私は、この衣装で、ただあのステージに立つだけでいい。それだけで、あの強豪達の中から優勝をかっさらえるほどの衣装だと私は信じている。
・・・決して、この衣装に見合うパフォーマンスが思い浮かばず、ヤケクソになった故の選択などではないという事をこの場で公言しておこう。
大きな姿見の前で裾をヒラリヒラリと靡かせ、クルリと一回転。
流石は愛しの指揮官が拵えた衣装。これなら本当に優勝間違い無し。超カワイイ。
「よし。いざ、出陣ね」
後半戦開始5分前。ホールに向かおうと踵を返す。
・・・そんな矢先だった。
ユラユラ、と再び船が揺れた。
「まったく、さっきからなんなのよ?」
せっかくの気分に水を差され、ちょっとイラつく私。
揺れはさっきよりも大きいが、またすぐに収まり、船は静けさを取り戻す・・・と思われた
直後。
「きゃあ!!?」
例えるなら、箱を急に傾けられた感じ。
その中に立っていた私は、成す術なく傾斜の下、壁に向けて吹っ飛んでいく。
あまりに突然のことで受け身を取ることもできなかった私は、壁に体を強く叩きつけられて、
その衝撃で、一瞬のうちに意識を失ってしまった。
当方の他作品、別グリフィン側とは大違いなファマスですね。
あっち側が熟練である一方、こっち側はまだピヨピヨのヒヨコちゃんといったところで。そんなギャップも個人的には面白く描いてみたりしてます。
いよいよ事態が動く次回もどうかお楽しみに。
以上、弱音御前でした