どうも、弱音御前です。
ここまでのんびりと進んできた今作ですが、ようやく動きをみせる段階に入ります。
今までよりも少しは楽しんでいただける・・・かもしれません。
それでは、今週もごゆっくりとどうぞ~
客船スノウハレーション 客室区域Fエリア
・・・遠くでサイレンの音が聞こえる。
警戒を強く促すために、人間が不快感を覚えるその音は、私達、戦術人形にも同様の効果を及ぼす音だ。
暗闇の中、段々と大きくなってくるサイレンの音。
その耳障りな音色にとうとう耐えきれなくなり、私の意識が覚醒させられる。
「っ!? 痛ぅ~・・・一体、なんだってのよ」
体を起こして見てみれば、室内は滅茶苦茶の散らかり放題。
そりゃあそうだ。なにせ、この部屋は少なくとも45度は傾いていた。そのおかげで、私は壁際まで吹っ飛ばされて意識を失ったのだから。
「・・・この部屋だけじゃない。きっと、この船が傾いたんだ」
今は元に戻っているが、部屋の外からは、私を叩き起こしてくれたサイレンの音が聞こえる。
この船事態に、何らかのトラブルが発生していると考えて間違いない。
「いたた・・・指揮官は平気かしら?」
立ち上がる。頭部を強打して5分ほど意識を失いはしたが、もうリカバリーは済んでいるようだ。身体がふらつく様子は無く、五感も良好である。
軽く自己診断を済ませ、早足に控室から出る。
客室区画に渡された廊下には、誰の姿も見えない。
私の両隣の控室にも誰かしら居たはずなのだが、すでにみんなと合流するためにホールへ向かったのか。
私の様子を見に来てくれたっていいじゃないか。薄情な奴らめ。
などと、恨み節を吐いたって仕方がない。まずは現状と指揮官の安否確認の為に私もホールへ
行こう。
サイレンが反響し渡る中、駆け足で廊下を進んでいく。
しばらく進み、客室区画の半ばに差し掛かった時点で、私はおかしな事に気が付いた。
(普通、こういう時って船のクルーが避難誘導とかするわよね? なんでそれすらも無いのかしら?)
誘導の手が回らないながらも、船内放送で避難を促すことくらいはするはずだが、サイレンの音だけでそれすらもない。
クルーの対応が悪いくらいなら、激安プランだから、で済ませられるかもしれないが、避難誘導が無いなんていうのは問題外だ。
私達が普通の客ではなく、グリフィンの戦術人形だから、なんていうのも言い訳にはならない。私達と一緒に居る指揮官は正真正銘の人間なのだし。
あまりにも対応の悪い客船にイラつきながら走っていると、グッドタイミング。
廊下の前方、客室区画の上階へと上がるバルコニー階段から、コンシェルジュ姿のクルーが降りてくるのが目に付いた。
「ちょっとアンタ! 一体、何が起こったのよ? 避難誘導も無しなんて、どういうつもり・・・」
私のクレームを受けて、クルーが振り向く。
同時、手に持っていた黒い銃器を私に向けたのを視認。
なぜ? どうして? そんな疑問を抱くよりも早く、私は、サロンに設けられた植え込みの陰に反射的に身を滑り込ませた。
サイレンに紛れる銃声と着弾音。トリガーを引くのに躊躇する様子は微塵も無かった。少しでも反応が遅れていたら、高確率で被弾していただろう。
「クソっ! もしかして、シージャック?」
輸送船の貨物を狙い、強奪を繰り返す、俗に言う海賊が居るという話は聞いたことがある。この海域が、ちょうどそいつらの縄張りだったという可能性も高いが・・・
私のその仮説は、速攻で否定されることになった。
青い残像を引く弾道。着弾点に散る青い火花。これは、通常の銃器ではない。
私が良く知る、こんな休みの日には見るのも憂鬱になる代物だ。
「鉄血のクズ共が。初めから仕組んでたってわけ?」
これで、クルーの様子がおかしかったのも合点がいく。
激安の旅行プランという広告で私達を釣り、増援が届かない沖まで連れ出して料理する。馬鹿なりに上手く考えた策だと褒めておこう。
・・・そんな、馬鹿の考えた策に引っ掛かる私達は大馬鹿すぎるだろう、という事実は今は置いておく事とする。
(みんなの様子は気になるけど、まずはコイツをなんとかしないと)
相手は下級兵が1体。普段なら、お菓子でも摘まむ片手間にやっつけられる程度の相手だが、あいにく、今は普段と状況が違う。私は今日、銃器を持ってきていないのだ。だって、休日だし。
携行できる銃を持ってきていた娘は何人かいたが、乗船する際、火器類は全て預けてしまっている。
なので、私は丸腰で単身、アイツを倒して進まねばならないのだ。
廊下の壁や植え込みを抉り続けていた銃弾の雨が途切れる。
多分、リロードだ。それくらいの弾丸は吐き出しただろうタイミングである。
サイレンの音にフィルターをかけ、耳を澄ませる。
淡々としたリズムで近づいてくる足音。私が隠れていることに業を煮やし、近距離で仕留める
算段か。
私が銃を持っていないと知っていての浅はかな行動。
笑っちゃうくらい甘々な考え。弾が当たらないからといって、自分が得ている距離という大きなアドバンテージを捨てるなんて、倒してくださいと言ってるようなものだ。
ならば、お望みどおりにしてあげようじゃないか。
鉄血兵が植え込みの陰に居る私に向けて銃口を覗き込ませる。同時、タイミングを計っていた私は銃身を掴み、側面に引き込む。
「ふっ!」
一呼吸。引き込み、伸びきった腕の肘関節を逆方向に殴りつける。
これが、パワーに定評のある娘だったら、このまま腕をへし折ることも可能だったろう。あいにく、私は全力でもそこまでの威力は出せない。
しかし、急激な過負荷で相手の腕はしばらく稼働できなくなる。
銃器さえ封じてしまえば、ここからはもう私の独壇場だ。
相手の頭を両手を鷲掴みにして、背後の壁に思いっきり叩きつける。
ショックで身体の力が抜けたのを確認したら、次は反対側だ。
「とぉぉりゃあぁぁ~~!」
勢いを付け、向かいの壁に顔面から叩きつけてやる。
ガクンと力が抜け、崩れ落ちた所にダメ押し。膝蹴りと壁のサンドイッチで一丁上がりだ。
「見たか! 銃を持っていないからって舐めんな!」
1対1の真っ向勝負なら、この通り素手でもなんとかできるよう指導してもらっている。
ただ、これはあくまでも非常時の戦闘手段なので、どうしたって1人を相手にするのが限界だ。それ以上は分が悪い。
「とか言ってる傍から!」
今の騒ぎを聞きつけた鉄血兵が、増援に駆け付けてきた。それも2人。
まっすぐな廊下でこの状況は大変マズイ。
まだ相手との距離は離れている。手を打つなら、命中精度が低い今のうちだ。
体を屈めながら廊下を駆ける。私のすぐそばの壁や床に次々と着弾しているが、ビビったら負けだ。
上階へと続く階段に差し掛かったところで方向転換、階段を駆け上がる。
(あれは? ・・・いただき)
階段の折り返し、踊り場にはいかにも高そうな調度品が飾られている。
その中でも特に目立つ、真鍮製の女神像。そいつが持っていた斧? というか杖なのかな?
先端に装飾が施された長柄の武器を取り上げる。
長さは私の身長と同じくらい、素材はなんだか分からないが、軽くて頑丈そうでイイ感じだ。
感触を確かめつつ、折り返しの階段を一気に駆け上がる。
そうして、2階のバルコニーに辿り着くやいなや、私は走ってきた勢いもそのままに手すりに足を掛け、階下へ飛び降りた。
私を追いかけてきた鉄血兵2体が、落下地点にちょうど差し掛かったところ。あまりにも計算通りにいったので、自然と口元が釣り上がる。
両手で構えた杖を、落下のスピードを乗せて鉄血兵に振り下ろす。
顔をしかめたくなるような嫌な音をあげて、鉄血兵の頭部が盛大に抉れる。
崩れ落ちる鉄血兵を回り込み、もう1体も強襲。
私の事に気づき、階段の半ばで振り返ろうとしているが、私の方が速い。
「吹っ飛べぇぇぇ~~~!」
振りかぶった杖を横薙ぎにフルスイング。
これを脇腹にもらった鉄血兵は調度品を薙ぎ倒しながら、豪快に吹き飛ばされる。
追撃の必要はなさそうだ。頭上から強襲した方も、今のやつも、完全に機能を停止している。
「ふぃ~・・・やればなんとかなるものね」
このようにスペシャリストな私とは違い、近接戦がからっきしな娘も多くいる。
まぁ、ホールには私以上に腕の立つ娘もいるので、そいつらにくっついてれば平気だとは思うが。
急ぎ、ホールに向かう前に少し立ち止まり、気分を落ち着ける。
深呼吸を何度か繰り返し、段々と落ち着いてきたところで、けたたましいサイレン音が止まっている事に気づいた。
誰かがコントロールルームで操作して止めてくれたのか。
銃声も鳴りやんだ私の周りは、何事も無かったかのような静寂が支配している。
「・・・? 声? 客室の方かしら」
だから、遠く微かだが、泣き声のような音を捉えることが出来た。
音は、私が駆け足で通り過ぎてきた客室区画から聞こえる。
さっきは、サイレンが邪魔して聞こえずに通り過ぎてしまったのだ。
そこから聞こえてくるという事は、私と同じくミスコンに出場する準備をしていた娘の誰かだ。放ってはおけない。
鉄血の襲撃を警戒しつつ、廊下を戻っていく。
着々と声の発生地点を絞り込んでいき、ようやく一室を特定する。
私が準備していた部屋のはす向かいだったのに、気が付かなかった事を本当に申し訳なく思っている。
「助けに来たわよ。扉開けられる?」
客室はカード式のロックだ。私の持っているカードは使えないので、中から開けてもらうしかない。
「~~~~。~~~~~」
防音がしっかりしている良い部屋だ。そのおかげで、室内の娘からの言葉をはっきり聞き取ることができず、誰なのかもわからない。
でも、無事であるということは聞き取れた。あと、身動きが取れないのでドアは開けられないようだ。
「どうしよう。電子ロックの解錠なんてできないし、力ずくでこじ開けるのもさすがに・・・」
そこで、スペシャリストな私は閃いた。
すぐさま踵を返し、早足に廊下を進んでいく。
向かう先は、私がやっつけた鉄血兵。
うつぶせに倒れているそいつをひっくり返し、上着のポケットを物色する。
こいつらは、この船のクルーとして潜り込んでいた。ちゃんとしたコンシェルジュの変装までしていたくらいだ、それならば、私の予想通りのモノを持っていてもおかしくはない。
「・・・あった、マスターキー!」
私達のモノとは色合いの違うカードを手に、仲間が閉じ込められている部屋へ再び戻る。
「いま開けるから、もう少しの辛抱よ」
カードをパネルにかざすと、軽い電子音と共にロックが解除された。
ドアを開けて、中を覗き込む。
ここは、私の居た部屋とは反対の様相。ドアから室内につながる、ちょっとした通路に家具類が押し寄せて、塞がれてしまっている。
「うぅ・・・えぐっ・・・た、助けにきてくれて、ありがとうございますぅ~~」
声はこの押し寄せた家具の向こうからだ。
まだ、相手の姿は見えず、声も鼻声なので、誰なのか見当もつかない。
「すぐに退かしちゃうから。待っててね・・・と」
椅子と机と冷蔵庫と、大物さえ引きずり出してしまえば、あとは大したことは無い。さっさと壁をとっぱらって、室内へ足を踏み入れる。
そこに居たのは・・・
「くすん・・・ぐすぐす・・・ネゲヴぅ~、あなたもぶじでよかったですぅ~」
「うぅえ!? す、スプリングフィールド、だよね・・・?」
部屋のど真ん中に倒れ込んでいたのは、まさかまさかのスプリングフィールド。
倒れてきたラックに足を挟まれて、動けないでいるようだ。
その服装は淡い青色のドレス姿。足元を見た感じ、マーメイドといったところか。
・・・でも、彼女のそんな衣装は問題ではない。
スプリングフィールドが、あの容姿端麗頭脳明晰完璧人形スプリングフィールドが子供のように泣きじゃくっている。
「あの~・・・ラックを動かしてくれると嬉しいのですが」
「あ、ああ、そうよね。そのまま、じっとしてて」
涙目で見つめてくるスプリングフィールドに促され、ラックをどけてあげる。
「うぅ~、急に船が傾くし、ヒレを挟まれて動けなくなるし、誰も助けに来てくれないし、ごわがっだでずぅ~!」
「お? おぉ~、よしよし。もう大丈夫だからね」
抱き付いてくるスプリングフィールドを、私がナデナデして慰めている。
なんという光景だ。さながら、世界の終わりを目の当たりにしたのに等しい衝撃である。
多分、彼女のこんな姿を目撃したのは私が初めて。指揮官ですらも、出くわしてはいないだろう。
不謹慎だが、ちょっと優越感を覚えてしまう。
「船が傾くなんて、一体、何があったのですか? みんなは、指揮官様は無事なのですか?」
「鉄血の仕業よ。初めからクルーに変装して潜り込んでいたみたい。私もまだホールの様子を見ていないから、みんなの安否はわからない。早いところ移動しましょう。ほら、立って」
「そ、それが・・・足元がこんななので、歩けなくてですね・・・」
マーメイド衣装のスプリングフィールド。その腰元から下は、魚のようなヒレになってしまっている。これじゃあ、ラックに挟まれていなくたって逃げることはできなかっただろう。
それにしても、このヒレ、ウロコの一枚一枚まで丁寧に造りこまれていて、やたらとリアルでちょっとキモイ。
「じゃあ、さっさと脱ぎなさいよ。・・・ってか、これファスナーとか見当たらないんだけど、
どうやって履いたの?」
「指揮官様のこだわりで、シームレスを追求した結果、特殊な構造になってしまいまして。簡単には脱げないのです」
「また、めんどくさい事をしてくれるわね。いいわ、このままアンタを担いでいくから、ホールについたら引き剥がしてもらいなさい」
途中、鉄血に出くわす可能性もあるが、まぁ、問題は無いだろう。
担いでいるこの人魚姫を振り回して、ヒレビンタをお見舞いしてやるんだ。
「ダメです! 今、ここで脱がして下さい!」
早速担ぎ上げようとした私をスプリングフィールドが制止する。強めな口調だったので、つい手を止めてしまった。
「心配しなくたって、アンタを担いでたって問題なく鉄血をやり過ごせるわよ。・・・もしかして、自分の体重を知られたくないってやつ? バラしたりしないから安心しなさいよ」
「ち、違いますよ! そういうのではなくてですね・・・」
手近な道具では、彼女のヒレを剝がすのは苦労しそうである。まず、ホールに移動してから落ち着いて作業を行うという私の考えは妥当なものだ。それくらい分かっているだろうに、頑なに拒否する理由が私にはわからない。
「それなら、何だってのよ? 納得いく理由がなければ、強引にでも担いで連れて行っちゃうからね?」
いつまでもこうしていられないので、強行策を提示する私。
すると、観念したのか、スプリングフィールドは恥ずかしそうに俯きながら言葉を続けた。
「分かりました、言います。えっと・・・船が傾いた時、驚いた拍子に」
そこまで言って、手招きしてくるスプリングフィールドに従い、顔を寄せる。
ここには私達しかいないってのに、なんで耳打ちで話を聞かなければならないのか。
同じ基地で暮らしている仲間だし、女の子同士なんだし、そんな恥ずかしいことなんて、そうそうあるはずも・・・・・・ありました。
「ぅ・・・ん、なるほど。事情は分かったわ。ここで脱ぎましょうか」
「この事、絶対に内緒にしてくださいね! 絶対絶対ぜ~~ったいですよ!」
「分かったわよ、絶対誰にも言わないから。神に誓ってあげる」
確かに、これは私も恥ずかしい。いつも冷静な彼女がここまで慌てるのも頷けるくらいだ。
この散らかり放題の部屋から、作業できる物を探し出すのは面倒だが、正直、それくらいの手間をかける価値はあるだろう。
我が基地では無敵と噂される、スプリングフィールドの大きな弱みを握ることに唯一、私は成功したのだ。これから先の私の未来は明るい!
デスクの引き出しで見つけたペーパーカッターを駆使し、なんとかヒレに切れ目を入れることに成功。
その後、シャワールームでヒレを脱いでもらい、いつもの2本足に戻ってもらったところで、
私達はようやくホールへと向かったのである。
鉄血によるシージャック、という展開でしたね。
銃を預けてしまっている戦術人形達がどう戦うのか、こうご期待!
と、ありがちな予告で今回は失礼いたします。
以上、弱音御前でした~