ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~   作:弱音御前

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桜は綺麗に咲いていますが、やや寒くて過ごしづらい日が続きますね。あと花粉もつらいそんな
今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

船上の戦乙女も最終段階に差し掛かりました。あと数回で完結になりますので、どうぞいましばらくお付き合いいただければ嬉しいです。

それでは、今回もごゆっくりとどうぞ~


船上の戦乙女 8話

 居住区画スタッフエリア

 

 マカロフ達が私を急かしていた通り、この船は危機的状況にあった。

 機関区画はすでに全域が膝くらいまで浸水しており、エレベーターで居住区画まで上がったその先も、同じくらいの水位にまで浸水していた。

 上層に上がったにも関わらず、下層と同じ程度まで浸水している。考えたくはない事だが、つまり、私達が居る位置はすでに海の中ということ。船の分厚い鋼鈑だけがいま私達を助けてくれている命綱という事である。

 

「・・・クリア」

 

 廊下の角から、先の様子を確認したスプリングフィールドの合図を受けて前進。

 いちおう、下層からこの方、こうして警戒しつつ進んでいるが、鉄血部隊の姿は見かけていない。どうせ、捨て身で来ているのだろうから、撤退した筈はない。大方、血に飢えたうちの娘達が喰いつくしてしまったというところか。

 けれど、こちらは指揮官を連れだっている身だ。警戒するに越したことはない。

 

「指揮官さん、これだけの水位の中を歩き続けでお疲れではなくて?」

 

「これくらいどうってことないよ。私よりも、イーグルちゃんの方が辛いんじゃないの? おんぶしたげよっか?」

 

「甘やかすんじゃないの。コイツ、すぐに調子乗るんだから」

 

「ネゲヴったら、そんなに私と指揮官さんが仲良くするのが気に入らないのかしら? 妬きもちは見苦しくってよ?」

 

「妬いてねえし!」

 

 そんな、傍から見たらコントみたいなやり取りを交わしながら、海水をザブザブと掻き分け進む。

 マカロフが言っていたデッキまでは、今、私達がいる居住区画のスタッフエリアからさらに上層、ゲストエリアに向かう必要がある。

 スタッフエリアとゲストエリアを接続するエレベーターは、この廊下、もう目と鼻の先なのだが・・・

 

「やはり駄目ですか。浸水の影響で止まっていますね」

 

 すでに廊下がこの有様なのだ、エレベーターシャフト内なんて更に酷い事になっているだろう。

 機関区画からここを繋ぐエレベーターが無事だったのは、奇跡に近い幸運だ。

 

「なら、階段を使うしかないわか。階段は・・・あの角を曲がった先みたいね。さっさと行くわよ」

 

 猶予は無い。こうしている間にも、水位が段々と上がってきているのが目に見えるくらいだ。

 階段で3フロア上がって、さらに、この船の後部から前部までをほぼ縦断して前部のデッキに出る。

 ・・・絶対に間に合うとは言い切れない。しかし、間に合わせるしか道は無い。

 私達を犠牲にしてでも、せめて指揮官だけは、なんていうカッコいい事ができればいいのだが、生憎、そんな都合の良い作戦すらもない。

 私達全員が生き残れるか、それともここで終わるかのまさに瀬戸際なのだ。

 

「よかった、階段は使える状態ですよ」

 

 上階から水が流れ落ちてきているが、水量はそれほどキツくはない。私達はもとより、指揮官でも進めるような程度だ。

 

「皆さん、足元を掬われないよう、気を付けて付いてきてください」

 

 先行するスプリングフィールドに私が続く。

 言う通り、床が滑りやすいので気を付けたいところだが、水槽をひっくり返したような勢いで降ってくる水がかない厄介だ。

 痛いし、なによりも視界が遮られてしまってかなわない。

 

「指揮官! 手すりをしっかり掴んで、確実にね!」

 

「わかった! イーグルちゃんも、私にちゃんと続いてきてね!」

 

「ええ! どこまでもお供いたしますわ!」

 

 まるで、ちょっとした滝の中を強行突破しているようだ。

 しっかりと床を踏みしめ、身体を安定させ、私達は確実に階段を上っていく。

 階段を折り返し、再び上り、まず、スプリングフィールドが先に上のフロアへ足を踏み入れた。

 それに私も続く・・・まさにその直前だった。

 突如として、天井から凄まじい量の海水が降り注いだのだ。

 水の塊の着地点は、私よりも後方。ちょうど、イーグルが立っている位置である。

 

「きゃあ!!?」

 

 体格の良い娘でも、到底耐えきれる水量ではない。そんなものの直撃を不意打ちで受けてしまったイーグルは成すすべなく流され

 

「イーグルちゃん!」

 

 そんなイーグルを助けようと、咄嗟に手を伸ばしてしまった指揮官も水流に巻き込まれて流され

 

「指揮官!?」

 

 そんな指揮官を助けようと、思わず飛びついてしまった私も巻き込まれて階段を流れ落ちていってしまう。

 

「っ~~・・・くそっ!」

 

 流転する視界。一時はパニック状態に陥ってしまったが、すぐにリカバリーを働かせる。

 受け身を取り、身体の回転をストップ。そのまま、もとのフロアに滑り落ちてきたところで態勢を立て直した。

 

「ネゲヴ、大丈夫!?」

 

「けほっけほっ・・・ええ、私は平気。そっちは? イーグルも無事?」

 

「ええ、私も問題ありませんわ。申し訳ございません。私がヘマをしたばかりに」

 

 珍しく、かなりヘコんだ様子のイーグルだが、私は彼女を責めるつもりは無い。

 まさか、あんな鉄砲水に襲われるなんて、予想だにしなかったことなのだし。

 それよりも、私が叱るべき相手は別にいるのだ。

 

「こぉの、バカ指揮官! なんでアンタまで流されてんのよ!?」

 

「だ、だって・・・イーグルちゃんを助けなきゃって思って・・・つい」

 

「こんな奴、放っておいたって一人でどうにでもなるんだから平気よ! それなのに指揮官まで流されてちゃあ世話ないでしょ! ホント、馬鹿なんじゃないの!」

 

「それ言ったら、ネゲヴだって流されてるじゃん。そっちも馬鹿じゃん」

 

「私は指揮官を守るのが役目だからいいの! 指揮官は守られる立場なんだから、安全なとこにいなさいよ!」

 

「私にだって、みんなを守る役目があるもん。大切な部下を置いて、安全地帯で傍観なんてしてられるかってのよ」

 

 くそぅ・・・私の叱責に反論しやがるくせに、言っている事は戦術人形として、とても嬉しい事を言われているので、そこはかとなく憎めないじゃないか。

 こうして、知らずに毒気を抜かれてしまうので、指揮官との言い合いはいつも私に分が悪いのである。

 

「まあまあ、夫婦漫才はそれくらいにして。まずは、この状況をどう打開するか考えましょう」

 

「夫婦漫才言うなし!」

 

「あっちゃ~・・・エアコンの通気口から盛大に流れてきてるのね。これは流石に通れないわ」

 

 すでに指揮官は思考を切り替えているので、悔しいが、私もそれに倣う事とする。

 指揮官が言う通り、私達を流した洪水は天井のエアコン通気口から降り注ぎ続けている。

 この船の空調システムが大掛かりなモノだったのが災いし、流れ出てくる水量は本物の滝のようだ。

 これでは、さっきのように強行突破もできない。

 

「~~~~! ~~~~~~!?」

 

 水が流れ落ちる轟音に交じり、上階から声が聞こえてきて、それで思い出した。

 

「そうだ、スプリングフィールドは無事だったのね。私達は無事よ~! 聞こえてるかしら~! 私達は~! 無事~!」

 

「安心しました~! すぐ助けに行きますね~!」

 

「来ないで! アナタだけでみんなの所に戻りなさい!」

 

 私の申し出に、傍のイーグルと指揮官は小さく頷いてくれている。こちらに降りてきてしまったが最後、もう、上に戻ることはできなくなってしまう。それは、助けにではなく、心中しに来るも同然だ。

 私は、この基地の副官として、そんな愚行を侵させるわけにはいかない。

 

「ですが! それでは指揮官様も貴女達も!」

 

「私達を信用なさい! 絶対に3人揃って生還する! スペシャリストに二言は無いわ!」

 

 私、渾身の説得。それから、しばらくスプリングフィールドは黙ったのち

 

「約束しましたからね! 破ったら、絶対に貴女を許しませんからね!」

 

 彼女にしては珍しく、まるで、怒った子供のような言い草を残し、上階の気配が遠のいていった。

 さぁ、ここからは私達の事を考えるとしよう。

 

「エレベーターが使えないとなると、上に行くには階段を使うしかない。でも、ここがこの有様じゃあ、他の階段もどうなってるか」

 

 この階段だけではない。廊下の天井、至る所から、とてつもない量の水が流れ落ちてきている。このフロアには階段が幾つかあるが、そこも通れないと考えてるのが普通だ。

 

「そうなると、もう上に行く方法は無いという事になってしまいますが・・・」

 

「いや、ちょい待ち」

 

 ネガティブな思考に陥りそうになってしまった私達に、指揮官がカットインする。

 

「こういう施設には、非常階段の設置が義務付けられているの。文字通り、非常時に使うだけのシャフトだから、空調なんか通してないはず。そこなら、ここまでの浸水被害は無いはずよ」

 

「その意見採用! やるじゃない、指揮官!」

 

「流石です。思わず惚れ直してしまいましたわ」

 

「ふははは! そうであろうそうであろう! 私を存分に崇め奉るが良い!」

 

 というわけで、私達は指揮官の提案通り、このフロアの非常階段へと向かう事になった。

 このフロアの端の端、金属張りの扉の先が非常階段のシャフトだ。

 恐る恐る扉を開けてみて、先の様子を確認。

 指揮官の予想通り、このシャフト内には空調が通っていないので、水の流れは外ほど強烈ではない。

 

「大当たりね。さっさと行きましょう」

 

 非常照明しか灯っていない、薄暗い階段を慎重に、できるだけ早く昇っていく。

 そうして、3フロア上がった先、非常階段の終着点に辿り着く。

 廊下へと続く扉を開けてみて、そこでちょっとだけ安心。

 このフロアの空調は水が入り込んでいないようで、滝のような落水には見舞われていない。

 しかし、それでも水位は膝の高さを越えてきており、ついに、船が微かに傾いているのも分かるくらいになっている。

 いよいよもって、予断を許さない状況だ。

 

「ホールがあるフロアなのは分かるんだけど・・・ここがどの辺りか分かる人~」

 

 指揮官に問われるが、私もイーグルも手を挙げられない。

 下のフロアで非常階段を探し回ったおかげで、自分の位置をすっかり見失ってしまっていたのだ。

 

「案内図みたいなものはありませんの? こういう場でしたら、お決まりのようにあるでしょうに」

 

「非常口の案内板はあるけど・・・ひとまず、そこの部屋を探ってみましょう」

 

 手近な扉を開け、室内を覗いてみる。

 客室や娯楽施設ではない。おそらくは、マリンスポーツ用の備品格納庫といったところだろう。壁には工具や予備パーツ所々に掛けられ、水浸しになっている水面にはジェットスキーが何台か浮かんでいる。

 

「場所が分かるようなものは・・・」

 

「こちらにありましたわ、指揮官様!」

 

「お! さっすがイーグルちゃん、良い勘してるわね」

 

 私とは別の場所を探していたイーグルが、先にお目当てのモノを見つけてしまったようだ。

 どうやら、指揮官ポイントを稼ごうという魂胆なのだろう。いつもよりも張り切っているような感じだ。

 まぁ、その程度で私と指揮官の仲の良さを越えられる筈もないんだけどね。

 

「どれどれ? 今の位置は、と」

 

 水面に浮かんでいるデスクの上に船内見取り図が広げられる。

 船の後方に位置する格納庫は・・・

 

「うわぁ・・・一番端っこだ。目的地のデッキまで一番遠い位置よ」

 

 指揮官の言葉を聞いて、私もイーグルも言葉を失う。

 下層で非常階段を探して歩き周ったとはいえ、まさか、船の最後尾まで来ていたとは完全に予想外の事だった。

 すでに私の腰の位置にまで上がっている水位の中、この巨大な船を縦断しなければいけない。それも、沈没までのリミットが迫っているこの状況で、だ。

 水の抵抗というのは、想像している以上に大きいものである。私達、戦術人形でもここまで来るのにそれなりにエネルギーを消耗しているくらいだ。人間の身では、ここから先の道のりまで耐えられるとは到底思えない。

 指揮官はそんなの顔に出さずケロッとしているが、内心、かなり辛いはずである。

 指揮官をフォローして、水浸しの船内を踏破できるほどのエネルギーは無い、と私もイーグルも分かっている。

 

「待って。ここ、マリンスポーツ用品の格納庫よね? なら、ここから海上へ備品をドロップする為のシューターかなんかあるんじゃないかしら?」

 

「それ、私も考えたんだけどダメね。船の異常を検知したせいか、シューターの安全装置が働いてドアロックされてる」

 

 言って、指揮官が部屋の隅を指さす。

 巨大なシャッターは固く閉ざされ、その横に設置されたコンパネは赤く明滅している。遠目に見ても、明らかにダメそうなのが分かる。

 チラリ、とイーグルの方を見やって、そこで目が合ってしまった。

 私達の使命は指揮官を守る事。例えこの身に変えようとも、絶対に指揮官だけは助け出さなければいけない。

 でも、良い案は今だに思い浮かばない。

 イーグルの方はどうだろうか? と思って甘えてみたのだが、生憎、彼女の方も私と同じ有様だったようである。

 グリフィンの戦術人形が2人もいて、指揮官を助けることが出来ない。なんて情けないことか。

 否、諦めるな、私! 副官としての意地を見せろ! このメンタルが焼き付かんばかりに思考をフル回転させるんだ!

 

「うゆゅゅゅゆゆゅ~~」

 

 ほら、イーグルだって頑張って考えまくってるせいで変な声出てるし。

 私だって負けてられない。

 考えろ。

 考えろ。

 かんがえ・・・

 

「おっけー、マップは覚えた。完全沈没する前に、さっさと脱出しましょうか」

 

 そんな、必死な様子の私達と知ってか知らずか、地図をまじまじと眺めていた指揮官が突然に言い出す。

 それはもう、お目当てのランチが売り切れる前に早く行きましょう、くらいの気軽さで。

 

「ふぇ? 行くって・・・指揮官様、この水位の中を歩いて進むのは限界があるというのは理解されています?」

 

「当然、してるわよ」

 

「じゃあ、なんでそう簡単に行こうなんて言い切るわけ? 行き当たりばったりの考えだったら、却下させてもらうわよ?」

 

「ネゲヴったら、今日はなんかいつにも増して言葉がトゲトゲしいわよね。もしかして、月に一度のアレの日なのかしら?」

 

 何だよ、アレの日って?

 

「いつも言ってるでしょ? Dont feel Think(感じるな 考えろ)って」

 

 私の頭を人差し指で小突きながら指揮官は言う。そのドヤ顔が、また腹立たしいことこの上ない。

 

「この水位の中を歩いて縦断するのは、私も貴方達も無理。なら、水上を行く」

 

「水の上? 壁や天井伝いという事ですの?」

 

「それ、水の中を歩くのと同じくらいの労力よ? おまけに、時間もかかるし」

 

「違うわよ。答えは、ほら、あなた達の傍に浮かんでるわ」

 

 指揮官の視線を追う。

 そして、その先にあったモノを見て、私もイーグルも目を丸くする。

 思った言葉は絶対に一緒。

 マジか・・・と。




さあ、浸水した船内からネゲヴちゃんたちはどのように脱出を試みるのか? 今後の展開から目が離せませんね! ・・・などと、珍しく無駄に盛り上げつつ後書きとさせていただきます。

また来週も更新になりますので、どうぞ見に来てやってくださいな。
以上、弱音御前でした~
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