ドールズフロントライン ~船上の戦乙女~   作:弱音御前

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花粉がピークを迎えていますね。くしゃみと涙で忙しい今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

船上、といってもあまりそれらしさも無い雰囲気ですが、ネゲヴちゃん達のここまでの活躍、お楽しみいただけていたら幸いです。
お話もいよいよ最終局面。
今回もごゆっくりとどうぞ~


船上の戦乙女 9話

「ジェットスキーで・・・進むの? 船内を?」

 

「イグザクトリー! そうと分かれば、はい、キーを探して探して」

 

 パンパン、と手を打って私達を急かす指揮官。

 もう、その手で行く気満々な指揮官だが、こちらとしては、不安しかないわけで。

 

「いやいやいや! だ、大丈夫なの!? このフロアの通路なんて、そう広いわけないのだし、ジェットスキーが通れるかどうか。そもそも、誰が運転するのよ?」

 

「はいっ!」

 

 元気よく手を挙げる指揮官の可愛らしさに、不覚にもちょっとキュンとしてしまったのは内緒の話だ。

 

「できんの?」

 

「できる! 実は、この客船パーティーで楽しみにしてたアクティビティの一つだったのよ。こんな状況になっちゃったけど、運転できる機会ができたのは不幸中の幸いってやつよね~」

 

 そこまでハッキリと言われてしまえば、私達は反論できない。

 こちらに明確な打開策がない以上、指揮官の策に乗じるしかないのである。

 

「グリフィンの指揮官様というのは、聞き及んでいる以上にスゴイ方なのですね」

 

「スゴイっていうか、滅茶苦茶なのよ。私達、戦術人形以上にさ」

 

 キーを探しつつ、イーグルとひそひそ話を交わす。

 こんな感じの指揮官が各支部に居て、各地で戦術人形を率いているのである。そりゃあ、鉄血も苦労するわけだよね、うん。

 ジェットスキーのカギは、部屋の入口の脇にあるキーボックスの中に入っていた。

 ボックスの厳重なロックをイーグルに(素手で)破壊してもらい、いくつかあるキーのうち一つを指揮官に投げ渡す。

 

「ナンバー3は・・・・・・これね。緑と黒のツートンカラーがカッコいい~」

 

 趣向用のジェットスキーはフォルムもカラーリングもド派手だ。

 このご時世に、こんなモノを何台も積んでいるくらいなのだから、鉄血の奴らは余程いい所からこの客船を拝借してきたのだろう。

 まぁ、沈みゆく船なのだし、本来のオーナーが誰だろうが私達には関係ないか。

 

「エンジンはかかる。フケ上りも良好。さぁ、乗った乗った」

 

「これさ、私達はどう乗ればいいの?」

 

「ん~と、私のここに一人と、タンデムシートに一人かな?」

 

 ここに、というのは指揮官のド真ん前。ハンドルを握る両腕の間という、まさに、私達にとってのプレミアムシートである。

 

「ここはどっちが乗る?」

 

 指揮官の質問に対し、神速で手を挙げる私。

 コンマ1秒にも満たない最高の反応だったが・・・流石は私の親友だと言っておこうか。それは、横に立つイーグルも同じであった。

 

「ネゲヴ、貴女のヒラヒラな衣装では指揮官様の視界の妨げになるのではなくて?大人しく、後ろの席に着いた方が賢明ですわよ」

 

「そんなの大した問題じゃないわ。これは、重量バランスの問題なのよ。この機体は後ろにエンジンを積んでる。つまり、前にウェイトを置きたいの。だから、アナタよりもちょ~っとだけ重量のある私が適任ってこと」

 

「私よりもおデブな貴女が指揮官の足に座ったら、それこそ指揮官様に負担をかけてしまうことになりますので、あしからず」

 

「指揮官のあの姿勢じゃあ、足の上には座りません~。はい、論破~」

 

「この~・・・ちょっと指揮官様に気に入られているからと、調子に乗ってからに」

 

「ふん、何よ。アンタだって、芸能界だか何だかで有名だったからって、デカい顔してんじゃないっての」

 

「2人ともさ・・・時間無いって、分かってる?」

 

 結局、私とイーグルの話し合いでは解決しなかった。

 そのため、平等にという指揮官の案のもと、タンデムシートに2人掛けという結末に相成ったのである。

 

「もうちょいそっちいきなさいよ。私、はみ出しちゃってるんだけど」

 

「シートはちゃんと半分で陣取っていますでしょう? 貴女がおデブなのがいけないのではなくて?」

 

 それにしても、これは傍から見たら相当な絵面なことだろう。

 カラフルなジェットスキーの上に、オイラン着物と魔法少女とエルフの格好をした女性3人がギュウギュウ詰めで乗っているのである。

 今が危機的状況でなければ、間違いなくグリフィン掲示板辺りでお笑い種にされていたことだろう。

 

「んじゃあ、いっくよ~。しっかり掴まっててね」

 

 指揮官の肩を掴み、自分の肩を横のイーグルにしっかりと寄せる。

 イーグルもまた、私に体を私に寄せてくれてお互いを支え合う。

 なんだかんだで、やはりイーグルと私は良いコンビなのである。

 指揮官がアクセルを吹かすと、ジェットスキーは雄叫びを上げながらその場で急ターン。格納庫の入り口に向けてカッ飛んでいく。

 

「ちょ、指揮官!!? これ速すぎ!?」

 

 格納庫の入り口幅は、目測でおよそジェットスキーよりもやや広い程度。急いでいるとはいえ、格納庫から廊下に出る時くらい徐行で進むのだろうと、そう思い込んでいた私が甘かった。

 この指揮官が、常に私の予想の斜め上をいくというのは、これまでの付き合いで嫌というほど痛感していたというのに。

 

「イーグル! 目一杯身体寄せて、足を引っ込める!」

 

「か、かしこまりましたわ~!」

 

 引き攣った声を上げながら、私の言う通りに動くイーグル。

 直後、ジェットスキーは計ったかのような正確さで入り口をすり抜ける。

 廊下に出るや否や、機体を傾けて90度ターン。今度はまっすぐに伸びる廊下を、水しぶきを捲き上げながら疾走する。

 ・・・確かに、これならエネルギーの消耗は無いし、なによりも移動速度が抜群に速い。あの場で考えられる手段としては、最適解だと言っていいだろう。

 しかし、まぁ、生きた心地がしない。予想していたよりは廊下の幅が広いようだが、それでも、少し手を伸ばせば壁に手が付く程度の距離だ。

 少しでもコントロールを誤って壁に接触すれば、私かイーグルは真っ先に削り飛ばされることだろう。

 

「ねえ、指揮官? ほんのちょっとでいいから、スピード落とさない? このペースなら、十分すぎるくらい間に合うと思うわ」

 

「ネゲヴの意見に賛成ですわ。もう少し安全運転に比率を寄せても、バチは当たらなくてよ?」

 

「これくらい大丈夫よ! ってか、楽しすぎて、スピード落とすに落とせないんだなこれが!」

 

 ダメだ。この指揮官、すでにハイになってやがる。

 仕方がない。戦場で命のやり取りには慣れた身だ、これくらいのプレッシャー、難なくやり過ごしてみせようじゃないか。

 

「っとぉ?」

 

 などと、私が覚悟を決めたそんな矢先に指揮官は急ブレーキ。背後に吹っ飛んでいた景色も、どんどんとその勢いを衰えさせていく。

 

「もう、言ってる傍からどうしたってのよ?」

 

 言いつつ視線を行く先に向けて、減速した理由が分かった。

 私達の行く手を、防災隔壁が塞いでいるのだ。少しでも浸水を防ごうという船の防御プログラムなのだろうが、ここまでのダメージを負った今となっては無駄。というか、避難を妨げる完全な

邪魔者である。

 

「参ったわね。電子ロックを解除できるような機材はないし。かといって、ここまで一本道だから、引き返せないし」

 

「指揮官様、隔壁の横にパネルが見えますでしょう? そちらに寄せていただけますか」

 

 言われた通り、指揮官が機体を隔壁の傍に寄せる。

 イーグルが手を伸ばし、四角いタッチパネルに手を触れると、ただそれだけで隔壁は難なく開いてくれた。

 

「ロックされてるっていうわけじゃないようね。脅かしやがって」

 

「圧電式パネルのようですので、何かで触れるだけで操作できますわ」

 

「ナイス、イーグルちゃん。この調子でガンガン行くよ~」

 

 勢いを取り戻し、かっ飛ばしまくってくれた指揮官のおかげで、私達はすでに船内の中腹、客室区画へと差し掛かっていた。

 これだけ巨大な客船ともなれば、収容人数も膨大なものであり、おのずと客室の数も多くなる。

 ブロック毎に客室が区切られたここは、真上から見てみたら、方眼紙のように整った形を作っていることだろう。

 方向音痴なヤツなんかは、天井に張り付けてあるエリア案内板を頼らなければ迷ってしまいそうなこのエリアだが、私達はご生憎様。エリアを縦断するだけでいいので、ホームストレートをまっしぐらである。

 

「指揮官様の機転のおかげで、無事に生還できそうですわね。こういう時には確か、もろたで! というのが決まり文句なのでしょう?」

 

「そんなの誰に教わったのよ? 不吉なセリフ言わないでよね」

 

 それこそは、死亡フラグと呼ばれる、不幸を招き寄せる魔法の呪文。

 勝利を確信した者の心に芽吹く油断の具現であり、悪魔は、そんな心の隙を絶対に見逃さない。

 そして、悪魔は今宵も貴女のすぐ傍に。

 

「・・・?」

 

 客室エリアも半ばを過ぎた頃だった。行く先に向けていた私の目が、異様なモノを捉えた。

 水面に浮かぶのは、廊下に置かれていた調度品やデスク、消火器。それらを押しのけるようにして、水面下に黒く巨大な影が映っているのだ。

 私達の行く先から、こちらに向けて段々と速度を増して近づく巨影。

 その背からは、黒い三角形のヒレが顔を覗かせていて

 

「指揮官、避けて!」

 

「っ!!?」

 

 実際、私が声をあげるよりも数舜速く指揮官も気づいていたのだろう。

 ホームストレートの交差点に差し掛かったところで、機体は左へ急ターン。

 鮫ロボの待ち伏せ攻撃は、あえなくジェットスキーのすぐ背後を空ぶったのである。

 

「さっきの鮫型ドローン!? なんでここにいるの?」

 

「イーグルのせい! 絶っっ対にイーグルのせいだから!」

 

「ぅ・・・ごめんなさい。私が仕留めそこなってしまったばかりに」

 

 いや、そういう意味で言ったんじゃないから、そんなマジで落ち込まれるのも困るんだけどね。

 たぶん、イーグルが与えたダメージから復旧して、私達をここまで追ってきたのだろう。

 どうやって下層からここまで来た? なんて野暮なことはどうでもいい。ヤツは、実際にここに居るのだから。

 

「後ろ、追ってきますわ!」

 

「かなり速いわね。こっちもペース上げるわ」

 

「コース外れちゃったけど、戻れる?」

 

「もちろん! 見取り図は頭に叩き込んだからね!」

 

 迫る交差路を左折。壁際ギリギリ一杯まで寄せて曲がりきると、そこで指揮官は再びフル

スロットルをくれる。

 ・・・しかし

 

「あっちゃ~、ツイてない時はこんなもんか~」

 

 口調こそ緩いが、指揮官が本気で戦慄しているのは長い付き合いの私には分かる。

 それもそのはず。私達の行く先を塞ぐのは、先ほどと同じ防災隔壁。このエリアには降りていないのだと思い込んでいたが、甘い考えだったようだ。

 

「ど、どうすんのよ! スピード落としたら、確実にヤツの餌食よ!?」

 

 隔壁を開けるためにはコントロールパネルを操作しなければならないが、そんな悠長なことをしている暇はない。

 隔壁まで、残り50メートル。

 

「隔壁を操作してる間、ネゲヴのその杖で応戦して時間稼げない? こう、サメサメパニックみたいにさ」

 

「絶対無理! ってか、サメサメパニックって何よ! 馬鹿じゃないの!?」

 

 打開策が浮かぶことを信じてか、指揮官はスピードを落とさない。このままだと、激突か食い

千切られるかの二択だ。

 隔壁まで、あと30メートル。

 

「指揮官様、ここは私にお任せを。できるだけまっすぐお進みください」

 

「おお!? イーグルちゃん、何か良いアイディアあるの?」

 

 ここでイーグル登場。こやつ、とうに良いアイディアが浮かんでいたのに、この限界ギリギリのタイミングまで引っ張って、指揮官ポイントの上乗せを計ったに違いない。女狐め。

 隔壁まで、あと10メートル。

 

「いきますわ!」

 

 イーグルが取り出したのはキッチンナイフ。親指と人差し指で刃先を摘まみ、オーバースローの要領で正面に投げ飛ばした。

 果たして、ナイフは操作パネルに命中。でも、パネルを破壊するほど強く投げたわけではない。

 軽いピープ音を伴い、隔壁が開く。もう少し遅かったら激突、という間一髪の所で私達は隔壁をすり抜けた。

 

「やるぅ~! あとで頭をナデナデしてあげるわね!」

 

「これくらい、私には造作もない事ですわ」

 

 イーグルが、してやったり顔を私に向けてくる。

 今は、こんな狭い場所でケンカしている場合じゃないので我慢である。我慢。

 

「イーグルちゃん、次もヨロシクぅ」

 

「承りましたわ」

 

 続き、私達を待ち構える隔壁を、イーグルは的確なナイフ捌きで次々と解錠していく。

 都合、3枚くらいの隔壁を突破しただろうか。ブロックを曲がりに曲がり、ホームストレートに戻れば、見渡す先、客室区画の終点に最後の一枚が立ち塞がる。

 あれをクリアしてこの区画を抜けてしまえば、その先はメインホールへと繋がる、広大なロビーフロアだ。今みたいな狭い通路で隔壁に阻まれるようなこともない。

 

「多分、あれで最後よ。バッチリ決めちゃって」

 

 指揮官からの言葉に、なぜかイーグルは返事をしない。

 不思議に思って、様子をチラリと見やれば、イーグルは何やら浮かない表情を張り付けている。

 絶対に何かやらかしたヤツである。

 

「あの~・・・申し訳ございません。もう、ナイフが品切れですの」

 

「ウソ!? 私も丸腰だし・・・ナイフじゃなくても、他に投げられそうなものは?」

 

「私はお手上げでして。ネゲヴの方は?」

 

「私!? いきなりそんな事言われても・・・」

 

 杖は流石に大きすぎる。イーグルの馬鹿力なら投げて届かない事はないだろうが、かなりの勢いがついてしまうので、たぶん、衝撃で操作パネルを破壊してしまう。

 それ以外のモノは、私は何も持ってきていない。

 

「・・・あ」

 

 何かないか? と自分の身体を見回し、周囲に目を配って、そこで、あるモノが私に目に留まった。

 

「ナイフと同じくらいの長さなら投げられる? 重さとか細さは大分違うけど」

 

「絶対に決めてみせますわ! この、デザートイーグルの名に誓って!」

 

「良く言った! アンタを信じるわ!」

 

 私が手を伸ばしたのは、すぐ傍に居る指揮官の後ろ頭。そこで、束ねた髪に刺さっている金色のカンザシを引き抜き、イーグルへ差し出す。

 

「ちょ!? それはダメダメ!」

 

 何をされたか勘付いた指揮官が、振り向き抵抗してくる。

 その勢いが余って機体が左右にフラフラ揺れているのがちょっと怖い。

 

「ワガママ言わない! 緊急事態なのよ!」

 

「だって、ネゲヴがくれた大事なカンザシだもん! 無くすなんて絶対にヤダ!」

 

 子供みたいな事を言いだす指揮官だが、贈り主としては、そう言ってもらえる以上に嬉しい事なんてない。

 しかし、今は指揮官の命が掛かっている。その要求を呑むことは、私には決してできない。

 

「また同じの買ってあげるから、我慢なさい!」

 

「むぅ~・・・じゃあ、絶対絶対約束だからね」

 

 拗ね顔だが、指揮官はそれで引き下がってくれた。

 勢いで交わしてしまった約束だが、こんなにコンディションの良い金細工の装飾品なんて、そうそう出てくるものではない。

 指揮官には悪いが、ほとぼりが冷めるまで、話をはぐらかし続けるしかないだろう。

 

「ってわけで、貴重品なんだから無駄にしないでよね」

 

 カンザシを受け取ると、イーグルは真剣な表情で顔を固めたまま頷く。

 射程距離内に隔壁を捉えたところで、イーグルがカンザシを投げる。

 煌びやかな金色の尾を引きながら、カンザシは見事にパネルに命中。ナイフとは勝手が全然違うのだろうに、それでも一撃で成功させるイーグルの実力は流石だ。

 

「ごめんなさい、ネゲヴ。私の詰めが甘かったばかりに、大切なモノを・・・」

 

「いいのよ。友達同士、そのくらいの事は気にしない。ね?」

 

「・・・ふふ、ありがとうございます。私の親友」

 

 イーグルには、しょげている顔は似合わない。銀幕の中でもそうだったように、常に優美に堂々と。それでこそ、スペシャリストである私の友達と呼ぶにふさわしい立ち振る舞いなのである。

 まぁ、あんまりふてぶてし過ぎると逆にムカつくのだが・・・今はその言葉は伏せておくこととしよう。

 

「よし、ロビーフロアに出たわね。後ろとの距離は?」

 

「10メートル弱ってところかしら。上手く走ってきたから、少し離れたわね」

 

 絢爛豪華だったロビーフロアは、もう、大人の背丈以上に浸水してしまって見る影もない。

 ここからデッキまでは広いフロアが続くし、鮫ロボとの距離も稼げた。それなりに余裕を持って逃げきれそうだ。

 

「デッキは、確かロビーの西側出口方面だったでしょうか?」

 

 イーグルの記憶は正しい。

 私達が入ってきた入り口から右手に見える通路が、デッキへと繋がっている。

 ついさっき、地図は頭に叩き込んだと豪語していた指揮官の事だ。言われるまでもなく理解している筈。

 ・・・なのに、指揮官がジェットスキーの機首を向けたのは、それとは正反対の方向。

 

「ふぇ? 指揮官様、そちらは」

 

 完全に逃げ場を塞がれてしまう袋小路、メインホールへの入り口だった。

 

「道が違うわよ! 早く引き返さないと、逃げられなくなる!」

 

「落ち着きなさいって。ちゃんと考えがあるからさ」

 

 狼狽える私とイーグルをよそに、舵を握る指揮官は落ち着いたものである。

 水没してしまっているメインホールは、先ほどまで以上に広大に見える。

 グリフィンの訓練グラウンドよりも広いこの場であれば、こちらも走り放題なのですぐに追いつかれることはないだろうが・・・指揮官が何を思ってここへ来たのか、未だに想像もつかない。

 指揮官は迷うような様子もなく、ステージがあった場所へと機体を走らせる。

 

「ネゲヴ、その暗幕を掴んで」

 

「え? うん」

 

 ステージ袖を隠すために、天井の張り出しから吊るされた大きな暗幕。そこに機体を寄せると、私は言われるがままに暗幕を手繰り寄せた。

 

「イーグルちゃんにも持ってもらって、このジェットスキーを暗幕で包んじゃう」

 

 エンジンを切ったジェットスキーの周りを暗幕が囲う。

 耳を劈くようなエンジン音が響いていた今までとは一点、耳が痛いほどの静寂が辺りを支配する。

 

「あの~、指揮官様? 何をお考えか全く分からないのですが、今は逃げることを優先すべきかと」

 

「ちゃんと説明しないでゴメンね。私、逃げてる最中に気が付いたんだけどさ。このまま私達がみんなのいる救命艇まで戻るとするじゃん? そしたら、あの鮫まで付いてきちゃうと。そうすると、救命艇が襲われちゃって、私達、全滅しちゃうんじゃないかしら?」

 

「・・・あ~」

 

 その考えは無かった! と、心の中で頭を抱えたのは私と、きっとイーグルも同じだろう。

 私としたことが、今の状況だけにしか気が回らないとは。副官として恥ずべき失態である。

 

「だから、私達はここから脱出する前にあの鮫を完全に破壊する、もしくは行動不能にさせる必要があるのよ。ここに逃げ込んだのは、自由に立ち回れるエリアだったのと、鮫を倒すための何かが見つけられそうだったからなの」

 

「そういうことでしたのね。つゆ知らず、出過ぎた事を言ってしまい大変申し訳ございませんでした」

 

「いいのよ。説明しなかった私も悪かったし」

 

「でも、戦うのは良いとして、こんなところでジッとしている暇なんてないわよ。追い付いてきたら、真っ先に襲われちゃうに決まってるんだから」

 

 戦うための作戦会議を開くにしても、それは逃げ回りながら考えればいい事だ。

 こんなカーテンで覆っただけの隠れ蓑、丸ごと食い千切られて終わりだろう。

 

「こうしている限りは時間を稼げそうね。現に、ほら、追い付かれてるけど見つかっていないでしょう?」

 

 指揮官に促され、暗幕の隙間から外を覗き見てみる。

 ホールの中央で、三角のヒレが楕円状に旋回している様子をしっかりと視認する事が出来た。

 あれだけしつこく追いかけてきた鮫ロボが、こんな暗幕で囲っただけの私達を見失った?

なぜ?

 

「もしかして、私達に気づいていませんの?」

 

「周囲空間の熱感知とソナーによる索敵ってところでしょうね。音を感知している線も薄々はあったけど、これだけ話してて気づかれてないから除外で」

 

「熱か。それでエンジンを切ったのね」

 

「切っただけだとエンジンに籠った熱でバレるから、暗幕で覆って熱を遮断してるのよ。ソナーは、これだけ色々なモノが浮かんでるから、そうそうバレないわよね」

 

 あんなギリギリの状況で逃げつつ、指揮官はここまでの情報処理をしていたというのか。

 流石とかスゴイを通り越して、恐ろしさすらも感じてしまうほどの思考回路。

 これは、愛しの指揮官だからこそ為せるものなのか? それとも、グリフィンの指揮官として選ばれる人間はみんなこうなのだろうか・・・?

 

「とはいえ、船は着々と沈んでいってるから、時間が無いのは確かよ。だから、私達3人で考えましょう。このフロアにあるモノを使って、ヤツを倒す方法を」

 

 暗幕の隙間からホールの様子を確認しつつ、みんなで意見を出し合う。

 まず、破壊するという手段は除外した。イーグルが与えたダメージから復旧してきたくらいだ。銃器や爆薬でもなければ、どうしたって破壊しきれない。

 そうなると、鮫ロボをここで動けなくするしかない。

 この場にある、あらゆるモノでシミュレーションを行い、その為の策を組み上げていく。

 幸いにも、ここにいるのは戦績優秀な戦術人形2人と有能な指揮官だ。

 実行する価値のある作戦が組み上がるまでに、さほど時間はかからなかった




再びのサメですね。
最後の最後でサメに追われるというのは映画でありがちな事。それは、ドルフロの世界でも例外ではありません。
ネゲヴちゃんたちはどうやってこのサメロボを退けるのか、どうか来週もお楽しみに。

以上、弱音御前でした~
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