──訂正──
7話《新たなる光》で当小説の魔法は理解とイメージの二つが必要という理論で進めていきますと書きましたが、原作通り、どちらかが完璧なら片方は省略が出来るという設定に変更したいと思います。
コロコロ変わって申し訳ありません。思いつきで書き始めるものじゃありませんね。7話の内容も少し修正しましたが、多分どこが変わったか気付かないレベルです。ご了承下さい。
それと、自分で見直す時とかでも見辛いかなと思っていたので、各タイトルの前に話数を入れていくようにしたいと思います。
「離脱……だと!? どういうつもりだ!」
「さあ? 何故だと思う?」
アルディアスの口から飛び出した言葉に誰もが困惑する。
恐らく、何らかの方法で自軍に指示を出したと思われるが、その内容が全く理解できないものだった。
戦況は完全に帝国の不利だった筈だ。口では否定したものの、現状を正しく判断すれば、認めたくはないが、このまま押され続ければ確実に帝都は落とされていた。
最早、勝利は目の前と言ってもいい状況での全軍の離脱。侵攻が止まったからといって戦力差が覆る訳では無いが、体勢を立て直すことは出来る。
だからこそ、理解できない。
あっという間に帝国を包囲し、単身帝城に乗り込み、圧倒的な力を示した。
目の前の男の思考が理解できない。理解できないからこそ、恐ろしい。
(コイツは作戦を第二段階に進めると言った。つまり、離脱することは初めから決まっていたってことか? 何故そんな事をする? そもそもブラフの可能性も……? だが、何のメリットがある? くそッ! ダメだ、情報が無さすぎる)
「……ガハルド、俺の話を信用しろとは言わないがこれだけは言っておく」
「……何だ」
「俺にとって、何よりも優先するのがガーランドに住む民の命だ。それを守る為ならば、他者にどれだけ非情と思われようとも構わない……そして、次に優先するのが世界の安寧だ」
「世界の安寧だと?」
「ああ、この世界はあまりにも命の価値が小さすぎる。人が簡単に武器を手に取り、当たり前のように命を奪い合う。その毒牙が俺の民に向くのだけは許容できない……だから俺がこのトータスを太平させる。俺が魔人族を害意から守り続けるのではなく、剣を取ることすら愚かなことだと知らしめる」
「それがこの世界の安寧に繋がると? そりゃ、魔人族からすれば安寧だろうが、人間族からすれば恐怖で支配されてるだけじゃねえか。最初は良くとも、積もりに積もった不満はいつか再び戦争という形で現れるぞ」
「言った筈だ。無駄に命を奪うつもりは無いと。俺の支配に反抗する者も居るだろうが、その結果が以前よりも良いものとなれば、自ずと受け入れる者が出てくる。長い年月が流れれば、世代も変わり、戦争を知らない者が多くなる。そうやって世界とは移り変わっていくものだ」
「……」
アルディアスの言葉を聞き、ガハルドは顔を顰めながら黙り込む。
目の前の男の言葉は確かに一理ある。そもそも、数千年重なり続けた憎しみは簡単に取り払えるものではない。完全に溝が無くなるのは数十年、或いは百年単位の年月が必要だ。
その間に恐怖による支配ではなく、形だけでも戦争のない平和な世界を実現することが出来れば、その世界を受け入れる人間族も出てくるだろう。
一度でも戦争のない平和な世界を享受してしまえば、再度争いを始めようとするものは限りなく少数になることは想像に
だが……
「お前の理屈は分かった。だが、この世界には神が居る。俺達人間族の神、エヒト神。お前達魔人族の神、アルヴ神。その神を差し置いてこの世界を支配することなど出来る筈も無い」
魔人族がどれ程神を信仰しているかは知らないが、人間族──特に聖教教会の人間は根っからの狂信者の集まりだ。例え、王都を落とされようとも、エヒト神が健在ならば抵抗を止めることはない。
「それとも何か? エヒト神すら殺すとでも言うつもりか?」
「良い線だが……少し惜しいな」
「は?」
ガハルドとしては冗談のつもりだったのだが、思いもよらぬ返答を貰い、ポカーンと口を開けたまま硬直する。
『アルディアス様、全軍の離脱が完了しました』
その時、フリードから離脱完了の連絡が入る。
これで、準備は整った。
「そりゃ、どういう意味──」
「悪いが、時間切れだ。此処から先はお前が降伏を宣言した後にしよう」
「だから、しねえっつってんだろ。例え帝都を落とされようとも、全てが瓦解する訳じゃねえ。俺達が居なくとも、残った奴らは最後まで戦い続けるぞ」
「いや、するさ。お前が真にこの国の皇帝を名乗るならば尚更な」
アルディアスの物言いに眉を顰めるガハルドだったが、変化はすぐに現れた。
「「「ッ!?」」」
アルディアスの足元に一つの魔法陣が出現した。
輝きながら廻転する魔法陣は次第に大きさを増していく。それは玉座の間に居る人間全ての足元まで広がりを見せ……更に室外に飛び出して尚、拡大を続ける。
「何をするつもりだ!?」
「すぐに分かる」
「一体何を──ッ!?」
ズガガガガガガガガガガッ!!
ガハルドが更に追求しようとした瞬間、帝城を揺るがすかのような大きな衝撃が彼らを襲った。
その衝撃で室内の飾られた装飾品が音を立てて、落下し、窓ガラスは一枚残らず粉砕した。それだけに留まらず、城全体が軋み始め、床、壁、天井に小さくない亀裂が走り出す。
その場に居る者達はまともに立っていることも出来ず、その場にしゃがみ込んだり、壁により掛かることで何とか凌いでいる。
どれほど時間が経っただろうか。まるで、一秒が数分にも感じられる中、ようやく揺れが収まっていく。
身を低くしていた帝国の兵士も、恐る恐る立ち上がり周りを見渡すが、先程よりも部屋が荒れている点を除けば特に変化は見られない。
唯一違う点を上げるならば、今も尚、廻転し続ける魔法陣くらいだが……
「……何だ? 何をした?」
「何だと思う?」
「ふざけ──」
「へ、陛下!!」
とぼけるアルディアスに更に追求しようとしたガハルドだったが、部下に名を呼ばれ、そちらに視線を向ける。
そこには割れた窓の近くの壁にもたれ掛かるようにして立っている部下の兵士が一人。その表情は生気を失ったように青白く、体は小刻みに震えている。
「……どうした?」
「そ、外を……外をご覧になって下さい……」
「外?」
「私は……今、自分の目で見たものが信じられません。いっそのこと全てが幻だと言われた方が……ううぅ」
それだけ言うと、頭を押さえて蹲ってしまった部下に嫌な予感を覚えながらもテラスへと続く扉から外の様子を窺う。
帝国の象徴でもある帝城は、帝都最大の建造物だ。例え、テラスまで出なくとも、帝都の街並みが一望できる程の高さを誇る。
「──ッ!?」
「陛下!?」
そんないつもと変わらぬ景色を想像していたガハルドだったが、それを視界に入れた途端、扉を蹴破り、テラスに飛び出していく。
そんなガハルドを部下達も慌てて後を追う。
そして、目撃する。
「そんな、馬鹿な……」
「ありえない……」
「こんなことが……」
ガハルドの後に続いた部下たちがガハルドと同じ光景を視界に入れ、呆然とする。
「理解したか?」
言葉を失うガハルド達を尻目に、アルディアスが彼らに語りかける。
「これが“力“というものだ」
◇ ◇ ◇
──数分前・帝都東門周辺。
「おい、増援はまだか!?」
「要請は何度も出してる! だが、返答が一切ない! それに帝都の方で戦闘音のようなものも聞こえた!!」
「ま、まさか、すでにどこかの防衛線が破られたってのか!?」
「知るかよ!? 他のとこを気にしてる余裕なんかねえよ!」
東門周辺では今も尚、魔人族による激しい戦闘が続いていた。
剣と弓を主体に戦う帝国の兵士に対して、魔人族は無闇に距離を詰めず、確実に魔法で此方の戦力をじわじわと削り続けていた。
本来、魔法を使う場合はそれ相応の長さの詠唱が必要なのだが、魔人族は各々の詠唱時間や発動タイミングを完璧に把握していた。
絶えず繰り出される魔法の弾幕が帝国の兵士に襲いかかり、反撃しようにも、剣は届かず、矢は宙で燃え尽きる。今までは数の差を活かしてその弾幕を突破していたが、帝国各地に戦力を分散された現状では防衛線を突破されないように維持するだけで精一杯だった。
そして──
「ッ!?──全員退避ッ!!」
「「「ッ!?」」」
降り続ける魔法の雨を悪態をつきながらも対処していると、一人の兵士の声が戦場に響き渡った。その声を認識した瞬間、各々が全力で城門の外壁やバリケードに身を隠す。
次の瞬間、人間を簡単に消し炭に変える程の熱量を宿す火焔球が彼らを襲った。
「ギャアアアアッ!?」
「クソッタレ!!」
退避が間に合わなかった者達が炎の津波に呑み込まれていく。
何よりも厄介なのが、合間に打ち込んでくる今のような上位魔法だ。
ただでさえ、近付くことすら難しい状態で、後方で詠唱を終えた上位魔法は帝国の一個小隊を丸ごと殲滅する破壊力を秘めている。
「クソッ! このままじゃジリ貧だぞ!?」
「そんなこと言ったってどうしようもないだろ!?」
「じゃあ、このまま無様に殺されろってのか!?」
「俺に当たってんじゃねえよ!!」
「こんな時に止せって!!」
完全に後手に回り続け、何の手立てもない状態で、一人の兵士が側に居る仲間に掴みかかる。
防衛線を維持するのに手一杯な上、犠牲者も出ている現状に帝国の兵士達も冷静さを失い、隊をまとめる隊長の声すら届かなくなりつつある。
「……あれ?」
そんな彼らを尻目に、外壁から僅かに顔を覗かせて敵の様子を窺っていた男の一人が怪訝な声を上げる。
顔だけを覗かせていただけの男がゆっくり身を乗り出し、呆然とした様子で立ち尽くす。
「おい、何してんだ!? あぶねえぞ! またすぐに奴らの攻撃が──」
「退いてる」
「……は?」
「退いてるんだよ!? 魔人族共が!!」
男の言葉にその場にいる全員が目を見開き、そんな馬鹿なと自身の目で確かめようと視線を向ける。
すると、此方を警戒しつつも、確かに後退を始める魔人族の軍勢の姿が確認できた。
「ど、どういうことだ?」
「あ、ああ。何でこのタイミングで……」
明らかに優勢な状況で撤退した敵の意図が読めず、混乱する帝国の兵士達。
敵が退いたことで出来た余裕で、隊列を組み直し、再度侵攻に備えて戦線を立て直すが、一向に攻めてくる様子がない。
距離を開けての睨み合いが続く中、突然それは起こった。
ズガガガガガガガガガガガッ!!
「な、何だ!?」
突如、彼らを立っていられない程の大きな揺れが襲った。
その衝撃で外壁の一部は崩壊し、地面に多数の亀裂が走る。
しかし、数十秒もすれば揺れも収まり、何事も無かったかのように静寂がその場を支配する。
「じ、地震か?」
「こんな時に不吉な……」
「……」
「?──おい、どうした? そんなマヌケ面して」
突然の揺れに一瞬パニックになるも、すぐに収まり、ホッと息を吐いた兵士達が居る一方、数人の兵士が帝都の方を見ながら呆然としている姿が目に映った。
「俺は今、夢でも見てるんだろうか……」
「あ? 何いってんだ?」
「あれ……」
男が震えながらゆっくりと帝都がある方角を指差す。怪訝そうな表情でそちらを振り向いた男がその顔に驚愕の表情を浮かべる。
その目に映るありえない光景を前に、ある者は腰を抜かし、ある者は剣を落とす。
しかし、そんな彼らを嘲笑うかのようにソレは
全員が唖然とする中、一人の兵士がポツリと呟いた。
「城が、浮いてる……?」
◇ ◇ ◇
「持ち上げたのか、この帝城を!?」
帝都が誇る帝城が大地ごと、空高く浮上していた。
今この瞬間も高度を上げ続け、次第にゆっくりと平行移動を始める。向かう方角は帝都の中心地だ。
「ああ、これ以上無い力の証明だろう? それと、後ろにいるお前。下手なことはしない方がいい」
アルディアスの言葉に彼の後ろに忍び寄っていた一人の兵士の肩がビクッと跳ねる。
「お前程度じゃ俺に傷をつけることは叶わないが……今、この城が浮かび続けているのは俺が居るからだ。万が一、俺の力が途絶えることがあれば、このまま真っ逆さまだろうな。これだけの質量が地表に落下すればどうなるか……分からない程愚かでは無いだろう?」
「ッ!?」
腰の剣に手をかけていた兵士の顔が瞬時に青褪めていく。アルディアスの言葉の真意を悟ってしまったのだろう。
帝国に住まう全ての人間の命が文字通り魔王の掌にあることに……
「ガハルド、お前は言ったな。この国の兵士は、最後まで抵抗を続けると……お前達が居なくとも、戦い続けると……今でも同じことが言えるか?」
「ッ!──それは……」
「この光景を帝国の全ての民が見ている筈だ。帝国を統べる王族とその側近を失い、国さえも崩壊し、それでも尚、彼らは戦う意志を示すと思うか?」
「クッ!?」
ガハルドは歯を食いしばり、アルディアスを強く睨みつけることしか出来ない。その態度が何よりも彼の返答を物語っていた。
「もう一度だけ選択の余地をやろう。降伏しろ……さもなくば、
要求内容は依然変わらない。それでも先程と違い、ガハルドは即断することが出来ない。仮に要求を拒み、城を帝都に落とされた場合、その被害はとんでもないことになる。
大地は割れ、街は崩れ、人は死に絶える。最早復興などと生ぬるい言葉では言い表せない惨状になることは間違いない。
民は自らの住む国が一瞬で地獄に変わる瞬間を目撃することになる。これが人の理解が及ぶものであれば、それを糧に奮起することも可能だろう。
しかし、人の枠を超えた力の一端に触れた人類は、理解することを止め、崇めることでその脅威が自分達に向かないようにする……恐怖の対象に神と名付けることで。
抵抗など、出来ようもない。
「グググゥッ……ああッ!! クソッタレ!!」
しばらく葛藤するかのように唸っていたガハルドだったが、苛立ちを現すかのようにグシャグシャと頭をかきむしる。
「分かったよッ! 俺の負けだ、チクショウ! 降伏する! だから城を落とすのは止めろ!!」
「懸命な判断だ。これで帝国の名が歴史から消えることは無くなったな」
それだけ告げると、帝城がゆっくりと下降し始める。これだけの質量の物体を移動させているというのに汗一つかく様子のないアルディアスに最早ガハルドは乾いた笑いしか出てこない。
「すまんな、お前ら。今回ばかりはどうしようもねえ……帝国は強さこそが至上。文句一つも出ないほどの大敗だよチクショウ。白旗を掲げろ。これ以上無駄な死者を出すな」
「ッ!──御意……」
指示を受けた部下の一人が悔しそうに歯を食いしばるも、ガハルドの判断に異論はないのか、すぐに室内に駆けていく。
「たくっ……降伏させる為に城を浮かすとか考えてもやるかよ普通。つーかやれねえよ。お前ホントに人か? 実はお前がアルヴ神とか言わねえよな」
あれだけの人知を超えた力だ。正直、アルディアスの正体が“人“ではなく“神“であると言われても驚かない自信がガハルドにはあった。
「……あんなのと一緒にするな」
「ん?」
走り去っていく部下の背中を見ながら、何のけなしに呟いたガハルドだったが、あからさまに顔を顰めるアルディアスを見て、頭に疑問符を浮かべる。
「何だ、お前もしかして神を信仰してないのか? そういや、エヒト神を殺すのかって聞いたときに惜しいとか何とか言ってたが……ありゃどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。神を殺すという点は正解だが、エヒトならば既に殺した。ついでにアルヴもな」
「……は?」
正直、この短時間で常識外のことを易々とやってみせたアルディアスに、もうこれ以上驚くことも無いだろうと安易に構えていたガハルドだったが、さらっと語られた内容に体が石のように固まる。
こいつは今なんと言った? 聞き間違いでなければ神を殺したと言ったような気がしたのだが……?
ガハルドだけでなく、その場にいる全員が硬直する中、アルディアスからの衝撃発言は続く。
「本来はそれで終わりだったのだが……どうやらエヒトはこの世界由来の神ではないようでな、エヒトを神に昇華させた真の神が居る。ソイツの力が未知数な以上、少しでも戦力は多いに越したことはない。そのためにもお前達の力を貸せ、ガハルド」
「ハアアアアアアアアアアッ!?」
ガハルドの絶叫が帝都の空に木霊した。
国を落とす──超常的な力で国を物理的に持ち上げ、落とすことを指す。丸ごと持ち上げるのは効率が悪いので、城などの重要施設または、国の一部を持ち上げるのが無難。持ち上げることが出来れば、高確率で敵の降伏を迫れる簡単な方法。──Wiki○edia参照(大嘘)
アルディアス「言っただろう? 落とすと」
ガハルド「分かるか!?」
次回 【ガハルドの胃、死す】