【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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一話目から感想なども頂いてびっくりしております。
やっぱり、皆も魔人族のオリ主ってありそうでないなーと思ってたんですね。


第二話 【()家臣()

 大陸の南側に存在する魔国ガーランド。その周辺に存在する、草木一本無い荒廃とした不毛の大地。

 普段は誰も近寄ることのないその地に白髪の青年と赤髪の男の二人が佇んでいた。

 

「行きます!」

 

 一定の距離を開けたまま、にらみ合う二人だったが、赤髪の男が先手を取り、上段から剣を振り下ろす。

 しかし、その一撃は白髪の青年が右手に持つ剣でいとも容易く受け止められる。

 

「甘いな」

 

「まだまだ!」

 

 だが、受け止められることなど初めから分かっていたのだろう。すぐに切り返し、今度は下段から胴を目掛けて薙ぎ払う。

 上段に意識を向けたところに下段からの一撃。並の兵士なら斬られたことに気付くことなく胴が真っ二つになっていただろう。

 その一撃に対して白髪の青年はその場で跳び上がり、宙で一回転する。髪の毛スレスレを刃が通過するが、一切動揺した素振りは見せず、そのまま回転した遠心力を利用し、剣を振り下ろす。

 防御は間に合わないと判断した男が転がるように回避する。すぐに態勢を立て直そうとするが、立ち上がろうとした瞬間に目の前に刃が迫る。

 

「グッ!」

 

 何とか防ぐが、更に絶え間ない連撃が襲いかかる。反撃しようにもまるで流水の如く動き続ける相手に防戦一方になってしまう。

 

「そこだ!」

 

 しかし、連撃の中にある一瞬の呼吸の隙を突き、剣を振り上げる。狙いは右手に持つ剣そのもの。武器を弾き飛ばし、形勢を逆転させる。

 狙いすました一撃は、寸分の狂いなく白髪の青年に迫り……ギンッと甲高い音を立てた。

 

「なッ!?」

 

 しかし、それは剣を弾き飛ばされた音では無く、受け止めたことで生じた音であった。……剣の柄の底によって。

 

「隙あり」

 

「しまっ!?」

 

 予想外の受け止められ方に一瞬体が硬直してしまう。その隙を見逃される筈もなく、足払いを掛けられ、地面に背中から倒れ込む。

 

「グッ!──ッ!?」

 

 背中の痛みに呻く男の顔スレスレに剣が突き刺さる。

 

「……参りました」

 

 降参の意志を示すと青年は手を差し出し、男を立ち上がらせる。

 

「最後の一撃、悪くは無かったが、防がれた場合の対処を考えていなかったな。フリード」

 

「ええ、恥ずかしながら、一瞬思考を止めてしまいました。流石ですね、アルディアス様」

 

 赤髪の男──フリードの言葉にわずかに口角を上げることで答える白髪の青年──アルディアス。

 アルディアスがこの世に生を受けてから18年の年月が経過していた。

 魔人族特有の浅黒い肌に黄金(こがね)色に輝く瞳、雪のように白い髪は腰まで届いており、無造作に伸ばされたそれはしかし、野蛮なイメージを感じさせず、整った顔立ちと合わせて、ある種の神秘性を感じるさせる容貌だ。

 彼を知らない人が見れば、その中性的な容姿から女性と見間違えてもおかしくはないだろう。

 とはいえ、この魔人族の国で彼を知らぬ者など存在しない。

 

 神の子として、国の英才教育を受けて育ったアルディアスは、幼い頃からその天賦の才を遺憾なく発揮し、受けた教えを完璧に己の力としていった。教えを説いたものが数日後には教わる側に回っていた、というのは当時は珍しくなかった。

 そして、3年前に魔王アルヴから正式に王位を継承し、長い魔人族の歴史の中でも史上最年少の魔王が誕生した。

 

 その名はすでに大陸全土に響き渡り、戦争中の人間族にも周知されつつあるが、ある理由により人間族からは偽王と呼ばれ、蔑まれている。この事実に彼をよく知る者は憤慨しているのだが、当の本人は全く気にしていないようだった。

 

「あなたの武術指南を受け持ってからもう10年以上経ちますが、やはり私ではもう力不足なようです」

 

 その圧倒的な才を発揮してきたアルディアスだったが、いくら才能があろうとも、実戦の経験が豊富な上に体が完成しているフリードと子供のアルディアスでは純粋な力の差があり、中々勝ち越すことは出来なかった。

 だが、前線を経験し、体が成長するに従ってフリードが負け越すことが多くなり、今では全く手も足も出なくなってしまった。

 

「そう言うな。お前がいたからこそ今の俺がいる。それにお前の真骨頂は“ウラノス“がいてこそ発揮されるだろう」

 

「そういうアルディアス様こそ、貴方が得意なのは剣ではなく魔法でしょう。魔法を使われたら私は近づくことも出来ません。昔からアルディアス坊ちゃんは私の武術指南よりも国の魔法師に教えを請う時の方が楽しそうでしたから」

 

「……坊ちゃんはよせ」

 

 先程までの家臣の態度から一変、こちらをからかうような表情を見せるフリードに指で頬を掻きながら顔を背けるアルディアス。

 一見、王と家臣の会話としては不躾に捉えられそうだが、二人はアルディアスが幼い頃よりの関係で、お互いを兄弟のように大切に思っている。

 もちろん、アルディアスが王位を継承してからは対応の仕方を改めてはいるが、アルディアスから「二人だけの時は今まで通りで構わない」と言われ、他の家臣や民がいない場ではそこまで気負わずに会話をすることにしている。

 

「……それに俺がまだまだなのは事実だ。この前の人間族との小競り合いで三人の犠牲者が出た」

 

「──ッ!?それは貴方のせいではありません!! あれは誰も予想出来なかった不幸な遭遇戦! もし貴方が駆けつけなければ更に被害は増えていました!!」

 

「それでも……だ。たった三人なれど、その家族からしたら何者にも変えられぬ唯一無二の存在。俺の弱さが彼らに不幸を招いた。俺にもっと力があれば、この戦争を終結させるほどの力があれば……」

 

「そのようなこと、おっしゃらないでください!! 貴方は決して弱くなどありません! その気になればお一人で王国や帝国を滅ぼすことも可能でしょう! そうしないのは貴方がこの国を大切に思っているからこそ! そもそも奴らが──」

 

「そこまでだ、フリード」

 

「ッ!?」

 

「どこに耳があるか分からん。気をつけろ」

 

「……申し訳ありません」

 

 アルディアスからの叱咤に頭を下げて謝罪するが、その拳は血が滲むほど強く握られている。もちろん、この怒りはアルディアスに向けられたものではなく、今この瞬間も彼を苦しませる原因の存在に向けて……だ。

 

「そう悲観するな。俺の予想では、そろそろ()()()()()と思っている」

 

「なっ!?──本当ですか!?」

 

「ああ、だから安心しろ」

 

「……」

 

 そう言って、フリードを落ち着かせるアルディアスだったが、フリードの表情からは不安がありありと表れていた。

 アルディアスの言った通りなら、ついに魔人族を、いや世界を長き呪縛から解き放つことが出来る。しかし、それと同時に、失敗すれば目の前の弟のように思っている存在を永遠に失ってしまう。

 フリードは知っている。かつて、吸血鬼族の宰相を務めた男は家族を守るために、その家族を地下深くに幽閉したという。何百年も前のことだが、今ならその気持ちが痛いほど分かる。

 

(例え、それで魔人族という種族が滅びようとも、私は……)

 

「……フリード」

 

 家族を失うかもしれない恐怖にフリードの思考が黒く染まろうとしていた時、突然側から自らの名前を呼ばれ、思考の渦から抜け出したフリードが慌てて声の主に視線を戻す。

 

「信じろ」

 

「──ッ!!」

 

 多くは語らない。ただの一言。だが、長きを共にしてきたフリードはそれだけでアルディアスの覚悟を感じ取った。恐らく、自分の考えていることなどお見通しなのだろう。

 

(……情けない! アルディアス様がここまで覚悟しておられるのに私は……! そうだ。私が自身で言ったではないか。我が王は強い。相手が誰であろうと負けることはない。例え、それが()であろうとも……!)

 

 フリードは即座に膝を着き、アルディアスに向けて頭を垂れた。

 

「今、改めてここに誓います。このフリード、命尽きるその時まで、貴方に絶対の忠誠を捧げます。我が偉大なる王よ」

 

 フリードの誓いに頷くことで了承を示すアルディアス。

 その後、少し落ち着いた二人は随分長い間話し込んでいたことに気付いた。

 魔国ガーランドの王であるアルディアスはもちろんのこと、フリードも将軍としてのやるべき職務は山程ある。今日の手合わせも多忙の中、何とか時間を作って行ったものだった。

 家臣や部下から小言を言われることを覚悟しながら帰路につく2人だったが──

 

「ッ!?」

 

「?──アルディアス様?」

 

 突然アルディアスが目を見開き、その場に立ち止まる。その様子に不思議そうな顔を浮かべるフリードだったが、段々と険しい顔つきになるアルディアスに何か緊急事態が起こったのだと察する。

 

「……カトレアに連れて行かせたアハトドが殺られた」

 

「なっ!?」

 

 アルディアスの言葉に驚愕する。

 数日前、フリードの部下であるカトレアはある任務の為、単身、人間族の国の、とある迷宮に潜入している。その任務とは、人間族の神エヒトによって召喚された勇者の勧誘。もしくは殺害だ。

 潜入任務故に人員を増やすことも出来ず、最初は()()()()()()()()()()アルディアス本人が行くつもりだったのだが、周りからの猛反発を受けた。

 かつて、王になる前に誰にも告げずに数日留守にして行ったことがあったので、そのことが尾を引いていたのだろう。

 当時めちゃくちゃ怒られたアルディアスは次からは必ず伝えてから行こうと心に決めた。

 だからといって、口頭で伝えず、自室に書き置きを残して行った時はフリードも頭が痛くなったものだ。

 本人からの進言もあり、渋々、カトレアを単身送り込むことになったのだが、流石に想定外の事態が起こらないとも限らないので、アルディアスが使役、強化した魔物を何体か連れて行かせたのである。

 アハトドとは、カトレアに連れて行かせた魔物の中でも上位の強さを持つ個体である。

 

「しかし、事前の調査ではカトレアどころかアハトドを倒せるレベルですらなかった筈……!」

 

「分からん。調査に漏れがあったか……もしくは勇者達の成長速度がこちらの予想を遥かに上回っていたか……何にせよ、このまま黙っている訳にはいかん。……フリード」

 

「……はぁ、本来なら増援部隊を編成して向かわせるべきなのですが……止めても無駄なのでしょう?」

 

 言葉にはすることはしないが、アルディアスが何を考えているのか分かったのだろう。フリードはため息を吐きながら尋ねる。

 

「ああ、それに場所は人間族の国内だ。下手に部隊を動かせばそれだけ犠牲者が増える可能性がある。何より間に合わん。俺が一人で向かうのが適任だ」

 

「……分かりました。こちらのことはお任せください」

 

「ああ」

 

 フリードからの了承を得たアルディアスはすぐさま魔力を練り上げる。

 すると、アルディアスを中心に黒く可視化された魔力が輪のように形成される。

 それはまるで、惑星の周囲に現れる環のようである。 

 

影星(かげぼし)

 

 魔法名を唱えたアルディアスの姿が一瞬で消える。

 

「相変わらず、めちゃくちゃな御方だ」

 

 とんでもない魔法を簡単に使用するアルディアスに思わずフリードは一人呟く。

 

『影星』──アルディアス曰く、“重力魔法“の星のエネルギーに干渉する力と“空間魔法“の境界に干渉する力の2つの神代魔法を組み合わせることで発動する魔法らしく、文字通りこの星の影、正確にはエネルギーを伝い、一度その地に行ったことがあるという条件はあるものの、超長距離転移を可能とする魔法。

 

 本人は「自分しか転移させることが出来ない失敗作だ」と言っていたが、世界各地に一瞬で転移可能な魔法を失敗作と断言できるのはアルディアス以外存在しないだろう。

 

「……ご武運を」

 

 もうすでにこの国にはいない主に向かって激励の言葉を呟いたフリードはすぐに踵を返し、王宮に向かう。

 自らの職務に加え、王の不在の対応など、やるべきことは山積みだ。だが、王自らが動いた以上、カトレアはきっと大丈夫だろう。

 

──我らの王は、この世界で最強なのだから。




アルディアスは“魔力操作“によって無詠唱で魔法を発動出来ます。なのに何故魔法名を唱えているのかと言うと……その方が(作者が)カッコイイと思ってるからです。

あと今更なんですがタイトルを
【ありそうで無かった魔人族のオリ主で世界最強】
にすればよかったと後悔しております。感想読んでたら思いつきました。

……コレッテ、カエテモイイノカナ?

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