【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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書きたかった事、全部詰め合わせたような回。
後悔はしてないです。


第二十五話 【一人じゃない】

「気付けないか……まあ、いい」

 

 ゆっくりとハジメに手を伸ばすアルディアス。ハジメは呆然とそれを見つめたまま動けない。

 その手がハジメに触れようとした瞬間──

 

『聖絶』

 

 二人を分かつように、光り輝く障壁が展開された。

 アルディアスが視線を横に向けると、そこには一人の少女──香織が此方に向けて手をかざしていた。

 

「ちょっ、香織!?」

 

「白崎さん!?」

 

「香織!?」

 

 その無謀すぎる行動に雫に愛子、リリアーナが驚愕の視線を向ける。他のクラスメイト達も同じような表情だ。

 

「これ以上ハジメ君は傷つけさせない!!」

 

 そう宣言する香織をじっと見つめていたアルディアスだったが、“聖絶“をそのまま掴み取ると、まるで紙屑のようにバリバリと引き剥がした。

 

「心意気は買うが、お前一人でどうにかなるレベルではない」

 

「一人じゃないよ!!」

 

「その通りですぅ!!」

 

 香織の声に反応するかのように、上空から一人の少女が降ってきた。

 

「だぁああああ!!」

 

 落下の勢いそのままにドリュッケンを振り下ろすシアを手をかざして魔法障壁を展開したアルディアスが難なく受け止める。

 轟音と閃光が辺りに響き渡る。とてつもない衝撃にアルディアスの足元がクモの巣状にひび割れるが、肝心のアルディアスの防御を崩せる気配はない。

 

『退くのじゃ、シア!!』

 

 どこからか声が響いてきた瞬間、シアはハジメを掴んで、一気に後退する。

 次の瞬間、天より舞い降りた黒竜から放たれた黒い閃光がアルディアスを呑み込んだ。

 

「シア!? それにティオも!? お前ら何でここに!?」

 

「ハジメさんがピンチなのに駆けつけないわけないですよ!」

 

『シアの言うとおりじゃ!』

 

 王都に居る筈の二人が神山に居ることに驚くハジメの前に、シアとティオがハジメを守るように立ちふさがる。

 

「待て、お前ら!? あいつとは俺が一人で──」

 

「お断りです!」

 

『お断りじゃ!』

 

「なっ!?」

 

 速攻で自分の意見を却下した二人にハジメは呆然とする。

 

「何一人でカッコつけようとしてるんですか!? 私はハジメさんに守られるだけの女じゃないですよ!?」

 

『妾も守られるだけは勘弁じゃぞ! むしろ盾にしてくれても良いのじゃよ! いくらでも嬲って良いんじゃよ!』

 

「ティオさんはちょっと黙っててください!!」

 

「お前ら……」

 

 空気を読まない発言をぶっこむティオを黙らせようとするシア。

 そんな二人を放っておいて、ハジメの側に寄ってきた香織がハジメの回復を行う。

 

「私はまだまだ弱いから、シアやティオみたいにハジメ君の隣に立つことは出来ないけど、傷ついた貴方を癒やすことは出来るよ。何度傷ついたって、必ず治してみせる」

 

「香織……」

 

「そもそも、私はハジメ君の(もの)なんだから、ずっと側にいるよ」

 

『あっ、ズルいのじゃ香織! ご主人様の奴隷(もの)扱いは譲れんぞ』

 

「何言ってるんですか、二人共! ハジメさんの恋人(もの)は私ですよ!!」

 

「……お前ら」

 

 すごく良いことを言っていたのに突然ハジメの取り合いを始める三人にハジメは途端に呆れた表情を浮かべる。

 それでも、三人のいつもと変わらないやり取りを聞いているだけで、自然と先程までの体の力みが抜けていく。

 今までウジウジと悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。

 

「そもそも、ハジメさんが沈んでる姿なんか似合いませんよ!! いつもの人を足蹴にして嗤う鬼畜さはどこ行ったんですか!?」

 

「おい」

 

「妾、どんな扱いでもバッチコイじゃが、やっぱりご主人様はドSに限るのじゃ! ご主人様がMになってしもうたら、誰が妾を満足させてくれるのじゃ!?」

 

「おい」

 

「二人共流石に言い過ぎだよ! 確かにハジメ君は鬼畜だしドSだけど、昔は子供を助ける為に道端で土下座したりしてたんだよ!?」

 

「「マジでか!?」」

 

「……」

 

 今のハジメからは想像も出来ない過去に、思わず語尾が無くなるシアとティオ。

 そんな彼女らに思わず青筋を立てるハジメ。

 

「クククッ、中々面白い関係を築いてるな」

 

 すると、ブレスの影響で砂煙が舞い上がって視認が出来なかった着弾地点から声が聞こえた。

 ハジメ達がすぐに視線を戻すと、突風とともに砂煙が吹き飛ばされ、何事も無かったかのようにアルディアスが姿を現した。

 アルディアスがチラッと上空に視線を向けると、ウラノスに騎乗したフリードとアレーティアの姿が見えた。

 此方に視線を向ける二人に頷いて返すと、ハジメ達に視線を戻す。

 

「で? お前は女の後ろに隠れてるだけか? 好きな女の前でくらい、カッコつけたいんじゃなかったか?」

 

 まるで、此方を挑発するような発言にムッとしながらハジメは立ち上がる。

 その瞳には、先程までの怯えた色は見えなくなっていた。

 

「舐めんな。お前程度、()()なら楽勝だ…………認める。お前の言う通り、俺は怖かった……お前が、その後ろに居る神が……」

 

 あの日、アルディアスと初めて戦った日。命が助かったことに安堵すると同時に恐怖した。あのまま戦い続けたら、間違いなくシアと共に殺されていた。自分が死ぬことはどうでも良かった。でも大切な人を守りたいと強く願う程、大切な人が増える程、その恐怖は日を追うごとに強くなった。

 それなら、全部一人で背負えば良い。そうすれば俺が負けなければ何も失わない。

 

「でも、それは間違いだった。馬鹿だよな。二人でも歯が立たなかったのに、一人じゃ余計勝てるわけがねえ。ああ、そうさ。怖えよ。俺の攻撃で傷一つ付かないお前が。お前程の男が居て未だに存在するエヒトが……怖くてたまらねえ。こちとら少し前まで戦いとは無縁の生活してたんだぞ……無茶言うなっての」

 

 ハジメがアルディアスの前に歩み出る。

 その後ろ姿に、香織が……ティオが……そしてシアが、力強い笑みを浮かべる。

 

「一人じゃ絶対に勝てねえ。でも、負けるわけにはいかねえ! 守るって決めたんだ!! どんな奴が相手だろうと俺はもう負けねえって! 例え、お前が相手だろうとも!!」

 

 静かにハジメの叫びを聞いていたアルディアスは、じっとその瞳を見つめる。それに対して今度は一切逸らすこと無く睨み返すハジメ。そして、アルディアスが……笑った。

 

「良く()えた。所詮、人一人に出来ることなど限られている。だからこそ、俺たちはそれぞれの足りない部分を補い合い、力を合わせるんだ。一人で完成している者など、存在しない。全員で完成させるんだ」

 

 神殺しを成し遂げたアルディアスとて、全てを一人で成し遂げたわけではない。彼がそれを成せたのは、彼を支えるアレーティア、フリード、カトレア。魔国に住まう国民達。志半ばで散っていった多くの同胞。そして、愛情を注いでくれた両親。

 彼らの存在がアルディアスを奮い立たせ、ここまで背中を押してくれた。倒れたら、引っ張り上げてくれた。

 誰かを想い、誰かと共に戦う。それが出来るのが人という生き物なのだから…… 

 

 表情を引き締めたアルディアスから尋常でない程の魔力が溢れ出す。

 

「見せてみろ、お前達の力を……!」

 

「言われなくても!!」

 

「先手必勝です!!」

 

 シアが自身の重さをドリュッケンを含めて五キロ以下まで落とし、アルディアスに肉薄する。

 ドリュッケンを上段から振り下ろすシアに対して、先程同様、障壁を展開して防いだ後、アルディアスは虚空から一振りの直剣を取り出した。

 

「うええええ!? 剣も使えるんですか!?」

 

「使えないとは言っていない。魔法のほうが合ってるだけだ」

 

 そう言って剣を振るい、シアを一方的に圧倒する。

 攻撃が当たらない事に焦ったシアが、何とか一撃を当てようと大振りになった瞬間、迫っていたドリュッケンをスルリと躱し、そのまま流れるようにシアの背後を取る。

 

「パワーはある。だが、技術が足りん。闇雲に振るうのではなく、敵の動きを予測して動け」

 

「私、未来見てるんですけど!?」

 

「ん? なるほど、予知能力を持っているのか。例え、俺の動きを予知して動いたとしても、俺はその動きを見てから動きを変える。あくまで予知は行動の選択を狭めるだけのものと考えろ」

 

「むちゃくちゃです!!」

 

 そのままシアを弾き飛ばすと、すかさずハジメのドンナー・シュラークによる銃撃がアルディアスに襲いかかる。

 その場で地面スレスレまで体を低くしてそれを躱し、間髪入れず、ハジメに向けて突進する。

 リロードする暇が無いことを察したハジメが、クロスビットを操作し、結界を展開する……が、ハジメの展開した結界をまるでバターのように軽々と両断する。

 

「どんな材質だよそれ!?」

 

「俺のお手製だ。まあ、普段はあまり使わないがな。お前は手札が多いが、そのせいで行動に移すのに僅かにラグがある。武器の選択は迅速に行え」

 

「てめえが速すぎるんだよ!!」

 

 近接は分が悪いとハジメはその場からバックステップで距離を取る。

 

 追撃しようとした瞬間、アルディアスを大きな影が覆った。

 

『これでも喰らえい!!』

 

 上空からティオのブレスが襲いかかった。

 音すら置き去りにして放たれたソレは轟音と共に辺りの地面を融解させていく。

 

『やったかの?』

 

「いや、ティオさんそれフラグ……」

 

「……ッ!? 後ろだ、ティオ!!」

 

『ッ!?──なっ!?』

 

 ハジメの言葉にティオが慌てて後ろを振り向くと、そこには宙に浮かぶアルディアスの姿があった。

 

「自分よりも実力が上の相手に対して視界を塞ぐのは得策ではないな。それに体が大きい分、他の者との連携にもズレがある」

 

『禍天』

 

『ぐうっ!?』

 

 ティオの頭上に黒く輝く球体が現れ、そのままティオの体を地面に押し潰した。

 

「各々の実力は中々だが、まだまだ連携が拙いな。まあ、こればっかりは経験が物を言う分仕方がないか」

 

「魔法だけじゃなくて、剣まで……マジでチートじゃねえか」

 

「諦めるか?」

 

「冗談……! 絶対一発喰らわしてやる!! 行くぞ、シア!!」

 

「はい、ハジメさん!!」

 

 ハジメとシアがアルディアスに向かっていくが、アルディアスは二人の攻撃を余裕で捌いていく。

 

「南雲君……」

 

 そんな彼らの戦いを愛子は不安そうな表情で見守っていた。

 

(生徒である南雲君が戦ってるのに、私は……!)

 

 分かっていた筈だ。自分の知らないところで彼らが戦っていることなど。ウルの町で魔物の群れに挑む姿も見た。しかし、それはハジメの実力で十分対処できる範囲のもので、心配する気持ちが無かったわけでは無いが、黒竜(ティオ)を圧倒したハジメならば大丈夫だろうと心のどこかで感じていた。

 だが、目の前の相手は違う。ハジメが、仲間を連れても全く歯が立たない。あんな必死な表情のハジメを初めて見た。

 

(でも、戦いなんてしたことが無い私じゃ……取り柄なんて作農師のスキルしか……作農師?)

 

 自分の掌を見つめていた愛子がハッと何かに気付いた様子を見せると、辺りを見回した後、香織の魔法を受けているティオの姿を捉える。

 

(うまくいくか分からない。それでも……)

 

 拳を握りしめた愛子は周りの生徒の制止の言葉を聞かず、ティオと香織の元に走り出した。

 

 

 ◇

 

 

「どうした? 動きが鈍くなってきているぞ?」

 

「うっせえ!!」

 

 精一杯の悪態をつくハジメだったが、全く勝機の見えない戦況に焦りを浮かべ始めた。アルディアスの防御は硬く、全く突破できる気配が無い。

 あの障壁を破壊できる可能性のある兵器が無いわけではないが、あまりにも攻撃範囲が広すぎて、周りを巻き込みかねない。何より、素直に当たってくれるとも思わない。

 

(くそっ、どうする、このままじゃ──)

 

(ご主人様、ちょっと良いかの?)

 

(……ティオ?)

 

 何か逆転の手は無いかと考えていたハジメの脳にティオの声が響いてきた。どうやら念話で語りかけているようだ。

 

(どうした? 回復したんなら手を貸して欲しいんだが)

 

(今、ご主人様の先生殿から提案を受けての)

 

(……先生?)

 

 ハジメがチラッと視線を向けると、確かにティオと香織の側に愛子の姿が見える

 

(何で先生が?)

 

(とりあえず、先生殿からの話をそのまま伝えるのじゃ)

 

 そうして伝えられた内容に段々とハジメの顔が強張っていき、最終的には完全に引きつってしまった。

 

(マジか……良く思いついたなそんなの)

 

(妾としては悪くないと思うんじゃが……どうするご主人様)

 

 ティオからの問いかけに少し思案したハジメはすぐに返答を出した。

 

(……分かった。どうせこのままじゃ負ける。なら、先生の策に懸けてみよう。ティオと先生は何時でもいけるように準備しておいてくれ)

 

(了解じゃ!)

 

 ハジメの了承を得たティオと愛子はすぐに準備を始める中、ティオの回復を終えた香織は二人を置いて、リリアーナやクラスメイト達の元に走る。

 

「リリィ! 雫ちゃん! 今すぐここを離れて!」

 

「香織? いきなり何を……? それに愛ちゃんが……」

 

「早くしないと皆吹っ飛んじゃう!!」

 

「「「吹っ飛ぶ!?」」」

 

「ま、ま、待ってください、どういうことですか香織!?」

 

 困惑するクラスメイト達に香織が簡単に説明する。すると彼らも状況を理解したのか表情を青褪めさせて、我先に下山を開始する。本来ならリフトで移動するためか、あまり整備されていない山道だが、常人よりも高いステータスを誇る彼らなら問題は無いだろう。

 

「私は最後まで残ります」

 

「リリィ……」

 

 誰もが背を向ける中、リリアーナはその場を動く気配がない。

 

「大丈夫です。少しは離れますし、いざとなったら結界を張りますから……私ではあの戦いに介入することは出来ません。ならばせめて、この国の王族として、この戦いを最後まで見届ける義務があります」

 

「なら、私もリリィと残るわ。万が一が無いとも限らないし」

 

「なら私も!! 守るのは得意だし!!」

 

「んーーー、うん、分かった。私も二人と一緒にいるよ。でも十分気をつけてね!」

 

 リリィに続いて雫と鈴もここに残ると言い出したことに一瞬困った表情を浮かべる香織だったが、三人なら大丈夫だろうと頷いた後、未だにその場から動く様子の無い光輝に視線を向ける。

 

「か、香織……俺は……」

 

「光輝君は皆に付いていて」

 

「で、でも……」

 

「皆、色んなことがあって動揺してる。だから、光輝君に付いていてほしいの。大丈夫、こっちはハジメ君がいるから!」

 

 だから、大丈夫。そう告げる香織の顔を見て、光輝は一瞬目を見開いた後、表情を暗くして小さく呟く。

 

「ッ!? そうだよな、俺なんかよりも南雲のそばの方が安心できるもんな」

 

「え? 光輝君?」

 

「分かった、後は任せた」

 

 困惑する香織を置いて、光輝は下山するクラスメイト達の後を追っていく。

 

「はぁ、龍太郎、光輝のことお願いね」

 

「……ああ、こっちは任せとけ。そっちも気を付けてな」

 

 そんな様子に雫は一つため息をついて、自分と同じ様に光輝の後ろ姿を心配そうに見つめる龍太郎に、今にも消えて無くなってしまいそうな幼なじみのことを頼み、龍太郎もそれを了承する。

 それを見送った後、雫は香織に一つ気になったことを問いかける。

 

「ねえ、香織。その作戦だけど、もし、南雲君が失敗したら実行も出来ないわよね?」

 

「え? それは、そうだけど……」

 

「南雲君が強いのは知ってる。けど敵はそれ以上。考えすぎな位が丁度良いと思う」

 

 雫の話の意図が読めず、頭に疑問符を浮かべる香織だったが、続きを聞かされた香織は驚愕に目を見開く。

 

「私じゃ相手にすらならないのは百も承知。でもやれないことが無いわけじゃない」

 

 

 ◇

 

 

「あの竜人族、それに側に居る少女……何かしているな?」

 

「さてな!!」

 

 ハジメは宝物庫よりオルカンを取り出し、アルディアス目掛けて全弾発射する。

 

「また同じ手を……」

 

 すかさず、“雨龍“で迎撃しようとしたアルディアスだったが、発射されたミサイルの軌道が自分を向いていないことに気付く。

 扇状に着弾したミサイルは轟音と共に地面を削り取り、周囲を業火に包み込む。

 片手で障壁を展開し、あくまで自分に着弾するミサイルのみを防ぐアルディアス。

 ハジメの意図が分からず、眉を顰めるアルディアスだったが、突然体を浮遊感が襲った。

 

「これは!?」

 

 アルディアスの立っていた地面が突如、盛り上がり、とんでもない速度で上昇を始めた。

 僅かに地面に感じる魔力の痕跡。恐らくオルカンのミサイルをばら撒いたのは、地面に流れる魔力の察知を遅らせる為だろう。

 何よりも、ここに来て、アルディアスはハジメの隠された技能に驚愕した。

 

「魔法じゃない!? まさか、錬成師か!?」

 

 ハジメはこの世界には無い地球の兵器を、アーティファクトとして作製、使用している為、ステータスプレートを見たことがある王都の人間以外は、彼の天職を特殊な戦闘職として誤認している。

 アルディアスもこの例に漏れず、勇者で無くとも、何か戦闘に関連するものだと判断していた。

 まさか、非戦闘職のありふれた職業などとは夢にも思わなかった。

 

「うりゃあああ!!」

 

 その時、上空から少女の雄叫びが聞こえたアルディアスが頭上を見上げると、ドリュッケンを大きく振りかぶったシアが上昇してくるアルディアス目掛けて全力で振り落とした。

 

 即座に障壁を展開し、シアの一撃を防ぐ。

 轟音が辺りに響き渡り、突き上がった地面がシアの一撃に耐えきれず、崩壊していく。

 しかし、肝心のアルディアスには攻撃は届いておらず、地面に降り立った状態で悠々とシアを見上げる。

 そのままシアを弾き飛ばそうとした瞬間、アルディアスの正面の土煙が吹き飛び、そこに赤いスパークを放ちながら巨大な杭を回転させているハジメの姿が目に入った。

 

(あれは何だ?)

 

 見たことの無い武装にアルディアスが対処を決める前に、外部に取り付けられたアームが障壁に突き刺さり、その兵器──パイルバンカーを起動させた。

 

「貫け!!」

 

 まるで落雷が落ちたような轟音と共に、ハジメの発射したパイルバンカーの杭が障壁に突き刺さった。

 

「ッ!!」

 

 一気に増した圧力にアルディアスは更に障壁に魔力を注ぐ。

 この時、アルディアスには受け止める以外の選択肢が確かに存在した。何も真っ向から戦うだけが戦いじゃない。

 シア、もしくはハジメに直接魔法を打ち込む。転移で一旦その場を退く。数えだしたらきりがない。

 しかし、アルディアスはあえて正面から受け止める選択を選んだ。

 

(俺相手にここまで正面からぶつかってくる奴は久しぶりだ。ここで退くわけにはいかんな)

 

 端的に言えば、珍しく高揚していた。自分で焚き付けた自覚はあるが、ここまで真っ直ぐにぶつかってくる相手に自分も応えたくなった。

 

 本来ならば、どんな強固な防壁すらも簡単に貫く一撃は、ギャリギャリギャリ!! と、耳障りな音を撒き散らしながらも障壁を突破しようと、赤いスパークと共に螺旋を描き続ける。障壁にヒビが広がり、杭の先端が障壁内に入り込む。

 そして、ゆっくりと回転が……止まった。

 

「そんな……!」

 

「クソッタレ!!」

 

「中々の威力だったが……一手、足りなかったな」

 

 歯を食いしばるハジメとシアに向けて、持っていた直剣を振り上げる。

 

──一手あれば、届くのね。

 

 その瞬間、一人の少女の声がアルディアスの耳に飛び込んできた。

 

「シッ!!」

 

「ッ!?」

 

 アルディアスの意識の外、注意の向いていなかった背後から、雫の一太刀が襲いかかった。

 全く注意を向けていなかった刺客。ハジメとシアに意識を持っていかれたことと、雫がこの戦いに介入することなど不可能な程の弱者だからこそ、アルディアスの意識から無意識に外れていた。

 その一太刀はアルディアスに傷を付けることは叶わない。アルディアスが無意識に普段から展開している鎧とも呼べる魔法障壁。それが、雫の一撃を防いだ。

 しかし、それはあくまで意識外からの一撃で致命傷を避ける為のもので、衝撃までを完全に防ぐことは出来ない。

 死角からの一撃に、アルディアスの意識が一瞬ハジメ達から逸れる。

 

 その瞬間を、ハジメは見逃さなかった。

 

「シアーーー!!」

 

「あああああああ!!」

 

 ハジメの雄叫びに、シアはその場で体を捻り、その勢いでドリュッケンをパイルバンカーの杭に打ち下ろした。

 バキバキと障壁のヒビが広がりを見せる。そこへ──

 

「ぶっ飛べぇええええええ!!」

 

 左腕のギミックを起動し、更に“剛腕“と膨大な魔力による“衝撃変換“を発動した拳をドリュッケンに叩きつけた。

 パイルバンカー、ドリュッケン、義手による連撃を喰らった障壁は一瞬抵抗を見せたものの、甲高い音と共に粉々に砕け散り、背後のアルディアスをそのまま吹き飛ばした。

 その勢いは凄まじく、ハジメ達の居る場所から遠く離れた塔の天辺に直撃したのが薄っすら確認できる。

 

「ティオ!!」

 

「ゴォガァァアアアア!!」

 

 ハジメの指示に愛子を背中に乗せ、上空で待機していたティオの顎門から、今までとは一線を画す程のブレスをアルディアス目掛けて解き放った。

 黒い輝きを放って一直線に突き進むレーザーは、そのままアルディアスが居るであろう崩れ行く塔の残骸に直撃し、一瞬の閃光の後、天まで届くほどの大爆発が起こった。

 

「錬成!」

 

 爆風が周囲を巻き込んでいく中、ハジメの声が微かに周囲に響き渡った。




>ハジメ
 仲間が居ると強くなる。うん、もうとことんジャンプ系主人公させようと思った。魔王にはパーティで挑む。これ絶対。

>アルディアス
 何が大変だったかって、どうすればアルディアスと戦いを成立させられるかの一択。誰だこんなに強くしたの!!
 ヒュベリオンを打ち込んで焼き尽くす。錬成で閉じ込めてティオのブレスで窒息させる。色々考えた結果、原作通りに爆破しました。
 ……え? 教会の連中? 大丈夫、そもそも誰も生きてないから。

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