【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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今回ちょっと短めです。


第二十八話 【人間族の新たな希望】

 世界が漆黒に包まれ、トータスの地形すら変わってしまった運命の日。言うまでもなく、世界は混乱の渦に巻き込まれた。

 王都の人間は、魔人族の襲撃を受け、次々と王国の兵士が倒されていく中で起きた異常事態。混乱するなと言う方が無理な話だ。

 これも魔人族の仕業かと騒ぐ王国民だったが、これを収束させたのは、他でもない王都を襲撃していた魔人族達だった。

 多少手荒な手も使ったが、彼らの尽力がなければ、民から民にパニックが伝染していき、何が起こっても不思議ではなかった。

 

 だが、それでも王都に居た人間はまだマシだった。何故ならば、彼らは空が漆黒に包まれ、視界を光が覆う事態以外は、特別何かが起こることは無かったのだから。

 問題は王都の外。突如土地ごと転移させられてきた者達だ。

 何せ、目も開けられない光に覆われたと思ったら、国や街ごとどこか分からぬ場所に移動していたのだから。最初に外の光景が変わってることに気付いた衛兵が、しばらく意識を飛ばして呆然としてしまっても仕方がないだろう。

 

 魔国、帝国の二国にはアルディアスから“念話“で迅速に状況説明がされた。魔国は言わずもがな、帝国もガハルドが各所に兵士を派遣することで、民の混乱を最低限に防いでいた。

 フェアベルゲンに関しては、周囲を深い樹海に覆われている影響で、国そのものが転移したことには気付いておらず、アルディアスから事情を聞いたアルフレリックは大層驚いていた。

 

 その他の都市や街に対してはアルディアスが動く訳にもいかず、神山から下山したアルディアス、そしてリリアーナから状況を聞いたエリヒド王主体の元、各地に騎士団が派遣され、事態の収束を第一に行動を開始した。

 正直、王国の騎士団だけではとてもカバー出来る範囲の規模では無かったのだが、そこに魔人族の部隊が手を貸すことになった。あくまで彼らは周囲の索敵を行い、情報を騎士団に共有し、それを元に騎士団が急行する。

 図らずとも、人間族と魔人族が、初めて協力することになったのは言うまでもない。

 

 しかし、それでも完全に事態を収拾させるに至ったのは、あの日から丸二日を経過してからだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

──魔国ガーランド・魔王城

 

「各地の状況はどうだ?」

 

 世界が最低限の落ち着きを取り戻した翌日の早朝。アルディアスは魔王城の通路を目的地に向けて進みながら、後ろに続くフリードに問いかける。

 

「はい。一応の落ち着きは見せたものの、やはり不安は隠せないようです。一部の人間族の中には、今回の現象が魔人族に対するエヒト神の怒りと噂する者もいるようです」

 

「まあ、あながち間違いではないな」

 

 神違いだが……そう続けるアルディアスにフリードも疲れたように頷く。

 今の会話から分かる通り、人間族には未だにエヒトの真実を公表していない。ようやく混乱が収まったばかりのところに真実を告げれば、どうなるかは火を見るより明らかだ。

 すでに事実を公開し、周知させている魔人族と亜人族。更に世界が再構築されたことにより、隠れ里ごとその存在が公になったある種族を除けば、トータスに住まう種族の中で一歩遅れていることになる。

 

「その対応も含めて、これから決めることになる」

 

「はい」

 

 そのまま、フリードを連れたアルディアスは一つの扉の前に立ち止まる。

 扉の両脇に待機していた魔人族の兵士達が敬礼したのち、扉を開ける。

 そのままアルディアスが扉をくぐると、中に居た十二人の人物の視線がアルディアスに向けられる。

 

「おいおい、呼び出した本人が最後たぁ、良いご身分なこって」

 

「陛下、仮にも帝国は魔国の属国へと下ったのですから、言動にはお気をつけを」

 

 ヘルシャー帝国皇帝、ガハルド・D・ヘルシャー。その側近、ベスタ。

 

「そう仰るな、ガハルド殿。彼らの尽力のおかげで被害を最小限に抑えられたのだから」

 

「お待ちしておりました」

 

 ハイリヒ王国国王、エリヒド・S・B・ハイリヒ。同じく王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒ。

 

「まさか、かの噂に聞く魔王とこうして顔を合わすことになるとはな……」

 

「同感です」

 

 アンカジ公国領主、ランズィ・フォワード・ゼンゲン。その息子、ヒィズ・フォワード・ゼンゲン。

 

「私達がこのような集まりに呼ばれる日が来ようとは、思ってもみなかったな」

 

「アルディアス様! お久しぶりです!!」

 

 フェアベルゲン長老衆が一人、アルフレリック・ハイピスト。その娘、アルテナ・ハイピスト。

 

「それを言うならば私たちこそ、こんな形で表の世界に再び出ることになるとはな」

 

「竜人族の隠れ里があんなとこに現れたのは流石に度肝抜かれたのじゃ」

 

 竜人族の長、アドゥル・クラルス。その孫娘、ティオ・クラルス。

 

「何で俺まで……」

 

「シャキッとしてください! 南雲君は私達の代表で呼ばれたんですから!!」

 

 異世界転移者代表、南雲ハジメ。その付き添い、畑山愛子。

 

 部屋の中央に置かれた大きな机には各国、各種族の代表者が椅子に座り、その後ろには、それぞれ一名の補佐が付いている。

 彼らの視線を一身に受けたアルディアスは特に動揺することもなく、空いている椅子に座る。

 

「すまない、遅くなってしまった。各国、各種族の代表者の方々よ。まずは此方の呼びかけに応えてくれたこと、感謝する」

 

 そう言い、軽く頭を下げるアルディアスの姿を見て、ガハルドがふんっと鼻を鳴らす。

 

「俺達はてめぇの下に付いたんだ。従わねえ訳にはいかねぇだろ」

 

「ガハルド殿の言う通りだ。そもそもこうして私達が生きて居られるだけで奇跡なのだから」

 

 エリヒドの言う通り、本来なら、王族の彼らは一族まとめて処刑されていてもおかしくはない。その助命に神の存在が関係していることは、彼らからすれば何とも言い難いものだろう。

 

「国ごと転移したこともそうだが、すでに王国と帝国が落とされていたことには驚いたな。明日は我が身だった、という訳か……」

 

 自分達がまるで蚊帳の外だった現状と、気付いたときには完全に詰んでいたアンカジ公国の未来を知ったランズィは、驚愕よりもその鮮やかすぎる手口に笑うしかなかった。

 

「その点は同意しよう。いきなり帝国を落とし、多くの同胞を連れて現れた時は流石に言葉を失った」

 

 帝国の影に怯える日々が突然終わりを迎えたのだ。未だにこうして各種族の会談に自分の席が出来たことが信じられないアルフレリック。

 

「そんで何よりも……」

 

 ガハルドが言葉を止め、一人の男に視線を向ける。それつられるように、他の者達も同意するように視線を向ける。

 

「まさか、滅んだ筈の竜人族とこうして会えるとはな」

 

 視線を向けられた緋色の髪をした初老の男は、そんな彼らの反応も仕方がないだろうという風に頷いた。

 

「私達は五百年もの間、外界との接触を禁じていた。滅んだと思われていても仕方がないだろう。しかし、此度の危難、流石に黙っておる訳にもいかぬ」

 

 そう断言したアドゥルは徐ろにアルディアスに視線を向けた。

 

「時に、アルディアス殿。孫娘から話は聞いたのだが……貴殿があのエヒトを討滅したというのは真か?」

 

「ああ、奴は俺が殺した」

 

 何でもないようにあっさり認めたアルディアスをじっと見つめていたアドゥルだったが、一つ頷いたかと思うと、突然深くその頭を下げた。

 

「じ、爺様!?」

 

 その光景にティオが目を見開くが、アドゥルは構わず話を続ける。

 

「五百年前、奴の指示で起こった迫害によって、竜人族は絶滅の危機に陥った。何とか大陸の外に生き延びることは出来たが、何人もの同胞が犠牲となった……言わば、エヒトは同胞の(かたき)。そして我らの怨敵。そのエヒトを討ってくれたのだ。貴殿には感謝の言葉もない」

 

「……ッ!」

 

 その言葉にティオも慌てて頭を下げる。しかし、その表情はどこか居心地が悪そうだ。

 その時は知らなかったから仕方がないのだが、ティオはアルディアス目掛けて、何度もブレスを浴びせているのだ。ハジメを守る為の行動だった故に、その時の行動を後悔している訳ではないが、その相手に自身の祖父が感謝の言葉を述べている手前、何とも言えない気持ちになる。

 

「エヒトは人類の共通の敵。あくまで自分の為に行動したにすぎない。そこまで改めて感謝を述べる必要はない」

 

「それでも、だ。自分のことで申し訳ないが、私がこうしたいのだ」

 

「……分かった、その感謝を受け取ろう。ティオ・クラルス。そこまで気にすることはない。あの時は戦場でお互い敵だった。それだけのことだ」

 

「むっ……分かったのじゃ」

 

 アルディアスの言葉にティオも一瞬迷う姿を見せたものの、ここで受け取る方が丸く収まると判断して、それを了承する。

 すると、それまで成り行きをただ見ていただけのハジメが口を開く。

 

「おい、アルディアス。何で俺まで連れてこられたんだよ。俺は国のトップでも無けりゃ、種族の代表でも無いぞ。ただの一人の人間だ」

 

「お前をただの人間で済ますには無理があるな。この俺を吹き飛ばして見せたんだ。それに、異世界人特有の視点も興味がある。この場に座るだけの資格はあると思うが?」

 

 その言葉にその場に居るほぼ全員が「ほう」と声を上げる。

 特にアルディアスの力をその目で見ているガハルドなどは、面白いものを見つけたと言わんばかりに目をギラつかせる、彼は実力至上主義国家のトップに立つ皇帝だ。魔人族に破れたとはいえ、その精神が失われた訳ではない。勇者は期待外れだったが、とんだダークホースが居たものだと感心する。

 一気に注目の的となってしまったハジメは思わず頬を引き攣らせる。

 確かに吹き飛ばしはしたが、あれはハジメ一人の力ではないし、そもそも結果的にノーダメだ。それに恐らくアルディアスは本気を出していない。

 真なる神(シュパース)に使った魔法。あれはすぐ近くに居ながらも、ハジメにはいつ撃ち出されたのか一切認識することが出来なかった。もし、あれが自分に向けられていたら、自らが死んだことに気付くことなくこの世を去っていたことだろう。

 完全に身の丈以上の期待が寄せられているが、下手に弁解しても謙遜と取られそうな気がする。

 肝心のアルディアスがハジメを陥れる訳では無く、純粋にそう思っているのも原因の一つだ。

 

「俺のことは良いんだよ!? つーか、そんなことを話す為に集まった訳じゃねぇだろ!!」

 

「それもそうだな、フリード」

 

「ハッ、では私、フリードが進行を務めさせていただきます。これより、トータス連合軍による【真なる神・シュパース対策会議】を始めます」

 

 魔人族、人間族、亜人族、竜人族、そして異世界人。

 決して交わることの無かった五つの人種が一つの場所に集まる、歴史上初めての会議が始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「──では、戦えない一般人は種族ごとに分け、指定の避難先に……」

 

「それが妥当だな」

 

「敵は兵士一体でもそれ相応の力を持っている事が予想される。それについては……」

 

「それなら俺に考えがある。ハジメ、それについてお前の意見を聞きたい。異世界の技術を組み込めるかもしれない」

 

「一般兵の強化は必須か。しょうがねぇな」

 

「戦場は王都前の平原ということだが、そこに部隊を展開したとして、本当に現れんのか?」

 

「情報通りなら、我らとの戦いそのものが目的の筈。わざわざ避けて通ることはありえないだろう」

 

 会議が始まり、二時間程経過した頃。

 神という未知なる敵を前に、会議は大いに難航したが、お互いの知識をぶつけ合い、少しずつではあるが、来たるべき日に備えて、着実に話は進んでいった。

 そして、次の議題は誰もが無意識に後に回していたある問題だ。

 

「──これだけの規模の人数を動かす以上、兵士を鼓舞する為の中心となる人物が必要です。それを誰にするか……」

 

 とうとう、フリードの口から語られた内容にその場の全員が一瞬押し黙る。

 この戦いには、トータスの地に住まう様々な種族が集結することになる。命令の統一性を確立させる為にも、その全てのリーダーとなる一人を選ばなければならない。しかし、種族間の溝は深く、簡単に決められる問題ではない。

 最初に口を開いたのはガハルドとランズィだ。

 

「俺はパスだ。そもそも俺達は敗者だ。そんな奴に務まるような立場じゃねぇ」

 

「私も今更全体を率いるような事は出来ない。完全に役不足だ」

 

 それを聞いたエリヒドも続く。

 

「私もガハルド殿とランズィ殿と同意見だ。そもそも聖教教会に従うだけだった私にそこまでのカリスマは無い」

 

「そんなことは!?」

 

「良いんだ、リリアーナ。結局私は神に良いように操られていただけに過ぎない。この場に集った方々と比べると、確実に劣っている」

 

 エリヒドの言葉に反論しようとしたリリアーナだったが、すぐに首を振って否定する。

 次はそれを見ていたアルフレリックとアドゥルが発言する。

 

「私もその任を任されるには荷が重いな。こうして一種族として席に着かせて頂いたが、人間族からの差別が消えた訳ではない。私が上に立つことで要らぬ争いが起こるだろう」

 

「同じく。竜人族も歴史から姿を消した種族。突然現れ、全種族を率いることに困惑する者も出てくる筈だ」

 

 人間族、亜人族、竜人族と立て続けに辞退し、残すところはアルディアスとハジメだけになるが……

 

「俺はやらねえぞ。元々そんな器じゃねぇし、肩書も何も無い俺じゃ無理だろ」

 

 とのハジメの発言で、実質残りはアルディアスだけになってしまった。

 全員の視線を受けたアルディアスは、一人一人に視線を向けた後、ハッキリと断言した。

 

「いや、俺では連合が分裂しかねない」

 

 遠回しの拒否する発言に、その場に居る全員が目を見開く。難しい問題ではあるが、任せられるのはアルディアスしかいない。誰しもがそう思っていた。その為、それを否定するアルディアスの姿が想定外だったのだ。

 

「おいおい、そもそもトータスの種族を統一して事に当たろうとしてたのはお前じゃねえか。そのぐらい想定してただろ」

 

「ああ、もちろんそのつもりだった。だが、世界が再構築された影響で今までの怨敵の住む都市が目と鼻の先にある。その状況に一部の人間族……特に王都の人間が不穏な空気を見せていると聞いている」

 

「……ああ、アルディアス殿の仰る通りだ。私もそのような民が出てきていることは耳に挟んでいる」

 

 帝国と王国。魔人族に敗北したという意味では同じだが、その意識には大きな差が生じてしまっている。

 帝国は自分達の掲げる力で圧倒的な敗北を喫したことで、自分達は敗者である。という認識を少なからず持っている。

 しかし、問題は王国だ。彼らも敗北した事実は一緒なのだが、何せ、タイミングが悪かった。

 決着はほぼついていた戦いだが、シュパースが現れたことで、世界が再構築され、その対応に優先していたせいで、王都の民の中には、敗北を認知していない民が一定数存在する。

 国王の名の下に、正式な敗北を認めてはいるものの、それも完全ではないようだ。

 

「そのような状況で俺を上に立ててしまえば、一部の人間族から間違いなく反感を招く」

 

 例え、王都の一部の人間が暴挙に出ようとも、本来は痛くも何ともないのだが、今は時期がマズイ。事前に不満が爆発するのならまだマシだが、戦闘が始まってから問題が起こることだけは避けたい。いつ爆発するのかも分からない爆弾を背負って戦うようなものだ。

 

「しかし、それでは一体誰を……?」

 

「この連合で多くの比率を占めるのは人間族だ。その人間族が反感を持ってしまえば、周りの者にも影響が広がる。それだけは防がなくてはならない。エヒトの真実も今の彼らに告げるのは危険だろう。つまり、それと同等、もしくは勝る希望が必要だ」

 

 アドゥルの質問に答えながら、アルディアスはある方向に視線を向ける。

 

「一、二ヶ月程前のことだ。ウルと呼ばれる町に魔物の大群が襲いかかる事件が起こった。当初はパニックに陥る町の住人だったが、天が遣わした現人神が現れ、それに仕える使徒が魔物の大群をいとも容易く薙ぎ払ったらしい」

 

 現人神? その言葉に誰もが首を傾げる中、ハジメと愛子だけは背中に嫌な汗が流れる。なにせ、覚えがありすぎる上に、アルディアスの視線が間違いなく自分達に向けられているのだ。

 

「その現人神の名は“豊穣の女神“。今やウルの町を起点にエヒトにも並ぶ程の信仰が広がりつつあるようだ」

 

 その心当たりのありすぎる二つ名に、ハジメの後ろに居た愛子の肩がビクッと震える。そんな愛子の様子に気付いているハジメだったが、アルディアスの考えがなんとなく読めて、頬がひきつる。

 確かに、一部の人間族に浸透しつつある“豊穣の女神“の名を使えば、立ち上がる人間族は居るだろう。

 魔人族との戦争に負けた彼らの元に、そんな存在が現れ、しかもそれが魔人族の王であるアルディアスの上に立ったとしたらどうなるか……考えるまでも無い。

 周りの者もアルディアスが先程から同じ場所……いや、一人の人間を見ていることに気が付いたのだろう。各国のトップ達の視線が小さな少女に向けられる。

 

「“豊穣の女神“──いや、畑山愛子殿。貴女にこのトータス連合軍のトップを任せたい」

 

「……え? えええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 部屋中に愛子の悲鳴にも似た絶叫が木霊した。




>トータス連合軍。
 魔人族(+吸血鬼族)、人間族(+異世界人)、亜人族、竜人族で構成された、対シュパース対抗組織。
 各都市が王都周辺にギュッてなったので比較的早く集まれました。

>ただの社会科教師だった私が異世界転移したら世界のトップを任されたんですけど!?
 これで一本の物語が出来るかもしれない。
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