オリ主最強タグに肯定的な意見が多かったので、そのままでいこうと思います。
今回の話はクラスメイトsideです。
魔国ガーランドにて、各国、各種族の代表による会議が開かれた日。
その同日にハイリヒ王国王女から、明かされることとなった世界の真実。
曰く、世界を我が物にしようと画策した邪神の手によって、真名を奪われてしまったエヒトに変わり、世界を裏で支配し続けてきた邪神がとうとう世界に牙を向いてきた。
曰く、数日前の神の使徒の異端者認定は、この邪神の策略によるもの。
この事実はまたたく間に王都中に広まっていった。もう神の使徒を裏切り者と罵る者は居ないだろう。
更に、邪神を討滅するために現れた”豊穣の女神”の存在が、折れかけていた人間族の心をギリギリのところで持ち直していた。
今はかの女神の指示に従い、来たるべき戦いに備えて各々が忙しなく動いている。誰もがその後ろに居る魔人族の将軍の存在には一切気付いていない。
しかし、決して全員が前を向くことが出来ているわけではなかった……
◇ ◇ ◇
西の空に太陽が沈み、王都に夜の帳が下りる。そんな中でも各地で様々な人々の声が聞こえる中、王宮のとある部屋にて、布団に包まったまま横になる一人の少女が居た。
「……恵里」
少女──鈴は自分以外誰も居ない部屋の中、今までそばに居た親友の名を無意識に呟く。
神山を下山した後、行く宛が無い彼女らに手を差し伸ばしたのは、他でも無いリリアーナだった。秘密裏に王宮に匿うことで彼らを保護したのだ。元々は魔人族の襲撃を見越して、王都の外に逃がす算段だったのだが、現状で外に放り出す方が危険と判断して、父であるエリヒド王にも協力してもらった。
今では、リリアーナと愛子の影響で彼らの異端者疑惑も解けているので、気にせず街に出ることも出来る。
しかし、鈴はそんな状況にも関わらず、あの日から自室に引きこもったまま一歩も外に出ることはしなかった。
「恵里にとって、私はただの便利な道具だったのかな……」
思い出すのは、あの日の恵里の独白。彼女が自分のそばに居たのは、光輝と関わりやすかったから。ただそれだけ。そこに友人としての信頼など最初からなかった。
正面から堂々と宣言された鈴はあれから部屋に引きこもって、まともに食事も取らずに自問自答を繰り返していた。
脳裏に浮かぶは、今までの恵里との思い出。気がつけばずっと一緒に居た。鈴の家で遊んだことも数え切れないし、放課後に一緒に帰ったり、公園で何をするわけでもなくただただ駄弁っていたこともあった。
読書が好きで、いつもどこか皆の一歩後ろにいて……それで……それで……
「……あれ?」
そこで鈴はふと気がついた。恵里がおとなしい性格だったのはよく知ってる。本が好きなのも知ってる。好きな食べ物も知ってる……後は?
「私、恵里とずっと一緒に居たのに……」
基本は鈴が話題を振ることが多く、恵里は鈴の話を聞いて相槌を打つことが多かった。それ故に恵里から何かを聞くということがあまりなかった。
気にならなかったわけではない。恵里の家に行ってみたい。恵里の家族ってどんな人? 聞いてみようと思ったことはある。でも、恵里は何となくその話題を避けてる気がしたから踏み込まなかった。
それは何故か……怖かったからだ。相手の聞かれたくないことを聞いて嫌われたくなかったから、一人になるのが怖かったから。
「私……恵里のこと全然知らない。こんなんで親友なんて名乗れるわけがない」
それならどうすればいい? 決まってる。これから知っていけば良い。それに……
『──作る、筈だったんだけどなぁ』
あの時見せた恵里の表情。それまでの狂気的な雰囲気から一転、気怠げな表情。その顔の裏に恵里は何を思っていたのか……
「……ちゃんと話さないと。今度は逃げずに正面から!!」
あの時の恵里の語ったことは紛れもなく真実なのだろう。しかし、それだけじゃない気がする。何かに恵里は揺れている気がする。それが何なのかは知らないが、このまま部屋に引きこもっていても何も変わらない。
ベットから飛び起きた鈴はそのまま机の上に置いてある手鏡を手に取る。
「うわぁ、髪もボサボサだし、目の下の隈もひっど」
数時間前に、香織と雫が様子を見に来たときはかなり心配されたが、こんな顔をしてればそりゃ心配にもなるはずだ。
自分の顔の酷さに引いていた鈴は、気合を入れ直す為にパンッと頬を強く叩いた。
「よし! まずはお風呂入って、ご飯も食べて……やるぞ〜! 見てろよ恵里!」
バンッと扉を開けて、駆け出す鈴。「うおおおお!!」と叫びながら走る様子からはそれまでの悲痛な様子は感じられない。
「こらっ! こんな夜遅くに何事ですか!!」
「ご、ごめんなさい!!」
……少し、元気が出すぎたかもしれない。
◇
同時刻、王宮のテラスにて、明かりの灯る王都を見下ろしながら、光輝は一人ため息をついた。
「俺は……」
既に香織と雫から神山で何があったのか、そしてこの世界の真実を光輝は聞いていた。今まで光輝が盲目的に正しいと信じていたエヒト神が、実は人類を遊技盤の駒としか見ていない邪神であったこと。イシュタル達、聖教教会の人間はそのエヒトの為ならば、同じ人間ですら簡単に殺すこと。
ちなみにハジメが帰還の可能性を自ら捨てたことは、その場に居る者だけに留めておくことにした。
ハジメ自身はその選択に後悔は微塵も感じていないが、今のクラスメイト達がその話を耳にすれば、間違いなく暴走する危険性がある。疑惑は晴れたとは言え、処刑されかけたのだ。この世界の危機も相まって、いち早く帰りたいと願っていることは想像に難くない。
世界の真実を知り、以前の光輝ならばその事実に憤慨したかもしれない。それとも、その話を知ってて黙っていたハジメに強く当たっていた可能性もある。
しかし、話を聞き終わった光輝が感じたのは只々自分の過去の行動への後悔だ。
「俺が安易に戦うなんて言ったから……イシュタルさんの話を鵜呑みにしたから……」
結論から言えば、光輝の選択は全てが間違いだったわけではない。あの時、光輝達が戦争への参加を拒否していれば、間違いなくイシュタルは光輝達を、神に選ばれた存在でありながら、その威光に背く愚か者として捕らえていただろう。そう考えれば、光輝の選択は最善であったとも言える。
光輝の過ちは、イシュタルの話の全てを何の疑いもなく信じてしまったこと。そして、周りのクラスメイトと相談せずに、自分の考えをクラスメイトの総意として掲げてしまったことである。
「南雲が死にかけて……クラスメイトを危険に晒して……それに恵里も……」
今まで光輝は自分の行いを後悔するなんてことをしたことがなかった。困っている人が居れば、無償で手を差し伸ばし、風紀を乱す者が居れば注意を促す。誰かの為に行動することに間違いなんてあるはずが無い。そう信じてきた。
その価値観が……光輝の在り方が、完全に崩れた。
今になって冷静に考えれば、自分の行動の拙さに失笑する。
『皆は俺が守る!』
──南雲は奈落の底に落ちたじゃないか。
『魔人族は俺が倒す!』
──手も足も出なかったじゃないか。
『俺が世界も皆も救ってみせる!!』
──そんな力も覚悟も持ってないくせに……
これまでの自分の言動も、今となっては不快感しか感じない。
守ると言いながら、何故、南雲が死んだことを仕方がないと割り切った? 何故、人を殺す覚悟も無いくせに安易に戦争をするなどと口走った? 何故、何の根拠もなくイシュタルの言葉を鵜呑みに出来た? 状況的に考えれば誘拐犯の言うことをそのまま信じたようなものだ。
恵里のこともだ。何故恵里が裏切ったのか……雫に理由を聞いて愕然とした。自分を手に入れるため……それだけの為に恵里は人類を裏切った。意味が分からない。何故、恵里がそこまで自分に固執するのか理解できない。
しかし、原因が自分にあることは間違いない。恵里のことも自分が気付かずに何かをしてしまったのかもしれない。
雫に問い詰める形で聞くと、自分が助けたと思っていた裏で、様々な問題が起こっていたようだ。それを雫が人知れずフォローに回っていた。
ここまで来たら、最早自分の愚かさに笑うしか無かった。
勝手に手を差し出して……
勝手に救った気になって……
勝手に清々しい気分に浸って……
「俺は、何一つ正しくなんて無かった……!」
その場で頭を抱えて蹲る。叫びたかった。泣き喚きたかった。それでも、そんな資格も自分には無いと歯を食いしばる。
そのままどれくらい経っただろうか。未だに街では多くの人々の声が聞こえてくる。誰もが未来のために行動している。少し前の光輝なら一も二もなく手を貸しただろうが、今となっては自分が居ないほうが良い方向に進むのではと後ろ向きな考えが出てきてしまう。
「ハハッ、いっそのこと何処か遠くへ……誰も居ない何処かへ逃げてしまおうか……」
思わずそんな弱気な考えが光輝の口から漏れる。自分が居たから状況は悪化した。それなら元凶がここから居なくなれば誰にも迷惑は掛からないのではないか。
乾いた笑いを浮かべながら、弱音を吐く光輝がぼんやりとテラスから階下を見下ろしていると、ある二人組の姿が目に入った。
「ッ!?──あの人は……!」
その二人組の一人の姿を捉えた瞬間、光輝は思わず手すりに手を付き、テラスから飛び降りた。何か考えが浮かんだわけでは無い。完全な無意識での行動。しかし、考えるよりも早く体はその人の元へと向かっていった。危なげなく着地するとすぐにその人の元に駆け出す。
相手もこちらに気付いたようだ。怪訝な表情で光輝に視線を向ける。
「あ、あの……!」
目の前まで駆け寄った光輝は、言葉を発しようとするも、何も考えずに飛び出してしまった手前、うまく言葉が出てこない。
「…………ハア」
光輝が話し出すのを待っていた青年だったが、光輝が言葉に詰まっていて埒が明かないと判断したのか、一つため息をつく。それに光輝の肩がビクッと跳ねるが、そんなことを気にする様子もなく、そばに居た赤髪の男に話しかける。
「先に行っていてくれ」
「しかし……いえ、分かりました」
一瞬、逡巡した男だったが、光輝にチラリと視線を向けた後、青年を置いて夜の街に消えていった。
それを確認した後、青年はゆっくりと光輝と視線を合わせる。
「……で? 俺に何の用だ、クソガキ」
青年──アルディアスは気怠げにそう呟いた。
◇ ◇ ◇
翌朝。王宮の食堂にて、香織と雫が机を挟んで朝食を食べていた。
「そう、南雲君は昨日からアーティファクトの製作に専念してるのね」
「うん、シアやティオもそれぞれの種族の人達の元で色々やってるみたい」
「少し前まで国中何処も彼処も混乱の渦中だったのに、これも”豊穣の女神”のおかげってことかしら?」
「あはは、あれはびっくりしたよね。まさか先生が連合のトップだなんて……」
昨日、王都で突如行われた演説。シュパースとのやり取りを見ていた二人には、それが何なのかは予想が出来ていたが、まさか愛子がトータスの全ての種族をまとめる立場に立つことになるとは思いもしなかった。
しかし、その影響は絶大で、下を向くばかりだった人間族が愛子の言葉に希望を見出し始めた。
「……でも、クラスのみんなには届かなかったね」
表情に影を落としながら香織が呟く。
愛子達による演説は王宮に居たクラスメイト達の元にも当然届いている。だが、一部を除いてほとんどの生徒は部屋にこもったまま出てこない。この三日間、食事などの最低限の行動以外は朝から晩まで部屋で過ごしている者がほとんどだ。
この戦いに負ければ、この世界の住人だけでなく、自分たちの身すら危険に晒される。少しでも生き残る可能性を上げるならば、彼らも戦いに協力するのが最善の選択だろう。
しかし、彼らはそもそも戦いの覚悟も何も無いただの子供。今までも光輝の指示に従うだけだった彼らが、理屈で物事を決めることなど出来るわけもなかった。
「……ハジメ君の元に行くのは私と雫ちゃんと龍太郎君だけみたいだね」
「ええ、そうね」
昨夜、香織の持つ念話石を通してハジメから連絡があった。その内容は戦力の確認。決戦の日まで時間は無い。戦う意思があるのなら戦力に組み込むし、無いなら最初から当てにしない。戦わない者のアーティファクト製作に時間を割くなど無駄でしか無いからだ。
そのため、香織と雫は二人で昨日の内にクラスメイト全員の部屋を回り、その意志があるのなら朝に食堂に集まるように伝えていたのだ。その場で参戦の意志を示したのは龍太郎だけ。それ以外は明らかな拒絶を示すか、言葉を濁すかのどちらかだけだった。この場に誰も居ないことから結果は言うまでも無いだろう。
「仕方ないわ。無理に連れて行っても危険なだけ。龍太郎が来たら、すぐに向かいましょう」
「うん……でも、龍太郎くんどうしたのかな? もう約束の時間は過ぎてるけど……」
「はぁ、あの馬鹿。まだ寝てるんじゃないでしょうね?」
こんな大変な時に流石に無いだろうとは思うが、断言できない自分にため息をつく。
こうなったら直接部屋まで迎えに行こうかと、二人が考えていると、食堂の扉が音を立てて開かれた。その音に龍太郎が来たのかと思った二人が扉の方を振り返る。
「ちょっと、遅いわ……よ?」
「…………鈴ちゃん?」
しかし、現れたのは龍太郎の大柄な体格とは正反対の小柄な少女。この場に絶対に現れないだろうと思っていた鈴だった。
「カオリン! シズシズ! お待たせ!」
「鈴!? 貴女、何でここに!?」
「何でって……集まるよう言ったのはシズシズじゃんか」
「そ、そうだけど……」
「でも、鈴ちゃん……」
「大丈夫!!」
親友だと思っていた恵里の裏切り。それは鈴の心に大きな傷を残し、放っておいたら死んでしまうと思ってしまうほど傷心していた姿に、元の元気な姿を取り戻すには長い時間が、もしくは、もう二度とあの笑顔は見れないかもしれないとさえ思っていた。
「たくさん悩んだ。いっぱい泣いた。でも、ちゃんと自分で決めたんだ。もう一度、今度こそ恵里とちゃんと向き合うって!」
「……そっか」
驚きはしたが、本人がそういうのならきっと大丈夫だろう。危機は去ったわけではないが、クラスのムードーメーカーの鈴がいつもの調子を取り戻したことで少しだけ空気が明るくなる。
「よーし、カオリン! 二人で恵里をぶん殴っちゃおう!!」
「ええ!? 殴るの!?」
「全く、馬鹿やってないの。鈴はご飯まだでしょ? 早く食べちゃいなさい」
「は~い!」
そのやり取りは、懐かしくも平和だった頃の記憶を思い出し、無意識に張っていた肩の力が抜けるのを感じた。
しかし、そんな状況に早くも水を差す存在が現れた。
「香織!! 雫!! 居るか!?」
バンッと、食堂の扉を蹴破る勢いで現れたのは、香織と雫が待っていた龍太郎だ。
食堂に突如響き渡った音に三人の肩がビクッと跳ね上がるも、その原因が龍太郎だと分かると、ほっと息を吐く。
「遅いわよ、龍太郎。集合時間はとっくに過ぎて──」
「光輝が居なくなった!!」
「ッ!? なんですって!?」
堂々と遅れてきた龍太郎に苦言の一つでも言ってやろうかと思った雫だったが、遮るように伝えられた内容にその場の全員が目を見開く。
「居なくなったってどういうことよ!?」
「分かんねぇ! 昨日の夜、外の空気吸ってくるっつって出てったっきり戻って来ねえんだよ!?」
「光輝を一人にしたの!?」
「す、すまねえ。途中まで部屋で待ってたんだが、寝ちまって……」
今の精神状態の光輝を一人にする危険性は龍太郎も分かっていたはずだ。しかし、光輝自身から一人にして欲しいと頼まれたことと、王宮内から出ないことを条件に許可してしまったらしい。あまり帰りが遅いようなら探しに行くつもりだったが、途中で寝落ちしてしまったようだ。
「それで、急いで手当り次第探したんだけど、全然見つからなくてよ」
「どうしてすぐ私達に言わないのよ!?」
「悪い! すぐ見つかると思って……本当に悪い!!」
「急いで探そう!」
「鈴も手伝うよ!」
反省するのは後でも出来る。今はまずは光輝の行方を探すのが先決だと、香織と鈴に促され、雫と龍太郎も気持ちを切り替える。
すぐに全員が食堂を飛び出し、手分けして光輝を探し出そうとしたその時──
「あれ? 皆、そんなに慌ててどうしたんだ?」
今この瞬間、雫達を慌てさせている原因が、何事も無かったかのように目の前に現れた。
「「光輝!?」」
「「光輝君!?」」
「え!? 何だ!? どうしたんだ皆!?」
行方不明だったはずの光輝が急に目の前に現れたことで、一瞬呆然とした一同だったが、すぐに我に返り、一斉に光輝に迫る。
「どうしたじゃねえよ!? 夜出ていったっきり帰ってこねぇからずっと探してたんだぞ!?」
「? 俺は昨夜はちゃんと帰ってきたぞ? 朝も龍太郎がまだ寝てたから、起こすのは悪いと思って机の上に書き置きを残しておいたんだが……」
「…………え?」
光輝に掴みかかる勢いで迫る龍太郎だったが、頭に疑問符を浮かび上がらせた光輝が、意味が分からないと言わんばかりに説明すると、それを聞いた龍太郎の目が点になる。
そのまま、光輝の言葉を脳内で何度もリピート再生する。そうして状況が段々と飲み込めていくと、全身から嫌な汗が吹き出てくる。
「……龍太郎?」
背後から掛けられた温度を感じさせない声色に、龍太郎が油の切れた人形のようにギギギッと振り返ると、絶対零度の雫の視線が突き刺さった。
その背後に居る鈴も、雫ほどでは無くともジト目で龍太郎を見つめ、誰にでも優しい香織も流石に苦笑いだ。
「……つまり、全部龍太郎の早とちりだったってことね」
「す、すまねぇ」
雫の指摘に、龍太郎は項垂れながら謝罪する。彼のことだから、光輝を待っていたはずがいつの間にか寝てしまったことに慌て、部屋に光輝の姿が無かったことで、ろくに部屋の中を確認せずに飛び出したのだろう。
「そ、そんなことよりも、どこに居たんだよ!? 俺、王宮中を探し回ってたんだぞ!?」
「ああ、さっきまで皆の……クラスの皆の部屋を回ってたんだ」
「は? クラスの皆の部屋って、お前……」
光輝の言葉に龍太郎が絶句する。クラスメイトが光輝を散々罵倒したことは記憶に新しい。今、彼らの前に姿を現せば、また何を言われるか分かったものではない。だからこそ、わざわざ光輝から近付くことはないと判断し、クラスメイトの居住スペースだけは龍太郎も探さなかったのだ。
話を聞いていた雫は、光輝がクラスメイト達の元に向かったと聞いて、嫌な予感を覚える。
「光輝? 貴方まさか……」
また、何の根拠もなく皆を守るなどと口走ったのではないか? そう続けようとした雫だったが、そう思われることを察していたのか、すぐに首を振って否定する。そして、真剣な顔つきで四人を見つめ──
「龍太郎、雫、香織、鈴………今まで、本当にすまなかった」
深く頭を下げて謝罪の言葉を述べた。
その姿に全員がポカーンと口を開けたまま呆然とする。
「こ、光輝君? もしかして、皆の部屋を回ったのは……」
「ああ、クラスメイト全員に頭を下げてきた」
そう言い切った光輝の顔をよく観察すると、僅かに頬が腫れているように見える。もしかしたら、クラスの誰かに手を上げられたのかもしれない。その視線に気付いた光輝が頬に手を当てながら「これで済んだだけマシさ」と何でも無いように告げる。
「もちろん、それで許してくれるわけじゃない。いくら謝ったって俺がやったことが無かったことになるわけじゃない……いや、違うな。そんな簡単に許されちゃダメなんだ」
いくらかつての自分の行いを懺悔しようとも。いくら謝罪を重ねようとも。自分が犯した罪が消えるわけではない。だからこそ、その業は背負い続けなければならない。
「俺は勇者なんて名乗れる器なんかじゃない。この戦いで何が出来るかなんて分からない。もしかしたら、また皆に迷惑を掛けてしまうかもしれない」
ここで折れてしまうのが一番楽なのだろう。自分なんかよりもずっと強くて、信頼されてる人はいくらでもいる。自分一人が居なくとも世界は変わらず回り続ける。
天之川光輝は世界にとって特別な存在では無いのかもしれない。何も知らない子供が足掻いたところで、結果は何も変わらないかもしれない。
「でも、ここで逃げるのだけは嫌なんだ。ここで逃げたら、俺はこの先ずっと逃げ続けることになる。今更と思われるかもしれない。都合が良いと思われるかもしれない。それでも、どうか……どうか俺も一緒に戦わせて欲しい!!」
再び頭を下げた光輝の姿に、黙ってお互いに目を合わせた四人はしばらくしてしっかりと頷いた。
「ふんっ!」
「痛っ!? りゅ、龍太郎?」
頭を下げ続ける光輝に対して、徐ろに腕を振り上げた龍太郎がその握りこぶしを光輝の後頭部に振り下ろした。
いきなりの衝撃に光輝が目を白黒させていると、龍太郎がニッと笑みを浮かべた。
「らしくない気ぃ使いやがって! 遅ぇんだよ、馬鹿!」
「龍太郎……」
「全くよ。まあ、少しは成長したってことかしら?」
「雫……」
「えへへ、落ち込んでた者同士頑張ろうね!」
「鈴……」
「光輝君、皆で一緒に元の世界に帰ろうね」
「香織…………っああ!」
胸にこみ上げてくるものを感じながら光輝は力強く頷いた。やっと戻ってきた光輝に全員が笑顔を浮かべていると、雫がふと気付く。
「ん? ふふっ。光輝、貴方の気持ち、少しは伝わってたみたいよ?」
「え?」
あっち。そう言って雫の指差す方に視線を向けた光輝が目を丸くする。
光輝の視線の先、廊下の角。そこには顔だけを覗かせてこちらの様子を伺っている永山達の姿があった。
光輝達が自分たちの姿に気付いたことに、あたふたしていた彼らだったが、観念したのか永山を先頭にずらずらと出てくる。
永山パーティに愛ちゃん親衛隊のメンバーだ。彼らの姿に光輝の体が固くなる。目の前に居るメンバーは比較的光輝に対しての当たりもそこまで強くはなかったが、それでも光輝の瞳に恐怖が宿る。
目の前まで来た彼らを代表して、永山が口を開く。
「天之川…………すまなかった!!」
「………え?」
何か恨み言を言われるかもしれない。しかし、それは自分が背負わなければいけないもの。何を言われようと受け入れる覚悟をしていた光輝に突きつけられた光景は、永山を初めとする全員が自分に頭を下げる姿だった
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 何で皆が謝るんだ!? 悪いのは全部──」
「いや、悪いのは俺達も同じだ。お前に全部押し付けた。誰も責任を背負いたくないから、誰かに任せるのが一番楽だったから」
「それは俺が勝手にやっただけで……!」
「そうじゃないって。自分の考えを言おうと思えばいつでも言えた。でも、俺達はそれをしなかった。意見が通るか通らないか以前の問題だ」
永山の言葉を慌てて光輝が否定しようとするも、遠藤がそれを遮る。
確かに光輝は誰の意見も聞くこと無く、自分の判断でクラスを巻き込み、そのせいで危険に晒した。だが、他の面々が光輝に、もしくは他の誰かに自分の意志を告げることも出来たはずだ。
しかし、一度意見を出して、それが採用されてしまえば、多少なりとも自分に責任がのしかかってしまう。誰もが無意識の内にそれを避けていたのだ。
自分が行動しなくても、光輝が引っ張っていってくれる。それに黙って着いていくだけでいい。
それはなんて楽で、怠惰で、愚かな選択だろうか。
「だから、悪いのは天之川だけじゃないってことだ。勝手に任せて、勝手に失望して、ホント自分勝手だよな。すまなかった。もうお前だけに背負わすことはしない。今度は俺達も一緒に戦う」
予め相談していたのだろう。永山の言葉に遠藤達パーティメンバーもしっかりと頷く。そして、今度は後ろに控えていた園部が光輝の前に出てくる。
「私達は前線に出るのはまだ怖いけど……後方支援くらいは出来ると思う。情けないと思われるかもしれないけど、皆で話し合って決めたの。だから……」
──今度こそ、皆で頑張ろう。
「ッ……! ああ……ああ!!」
その言葉に光輝は、自分の胸の中のモヤモヤが晴れていくような気がした。もう二度と以前までの関係に戻れるとは思ってなかった。それでもせめて、責任だけは背負おうとクラスメイト一人一人に頭を下げた。許されるわけがない。恨まれて当然だ。
それなのに、香織達も永山達も自分なんかのことを未だに見捨てないでいてくれる。手を差し伸ばしてくれる。
(俺は勇者なんて大それた存在なんかじゃない。そんな力も覚悟も持ってない……でも、力は無くてもこんなにも良い仲間に恵まれた)
こんな頼りになる友人の手を借りずに、全部一人で背負おうとするなんて、今までの自分は本当に周りが見えていなかった。
そして、思い出すは昨夜のこと。
(まだ、
今の光輝に世界を救う力なんて都合の良いものは備わってない。確かに勇者の天職に相応しい可能性を秘めてはいるのかもしれない。しかし、それは未来の話であって、今の光輝は少しばかりの力を持った、ただ子供に過ぎない。
だが、光輝は戦うことを決めた。何を今更と思われるかもしれない。最早信頼を取り戻すことは不可能かもしれない。
それでも、それでも逃げることだけはやっぱりしたくなかった。どんなに無様でも、情けなくても、みっともなくても……足掻き続けようと決めた。
(ようやく分かった。思い知らされた。俺は結局一人じゃ何も出来ていなかった。一人でやってたつもりの子供だった。クソガキ呼ばわりも納得だ)
初めての失敗。いや、正確には
そんなことはなかった。あるはずがなかった。失敗をしない人間なんて居ない。居たとしたらそいつは自分で全部出来てると勘違いしてる子供くらいだ。
何度も躓き、挫折し、苦しみながらも、いろんな人に支えられて人は成長していく。
「……皆」
光輝の呟きに全員の視線が集中する。
「……俺、一から頑張るよ。もう一度、また皆と笑いあえるように。胸を張って皆の仲間だって言えるように……!」
ようやく本当の意味でスタートラインに立つことが出来た。ここから少しずつ歩んでいこう。今度こそ、皆と一緒に。
光輝の新たな門出を祝福するかのように、朝日が彼らを照らしていた。
>谷口鈴
彼女に関しては原作と同じような心境です。何だかんだ言ってちゃんと立ち上がる強い子。
>天之川光輝
勇者(笑)から勇者(仮)へと進化。自分の今までの言動を反省し、文字通り一からやり直す決断をした。
勇者(真)になれるかどうかは今後の活躍次第。
>アルディアス
本当に偶然王宮に来ていた。やるべきことを終え、フリードを連れて国に戻るところをこれまた偶然光輝に発見された。話の詳細については今後の展開で明らかにするつもりです。