【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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山場を乗り越えました。
過去編で50以上お気に入り外れたけどここから取り戻すぞ!


第三十七話 【開戦】

「全く、今度はどこいったのさ」

 

 東の空から太陽が姿を現して少し。恵里は一人、森の中を目的地に向けて真っ直ぐ歩いていた。

 気持ちのいい朝にちょっと散歩を……なんてことでは決して無く、気付いたら姿が消えていたシュパースを探していた。

 探しているといっても、適当に森を歩き回ってるわけではない。理屈は分からないが、力を受け取ったおかげか、何となくこっちにいる気がするという風にシュパースの気配を感じ取ることが出来るようになっていた恵里は、その感覚に従い、目的地に向かって歩いていた。

 

 しばらくして恵里の前に樹齢百年は優に超えていると思われるほどの巨大な樹木が姿を現した。そして、その根本に背を預けるように眠りこけるシュパースの姿を見つける。

 

「このクソジジイ。どこいったのかと思えば、呑気に眠りこけやがって……!」

 

 一度その頭をぶっ叩いてやろうかと苛立ちが湧き上がるが、何とかそれを呑み込む。下手に拳を叩きつければ、自分の拳の方が砕ける。というか、既に一度やってその場で悶絶することになったのは記憶に新しい。

 仕方なく肩を揺らして起こそうと恵里が腕を伸ばした……ところで気付いた。

 

「……泣いてる?」

 

 シュパースの頬を一筋の雫が伝った。

 常に飄々としている老人の姿からは想像できない姿に恵里が一瞬動揺する。

 

(もしかして……()()()()()()()()()()

 

 一瞬起こそうか悩んだ恵里だったが、今日を寝過ごされでもしたら堪ったものではない。

 すぐに気持ちを切り替え、軽くシュパースの肩を揺らす。

 

「シュパース様……シュパース様ってば!」

 

「………恵里君?」

 

 恵里の呼びかけにより意識を覚醒させたシュパースは、ふらふらと立ち上がった後に「ああ」と納得したかのように頷いた。

 

「……夢か……懐かしい夢を見ました」

 

「懐かしい夢を見ました……じゃなくて! 毎回毎回勝手に消えるのやめてくれない!? 探すこっちの身にもなってよ!?」

 

 感慨深い表情で独りごちるシュパースだったが、それを目敏く聞いた恵里が地団駄を踏みながらシュパースに言い放つ。

 

「すみません、ちょっと散歩のつもりだったんですが……帰り道が分からなくなってしまって」

 

「知ってるよ!? だから私が毎回探しに来てるんでしょうが!! 方角が分からないなら魔法の一つや二つ使いなよ!!」

 

「いや、いい大人が迷子になったくらいで魔法を使うのはちょっと……」

 

「いい大人が迷子になるな!?」

 

 恵里の鋭いツッコミが突き刺さる。「えーと、すみません?」と恐らく分かっていない様子で謝罪するシュパースに恵里は深く肩を落とす。

 この神。力こそ神の名に相応しいものを持っているが、とにかく普段から抜けているのか、その天然ぶりを遺憾なく発揮し、そのたびに恵里が苦労を強いられることになる。

 ちなみに、自分がシュパースの気配を辿れるのなら、逆もまた出来るのでは? と考えた恵里が本人に聞いてみたところ、魔法を使うのならともかく、そんなことは出来ないと言われた。

 本人曰く、自分で自分の匂いや声を上手く判別することは出来ないでしょう? とのことだ。恐らくシュパースの魔力で何かしらのリンクが繋がっていることは間違いないが、あくまでシュパースの魔力であるため、本人には判別しずらいらしい。

 他の誰かに任せようにも、自分以外は碌な自我を持たない魔物ばかりなため、任せることが出来ない。

 

(私をスカウトしに来た時、一人くらい話の出来る兵が欲しかったって言ってたけど……まさか、自分の身の回りの世話をさせるためじゃないだろうな)

 

 ジトっとシュパースを睨みつけるが、肝心の本人はそんな視線に気付いていないように「ふわぁ」と大きな欠伸をこぼしている。

 

「今、何時ですか?」

 

「もうすぐ8時。あと4時間で約束の時間だよ」

 

 恵里が今の時刻を告げると、シュパースは「そうですか」と何の気負いもなく答える。その姿からは、とてもこれから全人類に対して戦争を仕掛ける軍勢の大将としての威厳は微塵も感じられない。

 

「はあ……」

 

 何でこんなのについてきちゃったんだろ。こんなことなら鈴の馬鹿話に付き合ってた方がまだ……

 

(って、いやいやいや!? 僕は何を考えてるんだ。光輝くんを手に入れるためだろう。鈴なんてそのための便利な道具なんだ)

 

 一瞬頭に浮かんだ可能性をすぐさま振り払う。僕にはもう光輝くんしかいない。それ以外は必要ない。必要ないんだ。

 まるで自分に言い聞かせるように内心で叫ぶ恵里だったが、突然その頭にポンッと優しく手が置かれた。

 

「……何?」

 

「いえ、君がまた難しい顔をしていたので」

 

「子供扱いしないで」

 

「私からすれば皆子供ですよ。幾つ離れてると思ってるんですか?」

 

 そのまま優しく頭を撫でるシュパースに恵里の眉間に皺が寄るが、その手を払いのけるようなことはしない。

 容姿はぜんぜん違うし、こんなちゃらんぽらんなんかじゃかった。それでも思い出してしまう。昔の幸せだった頃の記憶を。重ねてしまう。大好きだった父のことを。

 

「……勝手なこと言わないで。どうせ助けてくれるわけじゃないくせに」

 

「確かに簡単に手を差し伸べることはしませんが、話を聞くくらいは出来ますよ?」

 

 いつもこれだ。シュパース様の過去は聞いている。だからこそ、この神様が簡単に人類に手を差し伸べることはしないことはよく知っている。それでも、決してそれは興味が無いというわけではなく、放っておくということはしない。

 直接手を差し伸べることはしなくとも、それとなく壊れないように支えようとする。それが形だけのものでなく、本心から来るものだということは、もう疑いようもない。

 だからこそ、僕はずっと胸の奥底に溜め込んでいたものをぶつけることにした。

 

「何で、私に優しく出来るの? 世界が違うとは言え、私だって同じ”人”だよ?」

 

 貴方の娘を奪った奴と同じ人類だよ? 滅ぼしたいんでしょ? 憎いんでしょ? いくらその娘さんの言葉があるからって、何で我慢できるの? 

 

 矢継ぎ早に恵里は問いかける。彼女には理解できないからだ。シュパースは明言していないが、恐らく他のどの人物よりも、そのロシーダと呼ばれる少女はこの神にとって変わりの居ない大切な存在だったのだろう。

 そんな存在を奪われて尚、何故人類の為に動けるのかが分からない。もし、自分が同じ立場だったのなら、間違いなく世界の全てを滅ぼしていただろう。

 

「そうですねぇ……」

 

 恵里に問いかけられたシュパースは顎に手を当て、しばらく思案した後、ゆっくりと口を開いた。

 

「この世界の神だから。生み出した義務があるから。まあ、建前は幾つもありますが……やはり一番はロシーダのためでしょうか」

 

「その娘はもう亡くなってるんでしょ。シュパース様が人類を守ろうとも滅ぼそうとも、その事実は変わらない」

 

「……確かにそうかもしれません。しかし、今や彼女の存在を思い出すことが出来るのはこの世界で私だけ。その私が彼女の想いを反故にしてしまえば、本当の意味で彼女は死んでしまいます。死んでしまえばそこで終わりです。けれど、残されたものがその想いを継ぐことは出来ます。もちろん、継ぐかどうかは本人の勝手ですが……」

 

 私なんて、いざとなったら人類に引導を渡す気満々ですし。そう続けるシュパースの言葉を恵里は何度も頭で反覆させる。

 

「想いを継ぐ……」

 

 考えたことも無かった。

 誰も助けてくれなくて、全てが自分の敵だった。そんな時、光輝君が僕を助けてくれた。たった一人で蹲っていた僕に光明が初めて差し込んだ運命の出会いだった。

 光輝君のためならばどんなことでもしようと思った。勇者に救われたヒロインはずっと勇者をそばで支えていくものだから……

 でも、そうはならなかった。僕と光輝君の幸せな人生を邪魔するクズどもが世界には大勢いる。それは異世界に転移しても変わらない。どいつもこいつも僕の光輝くんに馴れ馴れしく近づいてくのが腹ただしい。

 だから、光輝君の為に全てを捨てようと思った。形だけの友人も、この世界の人間も、全てを壊してでも光輝君を手に入れようと決心した。

 

 でもそれは、果たしてお父さんが望んでいたことなのだろうか。

 

 その命を犠牲にしてでも僕の事を守ったお父さんは、今の僕の姿を見て、何て言うだろうか。

 命を張って守った子供が、何もかもを裏切って、世界に牙を向こうとする姿を見て、何を思うだろうか。

 

 悲しむだろうか。怒るだろうか。それとも、何も思わないだろうか……

 そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。

 その様子を見ていたシュパースが優しく恵里に微笑みかける。

 

「いくらでも悩みなさい。何度も迷い、何度もぶつかり、それでも必死に導き出した答えならば、それがどのような選択でも私はそれを尊重します」

 

 子供()の考えを頭ごなしに否定せず、時には遠くから、時にはそばで見守ってくれるその姿は、紛れもなく……どうしようもなく……恵里の奥底の記憶を揺さぶった。

 

「……一つ、頼みがある」

 

 深く考え込んでいた恵里は徐ろに顔を上げると、シュパースに自分の意志を告げる。

 その内容を聞いたシュパースは一瞬目を見開いたものの、頷いてその頼みを聞き届けた。

 その表情は僅かに悲しげに歪められていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

──4時間後。

 

 場所は変わり、王国から東に3km離れた場所。そこは只々地平線まで何もない大地が広がっていた。

 そう。過去形だ。何も存在しなかった不毛な大地には大小様々な急ごしらえの砦がそこかしこに急設されている。さらに目には見えないが、地中にも人一人が余裕で入れるほどの地下通路が張り巡らされており、そこを使い戦場での負傷者を安全に自陣まで運べる仕組みになっている。もちろん、地上での戦いで崩落が起きないように結界を張り巡らせてある。

 

 そんな戦場では多種多様な種族達が既に配置に付き、その時が来るのを固唾を呑んで待っていた。

 トータス連合軍司令部は特殊なアーティファクトにより、透過を施された上で、戦場を見渡せる高所に設置されている。そこにはアルディアスの姿もある。

 

 長かった。この世界が生まれて幾星霜。この地にどれだけの血が流れただろうか。どれだけの涙が零れ落ちただろうか。

 アルディアスは自身の足元を注視する。そこにあるは、数え切れない程の死体で積み上げられている亡者の階段。

 声にならないうめき声を上げる亡者達は、ある者はアルディアスを上へ上へと押し上げようと、ある者は地の底に引きずり込もうとする。

 自分に後を託して散っていた魔人族(同胞)も、刃を向けてきた人間族()も、その全ての屍を踏み越えてここまで来た。世界のトップとなったアルディアスの背には、その足元に跪く者達以上に多くの想いや怨念が背負われている。

 

 だが、其れで良い。

 背負い続けると決めた。誰に言われても下ろしてなるものか。これは俺が背負うべき業だ。

 だからこそ、その背で見ているが良い。お前達が信じた(希望)が……お前達が憎んだ(絶望)が……世界を変える、その瞬間を。

 

 黙って腕を組んでいたアルディアスは何かに気付いたように徐ろに上空を見上げた。

 

「……来るぞ」

 

 その瞬間、世界が光に包まれた。

 そう錯覚するほどの光のベールが空から地上へと降り注ぐ。

 そして現れるは純白の魔物達。ゴブリンやオーク、スケルトンなどの小型の魔物からベヒモス、サイクロプス、ドラゴンなどの大型の魔物の姿もある。

 多種多様な魔物がひしめくが、共通の特徴として全身が純白に染まり、一体の例外もなくその背から一対の美しい翼を生やしていることだろう。

 更に後ろからはドレス甲冑を身に着けた天使達が舞い降りてくる。降り注ぐ光を背負いながら現れるその姿は、正に神の軍勢に相応しい光景だった。

 

 兵士達に一気に緊張が走る。聞いてはいた。理解はしていた。それでも目の前の光景を見て、改めて認識する。自分達が戦う相手は間違いなく超常の存在なのだと。

 

 そんな彼らの動揺を気にすることもなく、遂に奴が現れる。

 

「さあ、判決の時間です」

 

 灰色の髪をなびかせながら現れるは、創造神・シュパース。その表情には五日前と同じ微笑を浮かべている。

 隣には唯一の自我を持つ配下、恵里が佇む。シュパースと同じように笑みは浮かべているが、こちらはニヤニヤというような相手を小馬鹿にしたような表情を地上に向けている。

 

 シュパースは地上を見下ろし、そこに集まる種族を見て満足そうに笑みを深める。

 

「ちゃんと全種族揃ってますね。感心感心。そうでなくては困ります」

 

 この戦いは世界の命運を決める一つの分岐点だ。地上の戦力を一つに纏めることすら出来なければ話にならない。まずは及第点と言ったところだ。

 シュパースがうんうんと満足そうに頷いている隣で地上を眺めていた恵里の口元が三日月のようにパックリと裂けて笑みを浮かべた。

 

「ふふふ、戦場に来てるか不安だったけど、やっぱり光輝君は出てくるよねぇ!」

 

 恵里の視線は戦場の一角、クラスメイトの集まる場所に居る光輝に向けられていた。光輝も恵里がこちらを見ていることに気付いたのだろう。動揺しつつも恵里から視線をそらさずに真っ直ぐ見つめ続ける。

 光輝が自分の事だけを見てくれているという状況に恵里は居ても立っても居られず、飛び出そうとする……が、それは自分と光輝を遮るようにかざされたシュパースの手によって阻まれた。

 

「何? 私は私の判断で動いていいって言ったのはシュパース様だよ?」

 

「それは分かっていますが。もう少しだけ我慢してください。戦争の開幕くらいしっかり決めないと」

 

「……はぁ、くだらない。ならさっさとやっちゃってよ」

 

「ええ」

 

 不満を口にしながらも、恵里は前のめりになっていた姿勢を元に戻す。

 それを確認したシュパースは視線を地上に向け、片手を天高く翳す。

 すると、天より降り注いでいた光のベールがまるで生き物のように形を変えて収束していき、シュパースの頭上には千にも及ぶ光の槍が形成される。

 

「まずは挨拶代わりといきましょう」

 

昇天槍(しょうてんそう)

 

 振り下ろされる片手に連動するかのように千の光槍がトータス連合軍に向けて射出された。

 文字通り、光の速さで降り注ぐ光の槍は、常人からすれば認識することも出来ず、あっという間にその生命を散らしていくだろう。

 

 常人ならば……の話だが。

 

堕天槍(だてんそう)

 

 戦場に小さく声が響いた瞬間、地面よりこの世の闇を凝縮したかのような黒槍が生み出され、一斉にそれが天高く撃ち出される。

 人々を天へと導く神々しい光の柱は、地より湧き上がった禍々しい闇の鉤爪に絡め取られた。

 千にも及ぶ光と闇が上空で激突し、激しい閃光と共に戦場を照らし出す。

 

 その光景を眺めていたシュパースは、それ見ても何一つ動揺する様子はない。そして、見下ろしていた視線を前方に向ける。

 距離にして300mは離れているそこに浮かぶは、シュパースを持ってして歴史上最強の人類と断言できる一人の王の姿。

 

「良いのですか? 大将がいきなり出てきても」

 

 声が届く距離ではないが、そんな事を気にすること無くシュパースは語りかける。

 

「よく言う。今の魔法、俺を引っ張り出すためのものだろう」

 

 対して、アルディアスもあっさりと言葉を返す。

 

「そんな事ありませんよ? こう見えて私、好きな食べ物は最後まで取っておくタイプなんです」

 

「奇遇だな。俺も嫌いな食べ物は最初に食べるタイプだ」

 

「ふふ、それは良かった」

 

 アルディアスの言葉にシュパースはニコリと笑みを浮かべる。

 

 人類と神の総力決戦。それは両陣営の大将の衝突で幕を開けた。




37話にして最終章の始まりです。他の二次作品に比べたらかなり速い展開ですが、最後までお付き合い頂けたら幸いです。
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