【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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第四十五話 【絶望の始まり】

 空が光った。

 

 黒と白の光の奔流が激突を繰り返し、一条の紅と蒼の軌跡が絡み合い、弾け飛ぶ。そのたびに、空間が歪み、時空に亀裂が入る。

 黒い魔力を纏うアルディアスが手に持つ炎剣を振りかぶる。同時に白い魔力を纏うシュパースが蒼白の魔力剣を同じく振りかぶる。

 刃が交差すると同時に、大気が弾け、魔力の衝突によって発生した雷鳴が戦場に響き渡る。

 

 アルディアスは衝突の反動で後ろに下がり、指先をシュパースに向けてかざす。

 

無響(むきょう)(だん)

 

「ッ!!」

 

 アルディアスが放った不可視の弾丸にシュパースは障壁を展開するが、何の抵抗も無く、あっさりとすり抜けた。ギリギリで腕を交差させることで防ぐが、衝撃を抑えきれず、吹き飛ばされる。

 

(なるほど、空間を振動させることで発生する音の弾丸ですか。耐物・耐魔の障壁では防げないはずです)

 

 間髪入れず、亜音速の弾丸を連射するアルディアスだったが、今度はシュパースの目の前で跡形もなく霧散する。

 シュパースは自分の目の前の空間を魔力で圧縮、固定した。空気を震わせることが出来なければ、音の弾丸が届くことはない。

 

「やはり防ぐか……」

 

「お返しです」

 

 今度はシュパースが腕を下から振り上げると、アルディアスの下より巨大な氷山が出現し、その身体を串刺しにするべく迫る。

 

魔烈(まれつ)(くう)

 

 アルディアスが振り下ろした腕に集約されていた、指向性をもたせた魔力の斬撃が巨大な氷山を真っ二つに両断する……が、氷山の中心に仕込まれていた圧縮されていた魔力が、氷山(外装)が無くなったことで一気に膨張、破裂する。

 

 その場から瞬時に離脱することで、それを回避したアルディアスは、そのままシュパースの頭上を取るように上昇し、余裕そうにこちらを見上げるシュパースを睨みつける。

 

 アルディアスが天高く腕を上げる。

 上空に数を数えるのも困難な量の魔法陣が展開される。何の障害物もない天空を光り輝く光球が埋め尽くす。

 

(ごう)雨竜(うりゅう)

 

 天空より降り注ぐ流星の豪雨。空を斬り裂き、大地を砕く魔竜の大群が、神を喰らわんとその顎を向ける。

 

神門(かみと)五重(いつえ)

 

 シュパースを中心に七色に光る六角形の結界が五重に展開される。

 一瞬の閃光が空を照らし、次の瞬間、世界を震わせるほどの爆音と衝撃波が巻き起こった。爆炎でシュパースの姿が見えなくなるが、それでも砲撃が止まることはない。

 永遠にも続くかと思われたその攻撃も、全ての光球を撃ち切ったことで、静寂を取り戻していく。

 アルディアスが一瞬たりとも油断すること無く、黒煙を睨みつける。アルディアスの感覚には、全く揺るぐことのない魔力を今も感じ続けられている。

 

 黒煙が完全に晴れると、そこには五枚あった結界を二枚まで減らした状態でこちらを見上げるシュパースが姿を現す。

 その事実にアルディアスは思わず舌打ちを溢す。

 

「まさか、二枚目にヒビまで入れるとは……中々良い魔法ですね。使い勝手も良さそうだ」

 

──それ、貰いますね。

 

 次の瞬間、シュパースの背後に、アルディアスから見下ろせる地上を全て覆い隠す量の魔法陣が出現した。

 

「ッ!?」

 

『轟・雨竜』

 

 天より降り注いだ豪雨が、まるで逆再生のように今度は天へと向かって昇っていく。

 自らの魔法をあっさりと模倣して見せたシュパースに目を見開いたが、すぐに切り替え……シュパース目掛けて真っ直ぐに距離を詰めた。

 自分の使う魔法は自分が一番良く分かっている。”雨竜”は魔法陣を広範囲に展開する特性上、その場で守りを固めたり、後ろに退くほうが集弾率が大きくなってしまう。故に、敢えて前に出ることで、被弾率を下げることが出来るのだ。

 しかし、初見でそれを判断することは難しく、出来たとしても、目の前に迫る弾幕を躱しつつ、距離を詰めることは簡単ではない。足を止めれば、たちまち集中砲火にあってしまう。

 最低限の動きで光球を躱し、こちらに迫るアルディアスを見たシュパースは、しかし焦る様子を微塵も感じられない。

 

「見たことを再現できないのは三流。見たままに再現できるのは二流。そして、自らの技として昇華させることが出来るのが一流です」

 

 片手を差し出したシュパースが指を弾く。その瞬間、標的を失って流れていた光球が軌道を変え、背後からアルディアスに襲いかかる。

 

「チッ!」

 

 シュパースに近づくのは困難と判断したアルディアスが、縦横無尽に空を駆けるが、光球の群れはアルディアスの背後をピッタリとくっついて離れない。

 

「追加です」

 

 更に追い打ちで出現した魔法陣より射出された光球がアルディアスを囲い込むように展開する。

 まるで光球の一つ一つが意志を持っているかのように動き、次第に逃げ場を失っていくアルディアスを遂に完全に包囲する。

 

「さあ、これはどうしますか?」

 

 針の穴一つ無い程に敷き詰められた光球が、シュパースの合図と同時に光を増していき、大爆発を起こした。

 再び戦場に鳴り響く轟音。その光景をシュパースは変わらず笑みを浮かべながら黙って見つめている。

 

「おっと」

 

 そして、不意に頭を低く下げた。

 その瞬間、シュパースの首があった位置を莫大な熱量を溜め込んだ炎剣が通り過ぎた。

 背後からの奇襲を躱されたアルディアスだったが、一切動揺することなく、下げた頭目掛けて二の太刀を振り下ろす。だが、身を翻しながら振るった魔力剣と衝突し、バチバチと火花を散らす。

 

「驚きました。ただの遠距離転移魔法かと思っていたんですが……なるほど、短距離転移(ショートワープ)も出来るんですね」

 

 シュパースが目を向けるアルディアスの背後。そこには僅かに残る、黒い魔力の痕跡が確認できる。

 それはアルディアスの使う”影星”に現れる特徴だ。超長距離転移に目がいきがちだが、目の届く範囲への短距離転移にも使うことが出来る。しかも座標を細かく設定する必要がない分、発動から転移までの誤差がほとんど無い。

 

「何が驚いた、だ。そういうことは少しは表情を変えてから言え」

 

 アルディアスが力任せに弾き飛ばすことで両者の間に距離ができる。

 

「これでも驚いているんですよ? 君にも、彼らにも」

 

 そう言いながらシュパースは地上を見下ろす。それにつられるようにアルディアスもチラリと視線を向ける。

 未だに戦いは続いているが、状況は完全にこちらが有利だ。このまま何事も無く進めば、敵戦力を完全に制圧することも可能だろう。

 そんな状況にも関わらず、アルディアスの表情は決して明るくない。この日のために、各国、各種族の首脳陣と会談を交わし、想定出来る全ての状況に対しての対策は施してきた。

 この状況はアルディアス達、人類側からすれば想定通りに進んでいるということになるのだが……だからこそ、アルディアスは一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 これは……

 

「うまくいきすぎている……ですか?」

 

 アルディアスの心情を代弁するかのように告げてくるシュパースを睨みつけるが、反論の言葉は出てこない。

 

「沈黙は肯定と取りますよ? 魔物の大半は各種族の部隊によって制圧されつつあり、私が特に手を加えた個体はアレーティア君を初めとした実力者達によって討ち取られました。私からすれば結構ピンチですね」

 

 口ではピンチと言いつつも、全く焦る様子を見せないシュパースに、アルディアスの疑念は更に膨れ上がっていく。

 

「ここからは戦場がよく見える。私も運が無い。用意したとっておきが”偶然”彼らと遭遇してしまうとは……」

 

「……何が言いたい」

 

「君はもう、気付いているのでは?」

 

「──ッ」

 

 シュパースの追求にアルディアスは只々顔を顰める。今のやり取りで自分の嫌な予感が的中していることがハッキリした。

 アルディアスはシュパースと戦いながらも地上の様子は逐一確認していた。

 

 ハジメとアレーティアを襲った特殊な改造が施された神の使徒。

 シアとミレディの前に現れた探知不可能の魔物。

 ティオとフリードが消し飛ばした巨大なキメラ。

 

 例えば、改造された神の使徒が他の天使に紛れて、一般兵に襲いかかっていれば、抵抗する暇もなくその命を奪い去っていただろう。

 例えば、探知不可能の魔物が連合軍の本陣や司令部に潜入していたら、情報の共有という大きな有利性を失っていたかもしれない。

 例えば、巨大なキメラを戦場の中心に転移させていたら、敵味方問わず、戦線は地獄絵図と化していただろう。

 

 一度だけならば運が良かったと言えるのかもしれない。しかし、それが二度、三度と続けば、それは最早”偶然”などでは無く”必然”だ。

 

「何を企んでいる」

 

「最初に言った通り、私の目的は君達に勝つことではなく、人類の進化を促すこと。アルディアス君、君は進化には何が必要だと考えますか?」

 

「経験と実践。何も行動に移さない者に成長は訪れることは無く、それを発揮する場所に出て、初めて経験が実力となる」

 

「なるほど、それも道理ですね。しかし、私はこう考えるのです。進化とは……”絶望”の先にあるのだと」

 

「……」

 

 人類とは追い詰められて初めて真価を発揮する生き物だ。日頃の鍛錬や実践で積み重ねる経験値も確かに欠かせぬものだろう。しかし、それは亀の歩みのように遅く、脆く儚い人類は、進化に到達する前に崩れ落ちてしまう。

 

 だが、唐突に降りかかる理不尽や狂気。死の恐怖。生への執着。それらを身を以て体験することで、さらなる領域に至る足掛かりを得ることができる。

 

「では、絶望とはどうすれば与えられるものでしょうか? 簡単な方法はその人物にとっての大切なモノを奪うことでしょうか。君にとっては自国の民がそれに該当しますね」

 

「貴様……」

 

 シュパースの言葉にアルディアスの視線が鋭くなる。

 言葉を口にすることはしない。それでも、その表情から、声色からこれでもかと伝わってくる。

 ”手を出したら殺すぞ”──と。

 

「落ち着いてください。あくまで例えですよ。一人一人やってたらきりがないですし……まあ、傷付けないと言ったら嘘になるんですが……」

 

 今すぐにその頭をかち割ってやりたい衝動に駆られるが、それを何とか呑み込む。今必要なのは情報だ。奴からペラペラしゃっべってくれるのなら好都合だ。

 

「話を戻しますが、私は必死に考えました。子供の成長が掛かってますからね。考えて考えて考えて……そして一つの結論に辿り着きました。人類に絶望を与えるために必要なモノ。それは……」

 

──物語(ストーリー)です。

 

「……何?」

 

「物語ですよ。君にもありますよね? 物語とはその人の生きてきた道筋。人格を形成し、叡智を求め、力を持つに至るまでのエピソード」

 

 両腕を広げながら力説するシュパースだったが、アルディアスには目の前の男が何を言っているのか意味が分からなかった。

 いや、言葉の意味は分かる。だが、シュパースが何を思い、何を見つけたのかが分からない。

 アルディアスの反応が悪かったせいか、シュパースは首を傾げた後、一つ一つ丁寧に説明する。まるで物わかりの悪い子供に言い聞かせるように……

 

 人は何故、大切な存在を守ろうとするのか。何故、それを奪われまいと足掻くのか……それは大切な存在とのこれまでの記憶(ストーリー)があるからだ。

 失いたくないと思うほどの感情が出来上がっているから、守ろうとする。失った時の胸の痛みを知ってるから足掻こうとする。人はその身で体験したことしか、理解を示すことは出来ないのだから。

 

 では、もしその思い出(ストーリー)がなければどうだろうか。一度たりとも触れたことが無いモノに対して、そのような強い感情を抱けるだろうか。

 

 断言しよう。抱けないと。

 

 命は平等。この言葉は間違っていない。どれだけ慈愛の心を持った人物だろうと、どれだけ邪悪な心を持った人物だろうと……命は等しく平等だ。

 だが、命の”価値”は平等ではない。価値とは他者によって決められるその人物の基準だ。アルディアスにとって大切な民が、人間族からすれば憎き仇だったのと同じだ。

 

 故に、絶望を与えるには、その人物の物語(ストーリー)が必要となる。

 

「くどい。結局貴様は何が言いたい」

 

 あまりにも長い口上にアルディアスが口を挟む。

 

「俺はそんなあやふやな事象についての講義を聞きに来たわけではない」

 

「……そうですね。百聞は一見にしかず。直接見てもらうのが早い」

 

 不意にシュパースが両手を胸と平行になるまで広げる。同時にシュパースの周囲に十七の魔法陣が浮かび上がる。

 それに対してアルディアスは迎撃の態勢を取る。

 

 

 

 それが、間違いだった。

 

 

 

 魔法陣が突如90°回転し、その矛先を地上に向ける。

 

「ッ! しまっ──」

 

「これがその答えです」

 

 パシュン、という小さな音を響かせながら、魔法陣より光の塊(絶望)が撃ち出された。

 

「乗り越えてみなさい、人類よ」

 

 

 ◇

 

 

ズドドドォオオオン!!

 

「何事だ!?」

 

 突然戦場に響き渡った轟音にガハルドが声を荒げる。

 

「と、突如、上空より飛来物が墜落したようです!!」

 

「飛来物だァ?」

 

 ガハルドが落下物に視線を向け、その異様な物体を視界に捉える。

 それはまるで蕾のようだった。白い花弁が何枚も重なり合うように、花開く瞬間を待ち続ける巨大な蕾。

 しかし、すぐにその時は訪れる。

 

 閉じていた花弁が花開き、中に包まれていたソレが姿を現す。

 白銀の全身鎧(フルプレート)に身を包みこんだ騎士人形がゆっくりとその身を起こす。全長は3m程だが、全体的に細身のせいか、戦乙女(ヴァルキリー)という名称がピッタリかもしれない。

 右手にラウンドシールドを、左手にはフランベルジュを装備している。

 

 新たな敵の登場に、連合軍の兵士の間にも緊張が走る。

 そんな兵士達を鼓舞するために、ガハルドが号令を掛けようと口を開いた瞬間、それは視界に入った。

 

 騎士人形が腰を捻り、フランベルジュを大きく振りかぶっている。

 敵と自分達の間には未だに100mは距離が空いている。剣に魔力を纏わせて斬撃として飛ばすという手段もありうるが、その剣からは魔力が一切感じられない。

 何をする気なのかと眉を潜めた瞬間──

 

「──ッ!?」

 

 ガハルドをとてつもない悪寒が襲った。

 それは戦場において、何度も自身の窮地を救ってきた、戦士としての第六感。それが今までの人生で最大の警報を鳴らす。

 

「全員伏せろ!!」

 

 考える余裕などない。ほとんど無意識の内に周りの兵士に聞こえるように声を張り上げた。

 ここに居た兵士が帝国の者ばかりだったことも幸いしたのだろう。ガハルドの指示を聞き届けた兵士達が一斉にその場に伏せる。

 

 ほぼ同時に、フランベルジュが水平に振られた。

 戦場に嵐が顕現した。そう勘違いするほどの突風が彼らを襲う。耐えきれずに吹き飛ばされる者も何人か居たようだが、背を低くしていたおかげで軽傷で済んでいる。

 

「ッぶね!? 全員無事だな!?」

 

「は、はい!」

 

「なんとか……!」

 

「剣振っただけでこの威力。どんな馬鹿力してやがる……おい、てめぇら! いつまでボケっとしてやがる!! 速く立ちやがれ!!」

 

 慌てて身体を起こしていく兵士を横目で確認する中で、一部の兵士が未だに腰を抜かしたままでいることに気付いたガハルドが怒声を上げる。

 気持ちは分からんでもないが、ここは戦場だ。気を抜いたやつからすぐに死んでいく。

 しかし、彼らは目を見開いたまま動く気配がない。

 

「おい、いい加減──」

 

「へ、陛下……あ、あれを……」

 

 更に言葉を重ねようとしたガハルドの言葉を遮り、一人の兵士が真っ青な表情でガハルドの背後を指差す。

 皇帝である自分の言葉を遮るなど、極刑になってもおかしくはない愚行だが、その兵士の表情に違和感を覚えたガハルドが背後を振り返る。

 

「…………馬鹿な」

 

 そして、他の兵士達と同様に言葉を失う。

 ガハルドの背後には王国がある。距離はあるため肉眼で確認することは難しいが、標高八千メートルを誇る神山はここからでもしっかりと確認することができる。

 

 その神山が……()()()()()

 

 斜めに切れ込みが入り、滑るように位置がズレている。

 

「神山を……斬りやがったのか!?」

 

ドォオオオン!  ドォオオオン!  ドォオオオン!

 

「今度は何だ!?」

 

 信じられない光景に、ここが戦場であることも忘れ、呆然としていると、畳み掛けるように連続で轟音が戦場に木霊する。

 神山から視線をそらし、周囲を見回したガハルドは今度こそ絶句した。周囲の兵士の中には腰を抜かす者もいる。

 

 彼らの目に映るのは、今しがた神山を斬り裂いた騎士人形とは細部は異なるが、同個体だと思われる騎士人形。それが各地で立ち上がるのが確認できた。

 その時、連合軍司令部にいるリリアーナから”念話”が届いた。

 

『ガハルド殿!! アルフレリック殿!! アドゥル殿!! フリード殿!! そちらの状況は!?』

 

 どうやら各種族の代表に同時に”念話”を繋いだようだ。

 

『状況は最悪だ! 空から突然騎士人形が現れて暴れてる! 一撃で大地が割れたぞ!』

 

『こちらも同じく! 何だアレは……!』

 

『私は今アドゥル殿の近くにいる! ここからでも三体は確認できるぞ!』

 

 アルフレリック、アドゥル、フリードの順に報告が飛び交うが、どこも状況は同じらしい。

 

「……こっちも同じだ。もう見えてると思うが、奴め……神山を斬りやがったぞ……!」

 

 ガハルドの報告には特別大きな反応は帰ってこなかった。やはり既に全員確認しているのだろう。

 

「なあ、リリアーナ嬢。教えてほしいんだが……奴ら、何体居る?」

 

 これまでの情報から、空から振ってきた騎士人形は複数体居ることは確実だ。あの神山を斬り裂くレベルの奴が何体も……

 ほんの少し躊躇った後、リリアーナは震える声で、彼らにとっての”絶望”を告げる。

 

『…………十七体、です』

 

 その言葉に全員が息を呑むのを”念話”越しでも感じた。

 

「ああ、クソッタレが……!!」

 

 

 ◇

 

 

「作戦は順調。強敵が現れても、実力者が次々と敵を撃破。誰しもが感じつつあったでしょう。勝てるのではないか? と。そんな状況で今までの敵を遥かに超える存在が現れたら? 希望を見ていた彼らは、きっと絶望を感じることでしょう」

 

「チッ!」

 

 アルディアスはすぐさま地上に向けて狙いを定めた。

 

「おっと、邪魔しないで頂きたい」

 

「グッ!?」

 

 しかし、シュパースから放たれた極光がアルディアスに迫り、回避するために魔法の発動を解除せざるを得なくなってしまう。

 

「君が手を貸しては意味がありませんよ。アレらは私の分身体。私の記憶と力を受け継いでいます。とは言っても、力に関しては欠陥もいいところなので、君ならばあっさりと殺せるでしょう……しかし、地上は違います」

 

 今この瞬間も、アルディアスが攻撃の隙を狙っているが、シュパースからは一切の油断が感じられない。無意識に握りしめた拳から血が滴り落ちる。

 

「地上でアレと満足に戦えるのはアレーティア君とミレディ君くらいでしょう。普通に考えれば全滅です」

 

「そこを……」

 

 小さく呟くアルディアスを無視して、シュパースは続ける。

 

「人類よ、進化のときです。絶望を乗り越え、新たな領域へと至るのです。それが出来ぬと言うのなら……」

 

「そこをどけぇえええ!!」

 

──ここで果てなさい、人類(弱き者)よ。




>十七体の戦乙女(ヴァルキリー)

 シュパースの記憶と力の一部を引き継いだ分身体。力はオリジナルに及ばないものの、思考パターンなどは全く一緒。
 ミレディとアレーティアと同程度の強さを誇る。それが十七体。

>絶望を与えるための物語(ストーリー)

 初めから力の差を見せつけるのではなく、敢えて、接戦の状況を作り出し、勝てるのでは? と思わせてからひっくり返す。
 例え)部活の試合で全国レベルの相手に喰らいついていたら、実は三軍というベンチにも入れないメンバーだったと気付いたときの絶望感。
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