【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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第四十八話 【勇者の名は】

「馬鹿言ってんじゃないわよ!!」

 

 雫の怒号が光輝の背中に叩きつけられる。

 

「皆で掛かっても敵わなかったのよ!? 一人でどうにか出来るわけ無いじゃない!?」

 

「てめぇ、光輝!! 俺にダチを置いて逃げろって言ってんのか!?」

 

「嫌だよ!? 光輝君まで居なくなったら……!?」

 

 続くように龍太郎、香織が声を荒げる。声にこそ出せなかったが、鈴もその顔に怯えの表情を浮かべている。

 彼らはついさっき友人を失ったばかりなのだ。そんな状況でここに一人残ることの意味を彼らが理解していないわけがない。

 光輝は自分達を逃がすために、死ぬつもりなのだと。

 

「この中で一番強いのは俺だ。その俺が残って殿を務めるのは別に不思議なことじゃないだろう?」

 

 そんな彼らに対して、光輝は振り返ることなく、淡々と告げる。話すときは必ず相手の顔を見て話す光輝には珍しく、その声色には冷たさすら垣間見える。

 

「そんなことで認められるわけないでしょ!? 光輝が残るなら私も──」

 

「いいからさっさと逃げろよ!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 光輝の口から発せられた怒号に、思わず雫達の肩がビクリと跳ねる。

 普段から穏やかな口調の光輝から初めて聞く、荒々しい口調に、彼らは先程までの怒りも忘れ、呆然と光輝の背中を見つめる。

 その光輝がゆっくりとこちらを振り向く。その表情を見て、再び雫達は言葉を失った。

 

 

 

 光輝が、泣いていた。

 

 

 

 ボロボロと、流れる雫を拭うこともせず、頬を伝って地面に落ちる。

 幼い時からずっと一緒だった。いろんな姿を見てきたが、一貫して泣いている姿を見たことはなかった。

 例え、クラスメイトから罵倒されても、和解することが出来ても、涙を見せる資格すら無いと言わんばかりに弱い姿を見せることがなかった光輝が、人目を憚らず、涙を流している。

 

「……助けられなかった。また、俺は間違えた。間違えたんだよ。結局、何も変わっていなかった。俺はただのガキのままだった……!」

 

 間違いなく、恵里のことを言っているのだろう。

 違う。光輝のせいじゃない。あれは私達みんなの責任だ。光輝が一人で背負うものじゃない。

 そう言い返したいのに、何故か言葉が喉に詰まって、乾いた吐息しか出てこない。

 

「もう、失いたくないんだよ!! 誰かが死ぬのは見たくないんだ! 勇者だとか立場だとかそんなことは関係ない! 俺が! そうしたいんだ!! だから! お願いだから……!」

 

 光輝の言葉に四人が呆然としている間に、光輝はメルドに視線を向けた。

 

「──ッ!!」

 

 一瞬躊躇う様子を見せたものの、剣を鞘に収め、近場に居た雫の身体を脇に抱えて走り出した。

 

「全隊!! 光輝を殿として前線より撤退する!!」

 

「メルドさん!? 離して!?」

 

「きゃっ!? ま、待ってください!」

 

 メルドの号令を合図に騎士団員が香織、鈴、恵里の体を持ち上げ、メルドの後を追って走り出す。彼女らも必死に止めるように叫ぶが、表情を歪めながらも、騎士団員達は一切腕を緩めることはしない。

 

「光輝……!?」

 

 しかし、騎士団員では抱えることが出来ない龍太郎は騎士団員に身体を引っ張られながらも必死に抵抗する。そんな龍太郎の肩にカトレアが手を乗せる。

 

「男の覚悟を無駄にする気かい?」

 

「ッ!?」

 

 龍太郎の抵抗が弱まった隙に一気に身体を引っ張る。

 遠ざかっていく光輝の背中を見つめていた龍太郎が、不意に振り返った光輝と目が合う。

 

(みんなを頼む、親友)

 

 既に声が届く距離ではない。それでも龍太郎には光輝の言葉がハッキリと伝わった。

 

「ううううう!? くそぉおおおお!!」

 

 龍太郎の叫びが轟いたが、それも次第に光輝の耳には聞こえなくっていった。

 

「行ってくれたか……悪いな待たせて」

 

 何故か手を出さずに、こちら観察するように見つめていた騎士人形に語りかけると、それを合図にフランベルジュを構え、騎士人形が突っ込んできた。

 その一撃に対して聖剣に光を纏い、迎え撃つ。

 絶死の一撃に対して、斜めから逸らすような斬撃をぶつける。

 

「ぐぅうう!」

 

 正面から受けることはしない。そんなことをすれば、防御ごと叩き潰されるだけだ。

 しかし、騎士人形も何度も同じ戦法が通じるほど、無能ではない。

 空振った一撃の威力を殺さぬように身体を回転させた連撃が光輝の胴を分断するべく迫る。

 その薙ぎ払いを身体を地面スレスレまで下げることで躱す。

 そのまま身体を持ち上げる勢いを利用し、聖剣を振り上げる。

 

「”天昇閃・八翼”!」

 

 孤を描くように振られた一撃が騎士人形に迫るが、難なくラウンドシールドで防がれる。

 その瞬間に感じた殺気に、光輝は聖剣を盾のように構える。

 僅かに遅れて、ラウンドシールドが光輝の身体を大きく突き飛ばした。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 僅か十秒にも満たない攻防。それだけのはずなのに、すでに光輝の額には溢れんばかりの汗が流れ、身体は恐怖でガクガクと震える。それでもその恐怖を無理矢理押さえつけて、光輝は叫ぶ。

 

「”限界突破・覇潰”!!」

 

 光輝の身体から凄まじい光が溢れ出し、天に届くかと思うほどの竜巻となって顕現した。光の奔流が光輝の身体へと収束すると同時に光輝は騎士人形に踏み込んだ。

 

「ハァアアアアアッ!!」

 

 元々ハジメのアーティファクトで”限界突破”を発動していた状態ではあった。現時点での副作用は無くとも、それは肉体の限界を超える諸刃の剣であることに変わりはない。その状態から更に限界を超えた光輝の肉体は悲鳴を上げ、激痛が襲いかかるが、光輝は止まることをしない。

 

「アアアアアアアッ!!」

 

 既に光輝の中には剣技や型などといった八重樫流の技は感じられない。理性を飛ばし、本能のままに斬りかかる剣鬼。

 

──右から左への水平斬り。

 

──左手に持ち替えて、右下への斬り返し。

 

──身体を捻り、左上への斬り上げ。

 

──頭上から振り下ろす兜割り。

 

 どれも普通なら必殺に当たる一撃も、騎士人形は何気なく防いでいく。

 その胸中は、ただただ目の前の少年に対する失望だった。意志の宿らない剣技など恐れるに足らない。人類と獣の違いは理性があるかないかだ。

 目の前の少年は理性を放棄した、ただの獣だ。これ以上見る価値は無い。

 

 そう判断した騎士人形が試しを終わらせようと左手に握るフランベルジュを握り締めた瞬間、それは起こった。

 

 鎧に叩きつけられた一撃が、キィンと甲高い音を響かせ、鎧に一筋の傷を刻んだ。

 

 その事実に騎士人形は僅かに目を見開いた。

 この少年の実力は十分理解した。その剣に自らを傷つけるほどの力は宿っていなかったはず。

 疑問に思いながらも、今も猛攻を仕掛けてくる光輝を注視していると、すぐにその原因に気付いた。

 

 聖剣から力が光輝に流れている。光輝が聖剣の力を引き出しているのではない。まるで、聖剣が光輝に力を貸しているような……

 

 同時に光輝も不思議な全能感に戸惑っていた。

 

(何だ? 聖剣から力が流れてくる?)

 

 ”限界突破”終の派生技能[+覇潰]を発動した光輝はただ目の前の脅威を排除するべく、半ば暴走状態に陥っていた。だが、聖剣から流れてくる力で我を取り戻し、それどころか更に力が湧き上がってくるのを直に感じた。

 

(俺に力を貸してくれるのか?)

 

 光輝の問いかけに、肯定するかのように刀身が光り輝く。

 

「ありがとう……でも、()()()()()()()()()()()

 

 これじゃ駄目だ。この程度じゃまだ足りない。もっと、もっとだ。もっと力をくれ。俺に皆を守るだけの力を……!

 

 光輝の願いに反して、聖剣はまるで拒むようにブルブルと震える。

 それだけで光輝は気付いた。この聖剣には自我がある。力を与えるのを拒むのも、これ以上力を注げば光輝の身体が保たないことに気付いているからだろう。

 でも、それがどうした。恵里を失った。それだけじゃ無く、今度は香織や雫、鈴や龍太郎達まで危険に晒されている。そんなの認められるか。

 

(俺はここで終わっても良い!! だけど……みんなだけは……これ以上仲間を失うことだけは……!!)

 

「俺の全部をやる!! だから、お前の全てを俺に貸してくれ!!」

 

 光輝が聖剣を掲げると、今まで以上の光の奔流が聖剣に収束していく。

 騎士人形の薙ぎ払いを跳んで躱し、落下の勢いに任せ、巨大な刀身へと成った光剣を全身の力を込めて振り下ろす。

 

 光輝の人生に置いて、間違いなく最高・最強の一撃。聖剣から力を譲渡されることで、一時的にハジメすら超えた力を得た光輝の渾身の一撃は、騎士人形の脳天に振り下ろされ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 気付けば、光輝は床に這いつくばっていた。

 

「……ぐぅっ!!」

 

 訳も分からずに呆然としていると、胸に激痛が走った。光輝の右肩から左の腰にかけてざっくりと斬り裂かれ、鎧の隙間からドクドクと血が流れている。

 痛みに表情を歪めながらも、顔を持ち上げると、聖剣の剣先を摘んだ騎士人形の姿があった。

 

 光輝がされたことは単純明快。振り下ろした聖剣を摘んで受け止め、カウンターをくらった。ただそれだけだ。

 確かに光輝は限界を超え、一瞬とは言え、ハジメを超すほどの力を身に着けた。

 

 だが、騎士人形は光輝の変化の代償を正確に把握していた。確かに光輝は文字通り限界を超えた。

 しかし、それは一瞬の閃き。未来を犠牲にした、数秒の昇華。あのまま戦い続けていれば、この少年は、勝手に命を落としていただろう。そんなものはシュパースの求める進化ではない。

 人類の未来へと繋がってこその進化であって、未来を閉ざす進化など認められない。それは排すべき現象だ。

 

 騎士人形がフランベルジュを振りかぶる。力を使い切った光輝にはもう刃を受け流す力も残っていない。

 

「あっ」

 

 死んだ。まるで他人事のようにそう思った瞬間、光輝の脳裏をこれまでの記憶が巡り始める。

 

 ”走馬灯”──一節によると、危機的な死に直面した状況で、助かる方法を模索するために一斉に記憶が蘇る現象。

 

 その中で光輝の脳裏に強く浮かび上がった記憶は、幼なじみとの思い出でもなく、祖父や家族との思い出でもない。

 

 一人の”王”との会話の記憶だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「……で? 俺に何の用だ、クソガキ」

 

「お、俺の名前は天之河光輝です」

 

「フン、自分の責任も満足に取れないで引きこもってる奴など、クソガキで十分だ」

 

「──ッ!!」

 

 アルディアスの辛辣な言葉に光輝は顔を俯くだけで反論することが出来ない。

 その通りだ。勝手に戦争に手を貸したくせに、誰の役にも立てず、それどころかみんなを危険に晒した。弁解の余地もない。

 

 俯いたまま黙り込んでしまった光輝をじっと見つめていたアルディアスだったが、埒が明かないと思ったのか背を向けて歩き出す。

 

「あっ! あの!?」

 

「いいから黙ってついてこい」

 

 そのままスタスタと歩いていってしまったアルディアスに呆然としていた光輝だったが、慌ててその背を追いかけ始めた。

 

 

 

 沈黙が続く中、アルディアス達が辿り着いたのは、王都が見下ろせる高台の上。ここからだと、決戦に向けて慌ただしく動き回る王都の民の姿がよく見える。

 

「まだ俺に対して良い感情を持っていない人間族は多いからな。ここならこの時間は人も滅多に来ないだろう」

 

「……」

 

 てっきり面倒に思われていると思っていたのだが、わざわざ場所を変えてまで話を聞こうとしてくれる姿に意外そうに目を丸くする。

 

「何だその目は。お前から来たんだろうが。さっさと要件を話せ」

 

「え? あ、そ、その……」

 

 アルディアスの催促に、光輝は俯き、吃りながらも、ゆっくりと言葉を口にする。

 

「俺は……どうしたらいいんでしょうか」

 

「はあ?」

 

 意味の分からない問いかけにアルディアスは首を傾げる。

 

「俺は、ずっと正しくあろうとしてきました。弱きを助け強きを挫く。力を持つ者として当然のことだと」

 

 それは最早、相談という体の独白だった。

 クラスメイトを助けたかった。王国の人を助けたかった。みんなに笑顔になってほしかった。それだけが光輝の願いだった。

 だが、その気持ちに反して、光輝のせいで多くの人の笑顔が曇ってしまった。クラスメイトを命の危機に晒してしまった。

 なら、初めから戦争に参加するなんて言わなければよかったのか? でもそれは、この世界の人達を見捨てるということで……

 

「俺は、どうしたら良かったんでしょうか……」

 

 全てを語り終えた後、光輝は俯いたまま、チラリと視線をアルディアスに向ける。

 いきなりこんな個人的な相談を、それも敵だった人物にされて、さぞ迷惑に感じているのではないか? と、ビクビクとしていると、当のアルディアスは心底呆れたようにジト目を光輝に送っていた。

 

「……」

 

「え、えっと……」

 

 思っていた反応と違う様子に光輝が困惑すると、アルディアスが大きくため息をついた。

 

「何を言い出すのかと思えば、そんな話か」

 

「そんな話って……俺は真剣に悩んで……」

 

 自分の悩みをそんなあっさりと返され、むっとする光輝だったが、アルディアスの鋭い眼光に声が萎んでいく。

 

「二日前、俺の前に現れたシュパースがこう言っていた。『民を守りたい。同胞を救いたい。それらは欲望という人の薄暗い業から生まれたもの』だと」

 

「ッ!? そんなことは!?」

 

 光輝は直接シュパースと会ったわけではない。かの神にどんな思惑があるのかは知る由もない。だが、その言葉はとても認められるものではなかった。

 

 決戦の日に備えて、王国でも魔人族の姿を見ることが多くなった。正教教会から聞いていた魔物の上位種などではなく、人間と同じ、心のある生き物なんだと改めて認識させられた。

 その中で、直接関わることが無くとも魔人族の人達からアルディアスの名が出ることは珍しいことではなかった。

 光輝の目から見ても、彼らは心の底からアルディアスのことを慕っていることが伝わってきた。

 

『相手がどんな存在だろうとも、アルディアス様がいれば大丈夫』

 

『私達は少しでもあの方の負担を減らせるように自らのやるべきことをやるだけだ』

 

 彼らは心の底からアルディアスという王を信じている。それは正に、光輝の理想とする強者の形そのものだった。それが欲望から生まれたものなわけがない。

 

「何を怒っている。奴の言葉は間違っていない。俺の今までは、所詮俺個人の願望を実現させてきただけに過ぎない」

 

「なっ!?」

 

 だが、それをアルディアス本人に容認されたことで、光輝は目を見開く。

 

「な、何故ですか!? 貴方のおかげで魔人族の人達は……!」

 

 世界の神が相手と思えば、誰しもが絶望に表情を暗くするだろう。だが、魔人族の人達は誰一人として、そんな表情を浮かべていない。

 彼らがそんな表情で居られるのは貴方のおかげだろう。胸を張れる素晴らしいことのはずだ。それが間違っているというなら、一体何が正解なのか……!

 そんな葛藤を抱く光輝だったが、アルディアスは何でも無いように告げる。

 

「だが、それの何が悪い」

 

「……え?」

 

「俺のやってきたことが薄暗い業から来るものだったとして、それの何が悪いんだ?」

 

 結果的に多くの者が救えるのなら、同じことだろう。

 

 アルディアスの考えに光輝は唖然としたまま固まる。

 光輝にとって、手段は何よりも重要なものだった。どんな理由があれど、卑怯な手段を使うのは悪だ。そう考えていた。だが、アルディアスはそんなことを気になどしない。

 

「俺の目的は魔国の繁栄。命の危機が訪れることのない平和な世の中だ。それを実現するためならば、悪魔と呼ばれようが構わない。そもそも、他者からの評価にいちいち左右されるな。重要なのは何が正しいかではない。お前が何をしたいのか、だ」

 

「俺が、何をしたいのか……?」

 

「所詮人が一人で出来ることなど高が知れている。人は弱く脆い生き物なのだから。だからこそ、俺達は力を合わせるんだ。俺には俺を支えてくれている家族や仲間がいる。お前はどうだ?」

 

「俺は……」

 

 思い浮かべるのは、今もこんな自分に声をかけ続けてくれる幼なじみや親友の姿。

 もし、俺がこの現実から逃げたら彼女らはどうするのだろうか。怒るだろうか、泣くのだろうか。いや、それ以前に、きっと俺が居なくても戦い続けるんだろう。俺と違って、みんなは強いから。

 

 でも、その戦いで誰かが死ぬことになったら? それを遠く離れた地で知ることになったら? 

 駄目だ。それだけは耐えられない。みんなが死ぬことだけはあってはならない。

 

「それが正しかったどうかなど、見ている者の価値観に過ぎない。俺とて、誰かに望まれたからやってきたわけではない。誰でもない、俺が俺自身で決めたことだ。お前の求める答えは、お前にしか辿り着けない」

 

「俺にしか、辿り着けない……」

 

「辿り着いた答えが馬鹿みたいな答えだったときは、俺が根底からへし折ってやろう」

 

──だから、その時が来たら()()()()()()()()()()

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「知るかァアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

 痛む体を投げ出し、光輝は騎士人形に体当たりをかました。突然の行動に光輝の命を奪うはずだった一撃が光輝の髪を掠める。

 そのまま騎士人形に組み付き、必死に押し出そうとする。そこには何の企みもない。ただの無謀な突撃。我武者羅な一撃。ダメージなど一切無い。

 それでも、本能のままに光輝は一歩を踏み出した。

 

「答えなんか分かるわけないだろ!? ついこの前まで普通の学生だったんだぞ!!」

 

 死と隣合わせの世界とは無縁の世界だったんだ。俺は貴方みたいな立派な王様でもないし、実力も覚悟も比べるまでもない。貴方が満足できる答えなんて出せる自信なんかない。それでも……それでも……

 

「憧れたんだ! 貴方のような生き様に! その背中に!!」

 

 開戦と同時にシュパースの攻撃を全て叩き落とした姿。その背中が、光輝という人間を形作るキッカケとなった祖父の背中と重なった。あんな風になりたいと本気で思った。

 

「でも、結局俺は女の子一人救えない!! ちっぽけな存在なんだ!!」

 

 それでも……それでも……

 光輝の脳裏に香織、雫、鈴、龍太郎。そして、今も戦い続けてくれているクラスメイトの姿が浮かび上がる。

 

「世界も救えない! 恵里も救えない! それでも、みんなだけは! 友達だけでも救ってみせる!! 今度こそ! 絶対に!! 俺の……天之河光輝(俺のこれまでの人生)の全てをかけて!!」

 

 これだけは譲れない! 絶対譲ってなるものか!!

 

「絶対に!! 守るんだァアアアアア!!」

 

 ただただ自らの想いをかざし、光輝は叫ぶ。

 無駄だと分かっていても止まることはしない。一秒でもこいつをここで食い止める。それだけのことに命をかける。

 

 本来なら、何の障害にもならない行動。騎士人形からすれば、満身創痍の幼子が組み付いてきた程度の認識だ。

 だが、騎士人形が……どんな攻撃も淡々と斬り払ってきた存在が、()()()()

 自らに組み付く小さな存在を呆然と見つめる。

 

 何だコレは? 何故諦めない。死の間際に限界を超えて力を発揮することは珍しくない。私達もそれを願っていた。だが、これは根本から違う。既に力は失われ、満身創痍の存在だ。

 限界を超えた力をあっさりと押しつぶされた人類の行動は諦観か逃走の二択だ。当たり前だ。既に限界を超えているのだから。それが通じない相手に対応するには更に限界を越える必要がある。それが出来ないから人は諦める。神に祈ろうとする。

 なのに……何故コレは……?

 

 長い時を生きてきたシュパースの記憶にも存在しない人間。故に困惑する。シュパースのコピーである騎士人形はシュパースの知らない事態には対処が出来ない。

 そして、シュパースと騎士人形は魔力で常に繋がっている。それぞれが見て聞いたことを同時に体感することが出来る。

 騎士人形が見た光景が、シュパースを通して、各地で猛威を振るう騎士人形達全てに伝わる。

 理解できない光景を認識したそれらは、動揺に体が固まる。

 

──司令部に振り下ろされた神剣が……

 

──ガハルドに迫る血まみれの剣が……

 

──アドゥルの頭蓋を貫くはずだった刃が……

 

──ハジメとシアを消し飛ばす閃光が……

 

──アレーティアとミレディに降り注いだ龍の大群が……

 

 ピタリと静止する。

 

 それは、オリジナルであるシュパースも例外ではない。

 コピーの見た光景に、意識が僅かに割かれる。

 

 

 

 だが、それだけだ。シュパース達が静止したのは瞬きの間の一瞬のみ。時間にしてコンマ1秒にも満たない僅かなもの。

 確かに光輝の行動は騎士人形達の動きを僅かに止めた。しかし、結局のところ、彼の功績は人類の寿命をコンマ1秒伸ばしただけだった。命そのものを代償にしたにしては、あまりにも小さな成果。次の瞬間には、彼を含めた多くの者が死に至るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そう……それだけあれば、十分だった。

 

「クハッ」

 

 アルディアスが……獰猛に、狡猾に、劣悪に…………(わら)った

 

「ッ!?」

 

 ゾクリとシュパースの背筋に悪寒が走る。その時には既に、アルディアスは行動を始めていた。

 

『影星』

 

 魔法を唱えた瞬間、地上に居る騎士人形十七体全ての首に黒い魔力で構成された環が形成される。

 

「しまっ──」

 

 ようやくシュパースは自身の失敗を自覚するが、時既に遅く……

 

 

 

『──断──』

 

 

 

 その瞬間、開いたゲートが閉じられ、十七体の騎士人形の首が消し飛んだ。

 

「「「……は?」」」

 

 糸が切れた人形のように、膝から崩れ落ちる騎士人形を前に、多くの者が呆然とする中、一部の者は目の前の現象を引き起こした存在に気がつく。

 こんなことが出来るのは、この世界にたった一人しか存在しない。

 

「信じていました!!」

 

「おっせぇんだよ!!」

 

「お見事です」

 

「まじかよ……!」

 

「やっぱり、アルディアスはカッコいい……!」

 

 アルテナが……ガハルドが……フリードが……ハジメが……アレーティアが……

 戦場で戦う実力者達が一斉に空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに聞き届けたぞ、()()()()()

 

 決して光輝のことを名前で呼ぶことをしなかったアルディアスが……光輝の名を呼んだ。

 

「お前の酷く無様で、惨めで、憐れで……そして勇気ある一歩は、今確かに、この世界の人類を救う一手へと至った」

 

 今この場に居る者で、光輝の行動に気付いた者はアルディアスとシュパースを除いて他にはいない。

 だからこそ、自身が伝えなければならない。世界を救った男の功績を。

 弱者の意地を貫き通し、“奇跡“すら起こしてみせた()()の名を。

 

「問いかけなど最早不要……認めよう、天之河光輝。お前こそが今代の“勇者“にふさわしい!!」

 

 オルクス大迷宮で光輝に叩きつけた勇者としての価値観。それは結局のところ、この世界(トータス)での価値観に過ぎない。

 光輝は今この場で、光輝にしか出せない勇者としての姿をアルディアスに見せつけてみせた。

 

「あ……」

 

 アルディアスの宣言は戦場に大きく響き、光輝の元にもハッキリと届いた。

 その言葉だけで、光輝は全てが救われた気がした。

 

 怖かった。苦しかった。逃げ出したかった。

 それでも守りたかった。ただただその願いを叫んだ。胸の奥に秘めた想いをぶつけた。それを……確かに見てくれている人がいた。認めてくれる人がいた。

 

 光輝の根本に存在する、誰かを守りたいと思う心。幼き日より、祖父の教えにより光輝という人間を作り出すキッカケとなった大切な思い出。

 それは、決して無駄なことなんかじゃなかった。

 

 

 

「──ッ」

 

 その光景を黙って見ていたシュパースは()()()()()()()()()()、アルディアスを睨みつける。

 

「初めて顔つきが変わったな?」

 

「ッ!?……君は」

 

 アルディアスの言葉に更に不愉快そうに表情を歪めるシュパースとは反対に、アルディアスは心底愉快そうに笑みを浮かべ、腕をシュパースに向けて伸ばす。

 

「ようやくお前のことが少しは好きになれそうだ」

 

 アルディアスが掲げた指を鳴らすと、背後に黒い魔力で構成された十七の環が出現し、そこから騎士人形の首がボロボロと落ちてくる。

 シュパースに見せつけるようなソレは、まるで「次はお前の番だ」と言外に告げてくる。

 

「あまり人類(俺達)を嘗めるなよ? 神如きが」

 

 

 

 人類の運命を決める、人と神の戦いは、ついに最終局面へと突入する。




>未来を犠牲にした進化は認めない騎士人形

 その場を凌ぐためだけの進化は認めない派閥。例えるなら、超サ○ヤ人は認めるけど、最後の月○天衝は認めない。(作者はどっちも大好き)

>勇者の名は天乃河光輝

 おめでとう! 勇者(仮)は 勇者(真)に 進化した!
 かなり初期の頃からずっと書きたかった展開です。ご都合主義さえ無くなれば光輝というキャラはめちゃくちゃ輝くと思ってるんですよね。アフターでのハジメとの絡みとか好きです。

>“影星・断“

 他者は転移出来ない(安全に肉体全てを)という特性をそのまま攻撃に利用した技。肉体の一部を強制的に転移させる。元ネタは某第七王子。
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