人間達が絶望した表情を、私はよく覚えている。
私を信じてついてきた人間を突き放し、積み重ねてきた歴史を壊し尽くした。
その時の快楽と言えば、言葉に出来ぬ、なんと甘美なものであったことか。
ああ、そうか。私が今までこの世界を開拓し、人間に叡智を授けてきたのはこのためだったのだ。
故に、決めたのだ。この世界を私の玩具にしようと。
愉しかった。人を、世界を壊すのは。
愉しかった。何も知らずに私に救いを求める光景を見下ろすのは。
愉しかった。絶望の表情を浮かべる人間達を見るのは。
愉しかった。愉しかった。愉しかった──……
──そのときには、もう『
◇ ◇ ◇
「ハア、ハア……ハア」
息を乱すアルディアスの手に握られた“クラウ・ソラス“が光の粒子と成って砕けていく。とっくに魔力の保有限界は超えていた。最後まで保っていたのが奇跡だろう。
「……終わった、か」
『ふん、私の力を使ってその有様か』
「貴様も同じようなものだろう」
『一緒にするな。肉体と魂が最盛期のものならばここまで手こずることはなかった』
「いちいち癇に障ることを………エヒト?」
憎まれ口を叩くエヒトにアルディアスが言い返そうと言葉を発した瞬間、アルディアスはそれに気付いた。
自分の中のエヒトの存在が少しずつ小さくなっていっている。
「……消えるのか?」
『言っただろう。今の私は魔力の残照、残り火のようなものだ。魔力を蓄える肉体も魂の器もない。一度使用した魔力が回復することもない以上、こうなることは自然の摂理だ』
魔力とは無限ではないが、有限でもない。一度使い切ったとしても、時間の経過と共に回復する。しかし、魔力体そのものであるエヒトにはそれが出来ない。アルディアスの中で彼の魔力を自分の魔力に変換することくらいは出来るかもしれないが……
『貴様の脛をかじりながら生きていくなどまっぴらゴメンだ』
アルディアスに干渉することは出来ても、支配はおろか、他者に干渉することも出来ない。これからの人生をアルディアスの魔力を喰らいながら生きていく。そんな生き方をするくらいならば、死んだ方がマシだ。
「俺とて、貴様をいつまでも住まわせておくつもりはない」
『ならさっさと──』
「だが……」
消えてやる。そう続けようとしたエヒトの言葉をアルディアスが遮った。そのことに苛立ちを覚えたエヒトの耳に……
「今回ばかりは助かった。礼を言う」
アルディアスからの感謝の言葉が飛び込んできた。
予想もしなかった事態に、思わずエヒトもポカーンと間抜けな表情を浮かべながら固まる。
『………………はあ!? 何だ貴様! 頭でもおかしくなったのか!? 気味が悪い!?』
「人がせっかく素直に礼を述べたというのに貴様は……!」
礼を言っただけだと言うのに、気味悪がられたことに、アルディアスのこめかみに青筋が浮かび上がる。
『私は私の目的のために動いただけだ! 貴様のためではない! 勘違いするなよ!?』
「そんなこと言われなくとも分かっている! 素直に礼の一つも受け取れんのか貴様は!?」
『貴様の礼などいらんわ!? そんなもの、丸めて奈落の底に投げ捨ててくれる!!』
「貴様に礼など言った俺が間違っていた! 貴様の力など無くとも、俺だけで十分だったがな!!」
『なんだと!? ボロボロにやられていたのはどこのどいつだ!? 礼の一つも言えんのか!?』
「貴様がいらないっつったんだろうがァ!?」
売り言葉に買い言葉。ついさっきまで阿吽の呼吸でシュパースを追い詰め、ついには打倒するまでに至ったというのに、その時の息の合いようが幻だったかのように再び口喧嘩を始める。
「ぐっ!? こっちは重症なんだぞ……声を荒らげさせるな」
『貴様が突っかかってくるからだろうが!? これ以上貴様に付き合っていたら埒が明かん! 私はもう行く!!』
「ああ、勝手にしろ」
傷を治療する力も残っていないアルディアスは声を上げたことで激痛が走った脇腹を抑えて唸る。
そんなアルディアスに呆れた表情を浮かべたエヒトが、完全にその身を消失させようとする。
「………? おい、何をしている?」
『……いや、その……だな……』
しかし、しばらく経ってもエヒトの気配が消えないことに首を傾げたアルディアスが問いかけると、おずおずと言った様子でエヒトが声を出す。
『……私は貴様が嫌いだ。私の世界をめちゃくちゃにした貴様が憎くて憎くてたまらない』
「……」
『だが、一つ思い出したことがある』
それはエヒトが世界を壊すことに快楽を覚え始める前の記憶。
共にこの世界を発達させた『友』との思い出。
始まりは一人の男の言葉だった。
『彼らを導きたい』
それは元の世界の人々を見捨ててしまった負い目からか……心に燻っていた罪悪感からか……
心にポッカリと空いた穴を埋めるように、原住民に手を差し伸べ、叡智を与えた。
助けた彼らに感謝の言葉を掛けられると、故郷を見捨ててしまった自分の選択にも意味があったと感じられる。
そう言って。『友』は笑顔を浮かべた。
私には分からなかった。魔法の極地へと至り、深淵に辿り着くことこそ我が宿命。
下等な原始人に時間を割いている余裕など無いというのに。
それなのに、私は『友』のやることを否定しながらも、彼らを放っておくことをしなかった。
それは何故か……
楽しかったのだ。
楽しかった。『友』と何かをやることが。
楽しかった。『友』と何かを達成することが。
楽しかった。『友』と一緒にいることが。
楽しかった。楽しかった。楽しかった──……
くだらないことで笑い合って、お互いの成果を自慢しあう。そんな当たり前のことが楽しかったんだ。
だが、そんな時間も終わりを迎えてしまった。
『友』は死の理を超越していたにも関わらず、一人、また一人と自らその命を終わらせていった。
何故だ。何故、自ら終わらせるような真似をする。何故私を置いていくのだ。
分からなかった。彼らがその選択をした意味を理解できなかった。
しかし、一人きりになって数百年、私は最後の『友』の言葉を思い出した。
『もう十分だ』
最初はこの言葉の意味が分からなかった。だが、ある日閃いた。
彼らはこの世界が完成してしまったことに気付いたのではないか、と。
私達が手を加える必要がないところまで人間達は発展を遂げた。だから、彼らの役目も終わった。
──なら、全てをリセットしてしまえば良いのではないか?
そうすれば、彼らは帰ってきてくれるのかもしれない。
また、あの日のように、皆で笑い合える日がきっと来る。
そうして私は全てを壊した。
更に数千年後、私は世界を壊そうと思い至った理由を忘れていた。
思い出した。私の原点。私の願望。
この願いが叶うことはもう無いだろう。彼らが生き返ることなどありえないし、今の私を受け入れるとも思えん。それでも、思い出すことが出来た。
誰かと共に戦うのは久しぶりだった。そうか……こういう感覚だったか。
その相手が自分を殺した男というのが気に食わんが……
『『友』を思い出すことが出来た。それだけは感謝してやろう』
その言葉を最後に、エヒトはこの世界から完全に消失した。
「………貴様の礼など、気味が悪い」
アルディアスの呟いた声は誰に届くこともなく、空に溶けて消えていった。
そして、徐ろに地上に視線を向けたあと、フラフラと降下を始めた。
◇ ◇ ◇
──なんで、受け入れたの?
ぼんやりとする意識の中、表情のない誰かがシュパースに問いかける。
逆光でシルエットしか見えない誰かは、横たわるシュパースの顔を覗き込む。
──最後の一撃。貴方ならまだ抵抗出来たんじゃない?
「そう、かもしれませんね」
──なら、なんで?
「……分かりません。分からなくなったんです。私はどうすればよかったのか……」
──後悔してるの?
「……それは」
──大丈夫。貴方はもう答えに気付いてる。
「え?」
表情の見えない誰かはそれだけ告げると、スタスタと歩いていく。
「ま、待ってください!? 君は、君はもしかして……!」
慌てて上体を起こして、必死に手を伸ばすシュパースの姿を肩越しにチラリと見た。
表情は見えないはずなのに、その顔は笑っているような気がした。
──もう時間。行ってあげて、
その言葉を最後に、視界が光に包まれた。
◇ ◇ ◇
「……うっ……ここは」
「ようやくお目覚めか」
「……アルディアス君?」
身体の痛みで覚醒したシュパースが辺りを見回そうと首を上げると、すぐ目の前に腕を組んだアルディアスがこちらを見下ろしていた。
全身がボロボロで、血まみれだが、その表情からは一切それらを感じさせない。
「……そうか、私は負けたんですね」
一泊置いたあと、シュパースは状況を完全に理解する。
大樹の根本に上体を預ける形で倒れ込む身体は鉛のように重く、つま先から徐々にではあるが、光の粒子となって空気に溶けるように消えていっている。
(これが、“死“……案外あっさりしているんですね)
そんな光景をシュパースは他人事のように感じながら見つめていた。
「アルディアス君、これを……」
シュパースがのろのろと持ち上げた腕から淡い光の玉が現れ、ふよふよとアルディアスに向かっていく。
「なんだこれは?」
「私の力です。僅かですが、君ならばいずれ私以上の存在へと到れるでしょう」
人類はまだ弱い。私はずっとそう思い込んでいた。
だが、結果はどうだ。神は無様に倒れ伏し、人類は……彼は間違いなく次の領域へと足を踏み入れた。
人類の可能性の力に、私は負けたのだ。敗者は潔く去るのみ。後は、彼が私の代わりに人類を導いてくれるだろう。
アルディアス君、君ならば私と違い、立派な──
「いらん」
──バシンッ
「……え?」
力なく、健気に目の前まで飛んできた光球をアルディアスはあっさりとはたき落とした。
地面に叩きつけられた光球は僅かに跳ね上がった後、その身を粉々にして消えていった。
「……な、何をしているのですか!? あれは私が君に残せる最後の力なんですよ!?」
「俺がいつお前の力を継ぐなどと言った。貴様の力など必要ない」
「違う!! 受け継がなければならないのです! 確かに君ならば自力で神と同等に至ることは出来るでしょう! しかし、ベースが人である君には悠久の年月を耐えることは出来ない!! いつか限界が来る!!」
人は長くとも百年もすれば死ぬ。神へと魂魄を昇華させたエヒトや先祖返りのアレーティア、竜人族のように特殊な成り立ちや種族から長命の者もいるが、真の意味で生き続けられる者はいない。
時間とは残酷にも人を大きく変えてしまう。エヒトが『友』との思い出を忘れたように、アルディアスが自力で至ったとしても、今の想いを抱き続けることは不可能だ。必ずどこかで歪んでしまう。
それを防ぐためにも、人造の神性ではなく、本物の神性を受け継がなければならない。それなのに……
「なにか勘違いしているようだな。俺は神になるつもりはないぞ」
「なッ!?」
今度こそシュパースは言葉を失った。
何故……その二文字が頭の中を駆け巡る。そんなシュパースの表情で内情を悟ったのか、アルディアスは口を開く。
「お前の懸念くらいは理解できる。今はお前という敵を前にしてこの世界は手を取り合うことができた。だが、何百年、何千年後には同じとは限らない。確かにそうだ。だが、何故俺がそんな未来まで面倒を見なくてはならない」
言い返そうとしたシュパースだったが、アルディアスの鋭い視線が突き刺さり、出かけた言葉が呑み込まれる。
「言っただろう。俺達は不完全な存在だ。だからこそ手を取り合うんだと。俺が居なくなったとしても、必ず俺の意志を受け継ぐ者は現れる。そうやって人の意志は受け継がれていくんだ」
「意志を受け継ぐ……」
分かっていた。理解していたつもりだった。誰かが導かなければならないと思っていた。完璧に至るためにはにそこに辿り着くための指標となる絶対的な個が必要なのだと……
「なら……私の意志も君が受け継いでくれるんですか?」
「断る」
「……あの、受け継がれていくものでは?」
まさかの即座に拒否されたことにシュパースの目が点になる。話が違うんじゃないですか……と。
「そもそも、お前が何を想っているのかを俺は知らん。人類救済などとは言うなよ。それが建前でしかないことくらいは分かる」
「そんなことは……」
「……なんだ、やはり無自覚か。ハァ、めんどくさい奴だな。
「……え?」
アルディアスがボソッと呟いた言葉にシュパースが驚愕に目を見開く。そんな様子にアルディアス怪訝な表情を浮かべる。
「何だ?」
「それをどこで……?」
「何?」
「冗談は名前だけにしろって……」
「どこも何も……シュパースってのは『冗談』という意味があるだろうが」
知らずに使ってたのか? そう問いかけるアルディアスだったが、既にシュパースは動揺で言葉が聞こえていない。
シュパースという言葉に『冗談』という意味が含まれていることはそこまで認知されていない。それでも知っていてもおかしくはない情報だ。だが、アルディアスからその言葉が発せられた瞬間、シュパースをとてつもない既視感が襲った。
酷く懐かしい記憶。初めて自分に“個“としての名称が付けられた日の思い出。
『シュパース……シュパースですか…………うん、良いんじゃないですかね』
『本当? 良かった、気に入らなかったらどうしようと思ってたよ。他にも『冗談』って意味もあるみたいだし、存在が冗談みたいなお父さんにはピッタリかなって』
『存在が冗談みたい!?』
「まさか……そんな……!」
なぜ気づかなかった。なぜ分からなかった。
自らを打倒した時代の申し子と、自らの在り方を変えてみせた愛しい愛娘。
シュパースに大きな影響を与えた二人の魂が…………完全に重なった。
『大丈夫。そんな顔しないで? 私はずっとお父さんのことを見守ってるよ……きっとまた会える。だから、泣かないで?』
ああ、私は大馬鹿者だ。ようやく分かった。ようやく気付けた。
アルディアス君に対して、何故ここまで執着していたのか。彼が私の理想と違うことに、あれだけの失望と悲しみを抱いていたのか……
(ロシーダ。君は約束を守ってくれたのですね)
気づかなかったくせに、無意識の内に彼を彼女と重ねていたのか。
人類を欲深い存在などと言っておきながら、誰よりも私が傲慢だった。
「……アルディアス君。君は何故そこまで強く在れるのですか? 何故、未来を信じられるのですか?」
アルディアス君にそう問いかける私だったが、彼が何と答えるのか。私は予想できていた。きっと
「愚問だな。家族を、仲間を守るためだ。それ以上求めるものはない。それに、
そんなことはない。人は簡単に死ぬ。
そんな否定の言葉はいくらでも浮かんでくる。しかし、彼の瞳を見ると、そんな言葉が喉に引っ掛かり出てこない。
「貴様に比べれば、一人一人はちっぽけな存在だろう。きっと、これからも人類は何度も失敗する。だが、それで良い。それが良いんだ。大切なのは、初めから正解を選ぶことじゃない。間違えてもやり直すこと……最善を求めて、何度も試行錯誤を繰り返すこと……」
何よりも、と言葉を区切った後、アルディアスは空を見上げる。その表情に小さく笑みを浮かべ……
「一人で何でも出来たら凄いが、それじゃ寂しいだろう? 皆と一緒の方がずっと楽しいさ」
『一人で頑張れるのは確かに凄いけど、それって寂しくない? きっと皆で頑張った方が楽しいと思う』
……ああ、やっぱり君は何も変わらない。何億年経とうとも、その命を散らそうとも、君の想いは変わらなかった。
それに比べて私は何だ? 君の死を受け入れられず、君の想いを盾に、自らの想いを抑え込んだ。君の好きだった人類を……世界を守ることこそが自らの使命とし、憎悪さえ抑え込んだ。
世界を守る? 人類を救済する? 違うだろ。私が溜め込んでいた想いは、そんな体の良い言葉なんかじゃなかったはずだ。もっと自分勝手で、単純なものだった。
「そうだ。そうだった。こんなにも単純で、簡単なことだったんだ」
「……お前」
目の前の光景にアルディアスは言葉を失った。
なにかに納得したような表情を浮かべたシュパースの頬を……雫が伝った。
『お父さん』
最愛の娘の言葉が蘇る。
「私はただ……かつてのようにまた呼んで欲しかっただけ……あと、何百回だって、父と…呼んで欲しかった。平凡でも良い。特別じゃなくても、良い。ただ、幸せに……生きていて欲しかった……!!」
もっと成長していく姿を見ていたかった。いつの日か、大切な人と一緒になって、家族を作って幸せを噛み締めて欲しかった。最後は家族に囲まれて、惜しまれながら旅立って欲しかった。
それは世界を創造し、人類を創り出した“神“としての顔などではない。
ただ、娘の死を嘆き悲しむ一人の“父親“の顔だった。
「ああ、君の言う通りです。私はロシーダの……娘の死を受け入れられなかった。その事実に耐えられなかった。だから、理由を作り出した。人類を
なんて自分勝手なんだ。自分を守るために、世界を窮地に陥れた。世界を守るという名目を掲げることで、自分の行いを正当化させた。
彼女の死を無駄にしない? 彼女への手向け? 馬鹿か。誰よりも彼女を侮辱していた私が言えることではないだろう。娘の死で世界を滅ぼそうとするような神など冗談にもならない。
「……別に良いんじゃないか?」
「……え?」
俯き、酷い自己嫌悪に陥っているシュパースにアルディアスの声が掛けられた。さぞかし自分勝手な行いをした神に失望しているんだろうな、と思いながらシュパースが顔を上げると、失望するどころか、納得したような表情を浮かべる姿に困惑する。
「つまり、お前は自分の娘が亡くなった事実を認めたくなかっただけだろう」
「だけって……それで世界を、たくさんの人々を巻き込んだのですよ?」
「世界がどうとか、人類どうとか、理想論を勝手に押し付けられるよりもよっぽど納得できる。それに……」
「それに?」
「親というのは、子供のためならば世界すら滅ぼせるらしいからな」
俺は親ではないから分からんがな。そう続けるアルディアスの言葉を聞いたシュパースはポカーンと間抜けな表情を晒した後、耐えきれないと言った様子で吹き出す。
「ふふ、ふ……なるほど、確かに一理ありますね。子供のために命をかけられるのが親という生き物ですから」
「ははっ……ああ、今でも敵わんよ」
そのまましばらく二人で笑いあった後、息を整えたシュパースがアルディアスをじっと見つめる。
すでに胸辺りまで粒子となって消えていっている。そろそろ時間だろう。
「アルディアス君」
「……」
「この先、様々な困難が君達を待ち受けているでしょう」
「ああ」
「時には耐えきれず、挫けてしまうかもしれません」
「ああ」
「それでも、抗い続けると……戦い続けると誓えますか?」
「ああ、誓おう」
その言葉に偽りはなく、その瞳からは、必ず成し遂げるという強い覚悟を感じた。
ああ、もう大丈夫だ。
今なら心の底から信じられる。君達ならば、任せられる。
「ならば信じましょう。そして祈りましょう。君達の未来に“幸福“がありますように……」
最後に満面の笑みを浮かべたシュパースは、光の粒子と成って消えていった。
◇ ◇ ◇
視界が黒く染まった後、シュパースは身体が落下していくような感覚を味わっていた。まるで水の中のように四肢が重く、瞼を空けるので精一杯だが、不安は全く無かった。
後は彼らに託した。私のやるべきことは終わった。彼らの行先をこの目で見れないのは残念だが、仕方がないだろう。
(私の勝手で多くの人々の幸せを奪ってしまった。間違いなくこんな身勝手な男は地獄行きですかね)
人が死ぬとその魂は星へと返り、輪廻を回り、新たな生命として世界に誕生する。
私が創り出した輪廻転生の軌跡に辿れば、そうなるが、果たして神が死んだらどうなるのか。
(普通に考えれば転生すること無く輪廻を回り続ける。もしくは存在ごと消えてなくなるのでしょうか)
分からない。分からないが、自分にはお似合いの最後だろう。どんな結末になろうとも全てを受け入れる覚悟だ。
(ああ、でも、もし一つだけ願いが叶うのなら……最後に君の笑顔が見たかった……)
自分に向けられたあの笑顔を思い浮かべて、シュパースは無意識に手を伸ばす。
例え、叶わないと分かっていても、伸ばさずにはいられない。空を掴むように上に掲げられた弱々しい手。
その手が
「ッ!?」
「掴まえた」
「……ロシーダ!? 何故君が……!?」
誰も掴むはずのない手を掴まれたことに、目を見開いたシュパースの目の前に現れたのは、見間違えるはずもない……あの日、自らの腕の中で息を引き取った娘、ロシーダの姿だった。
「全く。会いに行くって言ったのに、勝手にどっか行かないでよ」
「ロシーダ……! 私は……私は……!」
「大丈夫。ちゃんと見てたよ。頑張ったね、お父さん」
「でも、私は……! 君の想いを……!」
「それだけ私のことを想っててくれたんでしょ? 大丈夫だよ。後は、あの子達に任せよう。信じて託したんでしょ?」
「……そう、ですね。彼らならきっと……」
「うん! ほら、こんなところで黄昏れてないで早く立って?」
「……引っ張ってください」
「子供か」
かつてと同じやり取りに、ロシーダが半目でジトッとした視線を向けてくる。しかし、そんなことでへこたれる私ではない。そもそも、身体が満足に動けないのは本当なのだ。
それに、彼女ならきっと……
「……ハァ、しょうがないなぁ」
案の定、一つため息をついた彼女は笑みを浮かべながら、私の腕を引っ張った。
──ああ、その笑顔が見たかった。
◇ ◇ ◇
光の粒子が天高く昇っていく光景を、アルディアスは黙って見送っていた。
「……これは」
それをじっと見つめていたアルディアスの片目から、一粒の雫が流れ落ち、雫を指で拭い取ったアルディアスが不思議そうにそれを眺める。
「俺は……」
『ありがとう』
「ッ!?」
呆然とするアルディアスの頭に突如響いた女性の声。その声に慌てて周囲を見回すも、人の気配は一切無い。
「……」
ただ黙って空を見上げたアルディアスの耳に、今度は違う声が聞こえてきた。
「アルディアスーー!!」
「「アルディアス様!!」」
その声に反応したアルディアスが声のした方向に振り向くと、アレーティアを先頭にフリードやカトレアの魔人族達の姿。その後ろにはハジメやミレディの姿もある。
足をもつれさせながらも、必死に駆けてくる様子の家族の姿を視界に捉え、思わず苦笑しながらも、手を上げて無事を知らせる。
「……疲れたな」
小さく呟いた後、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだアルディアスをアレーティアが慌てて受け止めた。
人類 対 神
後の歴史において、人類の未来を賭けた史上最大の戦い。
【神話大戦】として語り継がれることになる天上の戦いは、世界に大きな傷を残しながらも人類の意志を宿したアルディアスによって、三度、神殺しが成し遂げられることで終幕を迎えた。
>エヒトちょっと良い奴化
原作でもエヒトって他の到達者が居る時は、ちゃんと神してたっぽいですし、最後の一人までちゃんと最後を看取ってることから、それなりに仲間意識あったんじゃないかなと思いました。
>アルディアスとロシーダ
アルディアス→aldious→losiuda→ロシーダ
憑依、転生と色々在るかもしれないけど、明確にこれって言うのは決めてないです。そこはあやふやなそういうものとしていた方がいいかなと。
>
娘の死を受け入れられなかった普通の父親。
次回、完結。