【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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beforeでもafterでも無く、ifです。
予告してたものじゃなくて申し訳ない。書きたくなったんです。

もし、解放者達よりも先にアルディアスが生まれていたら……という設定です。


番外編
IF編 魔人族の逆襲


 魔人族。

 

 人間族よりも優れた能力を持ちながら、狂った神と、一人のイレギュラーによって、世界から排他された孤独な種族。

 

 生き延びた者達は、無限に続く虚無に精神が壊れかけていた。

 死してなお、現世に未練が残っていた者達は同胞達の悲痛な姿に涙を流した。

 

『私はただ……同胞達が何に脅かされることもない、安心できる国にしたかっただけなのに……』

 

『あたしは、同胞のため……恋人のために平和な世界が欲しかっただけ……幸せになりたかった……』

 

 どこで間違ったんだろうか。どうすればよかったのだろうか。

 魔人族(私達)は……何を信じていればよかったんだろうか。

 

『死にたくない』『寒い』『苦しい』『諦めるな』『辛い』『どうして』『死にたい』『生きろ』『殺して』『諦めよう』『皆で』『もう十分』『死ぬ』

 

 同胞達の悲痛な声が聞こえる。

 

『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か』『誰か『誰か』

 

 誰でも良い。お願いだ。お願いだから……

 

『誰か助けて……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに聞き届けた」

 

 

 

 願いは、届いた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ヘルシャー帝国。

 

 一年前、一人の少年の策略によって大打撃を被った帝都だったが、あの大戦後に着実に復興を進めていき、今ではかつての街並みを取り戻しつつあった。

 

 しかし、それはもはや過去の話。

 その象徴たるは帝城が……崩落していた。

 帝都の至るところで黒煙が吹き上がり、人々の悲鳴が木霊する。

 

「嫌だ、死にたくない!?」

「殺さないで、殺さないで!?」

「くそったれが!?」

「死にやがッ──ギャッ!?」

「うわぁあああ!?」

 

 そこに一切の慈悲は無い。彼らは作業をするかのように淡々と命を奪っていく。

 

「なんで……なんで()()がここにいるんだよぉおおおおお!?」

 

 あり得ない現実を嘆く青年の首が、あっさりと吹き飛んだ。

 

 

 

──帝城・玉座の間

 

 「う、あああ……」

 

 そこに鎮座する玉座に座れるのは皇帝たるガハルドただ一人。しかし、肝心のガハルドは床に這いつくばり苦悶の表情を浮かべている。周囲には彼の側近達の姿もあるが、彼らが動くことはもう二度と無い。

 それを、玉座に腰掛けながら見下ろす男が一人。

 

「実力至上主義の国家か。俺が生きた時代には存在しなかったが……」

 

──この程度か。

 

 口に出したわけではない。それでもその黄金(こがね)色に輝く瞳が口以上に物語っている。哀れみすら含まれる視線に、ガハルドの怒りが全身を駆け巡るが、身体はピクリとも動かない。

 

「なんで……なんでてめぇらが生きていやがる!?──魔人族!!」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「あ? なんでエヒトが肉体を妥協しなかったのかって?」

 

「うん、この前リリィとそんな話になったんだよね」

 

 ハジメ家のリビングにて、香織からの突然の疑問にハジメは首を傾げた。詳しく聞くと、リリアーナと雫の三人でお茶を飲みながら談笑していたときにふと話題に上がったそうだ。ちなみにハジメの両親は外出中だ。

 

「そりゃ……一度身体を奪うと数年は入れ替えが出来ないからじゃないか?」

 

「それはこの前アニメで見てたナ○トに出てきた大蛇○ですぅ」

 

「ああ、あの気持ち悪い蛇みたいな奴じゃな」

 

 ハジメの回答にシアからツッコミが入り、ティオもその時の描写を思い出したのかうんうんと頷く。

 

「じゃあ、神域の方が居心地が良かったとか?」

 

「否定は出来ないけど……」

 

「あのプライドの塊みたいな奴がその程度で引きこもる?」

 

 続く回答に雫とユエは首を傾げる。

 肉体を持たなくては現世に顕現が出来ない。エヒトの様子を思い出すに、肉体の鞍替えが出来ないというわけでもなさそうだ。

 

「言われてみれば、確かにおかしな話だな」

 

 強い肉体を欲していたのは分かる。だが、別に神域で待ち続けなくても、その都度強い身体を見つけ次第鞍替えしていけば良かったのではないかと思う。

 それにエヒトはアルヴを魔人族の王として降臨させていたが、それなら、王国のトップにはエヒトが座れば効率は良かったはず。なぜわざわざノイント(メッセンジャー)を介してまで手間のかかる手段を使ったのか……

 あくまで盤上を上から眺めていたかったという線もあるが、奴の性格から推測するに、すぐ目の前で苦痛に歪む表情が見れるのにその機会を棒に振るうとも思えん。

 

(ゲーム感覚なら見てるより、自分でやった方が楽しいだろ)

 

 特に重大なことでも無いが、一度気になるとなんだかモヤモヤして後味が悪い。その場に居る全員が首を傾げていると、輪の外でレミアに注いでもらったジュースを飲んでいたミュウがバッと手を上げた。

 

「ミュウ分かったの!! きっとエヒトは怖かったの!!」

 

「「「……怖かった?」」」

 

「うん! パパが言ってたの! エヒトはとんでもなく臆病で弱虫野郎だって!!」

 

「あなた?」

 

「……悪かった」

 

 気付かぬ内に、またもやハジメの口の悪さを継承していたミュウの姿にレミアの笑みがハジメに突き刺さる。

 

「きっとお外に出て、パパにやられちゃうのが怖かったの!!」

 

「あら〜、流石はミュウね。名探偵さんみたい。ご褒美のジュースよ」

 

「わーいなの!!」

 

 ジュースにつられて再びレミアの方に戻っていったミュウを一瞥したハジメ達はお互いに顔を見合わせた。

 

「「「エヒトが……怖かった?」」」

 

 ミュウの意見はつまり、現世にはハジメのような強者が居て、生半可な肉体では殺される危険性があったから、ということだろう。

 

「「「いやいやいや」」」

 

 全員が同時に首を振る。

 確かにミュウの考えは理屈が通っているが、流石にありえない、と。

 ハジメと同等の存在がいることもそうだが、()()()()()が恐れる存在など考えられない。内面はともかく、その実力は確かだった。ハジメ達が勝利を掴めたのも幾つもの奇跡が重なった結果に過ぎない。

 そもそもそんな存在が居れば、とっくにエヒトが自分の肉体として使っているだろう。

 

「……と、もうこんな時間か。そろそろ出発するぞ?」

 

 ハジメの号令に各々がはっとした表情を浮かべた後、慌てて準備を始める。今日はこのメンバーでトータスに行く予定なのだ。ハジメ家で集合してすぐに出発する予定だったが、何となく香織が口にしたことで時間をくってしまっていた。

 

「レミアとミュウはホントに留守番で良いのか?」

 

「ええ、少し前に里帰りも済ませましたし、それに……」

 

「明日は友達しょくんと公園に行くの!」

 

「と、言うわけなので、私はミュウについていきますね」

 

「そうか、分かった。ミュウのことよろしくな」

 

「はい。かしこまりました、旦那様」

 

 その後、全員揃ったのを確認したハジメが“クリスタルキー“と“導越の羅針盤“で扉を開いた。

 

 

 

 ◇ 

 

 

 

「……は?」

 

 扉をくぐるとそこは王宮の一角にある大広間だった。

 それは別にいい。ハジメがそこに開くように設定したのだから当たり前だ。だが、ハジメ達の視界に広がる光景は、自分達の記憶とはかけ離れていた。

 

 見渡す限りの瓦礫の山。僅かに残る城壁と床の意匠がなければ、どこか違う場所に転移してしまったかと勘違いしていただろう。

 遅れて聞こえてきた喧騒の声。遠くからでも聞こえる悲鳴と鼻を刺激する血の匂い。それだけで状況を理解した。

 

──王都が襲撃を受けている。

 

 それを認識した瞬間、すぐさまハジメは駆け出した。その後ろからユエ達も追走する。

 

「どうなってるの、なんで王都が!?」

 

「知らん! だが、襲撃されているのは間違いねぇ!!」

 

「しかも、王都はほぼ壊滅状態じゃ! ちとマズイの!!」

 

 混乱しながらも香織の疑問に、ハジメとティオが足を止めずに答える。

 情報は足りないが、王都が何者かの襲撃を受けているのは間違いない。しかも、状況はかなり悪い。

 

「そもそも、今のトータスに王都を襲撃してくる勢力なんているの!?」

 

「仮に居たとしても、王国をここまで一方的に圧倒できる戦力なんてどこにも無かったはず!!」

 

「ハジメさんのアーティファクトも全部壊しましたしね!!」

 

 少し前までは、戦争真っ只中だったトータスだが、エヒトを打ち倒したことで終止符が打たれたはず。

 戦力差を覆すことの出来るハジメ産のアーティファクトは大戦の後に一つ残らず破壊した。

 そのことに雫とユエ、シアが困惑の表情を浮かべる。

 

「大前提として、そんなことをする利点がない」

 

 ハジメの一言に、その場の全員が頷く。

 普通、国を襲撃するとなると、それをするだけの価値が襲撃者側にあるということだ。

 駄神(エヒト)のような愉快犯の可能性もあるが、あれは特殊な部類だろう。

 

「──ッ!! 避けて下さい!!」

 

「「「ッ!!」」」

 

 突然のシアからの警告。シアの能力を知っている彼らは迷いなく四方に散らばる。

 直後、それまでハジメ達が居た場所を白き極光が薙ぎ払った。

 

「うそッ!?」

 

「まさか、あり得ん!?」

 

 その攻撃に見覚えがあったハジメ達の中で、特にシアとティオは驚愕に目を見開いた。

 知っている。この攻撃を知っている。だが、同時にありえないと否定する。

 だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

「久しいな、南雲ハジメ」

 

 名を呼ばれたハジメが声がした上空を見上げると、それは現れた。

 赤髪に浅黒い肌、僅かに尖った耳を持ち、純白の竜に乗る男。

 最後に見た容貌とは変わって……いや、元に戻ったと言ったほうが正しいだろう。

 見間違えるはずがない。魔人族の将軍にして、神域にてティオと対峙し、相棒の竜共々消滅したはずの男。

 

 フリード・バグアーがこちらを見下ろしていた。

 

「てめぇ、何で生きてんだ。ティオからは殺したって聞いたぞ」

 

「そのとおりじゃ!? あの時、妾のブレスで跡形もなく消し飛んだはずじゃ!? なぜ生きておる!?」

 

「死んださ。細胞一つ残らず、ウラノス共々跡形もなくな」

 

「クルァ!」

 

 困惑するティオと違い、フリードは落ち着いた表情で語る。

 だが、なぜだろう。ハジメには目の前の男が自分の知る男と同じとは思えなかった。そしてその理由にもすぐに気がつく。

 

(……眼だ。今までの神を心酔していた眼じゃねぇ。明らかに何かが違う)

 

 今のフリードからは神域でのような力を感じない。騎乗する竜も元の形態に戻っている。確かに目の前の男ならば王都を滅ぼすことも可能だろう。しかし、自分達の敵ではない。そのはずなのに嫌な予感が頭を離れない。

 

「……南雲ハジメ」

 

「んだよ」

 

「貴様らには迷惑をかけた。すまなかったな」

 

「「「……は?」」」

 

 フリードからの謝罪にハジメだけでなく、ユエやシア、ティオが呆然とする。もしや、似ているだけのそっくりさんかもしれないと本気で疑うほどだ。それほどの衝撃。

 

「貴様を傷つけたことではないぞ? 貴様の大切な者を侮辱したことを、だ」

 

「……お前、頭でもぶつけたのか」

 

「そう思われても仕方がないな。それほどまでに、あの時の私は愚かだった」

 

 戦いの場で敵に情けをかけるのは相手にとっての侮辱行為。そのことを謝罪するつもりはフリードにはなかった。

 しかし、例え敵だとしても、その者の信念を嗤うなどフリードの本来の矜持が許さない。

 

「……別にお前に謝られようとどうでもいい。それよりもこれは何のつもりだ?」

 

「魔人族……同胞の未来を今度こそ守るためだ」

 

 魔人族は一年前の大戦を経て、完全に世界から追放されてしまった。全種族が力を集結させ、神に立ち向かうという時に、自分達のことしか考えず、呑気に神の支配下に下った。

 

 神が敗北した今、魔人族の扱いは完全に人類の裏切り者だ。もう二度と表舞台に出ることは叶わない。

 

「だからこそ、私達は全てを壊す。国を、歴史を……世界をゼロにし、魔人族が生きられる世界を造り直す」

 

「……例え、魔人族以外の種族が滅ぶことになっても、か?」

 

「彼らの憎しみは現代の私達が背負う。未来の子供達が平和に暮らせる国を造るため……私は修羅にすらなろう」

 

 ふざけるな! 誰もがそう口にしようとした。しかし、それが言葉として吐き出されることはなかった。

 目の前の男がやろうとしていることは大量殺人となんら変わらない。魔人族の現状は彼らの因果応報から来るものだ。言ってしまえば、自業自得なのだ。

 だが、そのことをフリードは十分理解している。トータスの歴史を振り返っても、間違いなく魔人族が“悪“に断定されるほどの悪行。

 理解していながらも、フリードはそれを実行する。()()()()()()()。ただそれだけの願いのために。

 

 だが、それを魔王(ハジメ)が許すかは別だ。

 

「なるほど? てめぇの馬鹿げた理想は分かった。だが、俺に一族諸共殺し尽くされる未来は考えなかったのか?」

 

 別にハジメは世界がどうなろうと知ったことじゃない。しかし、この世界にはシアやティオの家族がいる。リリアーナとてそうだ。自分の身内が、その家族が危険に晒される可能性をハジメが見逃す筈がない。

 

「敵ならば……殺す」

 

 ハジメの濃厚な殺気がフリードに突き刺さる。そのままドンナーを引き抜こうとした瞬間──

 

 

「お前が南雲ハジメか?」

 

 

 空気が震えたと錯覚するような重たい声。

 まるで重力魔法にかけられたかのように、身体が鉛のように重く感じる。気を抜けばその場に膝をついてしまいそうなまでの重圧だ。

 

(──なんだ、アイツ……!?)

 

 今まで感じたことのないほどのプレッシャー。まるで本能が負けを認めるたのように足が震え、その場に崩れそうになる。

 これほどの威圧感。今ならば、エヒトが可愛く思えるかもしれないとさえ思った。

 

「……フリード」

 

「ハッ! 目の前の男が南雲ハジメです」

 

「そうか」

 

 震えながらも、ハジメはフリードの隣の男に視線を向ける。

 

 穢れなど知らないと言わんばかりの純白の髪。

 爛々と黄金(こがね)色に輝く両眼。

 呑み込まれそうな程の黒で統一されたロングコート。

 一見女性に見えてしまう程に中性的で、ある種の神秘性を兼ね備えた容姿。

 

 そして、その身に宿した神の如く膨大な魔力。

 

(なんだよコレ!? こんなのエヒトの奴ですら……!?)

 

 今まで感じたことがない程の次元の違いに、ハジメの奥歯がガチガチと音を鳴らす。

 キュッと服の裾を掴まれた感覚にハジメが振り返ると、いつの間にかそばに寄っていたユエがハジメの服をガッチリと掴んでいた。

 ここにいるメンバーの中で魔法の適性が高いのは間違いなくユエだ。だからこそ、誰よりもはっきりと感じ取ってしまった。目の前の男との絶対的な実力の差に。

 

 そんな彼らの様子に気付いないのか、それとも気付いていながら興味がないのか、男がハジメに語りかけてくる。

 

「お前がエヒトルジュエを殺したと聞いた。本当か?」

 

「……だ、としたら?」

 

「そう怯えるな。取って食おうというわけじゃないんだ。お前には感謝している」

 

「……何のことだ」

 

「俺はあの愚神によってこの地の奥深くに封印されていた。お前がエヒトを殺したからこそ封印を破壊することが出来た」

 

「ッ!?」

 

 この時、ハジメの頭を過ぎったのはここに来る前に交わしたミュウとの会話だ。

 

『ミュウ分かったの!! きっとエヒトは怖かったの!!』

 

 もし……もしもだ。解放者が立ち上がる前に、神に反旗を翻した者が居たとしたら……?

 

 そいつがエヒトを優に超える力を持っていたとしたら……?

 

 肉体を奪う余裕など無く、封印するので精一杯だったとしたら……?

 

 解放者の一人が魔人族だったことに忌避感を覚え、監視のためにアルヴを王にしたとしたら……?

 

 生半可な肉体で地上に下りてしまえば、封印が緩み、殺されてしまう危険性があったとしたら……?

 

 

 目の前の男が、エヒトすら恐れた存在なのだとしたら……?

 

 

 

 

 

「だが、魔人族を封印したのもお前だな」

 

 

 再び、ハジメ達を襲う重圧。いや、先程と違い、僅かに殺気も混じっている。それだけで限界だった。

 ハジメを含む全員がその場に膝をつき、上半身を支えるために両手を地面につく。

 その姿はまるで、許しを乞う弱者のようであり、同時に、神に信仰を捧げる信者のようでもあった。

 

「う、ぐぐぐ……!」

 

 なんだよこれ。なんなんだよこれ!?

 窮地は何度も味わってきた。何度も死にかけたし、何度も諦めかけた。それでもそんな逆境をハジメ達は幾度も跳ね返してきた。

 だが、これは違う。これはそんなレベルじゃない。

 戦いなんて成立しない。抗うなんて選択肢は存在しない。

 

 無理だ。無理だ無理だ無理だむりだ死ぬ死ぬ殺される終わる無理死ぬ終わった逃げる死んだ死んだ終わってる逃げない諦める受け入れようむりおわったよあきらめしんだしんだしんだしんだ───

 

「まあ、そのことでお前達を責めるようなことはしない」

 

 その瞬間、感じていた重圧がふっと消えた。

 

「だから、自殺などされても困るぞ?」

 

「……え?」

 

 男の言葉が分からず、困惑するハジメ達だったが、すぐに気付いた。

 ハジメはドンナーを自らのこめかみに当てていた。その姿はどう見ても自殺一歩手前にしか見えない。

 周りのユエ達も同じ有様だった。刀で、尖った瓦礫で、自らの命を断とうとしていた。何人かの首からは少し切ったのか血が滴り落ちる。

 その事実に、ハジメはゾッとした。

 つまり、奴の放つプレッシャーに耐えきれず、無意識に命を断とうとした。死んで楽になろとした。

 更に驚くのはユエの様子だ。ユエの首からは血が滴ってるが、一向に傷が再生する様子がない。

 

 “自動再生“はユエの意志とは関係なしに発動する。それが発動しない。奴は殺気を放っただけで魔法やスキルの類は使っていない。つまり、スキルを含め、ユエの全てが生存を諦めたということ。

 普段なら多少なりとも憎まれ口を叩くハジメだが、そんな余裕は無い

 

「魔人族が神に味方したことは事実だからな。その場に居なかった俺がどうこういう資格はない」

 

 返事をすることも出来ないが、男は淡々と事実だけを告げる。

 

「しかし、俺は同胞達を救わなくてはならない。それが彼らの願いであり、俺の願いでもある。そのためならば、世界すら滅ぼしてみせよう。それで邪神と呼ばれようとも構わない」

 

 男がハジメ達に手を伸ばす。

 瞬間、ハジメ達を中心に巨大な魔法陣が出現する。

 

「な、何を……!?」

 

「安心しろ。元の世界に還すだけだ」

 

「「「なッ!?」」」

 

 ハジメですら、貯蔵した莫大な魔力と“クリスタルキー“と“導越の羅針盤“というアーティファクトを使い可能な異世界への転移。

 それをまるで片手間のように実行しようとする姿に驚愕するのも無理はない。

 

「先程、世界の境界に揺らぎを感じた。お前達はそこを通ってきたのだろう? 向こうの座標もその時特定した。問題はない」

 

 ハジメ達を包み込むように魔法陣の光が増していく。

 

「俺はお前達に危害を加えるつもりはない。だが、俺の邪魔をするならば話は別だ」

 

 まばゆい輝きに、既にハジメ達が外の様子を確認することは出来ない。それでも、その声だけははっきりと聞こえた。

 

 

「最後に覚えておけ。我が名はアルディアス。魔人族の王にして、世界を滅ぼすもの也」

 

 

──お前達が俺の前に立ちはだかることが無いことを祈っている。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「あれ? もう戻ってきたんですか?」

 

「パパ?」

 

 ハジメが気がつくと、そこは地球にある自宅のリビングだった。

 そばにはユエ達も全員揃っており、早すぎる帰宅に、レミアとミュウが不思議そうに首を傾げている。

 

「……マジで、転移させやがった……」

 

「パパ、どうしたの?」

 

 ハジメの様子がおかしいことに気付いたミュウがハジメの元に駆け寄ってくる。

 その愛らしい愛娘をハジメは力強く抱きしめた。

 

「みゅ!?」

 

「あの……本当に何かあったんですか?」

 

「……」

 

「……え? パパ!?」

 

「あなた!?」

 

 ハジメは気絶していた。ミュウを抱きしめたまま、まるで恐怖を紛らわすように……

 そのことにミュウが驚き、レミアも慌てて駆け寄ろうとした瞬間、バタバタとユエ達もその場に崩れ落ちた。

 

「え!? 皆さん!? しっかり、しっかりしてください!?」

 

「パパ!? パパぁああ!?」

 

 

 

 

 

 一人の少年は確かに世界を救った。本人にその意図が無かったのだとしても、最愛を助けるためのついでだったとしても、確かに少年はあの世界にとっての救世主だった。

 

 しかし、未来はどこで繋がっているのかは誰にも分からない。最善だと思って行動した結果、最悪に繋がることもある。

 

 世界の平和が、皆の平和とは限らない。

 

 

 

 




この後、トータスは間違いなく魔人族のものになります。
魔人族に恨みMAXの人間族は滅び、獣人族と竜人族は対応しだいで変わります。

人間族の生存のためにはハジメ達がアルディアスに敵対することが条件だけど、ぶっちゃけ生存確率が0%から0.0001%に増えるくらい。


>アルディアス【オルタ】

解放者よりも早く生まれ、原作同様いち早くエヒトの正体に気づく。しかし、仲間に恵まれず、エヒトを追い詰めるも、逃亡を許してしまう。
そのままでは肉体を奪えないことを理解したエヒトは、魔人族を人質にアルディアスを追い詰めていき、地下深くに封印することに成功する。
だが、いつまで経っても魂が疲弊することは無く、肉体を諦め、復活させないことに全力を注ぐようになった。

封印されている間も外の情報を取り込み続け、進化し続けた化け物。エヒトくらいならワンパンでいける。
エヒトが死んだことで封印を破り、魔人族の声を聞く。その際、現世に残っていた魂の欠片からフリードを含む魔人族の兵士を生き返らせる。もちろん強化済み。
人間族に恨みはないが、魔人族の未来のために、今の世界を滅ぼす。

>本編との相違点

・実力
 本編は18歳。ここでは5000歳以上。年季が違う。

・性格
 感情が薄れており、根底にある魔人族の救済のためだけに動き出す。かつての失敗の影響もあり、本編よりも非情な性格に変わっている。

・ハジメへの認識
 魔人族を封印したことには眉を潜めたが、エヒトを殺してくれたことには感謝しているので見逃す。だけど邪魔するなら問答無用でギルティ。見込みがある? そんなの知らん。



これで連載も考えたけど、正直ハジメ達の勝機がなさすぎて無理だった。続きは無いです。
最近個人的にハマってる主人公ラスボス化の波に乗った話。
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