【完結】魔人族の王   作:羽織の夢

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二ヶ月ぶりの更新。
本編軸の初の番外編がこれとは誰も予想してなかったと思う。
時期はエピローグ後、地球帰還前です。


未知との遭遇?

 その日、アルディアスは黙々と執務室にて己の職務を淡々とこなしていた。

 今日は特に城の外に出る用事も無く、溜まっていた書類の処理を行っている。今すぐ必要な書類では無いが、どうせやることもないので、この隙に済ませておこうという魂胆だ。

 

 普段はフリードとアレーティアも同室にて仕事に取り組むことが多いが、今は二人共席を外している。部屋の中にはアルディアスとお付きのメイドが一人いるだけだ。そんなタイミングで来訪者はやってきた。

 

──コンコン

 

 ドアをノックする音に、メイドが対応するため扉に近寄っていく。

 

「アルディアス様。メイドの一人がアルディアス様にお渡ししたいものがあるとのことです」

 

「俺に? 急用か?」

 

「はい、何やら慌てているようなのですが……」

 

「ふむ……分かった、入れてくれ」

 

「かしこまりました」

 

 アルディアスの許可をもらったメイドは扉を開き、一人の若いメイドを室内に招き入れる。

 アルディアスの記憶では確か新人のメイドの一人だったはずだ。

 

「お、お仕事中に申し訳ありません!」

 

「気にするな。わざわざ俺に伝えるような内容なのだろう?」

 

「は、はい。その、城内の清掃中にこれを見つけまして……」

 

 恐縮した様子でメイドがアルディアスに差し出したのは一枚の用紙だった。

 それもただの用紙ではない。国外などの任務に就いた際に、提出が義務付けられている報告書だ。

 兵士などの役職についているものからすれば珍しいものではないが、実はこの用紙は国外秘となっており、取り扱いには注意するように義務付けられている。

 例え、内容が書かれる前の物だとしても、そこから国の傾向などが漏れてしまう可能性があるからだ。

 

「これをどこで?」

 

「その、城内の一般廃棄物をまとめていた際に偶然目に止まりまして」

 

「なるほど……」

 

 当然、廃棄する場合もそれにそう形を取る必要がある。間違っても一般廃棄物と一緒に、それも形を残したまま捨てるなどあってはならない。

 だが、これだけならばわざわざアルディアスの元を訪れる必要はないだろう。自身の上司であるメイド長や、隊長レベルの兵士を見つけて知らせればいいだけの話だ。

 しかし、彼女はそれをすることは出来なかった。なぜならば、その報告書は白紙ではなく、内容が記載されており、その報告者の名までしっかりと残っていたからだ。

 

 達筆な字で……フリード・バグアーと。

 

「相手がフリードでは相談するに出来ないな」

 

「はいぃ、すみません」

 

「いや、君が謝る必要はない。それどころかよく見つけてくれた」

 

「ふえ!? い、いえ、偶然見つけただけですので……!」

 

 彼女からすればフリードは雲の上の存在。そんな人物のミスを見つけてしまった胸中はかなり複雑なものだったはずだ。

 悩んで悩んで……アルディアスの元を訪れた。

 そんな彼女を労ると同時に、少しでも重圧が無くせられたらと、安心させるように笑みを浮かべる。

 それを正面から受けてしまった少女は顔を真っ赤に染めて、別の意味でアワアワと慌て始めてしまうのだが。

 

 その後、若いメイドが退出した後、アルディアスは元から部屋に待機していたメイドにも退出するように促し、一人、フリードの作成した報告書に目を通す。

 

(フリードがこのようなミスを犯すなど珍しいな)

 

 報告書にざっと目を通すと、これは神話大戦でのフリードの行動を記したものだった。しかし、その時の報告書は既に提出されている。

 この報告書は恐らく、書き損じたものだろう。内容も何やら感情的なものが多く、正直フリードが作成したものとは思えない。

 

 まるで書き殴ったように字体が乱れ、ところどころ読めない箇所もある。これでは書き直すのも納得だ。

 その中でも読める箇所をアルディアスは繋ぎ合わせていく。

 

(『私の想定以上』『異次元』『理解不能』『ティオ・クラルス』『竜化』『関心するほどの』……ダメだな。まともな文章にならない)

 

 既に提出されている報告書を見るに、フリードはティオ・クラルスと共闘を行ったらしい。

 その時に『灰征魔國(かいしょうまこく)』を使ったらしいが、あれは対象を従属化する必要がある。

 

(ティオ・クラルスとの繋がりを経て、何かフリードの想定を超えるほどの可能性を感じた、ということか?)

 

 それこそ、報告書に書き出す際に、手元が狂うほどの何かを……

 

(今を生きる種族の中でも最古の種族。その族長の孫娘となればポテンシャルは未知数……)

 

 真実は全く違うのだが、ティオのド変態な行動を見ていないアルディアスはそのことに気付かない。

 

(……興味が湧いたな)

 

 一人、アルディアスは唇の端を吊り上げた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

(少し時間がかかってしまったな)

 

 所用を済ませたフリードは、早足でアルディアスが居るであろう執務室に向かっていた。

 

(しかし、あのメイドの少女はどうしたのだろうか?)

 

 ここに向かう最中に若いメイドとすれ違ったのだが、こちらが心配になるくらい私の顔を見て動揺していた。

 本人に聞いてみても何でも無いの一点張り。急いでいたこともあり、そこまで言うのならいいか、とそのままにしておくことにした。

 

 そんなことを考えていると、早々に目的地の扉の前に着く。

 身だしなみを確認した後、扉をノックするが、応答が一切無い。

 不思議に思いながらも扉を開けると、そこにはメイドどころか、アルディアスの姿もなかった。

 

「席を外しておられるのか?」

 

 首を傾げながら室内に足を踏み入れるフリードだったが、アルディアスが仕事をしていた机の上に書き置きのようなものを見つけた瞬間、フリードは嫌なデジャブを感じた。

 そこにはただ一言。

 

 

 少しハジメのところに行ってくる。昼には戻る。

 

アルディアス

 

 

「はぁ……」

 

 それを読んだフリードは小さくため息をついた。

 魔王になった後のアルディアスのことしか知らない者からすれば信じられないかもしれないが、アルディアスは元々探究心や好奇心が常人よりも高い。

 幼い頃など、置き手紙一つで七大迷宮に行ってしまうほどだ。(第二話参照)

 アレーティア曰く、探究心や好奇心が高いのは魔法を極めたい人なら当たり前、ということらしいが、やられる身となっては勘弁して欲しいところである。

 

 今フリードが担当している仕事は最終的にアルディアスの認印が必要なものになるため、アルディアスが居ないのならば後回しにするしか無いだろう。

 フリードは午後にやるべき仕事を頭の中でリストアップしながら執務室を出る。

 

(それにしても、魔王となってからは流石に落ち着いていたのだが、何か気になることがあったのか?)

 

 あのアルディアスが興味を持つほどのことだ。生半可なレベルでは腰を上げないだろう。

 

「あ、あの!?」

 

「……ん?」

 

 思考に没頭していたフリードに声がかかり、意識をそちらに移す。

 そこに居たのは先程すれ違ったメイドの少女だ。何やら、眉を八の字に歪め、身体を縮めこませている。

 

「どうかしたのか?」

 

「も、申し訳ありませんでした!!」

 

「……は?」

 

 いきなり謝罪されたことにフリードは困惑するが、そんなフリードの様子に気付かず、少女は必死に頭を下げ続ける。

 

「少し待ってくれ。なぜ君は私に頭を下げているんだ?」

 

「え? でも、私のせいでアルディアス様からお叱りを受けたんじゃ……?」

 

「お叱り? アルディアス様から?」

 

 意味の分からない言葉を並べる少女に、フリードは一つ一つ理由を尋ねていく。

 

 Q.なぜそう思った?

 A.暗い顔をしてたから。

 

 Q.そもそもなぜ私が怒られる?

 A.私が報告書を出したから。

 

 Q.報告書とは何のことだ?

 A.一般廃棄物の中にフリード様の作成した物が混じっていた。

 

 Q.……それはいつのものだ?

 A.神話大戦のときのもの。

 

 全てを聞き終えた後、フリードはダラダラと滝のような汗を流していた。

 そのことに少女は再び頭を下げ始めるが、少女に罪はない。これは完全に私の落ち度だ。少女に謝罪の言葉を告げた後、職務に戻るように指示を出す。

 少女の姿が見えなくなった後、フリードはその場にしゃがみこんで頭を抱える。

 

 例の報告書のことはハッキリと覚えている。

 内容を記載するために、記憶を振り返り、その度に頭が割れるような苦痛を味わうこととなった。思わず感情のままに書き殴ってしまい、書き直すはめになってしまった程だ。

 その後、四苦八苦しながら完成した報告書を満足気に提出した。したのだが、問題は一枚目の書き直すはめになった報告書だ。恐らく、あまりの達成感に頭から抜けてしまい、通常の廃棄物と混ぜてしまったのだろう。

 

 あまりにも情けない失態だ。若い少女に気を遣われている時点でかなりのレベルのものだが、今はそれどころじゃない。

 問題は、それをアルディアスに見られたということ。そして、このタイミングで姿を消した主君。書き置きには南雲ハジメの元に向かうと書かれていた。もはや確定だ。

 

 今でも思い出せる報告書の内容は、何も知らない者が見れば、ティオ・クラルスの可能性を示唆する内容に見えるかもしれない。

 いや、この際細かいことはどうでもいい。今重要なことは一つだけ……

 

 

──アルディアスが、ド変態(ティオ・クラルス)に興味を持った。

 

 

「しまったぁあああああああああ!!?」

 

 

 フリードの絶叫が、城内に響き渡った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「…………」

 

「そ、粗茶です!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 ハジメは目の前の光景を光の失った瞳でじっと見続けていた。

 どうしてこうなったのか。なぜ安易に扉を開けてしまったのか。なぜ適当な理由で追い返さなかったのか。

 今となっては、後の祭りである。

 

 

 

 

 時は数分前──

 

 

 魔国ガーランドの中心に立つ魔城から少し離れた位置にハジメ達の住居はあった。

 他のクラスメイトと同じように王都ではなく、魔都にいる理由は、確立しつつある地球帰還の助力のためだ。

 当初は魔城にそのまま住まわせようとしたアルディアスだったが、余り目立つのを嫌ったハジメと、当たり前のようについてきた、シア、ティオ、香織。それにレミアとミュウの存在もあり(しかも全員同部屋希望)城内ではなく、少し離れた一戸建ての住居に腰を落ち着けることになった。

 

 そんな毎日が騒がしい日々を送っていたハジメだったが、今日は久しぶりのシアと二人だけの時間を過ごしていた。

 ティオは竜人族の里に、香織は雫達に会いに王都へ、レミアとミュウはエリセンに里帰りに出ていてここには居ない。

 

 シアはいいのかと思うかもしれないが、数日前に魔国にハジメを追って侵入しようとした兎人族一団がまとめて捕獲されるという事件が起き、その時にハルツェナ樹海でのアルディアス襲撃事件を知ったハジメにまとめて折檻されていたついでに会っているため問題は無い。(無いったら無い)

 

 というわけで、シアと何をすること無くのんびり過ごしていたハジメだったが、その時に訪問者を告げるベルが鳴った。

 これが王都だったのなら居留守を使う手も考えたのだが、アルディアス達に帰還の手助けをしてもらっている恩や、普段から良くしてくれている魔都の人達を無下に使うことも出来ず、渋々扉を開けた。

 今思えば、これが全ての間違いだったのだろう。

 

『突然の訪問謝罪する。少しいいだろうか?』

 

 まるで友人宅を尋ねるような気軽さで一国の王が現れたことに、ハジメとシアも揃ってぽかーんとするしかなかった。

 いきなりの訪問は驚いたが、知らない仲ではないため、特に考えることもなく家に上げたのだが……

 

()()()()()()()()はいるか?』

 

 最初はただの近況報告や、魔都での暮らしに不便は無いかなどの世間話だった。

 しかし、話に一区切りついた後に告げられた一言。

 それだけで、ハジメは自身の失態を悟った。

 

 

 

 

(やばい!? やばいやばいやばい!?)

 

 ズズッと呑気に茶を飲むアルディアスを視界に入れながら、ハジメは頭を抱えて転がり回りたい気持ちでいっぱいだった。

 理由は分からないが、アルディアスはティオに会いに来たようだ。

 しかし、ハジメにはアルディアスとティオを会わせたくない理由があった。

 人間族と魔人族との和平が成立した日。フリードにぶん殴られ、ティオの矯正を命じられたハジメだったが、実はそれ以外にもキツく言い含められていたことがあった。

 

 

『分かっていると思うが、あの痴態極まりない姿をアルディアス様の視界に入れることだけはするなよ? もし、アルディアス様のお目を汚すことになれば…………………………その命、無いと思え

 

 

 ハジメは思う。

 大迷宮を攻略していた時も、アルディアスと敵対した時も、神話大戦中にも、あそこまでの殺意を感じたことは無かった、と。

 

(もし、万が一のことがあれば殺される……!!)

 

 普段はアルディアスの前では抑えるように言い聞かせているが、あの変態のことだ。帰宅早々自宅だからと気を抜いてやらかす可能性がある。そこにアルディアスが居ることなど知りもせずに……

 

(ティオがいつ帰ってくるか分からない以上、ここに長居させるのは危険だ。一秒でも早く帰らせねぇと……!!)

 

 アルディアスに茶を出した後、ハジメの隣で同じように顔を青白くさせていたシアに視線を向けると、同意するように頷かれる。考えることは同じらしい。

 

「ティオ……だよな? あいつなら今は竜人族の里に行ってるぞ?」

 

「む? そうなのか?」

 

「はい! 里の再建のお手伝いらしいです!」

 

「なるほど、入れ違いになってしまったか」

 

 納得した様子を見せるアルディアスの姿にハジメは小さくホッと息を吐いた。

 ティオは祖父のアドゥルに会いに行っただけでなのだが、適当に理由をつけておけば、私用を優先させることはしないだろうという目論見だ。

 

(とりあえず、今だけでも乗り切れば後でいくらでも取り繕える!)

 

「仕方がない。また日を改めるとしよう。すまない、邪魔したな」

 

「気にすんな」

 

 そしてその目論見通り、アルディアスは席を立って玄関に向かい始める。

 シアと二人小さくガッツポーズを見せながら、見送るために二人もアルディアスの後に続く。

 

「今度来る時は前もって言っといてくれよ。茶菓子くらい出してやる」

 

「了解した。楽しみにしておこう」

 

 そのままアルディアスが玄関のノブに手を伸ばそうした瞬間。

 

「只今帰ったのじゃ! ご主人様、早速妾と『ピー』を──」

 

「死ね!!」

 

 バァン!!と、勢いよく扉が開かれると同時に、両手を大きく広げて現れたティオ。

 ドバァン!!といつの間にか取り出したドンナーの速撃ちで眉間を撃ち抜かれて吹き飛ぶティオ。

 

(最悪なタイミングで帰ってきやがったァアアアアアアアアアアア!!)

 

 いらんことを口にしようとしたティオを止めるために思わず条件反射で撃ち抜いてしまった。

 恐る恐る横目でアルディアスの様子を伺うと、僅かに目を見開いている。

 

(聞かれたか? いや、まだ誤魔化せば何とか……)

 

「良い……! 良いのじゃ……! これが欲しくて早々に帰ってきたのじゃ……ハァハァ、うぅん……んっ!」

 

「しー! ティオさんお願いだから、今だけは……!! 今だけは!!」

 

 しかし、ハジメのそんな小さな希望も、目の前で悶ている変態の姿に台無しにされる。

 言うまでも無く、アルディアスはバッチリ目撃している。

 

(こうなったら、なんとかしてフリードにだけは伝わらないように──)

 

 幸い、アルディアスはそれなりに融通が効く。何とかフリードにだけは話がいかないように頼みこめば何とかいけるのでは?と考えたハジメがアルディアスに顔を向けた瞬間。

 

「──おい」

 

 残念ながら、現実は無情だった。

 腹の底から響くような低い声に、ハジメ達の肩がビクッと跳ねる。

 アルディアスの声では無い。それは今一番彼らが聞きたくないもので……

 

「……よ、ようフリード。元気そうだな」

 

「揺れる揺れる世界の理。巨人の鉄槌。竜王の咆哮。万軍の足踏──」

 

「「詠唱!?」」

 

 瞳を闇よりも黒く染めたフリードの口から、抑揚の無い文字の羅列が飛び出したことに、ハジメとシアが目を見開く。

 

「いずれも世界を満たさない。鳴動を喚び、悲鳴を齎すは、ただの神の溜息──」

 

「ちょちょちょ、落ち着けっておい!?」

 

「ティオさん!? 謝って!? すぐに謝って!?」

 

「ふえ?……な、なぜここにアルディアス殿とフリード殿が!?」

 

 ここにきてようやく事態を理解したティオも慌てだすが、もうフリードは止まらない。

 

「それは神の嘆き。汝、絶望と共に砕かれよ! ”震──ぐふっ!」

 

「何をしとるんだ、お前は」

 

 あわや大魔法が放たれると思われた瞬間、この場で唯一フリードを止められるアルディアスがフリードの脳天に手刀を叩き込んだことで、周囲が更地となる事態は避けられた。

 

「全く、街を破壊する気か馬鹿者」

 

 大きく溜息をついたアルディアスが周囲を見回した。

 

「とりあえず……説明しろ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……なるほど。それで俺にティオ・クラルスを会わせたくなかったわけか」

 

 室内に戻ったアルディアスは、汗をダラダラと流し続ける四人から全ての事情を根こそぎ聞き出した。

 そして、あまりに馬鹿馬鹿しい理由に再び大きく溜息をつくこととなった。

 

「途中からハジメとシアの様子が不自然だったのはそれが原因か」

 

「き、気付いてたのか?」

 

「当たり前だ。明らかに挙動不審だったぞ?」

 

「「うぐっ!?」」

 

 ハジメ達としては上手く誤魔化しているつもりだったのだが、アルディアスには筒向けだったようだ。

 俯く二人を尻目に、アルディアスは横に視線を滑らした。

 見つめる先には──『私は我を失って街を破壊しかけた大馬鹿者です』と書かれたプレートを首から掛けたフリードが床に正座していた。

 

「……で? 自分のミスでこの状況を作り出したあげく、街中で魔法をぶっ放そうとしたのかお前は」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 ずーん、と負のオーラを纏いながら気落ちする魔国の将軍の姿に、アルディアスは再び溜息をついた。

 昔から何かと過保護気味ではあったが、年齢を重ねるごとに酷くなってきてないかこの兄は。

 

「ティオ・クラルスも身内だけならばともかく、周囲の目がある場所ではああいった言動は控えるべきだ」

 

「う、うむ。すまない」

 

 何となく居心地が悪そうにモジモジしていたティオも、今ばかりは素直に頭を下げる。

 

「…………あれ?」

 

 そんな光景を見ていたシアが、突然首を傾げて不思議そうに視線がアルディアスとティオを行き来する。

 

「どうした、シア?」

 

「いえ……えっと、アルディアスさんは何とも思わないんですか?」

 

「? 何がだ?」

 

「あのティオさんの奇行を見たんですよね?」

 

「「「…………あ」」」

 

 シアの言葉に、アルディアス以外の三人が揃って声を上げた。

 初めから何か違和感があったのだ。しかし、あまりにもいつも通りだったから気付かなかった。

 ティオの変態染みた言動を目撃したはずのアルディアスの、ティオに対しての扱いがそれまでと()()()()()()()()()()

 

「何だ? 全員妙な顔をして」

 

「いや、普通ティオのあれを見れば引くだろ」

 

「何故だ?」

 

「だって、あんな恍惚とした表情でビクビクしてるんですよ?」

 

「まあ、少し驚きはしたな」

 

「あんな悍しいものを見て少しなのですか?」

 

「……ハァ、あのな」

 

 ハジメ、シア、フリードの言葉に、アルディアスは再び溜息をついた。今日だけで何度溜息をつけばいいのかと呆れながら……

 

()()()()()ではあるが、そこまで騒ぐほどのことでも無いだろう」

 

「「「なん、だと……!?」」」

 

「……え?」

 

 あまりの衝撃に石像のように固まる三人。ついでにティオも固まった。

 あれが、少々?と戦慄する面々を置いて、アルディアスはハジメに視線を向ける。

 

「そもそも、彼女はお前の大切な女性の一人なのだろう?」

 

「え? あ、ああ。まあ……そうだな」

 

「ならば尚更だ。男なら好きな女の悪癖の一つや二つ、容易く受け入れてみせろ」

 

 その言葉にハジメの脳裏にビシャーンと雷が落ち……なかった。

 

(いやいやいや、無理だって!? あれを受け入れたらダメだろう!? 人として!?)

 

「流石アルディアス様です!!」

 

「アルディアスさん基準過ぎませんか、フリードさん!?」

 

「妾のあれを見ても引かない? これは良いこと? つまり魔王公認? え、え……え?」

 

 ごちんっと額を机にぶつけるハジメに、自らの主の懐の深さに感激するフリードにツッコむシア。

 家族ですら微妙な表情を浮かべた自身の性癖を、何でもないように受け入れられるという初めての状況に困惑するティオ。

 

 アルディアスがフリードの首根っこを掴んで出ていった後も、三人はしばしその場を動くことが出来なかった。

 

 

 

 ◇おまけ◇

 

 

 

「それにしても、ハジメとティオ・クラルスを見ていると両親のことを思い出すな」

 

「ご両親をですか?」

 

「俺を含めた周囲には隠してるつもりだったようだがな。ああいうのを”えす”と”えむ”というのだったか?」

 

「……え?」

 

「ああ、誰にもいうなよ。さっきも言ったとおり、他人に見せるようなものではないからな」

 

「……………え?」

 

 

 

 




>ようやく書けた番外編

 番外編といえば地球の話が定番だとは思うのですが、何故かトータスのその後の話の方がネタがいっぱい浮かぶんですよね。

>父ディアスと母ディアス

 彼らはオチの犠牲となったのだ。どっちがどっちかはご想像にお任せします。
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