他の人のありふれの二次創作の更新頻度早くね?
魔国ガーランドの王宮内にある、とある一室。
東の空から太陽が昇り、カーテンの隙間から光がくさびのように差し込む中、ベッドの上の丸くこんもりと膨らんだ布団がモゾモゾと動き出す。布団がめくれると、その人物の金髪が朝の日差しを浴びて、キラキラと美しい輝きを放つ。
眠たげに目を擦っていた少女──アレーティアは一つ大きな欠伸をすると、ゆらゆらと立ち上がり、窓を開ける。
そこからそよそよと気持ちよく吹く風と温かい朝日を浴びながら、んー、と背伸びをする。
「……ん、今日も良い朝」
エヒトとアルヴがアルディアスによって排除されて一週間と少し……アレーティアは住まいを王宮の一室へと移していた。それまではアルヴから姿を隠す為、魔国ガーランドの外れに住んでいたアレーティアだったが、もうその必要も無くなった為、アルディアスに許可を貰い、王宮の一室へと住まいを変更していた。
完全に覚醒したアレーティアはすぐに行動を始める。王宮に移ってから、朝起きた彼女が最初に向かう先はいつも決まっている。
◇ ◇ ◇
まだ日が昇ったばかりで時間も早いが、既にアルディアスは執務室にて自らの職務を始めていた。
国の行政に民からの意見の確認、それに伴う法律の改正。更に帝国及び王国への侵攻に備えて、フリードのまとめた部隊の編成リストの確認、侵攻ルートの選定、兵士全員分の兵糧の確保。侵攻中の自国の警備態勢の見直しなど、やらなければいけないことは山積みだ。
それらをアルディアスは慣れた手付きで捌いていく。
しばらく無言で仕事をこなしていると、不意にドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
アルディアスはノックの主を確認せずに入室を許可した。一週間前から毎日のように来ている為、確認せずとも誰が来たのか分かっているのだろう。
ガチャ、と扉が開くと、そこにはアルディアスの予想通り、アレーティアの姿があった。
「仕事は順調?」
「まずまず、といったところか。流石に本格的に攻め入るとなると、念入りに準備をするに越したことはないからな」
「……そっか」
アルディアスの悪くない返事を聞いたアレーティアは一つ頷くと、スススッとアルディアスの側に寄り、その腕に抱きつきながら、上目遣いでアルディアスを見つめる。
その可憐な容姿も相まって、非常に魅力的なその姿は、世の中の男性ならイチコロ間違い無しの魅力を兼ね備えており、アレーティアもそれを分かって意図的にその姿を見せている。
神から身を隠している間、暇つぶしに見ていたが、すっかりハマってしまった恋愛小説。そこで登場した恋愛経験豊富な女性が語っていた、男性を必ず落とすと言われていた必殺の一撃。
小説ではそこから自然な形で胸を押し付け、谷間を見せると書いてあったが、残念ながら谷間は出来ていなかった。
それでもアレーティア自身では最高の出来。
(決まった……!)
心の中でガッツポーズを決めたアレーティアだったが──
「……ああ、血が欲しいのか? 良いぞ」
じっとアレーティアを見つめていたアルディアスだったが、しばらくして得心したとばかりに納得の表情を浮かべ、首元をアレーティアに晒す。
「……? どうした? 飲まないのか?」
「……飲む」
違う。そうだけど、そうじゃない。
アレーティアは心の底からそう思った。
◇ ◇ ◇
アレーティアは王宮内の長い廊下を一人歩いていた。その肌は先程よりもツヤツヤしているように見える。
アルディアスに血を直接貰ったアレーティアは十分な満腹感を得ていたのだが、その顔には不満がありありと現れている。
今朝のようなことは何も珍しいことではない。アレーティアはアルディアスに対して。異性に対する好意を持っている。しかし、ど直球とも言えるアタックを繰り返すアレーティアの行動に対して、アルディアスにはその気持ちは一切届いていない。
それは、アルディアスが超が付くほどの朴念仁だから……と、言う訳ではない。
そもそも、アルディアスは人の感情の機敏には聡い方だ。それは王として民の僅かな表情の変化を読み取る為に必要な才能とも言える。
この国でアルディアスに向けられる感情は、期待であったり、感謝であったり、情景であったり、そして恋慕であったりする。
王宮に仕えるメイドや街の女性が、自身にそのような感情を抱いていることはもちろん気付いている。一国の主として、子孫を残すことは王としての責務と言っても良い。しかし、だからこそ簡単に決めて良いことでもなく、何よりも、神殺しの為の準備や人間族との戦争で、そちらに気を回す余裕もなかったのだ。
では、何故そんなアルディアスがアレーティアの想いにだけ気付かないのか。
結論から言えば、原因はアレーティアにある。
8年前、アレーティアはアルディアスによって奈落の底の封印から開放されて、自由の身となった。このことを知っている者はそれがキッカケでアルディアスに好意を抱き始めたと思うだろう。
しかし、真実は違う。アレーティアがアルディアスに明確に恋慕を持ち始めたのは4年程前からだった。
拐われた王女を王子が助けに来て、二人は結ばれる。幼い少女なら誰でも一度は想像する、物語の定番パターンだろう。それはアレーティアも例外ではなかった。
いつか、自分を助けに来てくれる存在と恋に落ちる。絶望の中でも少しくらい希望を見てもいいだろうと抱き続けた少女の夢。
そして、アレーティア自身は気付いていなかったが、封印されて300年程経過したある日、ついにその日がやってきた……が、まさか、自身の見た目よりも幼い少年が現れるとは思ってもみなかった。
自分よりもずっと年下、それこそ10歳の子供に対して、いい大人が恋愛感情を抱けるだろうか。
ハッキリ言おう。無理だと。
せめて、あと5年経っていたら話は別だったが、成長期も迎えていない少年にそんな感情を抱くような
もし、イケる、むしろ役得……と、のたまう輩がいればアレーティアは全力で“緋槍“を叩き込む自信があった。
出会った当初は想い人ではなかった。では、その時のアルディアスはアレーティアにとって何だったのかと言うと……“弟“である。
元々、一人っ子で兄弟や姉妹というのに憧れがあったアレーティアは、幼い頃によく両親に弟か妹が欲しいとせがんでいたこともあった。その反動故か、幼いアルディアスに対して姉のような態度で接した。
加えて、アルディアスが自分と同じで、魔術関連に対して深い探究心を持っていたことも、それを助長させた一因だろう。
吸血鬼族の王女になる以前は、街の小さな子供に聞かせようとすると、こぞって逃げられてしまったのだが、アルディアスは逃げるどころか、前のめりになって話を聞いてくれた。
それからは、アルディアスの入浴中に忍び込んだり、就寝時、ベッドに潜り込んだりもしたのだが、そこに異性としての認識はなく、全ては弟を構う姉として行動した結果だ。
最初こそ少しばかり困惑したアルディアスだったが、長い間一人で居続けたせいで、一人が寂しいのだろうと好きにさせるようにしていた。
そんな関係を長く続けた反動か、直接姉と呼ぶことこそないが、アレーティアとの関係を聞かれたとしたら「姉のような存在だな」と答えるくらいにはなっていた。
当時のアレーティアは心の底から満足だったのだが、近い将来、そのことを後悔する日が来るとは思ってもみなかった。
「アルディアスに染み付いた私への姉対応はどうしたら崩せるのだろうか……」
あまりにも姉として近くで接しすぎたせいで、どんなに積極的なアプローチをしても、姉弟としての掛け合いにしか捉えてもらえない。
もし、アルディアスが誰か一人でも恋人を作っていたら、変わっていたかもしれないが、生憎、そんな経験はなく、流石のアルディアスも親愛と恋愛を器用に区別することは出来なかった。元々が親愛だったのならば尚更だ。
今日は午後から魔術部隊に顔を出す予定だが、午前中は何も予定はない。仕事中のアルディアスの邪魔をする訳にもいかないし、気分転換に街に出てようかと考えていると、前方から見知った顔が此方に歩いてくるのが見えた。
「……ナイスタイミング」
とりあえず、これからの予定は決まった。
◇ ◇ ◇
「──と、言う訳でアルディアスが私のことを一人の女性として意識するにはどうしたら良いと思う?」
「何がという訳なんだい!? いきなりこんなところまで連れてきて、あたしだって暇じゃないんだよ!」
ここは、街中のメイン通りから少し外れた場所にある飲食店。店内はシックな雰囲気に作られており、店主が夫婦で切り盛りしている、小さな店だ。しかし、味は確かで、隠れ家的な店なのも相まって、落ち着きのある様子がアレーティアの感性に刺さり、彼女のお気に入りの店舗の一つだ。
アレーティアと机を挟んだ向かい側には、城内で半ば拉致される形でここまで連れてこられたカトレアの姿があった。
「午前中は暇だって言ってた」
「今仕事中か聞かれたから違うって答えただけで、暇なんて言ってないわ!!」
カトレアの言う通り、彼女の今日の業務は午後からで、午前中に仕事は入っていない。
これから本格的な侵攻が始まる中で、そんな暇があるのかと思うかもしれないが、これはアルディアスが直々に決めた確定事項だ。
本格的な侵攻が始まるからこそ、普段と同じ様に職務に励みながらも、しっかりと休息を取り、家族や友人との時間を過ごして欲しいというアルディアスの心遣いにより、ガーランドの兵士からメイドにいたるまで、普段どおりのスケジュールで一日を過ごしていた。
とは言え、兵士などは個人的に鍛錬に当てるなどして時間を使う者が多い。己を高めることで少しでも犠牲者が減れば良いという考えや、家族の元に帰れる可能性を1%でも上げる為だ。
カトレアもその例に洩れず、午前中は自身の鍛錬に当てようと、城の訓練施設に向かう途中にアレーティアに捕まった、という訳である。
「……カトレアは親友が困っているのに助けてくれないの?」
「いつ、あたしとアンタがそんな関係になった……!」
普段は年増などと真顔で毒を吐いてくるくせに、都合の良い時に親友などとほざいてくるアレーティアに対してカトレアの額に青筋が立つ。
「別に良いじゃん。カトレアだってアルディアスのこと好きなんだし」
「な、な、何を言ってんだいアンタは!?」
「……もしかして、隠してるつもりだったの? みんな知ってるし、アルディアスだって気付いてると思うよ?」
「んなッ!?」
心底驚いた表情をするカトレアに若干呆れた表情をするアレーティア。
アルディアス程じゃないが、カトレアとも長い付き合いだ。アルヴの目を欺く為に姿を変えていたアレーティアだったが、素の姿を自分以外に見せられないのはストレスもあるだろうと、アルディアスが気を利かせ、連れてきたのがフリードとカトレアだった。
人選の理由は、自分以外にも頼りに出来る、事情を知る存在が居たほうが良いだろうとフリードを。そして、同性が居たほうが何かと都合が良いだろうとのことでカトレアを選んだ。もちろん、アルディアスが二人なら信頼できると判断しての話だ。
その頃からカトレアという女性は感情が顔に出やすい性格をしていた。アレーティアとしては真っ直ぐで好ましいと思っているのだが、多少なりは取り繕うようにした方がいいのでは……? と思ってしまう。
「そもそも、カトレアは良いよね……気付いて貰えてるんだから。私なんてそれ以前の問題……」
「えっと……そもそもアルディアス様のことは弟みたいに見てたんでしょ? それがどうしてまた……?」
「……知らない。王位を継いで、民衆の前に立つことが多くなってきた頃かな……街の女の人がアルディアスにそういう視線を送るようになって、それを見てたら何かムカムカしてきて」
「それで自覚したと……いっそのこと行動で示すんじゃなくて言葉で伝えてみたらどうだい?」
「それだと、何か負けた気がして……」
「何と戦ってんだい、アンタは」
アレーティアのよく分からないこだわりにカトレアが呆れた表情を浮かべる。
「でも、姉って言っても血が繋がってる訳じゃないんだし、正直一番アルディアス様に近いのはアンタじゃないのさ」
そう言って、少し拗ねたような物言いで告げるカトレア。
アルディアスが一国の王である以上、彼の側に立てる女性は一人とは限らない。しかし、王妃の立場は一人だけであるし、アルディアスが望まない可能性もある。
そう考えた場合、カトレアから見て一番アルディアスと距離が近いのは間違いなくアレーティアだろう。
単純な年数で言えばカトレアに軍配があるものの、一緒に各地の迷宮を巡って旅をしたのは大きいとカトレアは見ている。
そんなカトレアに対してアレーティアは深くため息を吐く。まるでお前は何も分かっていないと言わんばかりに。
「な、何だいそのため息は!?」
「カトレアは何も分かってない。恋愛小説とか読んだことある?」
「へ? ま、まあ人並みには……」
「私はたくさん読んだ。暇だったから。最近は特に男性向けの恋愛小説を読んでる」
「何で男性向け?」
「その方が今の状況と合ってるから」
男性向けの恋愛小説は男性の主人公一人に対して複数のヒロインが存在する。それが、今のアルディアスの周りの状況と一致しているのだ。アルディアスへの気持ちを自覚してからは特にそちらを読むようにしていたアレーティアだったが……
「そして、色んな本を読み進めている内に、私は衝撃の事実に気付いてしまった」
「衝撃の事実?」
恋愛小説に登場するヒロインには様々なタイプの女性が存在する。
その中でアレーティアの立ち位置を表すならば、主人公の姉タイプに該当するだろう。血の繋がった姉という訳ではなく、親同士の仲が良く姉弟同然のように育ったパターンが多いが、これには大きな落とし穴が存在した。
数ある恋愛小説の中でも、姉のような関係の女性が主人公と結ばれる展開の物語は一つも無かったのである。
主人公とは誰よりも気軽に会話できる唯一の存在だが、最後の最後まで想いに気付かれることも無く、それどころか、自身の気持ちを隠して、思い悩む主人公の背中を押す役になることが多かった。
それ故に読者からの人気も高いのだが、現実にそうなりつつあるアレーティアからすれば堪ったものではなかった。
「このままじゃ、私は唯の綺麗で可愛い、気の利くお姉ちゃんでしかない……!」
「それ、自分で言うかい……」
正直、あくまで空想上の話であって、現実にそれが当てはまるかと言われればそうとも言えないのだが、目の前で打ちひしがれる少女に根拠の無い、曖昧な答えは意味がないだろう。
「──ってもうこんな時間じゃん!? 午後からの準備があるんだった!」
何となく気まずくなったカトレアが何気なしに辺りを見回していると、壁に掛けてある時計に目が止まり、予想以上に時間が経っていたことに驚き、慌てて立ち上がる。
「そうだ、お金──」
「良いよ、私が連れてきたんだし、私が出しておく」
「そ、そう? じゃあお言葉に甘えて、ごちそうさん」
そう言い残して、店の出口に歩き出すカトレア。
アレーティアも午後からは、やらなくてはいけないことがある為、早めに城に戻ろうかと席を立とうとすると──
「ねえ」
「ッ!──カトレア? 早く向かわなくて良いの?」
既に店から出たかと思われていたカトレアが何故か引き返して来ていた。
先程の慌てようから急ぎなのでは? と疑問に思っていると、頬を掻きながら言いにくそうにカトレアが答える。
「いや、無理やり連れてこられたとはいえ、奢ってもらって、結局何も無しってのは悪いなって……」
「私は話を聞いてくれただけで十分だけど……」
「それじゃ、あたしが納得しないの! それでさっきの話だけど……悪いけど、あたしじゃ、アンタの満足する答えは出せそうにないね」
「……そっか」
「……だけど」
「ん?」
満足のいく答えが出ないかもしれないことは重々承知していた。そもそも、カトレアとてアルディアスに想いを寄せているのだ。その上で、無理やり連れてこられたといえ、ライバルと言っても良いアレーティアの話を律義に聞くところが、口では拒絶しつつも、カトレアの面倒見の良さが出ているのだろう。
結局自分の想いには自分で解決方法を見つけるしかないなと思っていると、カトレアの話は終わっていなかったようだ。
「アンタの好きなようにすれば良いんじゃない?」
「……好きなように?」
「今までずっと封印されてて、好きなこと一つ出来なかったんだろ? なら、これからは自分のやりたいようにやれば良いさ。アルディアス様の為に頑張るのも良いけどさ、それでアンタが無茶するのは違うんじゃないかな」
「それは……」
「それでアンタが窮屈そうにしてたら、それこそアルディアス様に心配掛けちまうよ。変に変えようとせずにアンタはアンタらしくやれば良いんじゃないの?」
「私らしく……好きなように」
「……って、ああもう! あたしは何いっちょ前に語ってんだい!? もう行くからね!!」
言いたいことを全て言い終わったカトレアは、途端に恥ずかしくなったのか、赤面しながらアレーティアに背を向けて店を出ていこうとする。
「……カトレア」
「ん?」
そんなカトレアに、アレーティアから声が掛かる。カトレアが振り向くとアレーティアが口元に笑みを浮かべて此方を見ていた。
「ありがとう」
「……別に礼を言われる程のことじゃないさ。一応あたし達、親友らしいし?」
「ん!」
恥ずかしそうに告げるカトレアに対して、アレーティアは満面の笑みを返す。
300年前までは自分が魔人族の国で暮らす事になるなんて考えたことも無かった。アルディアスが居るとはいえ、不安がなかったと言えば嘘になる。
しかし、ついてきて良かった。と、今では心の底からそう思う。
「カトレア、お母さんみたいだね」
「年増って言いたいのかい!?」
◇ ◇ ◇
「……ふう、とりあえずこの辺りにしておくか」
太陽が西の地平線に沈みつつある中、アルディアスは確認が終わった資料をまとめて一息ついていた。
先も言った通り、アルディアスの仕事は山のようにある。最初こそ、寝る間を惜しんで仕事をこなしていたアルディアスだったが、それがフリードに見つかり、無理やり寝室に放り込まれてしまった。
『私達に休めと言ったのは貴方でしょう? その貴方が休まずに働いていたら下の者は休むに休めませんよ』
そう言われてしまえば、アルディアスも受け入れるしか無く、昼食と夕食時の休憩と十分な睡眠をしっかり取るようになった。
アルディアスは偶然フリードに見つかってしまったと思っているが、実際はアルディアスが休んでいないことを知った臣下が自分もまだ働けるとフリードに進言したことがキッカケである。
アルディアスの大きすぎるカリスマも、その時ばかりは考えものだなと思ったフリードだった。
「あとは夕食後だな」
そう言って立ち上がり、扉に向かうアルディアス。そのまま扉を開けて外に出ると──
「あっ」
「ん?」
不自然に右手を上げた状態で固まるアレーティアの姿があった。おそらく、ちょうど扉をノックしようとした所にアルディアスが出てきたのだろう。
「どうしたアレーティア、何か用か?」
「あ……えっと、アルディアスもうご飯食べた? 私は今からなんだけど、良かったら一緒にどうかなって……」
「いや、俺もこれからだ。一緒に行くか?」
「ッ!──ん!」
アルディアスからの返答を聞いたアレーティアは嬉しそうにアルディアスの隣を歩き出す。
今日は何をしていたのか、これからの予定は、などの他愛もない話をしながら廊下を真っ直ぐ進む。
そうした中、ふとアレーティアは隣を歩くアルディアスの横顔に視線を向ける。
(いつの間にこんなに大きくなったんだろ……)
初めて会った時はアレーティアよりも少し身長が低く、顔も元々が中性的なのも相まって、カッコイイよりも可愛いという言葉が似合う容姿だった。
それが、13歳を皮切りにどんどん背が伸びていって、それにつれて顔つきも男らしさが見えるようになっていった。
(顔は整ってるなーとは思ってたけど、ここまでカッコよくなるなんて……まあ、顔だけじゃないけど)
「……? 俺の顔に何か付いてるか?」
「ッ!?──な、何でも無い!」
「……そうか」
じっと見すぎていたのだろう。視線に気付いたアルディアスが問うと、若干顔を赤らめながらそっぽを向いて否定する。
視線を戻して歩き出すアルディアスに、今度はバレないようにチラチラ視線を送る。
もちろん、そんなアレーティアの様子にアルディアスは気付いているのだが、何となく自らの勘が気にしてはいけないと告げていた為、見て見ぬ振りをしていた。
(私の好きなように……か)
そんなアレーティアの脳裏にカトレアとの会話が蘇る。
(私はどうしたいんだろう……アルディアスの特別になりたい? 恋人にして欲しい? いや、それよりも、もっと根本的な……)
会話もそこそこに、深刻な顔で考え込み始めたアレーティアの様子に、流石に気になったアルディアスが声を掛けようとすると、ガバっと顔を上げたアレーティアがアルディアスを見つめる。
「アルディアスは、今何がしたい?」
「何が……とは?」
「アルディアスって今までずっと頑張りっぱなしでしょ? もし、人間族とか、神とかのことを気にしなくて良くなったら、何かやりたいことはないの? しなくちゃいけないんじゃなくて、アルディアスがやりたいこと……」
「俺がやりたいこと……か。考えたことも無かったな。国をより良くすることもそうだが、恐らくそれはアレーティアの求める答えではないんだろうな」
「……ん、ちょっと違うかな」
国をより発展させ、民の生活を豊かにする。これは正真正銘アルディアスのやりたいことではあるのだが、何よりも民を第一に考えた願いである為、アレーティアの求める答えとは意味合いが変わってしまう。言い換えるならば、何か我儘のようなものはないのか……ということである。
「……ふむ、いくつかあるな」
「ホント!? どんなこと?」
聞いておいてなんだが、常に誰かの為に動いているアルディアスが、誰の為でもない、個人的な願いを持っていたということに驚きながらも続きを催促する。
「日差しの温かい場所で、昼寝でもしてみたいな」
「え?」
「あとは、そこで飯でも食べたらうまそうだ」
「えっと……」
「それと、概念魔法を民の生活に反映出来ないだろうか? いや、まずは神代魔法か?」
「えッ!?」
「概念魔法の習得は難しいが、俺がそれだけ民のことを想えば理論上は可能では無いだろうか?」
「た、確かに出来なくは無いかもしれないけど……ってそうじゃなくて!」
概念魔法云々は置いておくとして、まず最初にアルディアスの口から出てきた言葉に言及する。
「昼寝とかご飯って、そんな普通のことを……」
「俺は普通で十分だが?」
「え?」
「普通に朝起きて、職務に励みながら、民と交流する。働き詰めは疲れるからな、時には城の外に出て、何もせずに過ごせたら気持ちよさそうだ……誰かが戦争で殺される事も無く、子供が戦いを知らずに成長できるのが当たり前の世界。それが俺の理想、俺のやりたいことだ」
「普通なのが……理想?」
「アレーティアは?」
「……へ?」
「アレーティアはやりたいことは無いのか?」
「私の……やりたいこと」
アルディアスの言葉を聞いて改めて考え込む。
私がやりたいこと……アルディアスに異性としての明確な好意を抱く前から心の底でずっと思っていたこと。
「……また」
「ん?」
「……また、アルディアスと色んな所に行ってみたい。今度は姿を隠すこと無く、世界中を」
昔と違って王位についたアルディアスが意味もなく外に出ることは難しいだろう。それも、気分転換に国の外周りに出るならともかく、世界中を旅する余裕など無いだろう。
それでも、夢見てしまう。かつてのように一緒に旅する光景を。
「行けるさ」
「……でも」
「今すぐは難しいがな、神を討ち滅ぼせば、きっと今よりも世界は平和になる。そこから何年かは掛かってしまうが、いつか俺が居なくても問題ない世の中になるだろう、そうすれば、少しばかり、外に出ても許されると思わないか? フリードには負担を掛けてしまうかもしれんが、それくらい多めに見てくれるだろう。その時、一人じゃ楽しくないからな、一緒にどうだ?」
「……ん! 行く! 絶対行く!!」
「そうか、楽しみがまた増えたな」
満面の笑みを浮かべるアレーティアに対してアルディアスも笑みを返して答える。
腹が減ったな……そう言って、再び歩き出すアルディアスに続いて、アレーティアも歩みを進める。
その足取りは、先程よりも確かに軽くなっていた。
想いが伝わった訳じゃない。それでも今はこのままでも良いとアレーティアは思うようになっていた。
人間族との戦争の決着、この世界の神の打倒、魔国ガーランドの繁栄など、やらねばならないことは山積みだ。
それでも、その全てが片付いた時……またアルディアスと一緒に外の世界を見て回れるようになった時、その時こそ……
(ちゃんと、この気持を伝えるから)
──その時、貴方はどんな表情を見せてくれるのかな?
ずっと書きたかったガーランドでのアレーティアの様子。
カトレアの話し方とか違和感ないかな? 大丈夫かな?
吸血姫(300歳超え)「10歳は流石に……せめて15歳なら」
285歳下ならイケるけど、290歳下はダメなアレーティアさん。尚、成長すればオッケーな模様。つまり、年上好き。(見た目は12歳)