青空が綺麗な風も吹いているとある日の午後、男は屋上に立っていた。
男は瞳を閉じてゆっくりと深呼吸をしていた。そして、おもむろに歩き始めた。そこへ「そこのあなた。あなたはなんて幸運な人だ。」と呼びかけるスーツ姿の男が現れた。「何のことだ?」男がそう聞き返すとスーツ姿の男は「私にここで会えたのはあなたにとっての幸福。これからすべてうまくいくだろう。君が願う幸福は本当に叶うのだから。」スーツ姿の男はそう告げたかと思えば既に姿がなかった。一体何だったのだろうか・・・
男は気味が悪くなり、屋上から降りた。「幸福・・・そんなわけあるか。」男は唇を噛みしめながら涙をこらえるような険しい表情になった。「本当に幸福というのなら、あの部長がいなくなればいいのにな。」男は部長からひどいパワハラを受けていた。何度も通告したが会社は動いてくれなかった。仕事を辞めてしまえば妻と息子を食わせることができない。だからひたすら耐えるしかなかった。男の携帯から着信音が鳴る。何かあったのだろうかと思い、電話を取る。「部長が・・・亡くなりました・・・」男は目を丸くした。男は慌てて会社へと戻る。困惑をしていたがどこか笑顔を見せるような顔になりながら急いで向かっていった。死因は心臓麻痺だった。葬儀は後日行われるということだ。だが参列しようというものは少ないだろう。それほどまでの嫌われ者だったということだ。男はスーツ姿の男のことが頭をよぎったが、まさかなと思った。
葬儀当日。男は葬儀へと向かっていった。あれほどまでに嫌悪していた部長だが、会社の中でもっとも接する機会が多かったことと、他に会社から参列するものが少なかったので男が選ばれた。嫌々な顔になりながら男は葬儀場へと向かった。二度と見たくない顔なのにもう一度見なければいけない。いっそ葬儀がなくなればいいのに。男はそう思っていたが、これが最後だと自分に言い聞かせた。しかし、葬儀場についたら様子がおかしかった。葬儀が開かれてなかった。一体なぜだと思い、近くの人に聞くと、「どうやら、ご遺体を運ぶ車が事故を起こして、行方不明になったらしいんです。同乗していた奥さんもいなくなってしまって・・・」まさか、そんなことが起きるのか?最初は偶然だとしても今回はおかしい。そんなに都合がいいことが起こるわけがない。だが現実に起きている出来事だ。「俺は本当に、幸福になったのか・・・?」男はつい顔を緩ませた。自分の思い通りにことが運ぶ。本当ならこんなに嬉しいことはない。今すぐにでも大声で笑い出したい気分だった。いやいっそのこと笑ってしまおうか。どんなに変なものと思われても、自分は幸福なのだから。そう男が思った時、部長の子供がわんわんと泣いているのを見た。
男は深刻な顔をしていた。そうだ。自分が幸福になったとしても、他人にとっては最悪の不幸だ。ましてや部長の息子は父と母を同じく亡くしてしまったのだ。男は幸福を恐れた。そんな面持ちで家へと帰った。妻に打ち明けようかと思った。だがそんな現実離れしていることを話したって、笑われるに決まっている。それに家族は俺の話を聞こうとしない。一体いつからだろうか。そんな些細な日常さえも失ったのは。だが、今の俺は幸福だ。俺が願えば・・・男は意を決し、全てを妻に打ち明けた。妻はその話を聞き入れ、「あなたが幸福になって私たちが不幸になってもあなたの幸せなら私にとっての幸せよ。」と言った。男は涙を流した。「俺は幸せだ。そうだ。俺は幸せになったっていいんだ。他人のことは気にしない。それが俺にとっての幸せなら・・・」
翌日、焼死体が3人発見された