魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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2ヶ月ッ! 余りにも長い投稿間隔ッ!


9話:お前カルシウム摂れよ

 気が付くと、キャロレインはシアタールームのような場所で、一人ポツンと椅子に座っていた。何の脈略もなくこの場にいる時点で、彼女は、これが夢だと確信した。

 スクリーンが発する微かな光が充満する広間に、カラカラと回る射影機の無機質な音だけが染み渡る。

 

 夢ゆえに無意識に席を立とうとした所で、目の前にスッと白い手袋が現れる。粗い線の輪郭をしたそれは、デッサンで描かれた絵が実体化したような風貌をしていた。

 手袋はキャロレインに"待った"のジェスチャーを示すと、人差し指でノイズを走らせる映像を差す。まるで『今から流す映像を見ろ』とでも指図しているようであった。

 

 手袋が差すスクリーンをキャロレインが立ったまま見つめていると、白黒の静止画が映し出された。

 

 それは炎に焼かれる煤被った街。

 建物の壁面は焦げ、その内幾つかは崩落した断面から湾曲したワイヤーが飛び出していた。煉瓦でキレイに舗装されていたであろう路面は、ひび割れと穴だらけで元の面影すら無い。

 淡々と流される凄惨な光景。しかしその最中、スクリーンが一人の少女の後頭部を映し出す。

 

 その時、キャロレインは画面に釘付けになった。

 

 それは一瞬暗転した後、再び映し出される。振り返っているらしい少女の顔は、黒いインクでぐちゃぐちゃに塗り潰されていた。

 突如、頭の中で何かが弾ける様な痛みに襲われたキャロレインは、咄嗟に額を抑える。

 

『───ッ⁉︎』

 

───落ち着いて! 買い物に行ったパパとママはきっと無事よ! いい? 私達は状況が落ち着くまで地下に隠れてなきゃ。

 

───すぐに魔導士達が駆けつけてくれるよ。だから大丈夫。この街の魔導士はみんな強いの知ってるでしょ?

 

───キャロ! 木箱の中に隠れてて!

 

 キャロレインが身を隠したと同時に、荒々しく床を引きちぎらるような音が聴こえたのは、今でも彼女の耳に焼き付いている。

 

 

 

 我に帰ったキャロレインを、砂嵐を映したスクリーンが出迎える。

 先程いた手袋の姿は既に無い。

 スピーカーからジリリ、ジリリと喧しい騒音が近づいてくる。

 

 

 ───

 ──

 ─

 

 

 耳元で叫ぶのは目覚まし時計。

 不快そうに呻くキャロレインから繰り出されたアームハンマーは、目覚まし時計の芯にクリティカルヒット。ぺしゃんこに潰れスクラップと化した。

 キャロレインはのっそりと毛布を捲って起き上がる。

 

 キャロレインは、ベッドの小物置きに立てかけられた片手サイズの額縁を手に取って、色褪せた白黒写真を見つめる。写真の中の少女は色調の所為かどこか退廃的に見え、触れれば割れてしまいそうな、そんな雰囲気を晒していた。

 

「どこ行っちまったんだよ……姉さん」

 

 天井を見上げて呟くキャロレインの声は、懐かしさと寂しさが入り混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 身支度を済ませたキャロレインは早々に自宅を空け、ブロック状の栄養食を齧りながらマグノリアの街道を突き進んだ。

 食材を売る露店の呼び込みを聞き流したり、近所の顔馴染みなんかと挨拶を交わしながら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)酒場(ギルド)へと足を運んで行く。

 カルディア大聖堂と呼ばれる街の名所の一つである大きな教会を曲がって突き当たりにある、東洋の雰囲気を漂わせる独特なシルエットの建物がそれだ。

 

 正門手前のアーチを潜り、勢いよく入り口の扉を開けるキャロレイン。彼女が酒場に顔を出すのは実に十日ぶりであった。

 

「おはざ〜す」

 

 気の抜けたような声とは反対に、力強く乱雑に開けられた扉が断末魔を上げる。

 その大音量は酒場の魔導師達の視線を引きつけた。キャロレインに向かって一斉に振り向く彼ら。しかしどう言う訳か、久しぶりに顔を見せたキャロレインに声をかけるでもなく、揃いも揃って気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 妖精の尻尾の魔導士達はそのギルド名に似合わず荒くれ者が多い。

 基本的には人の良い彼らであるが、仕事先でのちょっとしたいざこざだったり、仲間内でのほんの些細な諍いから途端に乱闘へと発展するのは日常茶飯事だったりする。

 普段は気さくに挨拶を返してくるはずなのに、今日はやけに静かだと思いながらキャロレインが首を傾げていると、どこからか間が悪いとでも言いたそうな「あちゃ〜……」という声が聞こえてきた。

 

 普段から乱痴気騒ぎしている彼らが、今はまるで演説でも静聴しているかのように粛々としていた。

 

 

「キャロォォォォ‼︎ 俺と勝負しろォォォォ‼︎」

 

 

 ナツを除いて

 

 強い奴には手当たり次第に挑みかかる好戦的な性格の彼は、平常運転だった。

 

 キャロレインは突進してきたナツをスライド移動で避け、通り過ぎざまに足をかける。

 体勢を崩したナツの背後に瞬足で移動したキャロレインは、即座に彼の胴体を抱え上げ、ジャーマンスープレックスをぶちかました。この間僅かコンマ数秒、後頭部を床に打ったナツは呆気なくノックアウト。

 

 キャロレインが目を回すナツの頬を指で突いていると、背後から何者かに刺すような視線を向けられている事に気が付いた。全身に静電気が走るような感覚を覚えたキャロレインの動きが止まる。

 

「よぉ〜、久しぶりだなキャロレイン。今、お前があんまりにもギルドに顔出さねぇモンだから、仕事先でくたばっちまったんじゃねーかって話をしてたのさ」

 

 威圧感を孕んだ声が聴こえた途端、キャロレインは反射的に嫌そうに顔を顰め、声の主がいた酒場の二階を向く。

 そこには豹柄のコートに黒い外套を羽織り、厳ついヘッドホンを首にかけ、成人男性の平均を大きく上回る体格を持つ大男が、鋭い目付きで彼女を見下ろしていた。ともすれば街を牛耳る不良の族長と勘違いされてしまいそうな彼の名はラクサス・ドレアー。強力無比な雷の魔法を操る『S級魔導士』である。

 

「うっわ、ラクサス⁉︎ 朝イチでお前と顔合わせるとか厄日だな! 今日の運勢仕事しろ!」

 

「今は昼だし、お前の運勢は休日だ。……相変わらず巫山戯(ふざけ)たツラしてやがンなァ、キャロレイン」

 

 ラクサスは不敵に口を歪ませ、不運を愚痴る彼女を見下ろす。

 

 二人の関係は、お世辞にも友好的とは言えない。

 

 元からそれ程仲が良いわけではなかったラクサスとキャロレインだが、お互いギルドの在り方に対する考え方に()()が合わず、それ故に発生した決闘が決定的となって、二人の溝は深まった。

 そんな訳で、ラクサスとキャロレインは、ナツとグレイに負けず劣らずの犬猿の仲である。

 と、ギルド内の仲間内では知られている。

 

 誰が言ったか『妖精の尻尾の火薬庫』

 

「で? どっーせまたしょうもない最強談義でも講じてたんだろ、テメーがギルドにいるといっつもこんな感じになるの、マジ勘弁なんですけど」

「ククッ……しょうもねぇ、か。ま、平和ボケした臆病魔導士が何言おうが知ったこっちゃねぇわ」

「あ"?」

「お?」

 

 その瞬間(とき)、テーブルに置かれた食器や瓶がカタカタと震え始めた。同時に魔導士達の全身に重くなった何かがのしかかる。

 

 魔力。

 二人の魔導士から溢れ出したそれが、空気を押し潰そうとしているのだ。

 

 キャロレインとラクサスは互いにプッツン来た。

 

 侮辱されて黙っていられるほどキャロレインは温厚ではない。煽られたら煽り返すし、売られた喧嘩は買い叩くのが彼女である。

 

 最強とは、ラクサスにとってある種自の譲れないアイデンティティのようなモノである。それを「しょうもない」と一蹴されれば頭に来るものがあって当然。

 

「上等ォだぜこの静電気野郎‼︎ 今度はもっと丁寧にしばき倒してやるぜえええ

 !!!」

「抜かすなよ……今度こそどっちが上か分からせてやるよ、爆弾女ァッ‼︎」

 

 キャロレインの傍、虚空から召喚され、床に突き刺さった機械仕掛けの両手剣が、重低音を轟かせる。

 ラクサスの両手に、小さな稲妻を散らしながら、超密度の大雷球が現れた。

 

 それらが同時に顕現した刹那、誰かが能動的に放った「やっべ」という呟きを皮切りに、酒場の魔導士達が蜘蛛の子を散らすように酒場の壁際へと走り出す。

 

 阿修羅のような形相を浮かべるラクサス、噴火寸前のキャロレイン。

 一触即発。いや、一触即爆。

 

「やめい‼︎」

 

 そんな二人に割って入るかのように声を張り上げたのはギルドマスター、マカロフであった。

 彼の巨人の如き気迫は、混乱する魔導士達の動きを一声で静止させた。

 

「貴様ら二人が本気で撃ち合えば、どうなる事くらい知っておろうが」

 

 (いき)り立つ二人を、マカロフが宥める。

 

「邪魔すんじゃあねぇよ、じじい」

 

 ラクサスが威圧する。

 もし凡庸な魔導士が今の彼と目を合わせようものなら、一瞬で戦意を喪失してしまうだろう。

 しかし、カウンターテーブルの上に座っていたマカロフは一切動揺する事なく、ただじっとその場で腰を据えていた。

 

「……ワシにも限度はある。お前もだぞ、キャロレイン」

 

 空気を震わす低い声。

 

 ──境界を越えるのなら、容赦はしない──

 

 そう察したラクサスとキャロレインは、渋々といった態度で全身から溢れ出す魔力を引っ込めた。

 

「チッ……」

「ぅへーい」

 

 渋々といった様子で矛を収めた二人。

 それを見て「ふぅ」と一息吐くマカロフ。凄まじい迫力を醸し出していた剣幕は消え、いつもの和やかな表情に戻っていた。

 

「んで、キャロ。お前にゃ別件で言う事あるから後でこっち来い」

「……エスケープ‼︎」

「逃がすかぁっ」

 

 マカロフは、魔法でマジックハンドよろしく腕を伸ばし、キャロレインの頭を鷲掴みにした。

 

 

 

 

 後、ラクサスは横槍を加えられた苛立ちから不満を垂らしつつ、「仕事に行く」と言い放って、酒場を出て行く。去り際にマカロフがラクサスを呼び止めたが、彼は既にその場から消え失せていた。因みにキャロレインは建築物損壊の件についてマカロフから色々お叱りを喰らった。

 

 ここ数日の出来事をマカロフに報告してからカウンターチェアに腰掛けたキャロレインは、テーブルに頭を打ち付けるように突っ伏すと「最高だな!」と叫んだ。

 その様子を見ていたグレイと、もう一人の魔導士が彼女を挟んで座る。

 

「よぉキャロ、随分とじーさんに絞られたんじゃねーか?」

「うるせぇほっとけ。あと、お前は今すぐ服着ろよ」

「うおっ⁉︎ しまったつい癖が……」

「え、冗談で言ったのにマジで着てなかったのかよ。とんだ変態だな」

 

 パンイチ(グレイ)は慌ててジャケットを被った。場所問わずいつのまにか服を脱いでほっつき歩く彼は露出狂として有名である。先日、仕事先でその特性を発揮した彼は通報された。

 

「にしてもラクサスの奴もよく絡むぜ、もしかしてお前に気でもあるんじゃね? ほら、気になる人ほどちょっかいかけたくなるっていう」

「気は気でも殺気でしょ、あれは」

 

 黒髪長髪の女性魔導士が被せるようにそう言って、ジョッキに注がれた酒を飲み干す。

 カナ・アルベローナ、ビキニトップにラインが強調されるジーンズを履いた刺激的な服装の彼女は、歳若くして妖精の尻尾で一、二を争う酒豪である。先日、仕事先で酒代の支払い先を評議院に押し付けた彼女は通報された。

 

「アンタ今月やらかし多くない? 金欠? ……やっぱり。たんまり罰金課されたんでしょ、評議院から」

「ったく三桁万飛んだぜ……折角貰った仕事の報酬がパァだ」

「三桁ってアンタ……どんだけ暴れたのよ」

「建築に完全反魔法素材の使用を義務化する法律を定めるべきだと思う」

「無茶言うな、小屋一軒建てるのに何億J(ジュエル)飛ぶと思ってんだ」

「アンタ、本当に自分の魔法制御できてる?」

「当たり前だ。こちとら滅茶苦茶気ぃ遣ってるわ」

「それでさっきのアレかよ……」

 

 ドン引きするグレイを他所に、カナは頬杖をついて、傷心するキャロレインに同情の眼差しを向けていると、奥からひょっこりと銀髪の女性が現れた。

 ミラジェーン・ストラウス、愛称ミラ。妖精の尻尾の看板娘とは彼女の事である。女神を彷彿とさせる和やかな微笑み、美しく無駄のない整ったプロポーションはまさしく神の恵愛を受けた美貌……とは誰が言ったか、やや表現が大袈裟な気もするが齟齬は生じないだろう。ギルドの魔導士達からはもちろんの事、世の男性に限らず女性からの人気も高い。

 そんな彼女がキャロレインに牛乳瓶をそっと渡した。

 

「あざっす!!」

「うるっっっっっさ⁉︎」

 

 キャロレインの馬鹿でかい声に、カナは思わず耳を塞ぐ。

 

「お礼なんかいいのよ、落ち込んだ仲間を元気づけるのだって私の仕事よ?」

 

 牛乳瓶を手に取ったキャロレインに、ミラジェーンは優しい笑顔を崩さずに首を少し傾けてそう言った。

 

「聖人かな? あ、クリームシチュー奢ってください」

「天使かよ。 あ、俺はデラックスかき氷一つ」

「アンタら……」

 

 カナはここぞとばかりに図々しい二人を尻目に、ドン引きしながら新しい酒瓶のコルクを指で弾くと、そのまま豪快にラッパ飲みを始めた。

 

「ここにいたか、キャロ」

 

 ふと、背後から凛とした声に呼ばれたキャロレインは振り向く。そこには堂々と腕を組みながら立つエルザがいた。

 カナが口に含んだ酒を噴き出しかける。

 グレイは忽然と姿を消した。

 

「ん、エルザ。何か用?」

「ああ、よかったらこの後二人で一緒に仕事に行かないか? お前の得意な討伐系の仕事だ」

 

 エルザは掴んでいた一枚の依頼書を広げてキャロレインに見せる。

 

「へぇ……別に構わないけど、これ位ならエルザ一人でも大丈夫だろ。何でまた……」

「盗み聞きするつもりじゃなかったが、金欠なんだろう? 友人として何か手を貸してやりたいと思ってな。それに、先日鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士を捕らえるのを手伝ってくれた礼もまだだった」

 

「お礼のお返しが仕事の同行ってどうなの……」

 

 そう言い出しかけたカナだったが、寸でのところで口を噤んだ。

 

「ふーん……ま、鬱憤晴らしには丁度良さそうな相手だな」

「ふふ、キャロと仕事に行くのは久しぶりだな。実は、もう準備は済ませてあるんだ」

「そうか、なら善は急げだ。さぁ行こう、早く早く早く」

 

 せっかちなキャロレインはそう言うや否や、瞬間移動でもしたかのように酒場の出口で腕を振りながら待機していた。

 

「そう慌てるな、急ぎすぎるのは良くないぞ」

 

 それを見たエルザはやれやれと、キャロレインの元へ向かうのであった。

 

「キャロ、早速いつもの調子に戻ったわね」

「そうみたい、良かった。しおらしいのはキャロちゃんに似合わないわ。それはそれで、拗ねた猫みたいで可愛いんだけど……」

「猫っつーか猛獣だと思う」

「そぉ?」

「そう」

 

 二人は小声でやり取りしながら、小さくなってゆくエルザ達を見送る。

 カナは安堵した。何故なら彼女の男勝りな性格が仕草に現れ、度々それがエルザに見つかっては、指摘とともに口頭での長〜い指導を喰らうからである。先程、カナは椅子で半分胡座な座り方をしていたのだが、それがバレずに済んだと思っていたのだ。

 

『一つ言い忘れていた。カナ、先程の座り方は女性としてはしたないぞ』

「ぶっふッ⁉︎ ……気付かれてた」

 

 側にあった通信用魔水晶(ラクリマ)から唐突にエルザの声が届き、ビクリと肩を浮かせたカナ。

 残念! 風紀委員(エルザ)の目は誤魔化せない! 

 

 また長い小言でも言われるのかと逃げ出したくなるカナだったが、キャロレインがエルザを呼んでいた為に、それは避けられた。彼女は再び安堵すると同時に、心内でキャロレインに感謝を述べたのであった。

 

 

 

エルザ達が発って数十秒後、キャロレインとラクサスによる魔力の衝突を目の当たりにしたルーシィが、(こた)えた様子で席に辿り着く。

 

「あ……ミラさん。ここの席、空いてます?」

「誰も使ってないから大丈夫よルーシィ。……あら、何だか随分とぐったりしてるみたいだけど」

「さっきので一気に気力持ってかれちゃいました。やっぱ凄いですね、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士って。色んな意味で……」

「アンタも運が無いねルーシィ。……ルーシィ? め、目が死んでる……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 ───時刻は飛びに飛んで月が昇った頃。

 

 石煉瓦で舗装された灯り仄めく街。エルザとキャロレインは帰りの汽車に乗る駅へと向かっている最中である。

 腕を頭の後ろで組みながら歩くキャロレインの傍、エルザは重い足取りで歩いていた。

 二人が受ける予定だった仕事は、既に幽鬼の支配者(ファントム)というギルドに所属する魔導士によって達成されていたのだ。依頼主曰く、ほぼ入れ違いのタイミングであったという。

 

「すまないキャロ。私とした事が……まさか、幽鬼の支配者(ファントム)に遅れを取るとはな……。くッ、総長(マスター)に何て報告すれば良いんだ……」

 

 幽鬼の支配者(ファントム)。かのギルドもまた、フィオーレ王国で妖精の尻尾に並ぶ強豪として名高い魔導士ギルドである。

 妖精の尻尾と幽鬼の支配者の間では、魔導士ギルドとしての首位を争う形で昔から小競り合いなんかが起きていた。要するに仲が悪い。

 幽鬼の支配者に対し少なからず対抗心を抱いていたエルザは、悶々とした表情を浮かべていた。

 

「別にいつも通りでいいだろ、マスターはそんな事で目くじら立てるような人じゃないし」

「そうは言ってもだな……『S級()()()仕事に行ったけど、既に依頼が達成されてました』なんて、ギルドの皆に対して面目立たないだろう」

「んなもん誰も気にしねーって。そんな事でごちゃごちゃ言う奴いたらオレが直接ぶっ飛ばしてやらァ」

 

 キャロレインは歩きながらエルザに向き直ると、力強くそう言った。

 

「やめてくれ。ギルドが倒壊する」

 

 それから二人が無言で歩き続けていると、徐々に人通りが増え始めていく。

 明るさを増していく街の景色に反して、エルザからは未だにどんよりとした暗い空気が漂っていた。どうやら、かなり引きずっているらしい。段々気不味くなってきたキャロレインが、雰囲気を紛らわそうと口を開いた。

 

「……明日は久しぶりに討伐以外の仕事にでも行くか」

「……何か、いいのがあったのか?」

「ガルナ島の呪い。二階に貼ってあったんだけどよ」

 

 通称、悪魔の島。

 船乗りはおろか、海賊でさえも避けて通る呪われた島。

 

「報酬が良いんだ、700万J(ジュエル)。達成できれば金欠脱却できっし。あと金の鍵ってあったから……新人の星霊魔導士いたろ?」

「ルーシィの事か?」

「そう、それ。新入祝いって事でプレゼントしようかなって」

「珍しいな、お前が誰かを気にかけるとは」

「良い人って思われたい」

「……俗だな」

 

 身も蓋もないキャロレインの正直な言葉を聞いたエルザは、なぜだか一人で悩みを抱えているのがバカらしくなってきた。

 キャロレインの雰囲気に当てられた彼女は気を取り直し、いつの間にか二人で何気ない談笑を始めるのであった。

 

 二人は街の光を背に帰路を歩む。

 

 ───しかしこの時、彼女らは知る(よし)もなかった。

 話に挙がった新入りの星霊魔導士、ルーシィが妖精の尻尾きっての問題児と共にその依頼を受けに行ってしまった事を。




キャロレイン・ロロキルト

 表情筋が死んでいるかのように何時もニコニコしているが、一応喜怒哀楽はある。いきなりハイテンションになったかと思えば唐突に冷めたりするので、扱いづらい。
 丁寧語で話しているかと思いきや、荒っぽい言動が混ざっている事もしばしば。その度にエルザに指摘されている。
 彼女が扱う魔法、破壊者(デバステイター)は、やたら強力な一撃とクソ広い攻撃範囲が組み合わさり最強に見える。が、燃費がバカ悪い上に制御をミスると色々ヤバい事(適当)になるので、実は結構繊細な魔法だったりする。本人的には制御できてる、らしい。
 そして、そんな魔法の制御に一役買っている機械仕掛けの両手剣"ジャガーノート"はキャロレインのマストアイテムであり、相棒でもある。
 魔導ビークルの操縦に明るく、彼女のイカれたドライブテクニックは他の追従を許さない。
 行方不明の姉を探している。
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