魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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2話:遅延行為やめて下さい

 オシバナへ向かう列車

 

 空いた対面席に座っていたキャロレインは、ゆりかごの様に揺られていた。

 背後から見れば、頬杖をつきながら車窓の景色をただ呆っと眺めているだけのように見えるが、その心中は穏やかでなかった。

 

 何故なら、折角高額の依頼を達成できたと思えば、その過程で施設をぶっ壊してしまったおかげで罰金を徴収され、しまいには事情聴取のために数日間、街に滞在する羽目になってしまったからである。

 

 事情聴取はキャロレインにとって最悪の時間だった。

 尋問官が自分の主義思想に染まった頑固者で、所謂"ハズレ"だったのだ。

 笑顔のまま表情筋が死んでいる所為で、至って真面目に応答しても尋問官からは『真面目に受け答えする気が無い』などとレッテルを貼られてしまい、何度危険な樽(デンジャー・バレル)との経緯を説明しても理解を得られなかったのだ。

 

 キャロレインはその最中、まともに取り合わず横暴な態度を示す尋問官に苛立ちを覚え、幾度となくぶっ飛ばしてやろうかと思っていた。

 勿論そんな事をすれば即逮捕なので、彼女はほぼ一方的な問答の間、震える右腕を左手でグッと抑え込んだ。

 

 とはいえ、彼女の脳内では尋問官の癪に触る顔に怒涛の連打をブチかましていたし、なんならアッパーでフィニッシュコンボを決めてさえいた。

 

 最終的にはポピーハット市長の補助もあって釈放されたが、もしあのまま続いていれば倍の日数はかかったに違いない。

 この数日間で、キャロレインが尋問官に対して浮かべた怒筋は百を下らないだろう。

 

 滞在費は当然自費、宿泊費だって安くはない。

 その結果、キャロレインの手元には仕事の内容に見合っていない金額しか残っていなかった。

 

 帰ったら帰ったで、今度は始末書を片手に持ったギルドマスターから有難いお説教が待っている。

 

「やってらんねー……」

 

 憂鬱な気分に沈んだキャロレインの頭の上に、怒りの漫符を出す総長(ギルドマスター)が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 オニバスへ向かう列車の箱席に、四人と一匹が座っている。

 彼らは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士達だ。

 どうやら一名は乗り物酔いをしているらしく、鎧を着た女性の膝下で弱々しく横たわっている。

 

「そういえば……あたし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)でナツ以外の魔法見た事無いや」

 

 活発的な印象を受ける金髪の少女、ルーシィは一緒に座っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間達が扱う魔法に興味津々なようだ。

 彼女はここ最近で新たにギルドに加わった期待の新人である。

 

 ルーシィの言うナツ・ドラグニルという人物は、現在グロッキー状態で横たわる桜色の髪をした少年の事だ。

 彼の扱う魔法は炎の滅竜魔法(ドラゴン・スレイヤー)と呼ばれ、口から炎を吹き、全身から炎を放ち、そして炎を喰らう事で己を強化する事ができるという中々にぶっ飛んだ魔法である。

 

「エルザさんはどんな魔法使うんですか?」

 

「エルザでいい。そうだな、私の魔法は───」

 

「エルザの魔法はキレイなんだ。血がいっぱい出るんだ、相手の」

 

 鎧を纏った赤い長髪の凛とした女性、エルザ・スカーレットはルーシィの質問に答えようとするが、ルーシィの隣にいる青い毛並みの喋る猫、ハッピーはエルザが言うより先に口走ってしまった。

 

「そ、それって綺麗って言えるのかしら……」

 

 引き攣った笑みを返すルーシィ。

 たしかに、他人の血液と聞けば不快、もしくは不潔なイメージを持って当然だろう。

 美術的に表現される血液ならまだしも、実際のものとなると話は別である。

 生の血を見て喜ぶのは蚊や蝙蝠といった吸血生物か、猟奇的趣味を持つ人間くらいなもんだろう。

 

「ふむ……私はグレイの魔法のほうが綺麗だと思うぞ」

 

「そうか?」

 

 薄手のコートを羽織った深い群青色の髪の少年、グレイ・フルバスターはエルザにそう促され片手の平の上で拳を握りしめる。

 すると、握りしめた拳の周りにヒヤリとした空気が渦巻いていく。

 数秒後、彼の手の平の上には妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を象った小さな立体の氷像が浮遊するように佇んでいた。

 

「氷の魔法さ」

 

「わぁ、綺麗! 氷ってアンタ似合わないわね」

 

「放っとけっつーの……まあ、綺麗かどうかは別として、派手さで言えばキャロレインがダントツだと俺は思うが。っつーかアイツここ数日帰ってきてないな、仕事で何かあったのかね?」

 

 ルーシィに綺麗と言われて、グレイは満更でもなさそうに後頭部を掻いて話題を逸らす。

 

「ふむ……まあ、仮に何かあってもキャロレインなら大丈夫だろう。本当はお前たち以外に彼女も誘うつもりだったのだが……」

 

「ッチ……エルザとアイツがいりゃあ俺らなんか必要ねーだろ……ったく、何でこういう面ど……ン"ン"! 大事な時に限っていねーんだよ」

 

「ドンマイだね、グレイ」

 

 愚痴を吐くグレイに、ハッピーは魚を齧りながら特に何も考えてなさそうに慰めの言葉を送った。

 

「そういえばエルザが昨日、そんな名前の人探してましたよね……」

 

 

 

『仕事先で厄介な話を耳にしてな……二人の力を貸して欲しい。ところで、キャロレインはいるか? 彼女も連れて行きたいのだが……何? 今は仕事でいないだと……⁉︎ なら、仕方がないな』

 

 

 

「キャロレインってどんな人なんだろ……?」

 

 ルーシィは首を少しだけ傾げた。

 雑誌や新聞などで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の情報はチェックしていたが、キャロレインという名前には見覚えが無かった。

 

「キャロはメディアの露出を嫌うからな。端的に言えば、何時も笑顔を浮かべている少女だ、ただ少々扱い難いがな。後は……そうだな、強さで言えば妖精の尻尾(フェアリーテイル)ではトップクラスだと思うぞ、私は」

 

「イカれ具合もな……」

 

 列車の揺れに(うな)されるナツの頭を撫でながらそう言ったエルザに対して、グレイは窓の方を向いてヒッソリと呟く。

 因みに、"キャロ"とはキャロレインの略称である。

 

「オイラ知ってるよ、ああいう人を短気っていうんだ」

「はいはい」

 

 魚を平らげて満腹なハッピーは、隣にいるルーシィに向かって得意気にそう言った。

 その様子を見たルーシィは、軽く(あし)らうように相槌を打つ。

 

「俺から言わせてもらえば、キャロは服着て歩く爆弾だ。気を付けろよルーシィ……もしアイツに遭ったら、うっかり導線に火を付けないようにな」

 

「おー、こわ」そう言って、グレイはわざとらしく身震いする仕草を見せた。

 

「グレイは昔キャロに絡んで酷い目に遭ったんだ」

 

「ぬおお思い出させるなハッピィィィ‼︎」

 

 過去の出来事をカミングアウトしようとしたハッピーを、言わせてたまるかとグレイは彼の頬を引っ張って阻止した。

 それはグレイにとって黒歴史(トラウマ)だったらしい。

 

「えぇ、急に物騒。でもちょっと気になる……かも?」

 

 一人と一匹のやり取りを眺めるルーシィは、まだ見ぬ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士に不安と好奇心を抱いた。

 

 

 

 

 

 

「ぶぇっくしょいッ‼︎」

 

 キャロレインは少女にあるまじき破竹の様なくしゃみをした。

 何処かで誰かが噂でもしているのか……などとは別に考えていなかったが、突拍子のないくしゃみに驚いた乗客から刺さる視線が、ただただ痛く感じた。

 

 オシバナからマグノリアへの便は乗り換えを行う必要がある。

 

 駅に着いたら街で少し休憩しようか。マグノリア行きの列車が発進するまでには少し時間がかかる。それまで綺麗に建ち並ぶ街並みを眺めながら散歩するだけでも、時間を潰すには最適だろう。

 

 キャロレインがそう思っていた矢先、彼女の座っていた席の背後からヒソヒソと話す車掌の会話が聞こえてきた。

 

「オニバスからクヌギに向かう間で列車が緊急停止されたそうだ」

 

「何だと……原因は?」

 

「いや……解らない。今の所、緊急停止したこと以外の情報は入っていないな」

 

 成る程、どうやらココとは異なる軌道での話らしい。

 そう理解したキャロレインはすぐに車掌達の会話に興味を無くし、窓から刺す暖かい斜光に照らされながら微睡に誘われていった。

 

 

 

 

 

 寝過ごしてはいけないと暫く眠気と闘っていたキャロレインは、突如甲高い金切音を上げ急停車した列車によって座席から投げ出され、向かいの相席に倒れかかった。

 その際えずくような声を出してしまい、彼女は座席の肘掛けを支えによろよろと立ち上がる。

 

 そんなキャロレインを見た車掌が、心配しながら駆け寄る。

 

「あぁ最悪だ、一体何だってんだ……」

 

「申し訳ありませんお客様……どうやらオシバナで少々()()()が発生しまして……」

 

「揉め事……? 公共の場で恥知らずが取っ組み合いでもやってんのか?」

 

 どうやらオシバナの駅でいざこざが発生したらしい。

 しかし、ただの揉め事程度で列車が止まるものかとキャロレインは思った。

 彼女が何気なく車窓の外を眺めると、大小(ひしめ)く家屋の中に一際巨大な建造物が映った。

 オシバナの駅とはもう目と鼻の先であった。

 

「とにかく、このままオシバナへ向かうのは危険と判断して……誠に恐縮ではございますが、再発進までしばらくお待ち下さい」

 

「ここまで来たなら、もう任意で乗客降ろしちまっても良いんじゃねーのか? というか、降ろしてくれ。さっさと家に帰りたい。マジで……」

 

 車掌の言う事は至極真っ当である、しかしキャロレインもここ数日ですっかり疲れ切っていた。原因は言わずもがなである。

 笑顔のまま表情筋が死んでいる為そういう風には見えないが、その心中では今すぐにでも慣れ親しんだ寝床に飛び込んで眠りにつきたかったのだ。

 

「今しばらくお待ちください」

 

「そこを何とか」

 

「無理です」

 

「お願い」

 

「ダメです」

 

「融通利かねーなぁ」

 

「光栄です」

 

「褒めてねーよ‼︎」

 

「出来ないものは出来んのです。車掌マニュアル第16項、車掌は車内テロ及び事件が発生した場合、もしくは交通事故による二次被害の回避を除き───」

 

 長くなりそうな車掌の話をキャロレインが苛つきながら聞いていると、遠くから籠るような爆発音が響いた。それを聴いて動揺する乗客達と場を(なだ)める車掌達。

 キャロレインが眉を顰めてもう一度窓の外に目を向けると、オシバナの駅から白い煙が立ち昇っていたのが見えた。

 

 だが火事にしては煙の色がおかしい。

 

 煙の色に濁りが無い、真っ白だ。

 

 たったそれだけ。しかし、彼女にとって駅で何が起きているのか理解するのには十分な判断材料だった。

 今あの駅で巻き起こっているのは戦闘だ、それも魔法を使ったモノであると。

 キャロレインは小刻みに震えながら笑顔に幾つもの怒筋を浮かべた。

 

「クッソがよォ……降りる。代金は置いてく」

 

 どっかの馬鹿共が魔法でドンパチ()ってやがる。

 

 キャロレインは乗車賃を座席の上に置き、窓を開けて街へと飛び出して行った。

 

「ま、待ちなさい! って速ッ⁉︎」

 

 車掌が手を伸ばそうとした頃には、キャロレインは既に豆粒程の大きさとなって街道を駆け抜けて行った。




語彙力3000倍になるお薬下さい

因みに作者は漫画知識しかない、そして漫画見ながら書いてる。許せ。
(アニメを見れる環境は)ないです
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