魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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3話:アグレッシブ少女

「皆様、お下がりください‼︎ 駅の安全が確認されるまで接近しないで‼︎」

 

 オシバナの駅前では、騒動を聞きつけた野次馬達が駅員に殺到していた。

 今にも雪崩れ込みそうな見物客達を、駅員達は必死に抑えている。

 

「痛て……あれ⁉︎ さっきの人達は?」

 

 その背後で、頭にたんこぶを浮かべた駅員の一人はふらつく足腰で立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回す。

 この駅員はつい先程、いきなり現れて駅内(なか)の様子を教えろと詰め寄ってきた女性に『危ないから入るな』と伝えようとした所で頭突きを喰らい、気を失っていたのだ。

 

「そ、その人達なんですが……」

 

「まさか通したのか⁉︎ 今、駅内(なか)では軍隊が魔導士達と戦闘を行なっているのだぞ‼︎ 一般人が巻き込まれみろ、きっとタダじゃ済まされんぞ⁉︎」

 

「勿論そう告げました! ただそう言うや否や彼女ら、一目散に駅内へ突っ込んで行ったんですよ‼︎」

 

 それを聞いた駅員は、喉を鳴らしながら鼻筋を摘んだ。

 火事場泥棒か、はたまた自殺願望者の集まりか……何故誰も止めなかったんだと思いながら、万が一が起きた場合による責任問題の発生を懸念し、何事も起きないことを祈った。

 実の所、彼が一般人だと思い込んでいる人達は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったのだが、あいにく知る術は無かった。

 

 これ以上一般人にココを抜けさせるなと言おうとした所で、踊り場にいた駅員の一人が人混みの向こうを指を差す。

 

「おい、向こうで土煙上がってないか?」

 

「誰かが爆速で魔導四輪でも走らせてるのか?」

 

 今度は一体何だと、駅員は饅頭みたいに膨らんだたんこぶを摩りながら街の大通りに目を向けた。

 

 

 

 

 ───キャロレインは走る。

 

 彼女の脳内は今、己の帰路を妨げるボンクラ共をどうやってどつき回してやろうかというシュミレーションでいっぱいだった。

 

 キャロレインの眼前に野次馬の団塊が迫る。

 彼女は音速を思わせる程の猛ダッシュのまま、その勢いに任せて低く跳ぶと彼らの手前で着地。

 一連の動作をバネ代わりに跳躍して、軽々しく人混みを跳び越えていく。

 

 足場を捉えたキャロレインは、まるで隕石のような勢いで手をつくように着地。その衝撃を受けた駅の床は細かい亀裂を生んで円状に浅く陥没した。その威力は華奢な少女の体格からはとても想像できない。

 

「なっ⁉︎ 君、今あの距離をどうやって───」

 

 キャロレインの周囲にいた駅員達は、常人では到底不可能な距離を跳んで跨いだ少女(キャロレイン)に目を丸くさせた。

 しかし、彼女はそんな彼らに目も暮れず入り口へと歩みを進める。

 

「通るぞ」

 

「いやダメ───」

 

 通す気は無いとキャロレインの行手を遮った駅員は哀れ、彼女から頭突きを喰らい二つ目のたんこぶを浮かべて床に倒れる事となった。

 突風のような出来事に、その様子を見ていた駅員達はただただ唖然としながらその場に立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 駅内は、まるで外の喧騒が嘘みたいに静かだった。

 普段は騒がしいはずの切符売り場に待合席、駅弁なんかを売っていた購買店は既に人っ子一人居らず、キャロレインはまるで世界に自分だけが取り残されたような気分になった。

 彼女の走るリズムだけがホームで空虚に響く。

 

 幾つかの階段を駆け上がり、鏡のように磨かれた通路を走っていたキャロレインは、すぐ側にあった死角からカランと何か細長い物が倒れるような音を耳にした。

 音が聴こえた場所に向かうキャロレイン。T字路に差し掛かる一本道の通路についた彼女が見つけたのは、傷を負い倒れた何人かの兵士だった。

 

 壁や床にある残痕は、とても兵士が持つ武器で付けられたようには思えない。

 

 キャロレインはてっきり魔導士同士が(いさか)いでも起こして人目も(はばか)らずに喧嘩でもしているのかと思っていたが、この惨状はその領域を越えていた。

 

「チッ、冗談じゃねぇ……おいおっさん、生きてっか」

 

 キャロレインは壁にもたれ掛かる兵士の頬を軽く叩く。

 兵士は言葉にならない呻き声を出すが、どうやら息はあるらしい。

 しかし、床に倒れた兵士の一人は酷くやられたらしく、脚から少なくない量の血を流していた。

 

 駅員や一般人達はおそらく全員外に避難している。彼らによる救助は見込めないだろう。

 まだ無事な兵士が運良くココを通れば幸いだろうが、こんな状況で来るかは怪しい所だ。

 

 このまま放置するのも寝覚が悪いと思ったキャロレインは、その兵士の袖を千切ると、慣れない手つきで傷口を覆うようにキツく縛りつけた。

 

「こんな感じか……? まあ、気休めだけど何もしないよりはマシだな。じゃ、オレは急いでるんで」

 

 そう言ってキャロレインはその場を後にする。

 

 ───がらんどうの通路を駆け抜けるキャロレインは、見知らぬ身勝手な魔導士に対し、静かにブチ切れていた。

 

 それは人々に迷惑をかけていたからとか、罪の無い兵士を傷つけたからとかいう理由ではない。

 いや、全くないと言えば嘘になるが、主な理由はただ単純に、自身の気分を害されたからである。

 もうすぐ愛しの我が家に帰れる……その矢先で起きた出来事だ。言葉で表すなら『ふざけんな』。

 

 ふと、キャロレインは何やら離れからボケて聴こえる騒がしい声を捉えた。

 それも一つや二つではなく、もっと沢山の声。

 それは駅のホーム、列車の発着場から聴こえた。

 

 あそこか───

 

 彼女は怒りに任せて、そのまま駅のはっtへと突っ走って行った。

 その顔は相変わらず笑顔だったが、纏うオーラは荒れ狂う鬼人そのものだった。

 

 

 

 

 

 

「俺たちが欲しいのは権利ではない……権力。我等の存在なぞ知らず、日々のうのうと生きてきた者どもに粛清を下すのだ」

 

 大鎌を担いだ男は、そう言って不気味に笑った。

 

 男の名はエリゴール

 

 闇ギルドの一角、鉄の森(アイゼンヴァルト)のリーダー的存在であり、過去に幾つもの暗殺依頼をこなしてきた経歴を持つ。

 そんな彼に付いた(あざな)は"死神"。

 

 エリゴールは、呪歌(ララバイ)なる禁忌の魔法を用いて人々に罰を下すと(わら)った。

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士達は、そんな彼らを阻止すべく闇ギルド一つ相手にたった四人と一匹で相対していた。

 

「今までは光に暮らす者共から隠れ、日陰で生きてきた……。だが、今度は俺達が世界を統べる番なのさ」

 

「バッカじゃないの⁉︎ そんな事絶対させないわよ‼︎ ……ナツ達が」

 

 鉄の森(アイゼンヴァルト)の自己中心的な言動に憤りを覚えたルーシィは、感情がままそう言い放つ。その声量は大きく、発着場の全体に響き渡った。

 しかし、その発言が彼らの視線を集めてしまった為にすぐに我に返り、最後の最後で尻込みしてしまう。

 

「うわぁ台無し」

 

「猫ちゃんは黙ってましょうね〜」

 

 そんなルーシィを見て、ハッピーは残念なモノを見るような表情を浮かべながら呟いた。

 とは言え、場慣れしていないルーシィにとっては仕方のない事である。

 

「フン、光の時代は間も無く終わる……残念な事に、テメェらは新たな時代を見る事なくこの場で消えるがなぁッ!」

 

 鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士、カゲヤマはそう言って床に手をつくと、自身の影を蛇のように素早く這わせた。

 あっという間に最後列にいたルーシィに接近した影は、次の瞬間巨人のような剛腕の実体となって飛び出す。

 人ひとり程度容易く握り潰せるであろうそれは、無防備だった彼女に牙を剥いた。

 

 グレイとエルザは、不意に繰り出された攻撃に反応が遅れてしまう。

 

 間に合わない───二人はルーシィに避けろと叫ぶ。

 まずは一人と、鉄の森(アイゼンヴァルト)の面々はほくそ笑む。

 

 ───その時だった

 

 

「列車止めやがったバカは何処のどいつだァァァァァァ!!!」

 

 

 弾ける、割れる、砕け散る。

 そして空気を揺るがす程の怒号。

 対峙する二勢力の間を、爆風によって吹き飛ばされたであろう扉が弾丸の如く横切った。

 気が動転したカゲヤマは、ルーシィに届く寸での所で魔法の動きを止めてしまった。

 

「何だ⁉︎」

 

「うわっ、マジかよ……」

 

 轟音に振り向くエルザ、一方でソレが一体何なのかを察したグレイ。そして乱入者にどよめく鉄の森(アイゼンヴァルト)

 

「うおぉうるせえッ⁉︎ ってこの魔法、列車にいたアイツの‼︎」

 

 思わず耳を塞いでしまう程の破砕音に驚いて飛び起きたナツは、ルーシィの目前で静止する影を一瞥すると、炎を纏う腕で即座に薙ぎ払った。

 分断された影は宙で回転しながら霧散した。

 

「あ、ありがとうナツ」

 

「また会ったな影野郎! 今度は地上戦だな! いくぞォ……ってあれ、どこ見てんだアイツら」

 

 意気揚々とファイティングポーズを取るナツだったが、揃いも揃って明後日の方向を見つめる鉄の森(アイゼンヴァルト)怪訝(けげん)を抱く。

 

「あっち」

 

 ハッピーが指さす。

 その先では埃と硝煙が混ざった煙が漂っていた。

 そして、その奥から現れた人影が徐々に色濃くなっていく。

 煙の中からゆらりと現れたのは、小柄な少女(キャロレイン)であった。

 

「真っ昼間からこんな面倒事起こしやがって……順番にブチのめしてやるから覚悟しろ⁉︎」

 

 キャロレインはそう言って拳を鳴らした。

 一見満面の笑顔に見える彼女だが、その顔には怒筋を浮かべており、全身からはただならぬオーラを醸し出していた。

 

「何だぁ、あの小娘」

 

「キャロレイン⁉︎」

 

「え、あの子が⁉︎」

 

 少女の名を叫んだエルザにルーシィは驚愕した。

 暁のような(ショートヘアー)と小柄で華奢な体型に見えるその姿は、ルーシィがキャロレインに抱くどんな想像とも異なっていた。

 

「……あ? 誰かと思ったらエルザにデコボコンビじゃん。この世の終わりみたいな組み合わせしてんな」

 

「そりゃコッチのセリフだ……」

 

 怪物(エルザ)怪物(キャロレイン)が合流しちまった。

 グレイは言葉にこそしなかったが、心中でそう嘆いた。

 

「おいキャロー! 後でオレと勝負───」

「いえ、結構です」

 

 ナツはキャロレインを見るや否や手合わせを申し込むものの、食い気味に淡々と斬られた。

 

「即答……」「あい……」

 

 スッパリと断られて固まるナツに、ルーシィとハッピーは少しだけ同情した。

 

「なんだ……妖精(ハエ)共の仲間か? ハッ、随分とちっせぇ助っ人だなァ」

 

 鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士の一人がそう言って嘲笑する。

 その言葉に流されて、その周りにいた何人かの魔導士がクツクツと笑い出した。

 

 その時だった。

 一筋の光線が鉄の森(アイゼンヴァルト)に注がれたかと思えば、一呼吸置いて爆発を起こした。キャロレインを嘲笑した者とその周囲にいた魔導士達は、ビリヤードの球のように弾け飛んだ。

 爆発によって発生した風圧が発着場を吹き抜け、魔導士達の髪を靡かせた。

 

 騒つく鉄の森(アイゼンヴァルト)、驚愕するルーシィ。

 

 キャロレインの片手には、さっきまでは影も形もなかった重々しい両手剣が握られており、その切先を鉄の森(アイゼンヴァルト)に向けていた。

 それを見たルーシィは、まさか今の爆発はキャロレインによるものなのかと息を飲んだ。

 

「あ、ヤッベ……小さいとか言われたからつい」

「いや、構わん。奴等は(闇ギルド)だ」

「じゃあセーフ‼︎」

 

「駅ぶっ壊してる時点でさっきからアウトなんだよなぁ」

「オイラもそう思う」

 

 問題無いと言ったエルザに対して、グレイとハッピーは静かにツッコミを入れた。

 一体何が起きたと狼狽える鉄の森(アイゼンヴァルト)と、エルザとキャロレインのやり取りをドン引きしながら眺める妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々。

 

 予告無し、躊躇も無しの不意打ち。

 それが正規のやる事かと鉄の森(アイゼンヴァルト)はブーイングを浴びせる。

 だがそんなのはお構い無しと、キャロレインとエルザは会話を続ける。

 

「で、今のコレどういう状況? 何となく察しはつくけど……」

 

「ふむ……簡単に言えば、私達は呪歌(ララバイ)という禁忌の魔法を使って悪事を企む鉄の森(アイゼンヴァルト)を追い、結果今現在奴らと対峙している……といった感じだな」

 

呪歌(ララバイ)? なにソレ」

 

「集団呪殺魔法! アイツらはそれを使って罪の無い人々を死なせようとしているの! 権力だなんだとか言って!」

 

 ルーシィは二人の会話に飛び込むように加わる。彼女は過去に本でその存在を知っていた。

 それは魔導具。三つ目の骸骨が付いた、枯れ木の枝で作られたような笛。

 その笛の音色を聞いたものは死ぬ……たったそれだけの効果だが、強力無比かつ凶悪な魔法なのだ。

 

「ほーん……成る程。で、アンタ誰?」

 

 見知らぬ金髪少女。エルザ達にくっ付いているあたり逃げ遅れた一般人か、もしくは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員か……大胆に肌を露出した格好だがしかし、こんな人はいたっけかと思案するキャロレイン。

 彼女の目に映るその少女(ルーシィ)は、まるっきり争いが苦手そうな、どこかのお嬢様にも見えた。

 

「あっ、私ルーシィって言います……妖精の尻尾(フェアリーテイル)には最近入ったばかりで……」

 

「ふふ、彼女の活躍は中々のモノだぞキャロ。なんでも、権力者が所持していた傭兵ゴリラを19匹も倒したそうだ」

 

「マジ? 人って見かけによらないモンだな」

 

 エルザからルーシィの活躍を聞いたキャロレインは、争い事が苦手そうだと言うのはどうやら偏見だったらしいと思い、そう言って軽く感嘆した。

 

「え、それお前が言う……?」

 

 鏡でも見たら? と言いたげなグレイ。

 

「尾鰭ついてるし、混ざってるし……それ大体やったのナツだし……」

 

 ルーシィは根も葉もない誤情報の伝播に肩を落とした。

 

「……妖精(ハエ)が何匹現れた所で結果は変わらん。お前達、目の前にいる身の程知らず共に我等の闇のチカラを……恐怖と絶望を刻み込んでやれ」

 

 エリゴールはそう言うや否や、風の魔法を脚に纏わせて窓ガラスを突き破り、その場を去った。

 

「逃げるつもりかッ‼︎ くっ……ナツ、グレイ、エリゴールを追ってくれ‼︎ 二人の力を合わせれば奴を止められるはずだ!」

 

 エルザの指示を聞いたナツとグレイは、心底不服そうな表情で互いを見合わせる。

 どうして俺がコイツと一緒に……と言った不満を顔に表した。

 火と氷、扱う魔法の影響かは解らないが、彼らは犬猿の仲なのだ。

 

「エリゴールは呪歌(ララバイ)を放送するつもりだ。そうなれば人的被害はまず避けられん……この場は私達で何とかする」

 

 エルザが指示する傍ら、彼らはその内容が頭に入っているのか否か、額をを密着させ視線で火花を散らしていた。

 

「聞いているのかッ‼︎」

 

「あ、あいさー」

 

 鬼すら萎縮させるだろうエルザの一喝。ナツとグレイはすぐさまぎこちなく肩を組みながら、エリゴールを追って駆け出して行った。

 

 その一連を見た鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士、レイユールとカゲヤマは二人を追った。

 カゲヤマは何やらナツとの因縁があるらしく、魔法で影と一体化すると彼に狙いを付けた。

 

 発着場に残ったのはエルザ、ルーシィ、キャロレインとハッピー。

 対する鉄の森(アイゼンヴァルト)は数えるのが面倒になる程の人数。数的に言えば間違いなく不利である。

 

「さっきはよくもやってくれたな……女だからって手加減しねーぞ。特に、仲間をぶっ飛ばしてくれた赤紫のガキ、終始ヘラヘラとムカつく顔しやがって……泣いて謝るなら今のうちだぜ」

 

「はぁ⁉︎ 今ガキっつったかテメー‼︎ 上等だこの野郎、一人残らずブッ飛ばしたらァッ‼︎」

 

 キャロレインは自分をガキ呼ばわりされた事によりブチ切れた。彼女は怒筋を浮かべ、鉄の森(アイゼンヴァルト)に向かって中指を立てて宣戦布告を唱えた。

 それを聞いた鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士達は一斉にキャロレインに殺気を向け、一切の容赦せんと次々に魔法を展開していく。

 

「ひぃぃ、煽っちゃダメだってぇ‼︎」

 

 挑発するキャロレインをルーシィは何とか諌めようとするが、時既に遅し。

 戦の火蓋は既に切って落とされている。

 

「全く、キャロはこうなるとすぐ口が悪くなる……」

 

 エルザは額に手を当て、あの性格はどうにかならんものかとため息を吐いた。




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