魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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話数毎の文字数が全然安定しないぜ‼︎


6話:局所的悪天候

「うわ、何よコレ。まさかコレが魔風壁⁉︎」

 

 外に出たルーシィ達が最初に見たのは、建物一周をぐるりと囲う風の壁だった。

 奔流する風がけたたましい叫び声を上げる。ルーシィ達は、まるで竜巻の中心にでも閉じ込められたような錯覚に陥った。

 

「そうさ。本当はこの憎たらしい風の壁を、カゲヤマに解いてもらうつもりだったんだ。誰かサンが失神させなけりゃあな」

 

 グレイはキャロレインにちらりと刺すような視線を向けた。

 

「反省はしてる」

 

「その顔で言われてもなぁ……」

 

 彼から見て、一片の曇りもないキャロレインの笑顔は、見ようによっては全く反省の色が無いようにも思えてしまう。実際、そのせいで色々苦労した過去が多いのだが、それはまた別の話。

 

「魔風壁がなんだ! こんなモンぶっ壊してやらぁッ‼︎」

 

 そんな彼らを他所に、いの一番にナツが炎を拳に纏わせて魔風壁に殴りかかる。

 しかし、その拳が壁に触れるや否や、彼はいともあっさりと弾き飛ばされてしまった。

 

「だあぁぁぁぁ‼︎ 痛ってェェ⁉︎」

 

 二転三転床を転がり膝を突いて立ち上がるナツ。

 たった一瞬触れただけで腕が傷塗れになった彼を見て、ルーシィは心配しながら駆け寄って行く。

 魔風壁の内部では、鋭利な風の刃が目にも留まらぬ速さでで回遊している。下手に体を突っ込めば、たちまち微塵切りにされてしまうだろう。

 

「なぁグレイ、魔法で凍らせるとかできない?」

「できたらとっくにやってるさ……つーかキャロ、それこそお前の魔法でこの壁ぶち抜けねぇか?」

「……五分五分ってところ」

「賭けてみてもいいか?」

「あんまり期待すんなよ」

 

 そう言ってキャロレインは両手剣を喚び出す。

 宙から落下するように召喚されたそれは、ズガン! 重たい金属音を響かせ、その切先が硬い大理石の床に突き刺さった。

 

「んじゃグレイ、ナツ達の防護よろしく」

「おうよ。お前らァ! 今からキャロが魔法ぶっ放すからこっちに避難しろ」

 

 グレイの掛け声を聞いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は彼の元へと急ぐ。

 カゲヤマを担いだナツを最後に全員が集合したのを確認したグレイは、すぐさま厚い氷の壁を造り出した。

 

「なんか流れで来ちゃったけど、魔法ぶっぱするって大丈夫なの?」

「今回は問題無ぇ。さっきのキャロは唐突だったからな……。それにこの通り、広い空間なら俺が十分に防御を張れる」

「ふむ……破壊者(デバステイター)の瞬間火力で魔風壁を破るつもりか。魔風壁は生半可なチカラでは如何にもできんが、彼女なら或いは……」

 

 氷の壁の中から、エルザ達がキャロレインを見届ける。

 彼女が振り被った両手剣の刀身は徐々に赤熱を帯び始め、やがてそれは鮮やかな蒼色へと染まっていった。

 

 肌を焼く程の熱気。

 キャロレインから短くない距離を取り、尚且つグレイが魔法で熱波を防御している関わらず、一同はまるで灼熱の下に晒されたような気分になる。

 剣を構える本人はよくもまあ平然としていられるものだと、ルーシィは感心した。

 

「ッしゃあ行くぜ超高出力(ハイパー)‼︎ 一刀爆断(ニトロ・カリバー)ァァァァ‼︎」

 

 キャロレインは一歩踏み込んで斜めに斬り払う。

 一呼吸置いて、大地を捲るような風圧が巻き上がった。

 

 充熱された刃から放たれた、煮えたぎる熱気を纏う剣閃。

 それは魔風壁に巨大な切創を与えた。

 

 その刹那、斬り口の奥行きから白く眩しい光が溢れ出したかと思えば、耳を塞いでも鼓膜が破裂してしまいそうな程の爆音が連続して轟いた。

 

 内側から抉り取るように連鎖する大小無数の爆発は、魔風壁に歪で巨大な風穴を開けたのであった。

 

 ばっくりと開いた壁の向こうにはオシバナの街並みが見える。一同は各々感嘆の声を上げた。

 しかしそれも束の間、こじ開けられた風穴は数秒と経たずに魔風壁に塗り潰されてしまった。

 

「ダメだこりゃ。野郎、魔風壁に相当魔力(リソース)割いてるぞ」

 

 元通りになった魔風壁を見据えたキャロレインは氷の壁の後ろにいる一同に振り返ると、肩を竦めて親指で後ろ指を差した。

 

「そんなぁ……」

「チッ、意地でも出さねぇってか」

 

 がっくりと肩を落としたルーシィ。魔法を解いたグレイが奥歯を噛んで、柱を思い切り叩く。

 そんな彼を尻目にエルザが魔風壁を睨むと、何かに気が付いた。

 

「……魔風壁の勢いが弱まってる気がする」

 

 彼女にはほんの薄っすらとだけだが、壁の向こう側の景色が見えたのだ。

 

 魔風壁は、キャロレインがその広範囲をぶっ飛ばしたために開いた穴を塞ぐべく修復作用を起こした。

 つまり修復の為に魔力を移動させた結果、魔風壁全体の厚みが縮まり弱体化したのだ。

 エルザは、もう一度一刀爆断(ニトロ・カリバー)を撃てば魔風壁を限りなく無力化に近い状態にできるのではと、キャロレインに提案した。

 

「……悪い、排熱(クールダウン)中だ」

 

 しかし、物事とはそう上手くいかないものである。

 眉を八の字にしたキャロレインが両手剣を軽く床に突き立てると、それはバシュウと熱気を放ち、うんともすんとも言わなくなった。

 

「十分だ、後は俺がやる! 脆くなってんならイケるだろ!」

「キャロレインのバ火力ですら破れねーのに、オメェじゃどうやったって無理に決まってんだろ」

 

 そう言って意気揚々と腕を回すナツ。しかし、そんな彼にグレイが突っかかった。

 

「あァ⁉︎ やる前から決めつけてんじゃねーぞ思考カチコチ野郎!」

「だぁから! お前がさっきみたいに突貫しても同じようにしかならないって言ってんだよチリチリ炎! 自分の魔法で脳味噌溶けてんじゃねーのか⁉︎」

「何だとぉ⁉︎」

 

 水を差された気分になったナツはグレイに絡む。端から見ればヤンキー同士の睨み合いにしか見えない。

 とはいえ、グレイの言っていることは誰が聞いても正論であった。いかに弱体化したとは言え魔風壁は健在。いくら滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)と言えど、どうにかなるようには見えなかった。

 

「うわ始まった。アイツらマジで水と油だな」

「もう! こんな時にまで喧嘩しないで‼︎」

「ナツぅ、いがみ合いしてる場合じゃないよ〜」

 

 他人事のように二人の(いさか)いを眺めるキャロレイン。

 今は口喧嘩をしている場合ではないと、二人を(いさ)めようとするルーシィ達。しかし悲しいかな、ヒートアップした彼らには届いていない様子。

 そんな二人にエルザが仲裁に入った。

 

「やめないか‼︎」

「「すんません」」

 

 彼女の怒声を浴びて、直ちに背筋をピンと伸ばすナツとグレイ。普段は粗野な彼らだが、過去にエルザにボコボコにされた経験がある為に、二人は彼女が一言注意すればたちまち借りてきた猫のようになってしまうのである。

 エルザがいなければどうなっていた事やらと、ルーシィはホッとしながらやれやれと首を振った。

 

「ねぇキャロレイン。両手剣なくても破壊者(デバステイター)って使えないの?」

 

 ルーシィがキャロレインに訊ねる。

 

「やろうと思えばできる……できればやりたくないけど。仮にやるとしたら、ルーシィ達には建物の中に避難してもらう」

 

 悩むように指でこめかみを押すキャロレイン。

 その様子を見たルーシィは、彼女が何かを躊躇ってるようにも見えた。

 

「何か理由でもあるの?」

「……いや。単に素手で魔風壁(アレ)ぶっ飛ばす程の威力となると、射線上にある街が消えるって話」

「やっぱナシで」

 

 煙立つ焦土、炭化した街路樹と無惨にも崩壊した建築物の残骸。まるで終末のような光景。加えて、損害による賠償金額と最悪の場合を想像したルーシィは身震いした。

 

「結局手詰まりだな……」

 

 グレイはどうしたものかと額に手を当てた。

 

 正直な所、カゲヤマを叩き起こした方が早いのではとキャロレインは言った。しかし、殴ったからと言って目を覚ます保証はないと言うエルザ。むしろ悪化するのではという懸念も彼女にはあった。そうなれば尚更である。

 因みに、キャロレインが魔法を魔風壁に撃っていた裏で、エルザはカゲヤマを何度か揺さぶったり頬を平手で軽く叩いて目覚めさせようとしていたが、彼は呻るばかりで結局覚醒することはなかった。

 あの爆音を聴いても目を覚さなかったのはある意味大したものだとルーシィは感心した。

 

「そうだ! 星霊‼︎」

 

 ふと、ナツが何かを閃いたらしく、ルーシィの肩を掴んで揺らす。

 

「ほら、エバルーの屋敷で仕事してた時に星霊の召喚でワープ? できただろ⁉︎ それならこの壁を突破できる!」

 

 星霊とは現世とは違う星霊界という異世界にいる存在。

 そして、それを召喚し、使役する魔導士を星霊魔導士と呼ぶ。

 

 余談だが数日前、ナツ達はルーシィを誘ってシロツメという町へ依頼を受けに行っていた。

 その仕事内容は、町の権力者であるエバルー公爵の屋敷に忍び込み、本一冊を破棄するというモノ。

 紆余曲折あってエバルーの屋敷に潜入したナツ達だったが、色々あって屋敷の主と彼が雇った傭兵達との戦闘が勃発。その時にルーシィと別行動をとっていたナツがエバルーの呼び出した星霊に引っ付いてルーシィと合流を果たしたのだ。

 

 閑話休題。

 

「そ、それは無茶よ…… 現実世界と星霊界を繋ぐには(ゲート)がなきゃ通れない。つまり、この壁の向こうに最低でも一人は星霊魔導士がいないと移動は不可能なのよ」

 

「ややこし! いいから早くやってくれよ‼︎」

 

「話聞きいてよ……あのねぇ、第一人間が星霊界に行く事自体が重大な契約違反なの! あの時はエバルーの鍵だから良かっただけ! そもそも仮にできたとして、星霊界じゃ人間は呼吸できなくて死んじゃうの。アンタ、あの時ホント何で無事だったのよ」

 

 押し問答を繰り返すナツとルーシィ。ナツはイマイチ解っていないが、星霊魔導士は星霊との契約を重んじなければならない。これを疎かにしてしまうと最悪の場合、契約を星霊側から破棄されてしまう。星霊魔導士にとって、星霊を召喚できなくなるのは死活問題と言って差し支えないのだ。

 

「ほーん……ルーシィは星霊魔導士だったのか」

 

 ナツとルーシィから一歩離れた位置で、キャロレインは物珍しそうに言った。

 

「そうだ。最近、見かける事は少なくなったがな。聞けば、彼女は黄道十二門と呼ばれる鍵を三本も所持しているそうだ。おそらく、その道に関してはエキスパートなのだろうな」

 

「え、いやぁ〜へへへ……そ、そんな事ないですよ。私なんかまだまだですよぉ……」

 

 エルザにそう言われて満更でもなさそうに照れるルーシィ。とはいえ実際、自分の得意分野を褒められるのは嬉しいものである。

 

「媚びてるぅ」

 

「謙・虚って、言ってくんない⁉︎」

 

 舌を巻いて揶揄(からか)ってきたハッピーの耳を、ルーシィは強く揉んだ。

 

「でも黄道十二門ってアレ、一個手に入れるだけでもかなり苦労するんじゃねーの? 一般の魔導士がホイホイ入手できるようなもんじゃないと思うけど」

 

 もしかしたら、どっかの権力者の令嬢だったりして。

 などと冗談混じりに呟くキャロレインだったが、それを聞いたルーシィはその場を濁すように咳き込んだ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、ううん。問題ないわよ」

 

「「……?」」

 

 半音上がりの棒読みで返答するルーシィ。エルザとキャロレインはそんな彼女を見て不思議そうに顔を見合わせた。

 

「ん……? 鍵、エバルー……あーっ‼︎ ルーシィ、思い出したよ!」

「うわビックリした……思い出したって、何をよ」

 

 いきなり大声で叫ぶハッピーに驚くルーシィ。彼女の疑問にハッピーは『こっちに来る時言ってた事』と答え、急いで肩掛けポーチを探り始める。どうやら中身は整理されていないらしく、食べかけの魚やどんぐり、用途不明な謎の物体が飛び出していく。そして、彼はポーチの暗闇から一本の鍵を中から取り出した。

 見せびらかすように掲げるそれは、金色に輝く一本の鍵。

 

「もしかしてそれ、バルゴの鍵⁉︎」

 

 ルーシィは息を飲んだ。それはまさしく、星霊魔導士なら誰しも喉から手が出る程のレア物、黄道十二門の鍵の一つである処女宮の鍵であった。

 

 彼女は花に誘われる蝶のように、その鍵に手を伸ば───

 

「コラ‼︎ ダメでしょ、人のモノ勝手に持って来ちゃ!」

 

 ───さなかった。

 

 代わりに「泥棒よ」と、ハッピーの頭にチョップを打って注意した。

 しかし、ハッピーはバルゴ自身がルーシィと契約したいと言って尋ねて来たと言った。

 どうやら彼の言うバルゴという星霊によると、以前の契約者(エバルー)が逮捕された為に契約が解除されたとのこと。

 

「そう。嬉しい申し出だけど……でも、今はそんな事に時間を使ってる場合じゃないわ」

「そうだぜ。俺達がここで駄弁ってる間にも、じいさん達にエリゴールが迫ってるんだ。急がねぇと本当に手遅れになっちまう」

 

 だらだら話してる暇は無いとグレイは言う。

 しかし、ハッピーには一つ案があった。

 

「……バルゴは地面に潜れるし、地下を経由すれば魔風壁から脱出できると思うんだけど」

 

 そう言ったハッピーに振り向く一同。処女宮の鍵は、彼らにとってまさに渡りに船であった。

 

「妙案‼︎ ハッピーその鍵貸して! ……我、星霊界との道をつなぐ者。汝、その呼びかけに応え門をくぐれ……処女宮の扉───‼︎」

 

 ルーシィが召喚の儀を唱えると、ボフンと煙を上げてスリムな体型をした桃色の(ショートヘアー)のメイドが現れた。

 前見た時と姿が違うと言って困惑するルーシィ。そんな彼女にバルゴは、持ち主の理想に合わせた姿に変身することができると言った。

 

「そんな能力があったのね……。ごめんだけど、積もる話は後。急いで地下から魔風壁を脱出たいの、時間がないから契約は後回しでも良い?」

「構いません。それでは、行かせていただきます」

 

 バルゴは水面に飛び込むようにして地面に潜り、道を作った。

 

 

 

 

 結論から言うと、ルーシィとバルゴの活躍により全員無事に魔風壁から脱出する事ができた。

 しかし、一難去ってまた一難。今度はエルザ達が乗ってきた魔導四輪が鉄の森(アイゼンヴァルト)によって破壊されていたのだ。魔風壁から抜け出せたとて、足が無ければ意味がない。

 強風に晒される中、エルザとキャロレインが代わりの魔導四輪を探しに行くも、置かれていた物は全て破壊されていた。

 

「ダメだ、他の魔導四輪も破壊されていた」

 

 収穫無しと戻ってきたエルザ。

 用意周到な鉄の森(アイゼンヴァルト)に『ご丁寧なこと』とグレイは皮肉った。

 

「つーかナツはどこ行ったよ」

「言われてみれば……てゆーかハッピーもいなくない⁉︎」

 

 ナツとハッピーを探して辺りを見渡すルーシィ。

 

(まさかアイツら、先に行きやがったな)

 

 ハッピーは(エーラ)という魔法で飛行する事ができる。彼が本気を出せば、その飛行速度は蒸気機関車を優に超える。せっかちなナツはハッピーと一緒に、エリゴールを追ってクローバーへと一足先に向かったのだとグレイはすぐに理解した。

 

(ッたく、くたばったら承知しねーぞ)

 

 彼がそんな事を思いながら何気なく振り向く。すると、メインストリートの向こうでキャロレインが何やら手招きをしているではないか。

 グレイはルーシィ達を連れてそこへ向かう。キャロレインの指差す先には、無傷の魔導四輪が鎮座していた。どうやら建物の影で死角となっていた場所にあったこの一台だけ無事だったらしい。

 

「でかしたぞキャロ」

「フフ、もっと崇め奉れ」

 

 エルザに抱き寄せられたキャロレインは硬い鎧に頭をぶつけたものの、少しも意に返さない顔で息巻いた。

 

「お前そんなキャラじゃないだろ」

「まあまあ。とにかく急ぎましょ!」

 

 足早に魔導四輪に乗ったルーシィ達。その後続から、キャロレインが魘されるカゲヤマを座席に放り込む。

 もう用が無いはずのカゲヤマを連れて行こうとする彼女に、グレイが一言物申した。

 

「オイ、なんでコイツも乗せてくんだよ」

「ナツからの要望だ。怪我させたまま放置するのは気が引けるんだってよ。全く、まだまだ甘ちゃんだ」

 

 ま、アイツらしいけどな。そう言って魔導四輪に乗るキャロレイン。

 操縦席に搭乗したエルザも同様に思ったのか、静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)+αを乗せた魔導四輪は、レールの間を不規則な速度で走っていた。時間効率を重視した線路を経由する分、移動距離は大幅に短縮できるものの、その代償に足場の環境は劣悪であった。

 

「うっ……ここは───」

 

 喧しい騒音と、強く不規則に揺さぶられる感覚に不快感を覚えたカゲヤマが、重い瞼を開く。

 

「目ェ覚めたか」

「……ここは何処だ」

 

 カゲヤマは意識を失う前に見たモノと異なる景色に困惑したものの、敵に隙を見せてはならないと平静を装う。

 彼の隣にはグレイ、対面にはルーシィが座っていた。

 

「見りゃ分かるだろ、魔導四輪の中だ。それとも、クローバーへ向かう途中の峡谷に架けられた線路の上って言えばいいか?」

 

「あなたボロボロだし、クローバーのお医者さんに診てもらおうって事になったのよ。オシバナの人たちは皆避難して居なくなっちゃったし」

 

「なぜ助ける、敵同士じゃないか……。僕を連れてきてどうするつもりだ。……そうか、分かったぞ。僕を人質にエリゴールさんと取引するつもりだろう」

 

 あの人は冷血そのもの、人質を取ったところで何の意味も無いと言ってカゲヤマはぶつぶつと自身を卑下し始めた。その様子を見たルーシィは「暗いわぁ」と言って彼を憐れんだ。

 陰鬱な発言を続けるカゲヤマに苛立ったグレイが、そんなに言うならなら今ここで殺してやろうかとカゲヤマを脅した。

 

「生き死にだけが決着の全てじゃないだろ」

 

 お前ら全員もう少し前を向いて生きたらどうだと、グレイは言った。

 

 その言葉を聞いたカゲヤマは糸目を開けた。

 

 ギルドの解散命令が下されて以降、鉄の森の魔導士たちは口を開けば世間や正規ギルドへの罵詈雑言ばかりを吐いていた。仲間同士で和気藹々とはしていたものの、彼らから溢れ出す黒い感情に染まった空間は、お世辞にも良い雰囲気とは言えなかった。

 そんな空気に当てられてばかりいた所為か、彼の心は次第に負の面へと堕ちていった。

 カゲヤマ自身もそれは理解はしていた。しかし、理不尽に権利を奪われたと言う認識に囚われた彼は、それを奪った者達に対して抱く憎しみの感情を止めることができなかった。

 

 その結果が、今の現状である。

 

 車内のシンとした空気に、ルーシィは何となく話しかけづらい気分になった。

 そんな時、突如車体が大きく揺れる。

 レールの縁に車輪をぶつけた為に、魔導四輪が姿勢を崩したのだ。

 

「エルザ? やっぱさっきから様子が変だぞ」

 

 立ち乗りで前方の進路を眺めていたキャロレインは、エルザの異変に気付いていた。それもそのはず、先程から蛇行気味で、且つ目に見えて魔導四輪の速度が落ちていたのだ。

 やっぱりキツそうかと言うグレイにどう言うことかと聞いたキャロレインだったが、彼から理由を聞かされて納得した。

 

「魔導四輪を全開で二駅走らせた上に戦闘もして、また魔導四輪運転してって……そりゃ無理も祟るだろうが」

 

 発着場で大まかな経緯は教えてもらったキャロレインだったが、まさかエルザがここまで魔力を酷使していたとは思いもしていなかった。主な原因はオニバスからオシバナへ魔導四輪を全速力で走らせたこと。アクセル全開となると、消費魔力もとんでもないのだ。

 

「無理など……してない。私は、平……気……だ」

「ダウト、手ェ震えてる上に息切れ起こしてる奴のどこが平気なんだ」

 

 代われ、オレが操縦する。そう言ったキャロレインにグレイはビクンと肩を浮かせ、固まった。

 その様子を見たルーシィは、グレイに不思議そうな目を向けた。

 

「どうしたのよグレイ、体強張らせて……」

「まずい……キャロレインにハンドル握らせるのだけは絶ッッッ対にまずいッ……!」

「えぇ? でも私、これ以上エルザに無理させたくないよ」

「そりゃ俺だって同意見だ……だがなルーシィ……安全装置の無いジェットコースターに乗りたいか?」

 

 ルーシィは捥げそうな勢いで首を横に振った。

 小さな声でルーシィに耳打ちするグレイ。冷や汗を流す彼の顔面からは、すっかり血の気が引いていた。

 

「なぁキャロ。操縦は俺がするから、お前は座っ───」

 

 意を決して立ち上がるグレイ。しかし、そこにキャロレインの姿はなく、彼女がいた場所には入れ替わるようにしてエルザがいた。

 

「……ん?」

「「アッ」」

 

 時既に遅し。

 

「お前ら今すぐ何かに捕まれェェェ‼︎」

 

 グレイが叫ぶ。その瞬間、急発進によって発生した慣性が彼らの体を引き伸ばした。

 キャロレインのそれはエルザの比ではなかった。

 

 車輪が外れそうな勢いで爆速走行する魔導四輪。跳ねるというより、最早飛ぶと言った方が正しい車体の跳躍。カーブに差し掛かる度に繰り出される鋭いドリフト。その慣性によって発生するスピン。挙げ句の果てにはレールに乗り上げた拍子でバレルロールをする始末。

 ルーシィ達は振り落とされまいと必死になって車体の鉄パイプにしがみつく。頭の毛根を丸ごと吹き飛ばしてしまうような風圧は、彼女らの整った顔立ちを皺くちゃにさせた。

 

「誰かアイツを教習所にぶち込めェェェ!」

「ひぃぃ誰でもいいんで止めて下さぁぁぁい!」

「め、滅茶苦茶すぎる! まともな操縦すらできないのか妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士はぁぁぁッ‼︎」

 

 今、世界で一番の最恐マシンはと訊かれれば、彼らは満場一致でこの魔導四輪と答えるに違いない。

 

 三人が絶叫する中、ただ一人、エルザだけは不動の着席を決め込んでいた。




キャラの心情描写とかスラスラ書ける人はマジで凄いと思う
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