魔導士は爆煙と狂う   作:宝剣サーモンソード

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やあ、久しぶり。元気そうで何よりだよ
当方? 当方はうっかりヨーグルトを食い過ぎた結果、腹を下してくたばってたんだ。
笑えよ


7話:相性=勝敗は安直

 エリゴールは峡谷に架けられた橋をなぞって、風の魔法を脚に纏い宙を飛翔しながらクローバーへと向かっていた。

 彼の目的は定例会で集まっているギルドマスター達の殺害。その動機は、自分達の権利と生活の自由を奪った者達に対する復讐であった。

 

 相手はギルドマスター。それも一人ではなく、大多数。エリゴールと言えど、まともに戦えば間違いなく敗れるであろう強大な相手。しかし、それを容易く討てる必殺の手段が今、彼の手元にあった。

 呪歌(ララバイ)、それは音色を聴いた者の魂を奪う死神の笛。標的は目前、邪魔する者はいない。

 いかに実力者揃いとは言えど、長年培ってきた暗殺の経験と技術を総動員すれば、バレずに笛の音色を聴かせることなど簡単だろうと彼は考えた。

 

(俺達の権利と生活を奪いやがった老ぼれ共め、待っていろ……)

 

 エリゴールは、口から溢れ出てしまいそうな程に籠もった負の感情を滾らせる。しかし、そうなった原因は違反行為を続けた末の結果なので、そこに正当性なんかは勿論無い。所謂、ただの逆恨みなのだ。

 

 彼がそんな恨みを募らせていると、遠くで聴き覚えのある声が彼の耳に届いた。

 

「オォォォ‼︎ 全・速・全・開ッ! これがハッピーの───」

 

 それはエリゴールの遥か後方から豪速球で現れた。

 

「MAXスピードだァァァァッ‼︎」

 

 次の瞬間、エリゴールは頬に痛烈な衝撃が走る感覚を覚え、橋へ墜落した。この期に及んで一体誰だと苛立ちを覚え、立ち上がるエリゴール。しかし、内心では誰が来たのかなど大方予想がついていた。

 

「しつこいぞ……妖精(ハエ)がァッ!」

「はンッ! ハエは鬱陶しいんだよ、そよ風野郎! じっちゃんの元へは行かせねぇぞ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 爆速で魔導四輪を発進させていたキャロレインは、前方に二つの人影を捉えた。

 一人は腕に炎を纏い、また一人は鎌を持った独特な服装の男であった。

 

(あ、ナツとハッピー見っけ。あの鎌野郎は……エリゴールか)

 

 キャロレインが操縦レバーを引いて急ブレーキをかけると、魔導四輪は耳を塞ぎたくなるほどの金切声を上げ、後輪を浮かせた後にナツの数メートル後方で停車した。

 その際、「ぐぇッ⁉︎」や「ぎゃんッ⁉︎」といった押し潰されたような声が響いたが、キャロレインは全く気にしていなかった。いや、聞こえていなかったというのが正しいだろうか。

 

 ナツはいきなり背後から迫ってきた魔導四輪に驚いて、思わず「うおッ⁉︎」と声を漏らした。

 

 建物に閉じ込めたにも関わらず、続々と現れる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々にエリゴールの表情から余裕が消え、焦りが浮かび上がる。

 あと一歩という所で水を差された彼は、何度も絡み付いてくる妖精の尻尾(フェアリーテイル)に沸々とした怒りを露わにさせた。

 

「次から次へと……カゲヤマ達は一体何をしている……?」

鉄の森(アイゼンヴァルト)のへっぽこ魔導士連中なら全員仲良く駅でおねんねしてるぜ。カゲヤマは───」

 

 キャロレインは後部座席に振り向いて目を配せる。

 腕を組み、瞑想するように目を閉じて座るエルザを除いて、全員目を回しながらぐったりしていた。

 

「あー……絶賛昏倒中だ。で、オレとしてはとっととお前ぶっ飛ばして帰りたい訳なんですが」

「キャロ! 手ェ出すんじゃねぇ! アイツは俺がぶっ倒すんだ!」

 

 キャロレインとエリゴールの間にナツが割って入る。

 彼はエリゴールと一対一で決着を付けたいようで、手助け無用といった様子で二人の間に立ち塞がった。

 

「ふーん。じゃ、頼むわ」

「なんだ、アッサリしてんな……」

「男同士の決闘に横からチョッカイ入れるつもり無いんで。つっても事が事だからナツが無理だったら勝手にあの鎌野郎ブチのめすから、そこんとこ宜しく」

「あんな奴なんかに負けねーよ、俺は」

 

 二人から離れた位置でその会話を聞いたエリゴールは、一人で十分だと遠回しに言ったナツに対して、随分軽く見られたものだと心中で腹立たしさを覚えた。

 

「ク……ククッ……図に乗るなよ、妖精(ハエ)共。風よ、俺を護れ……暴風衣(ストームメイル)

 

 そう言って両腕を広げたエリゴール。すると、彼に吸い込まれるようにして周囲の空気が流れていく。彼は瞬く間に完全に風に包み込まれた。風の鎧を纏うその風貌は、まさしく竜巻人間といったところである。

 

「炎は向かい風に勝てねぇ。貴様の炎如きじゃあ俺には届かねぇ……悪いが、時間が無いんでな……コイツを使わせてもらうぞ」

 

 エリゴールは遥か上空へ飛び立つと、懐から髑髏が付いた枯れ木のような笛を取り出す。

 

「大変だ! アイツ、呪歌(ララバイ)をここで使うつもりだよ! 阻止するにしたってナツの魔法じゃエリゴールの暴風衣(ストームメイル)と相性が悪すぎるよ!」

「ふん……卑怯とは言わせまい。使える物は何でも使うのが、戦で勝つ術よ……」

 

 あたふたしながらキャロレインの上着の袖を掴むハッピーだったが、しかし彼女はサングラスをかけて紙パックの牛乳をストローで啜りながら操縦席で寛いでいた。

 そんなキャロレインを見たハッピーは、呑気に観戦してる場合じゃないと突っ込んだ。

 

呪歌(ララバイ)のチカラ……老ぼれ共に使う前に、貴様らで試させてもらっ───⁉︎」

「だらぁぁぁッ!」

 

 エリゴールが笛に口を当てる寸前、ナツは手足に纏った炎をジェットのように噴射させ上空へひとっ飛びすると、炎の鉄拳をもってエリゴールを殴り付けた。

 ナツが纏う炎は暴風衣(ストームメイル)に掻き消されたが、それでも彼は自身の膂力のみで風の鎧を纏ったエリゴールを叩き落としたのだ。

 

 まさか、とダメージを負った事に一瞬困惑したエリゴール。

 しかしすぐに気を取り直して体勢を整え、身を翻してナツの追撃を躱す。

 

「……あの魔導四輪にはお前の仲間が乗ってるんだぞ。なのに吹くのか? それをッ!」

 

 ナツは仲間を顧みないエリゴールに対して、燃え盛るような憤りを覚えた。

 怒りによる力の増幅とは案外侮れないモノである。先程、魔法を無力化させられたのにも関わらず、暴風衣(ストームメイル)ごとエリゴールにダメージを負わせられたのもそのお陰だ。

 

「どうやら、貴様の言う仲間と俺の言う仲間の意味には齟齬があるようだ。仲間というのは、互恵(ごけい)関係があってこそ。カゲヤマはこの計画に於いてそれができなかった。ララバイの封印を解いた事は認めるがしかし、我々の計画を貴様らに露呈させ、あまつさえ取り逃がしたのだ。利用価値のない者なぞ、切り捨てられて当然だろうがッ」

 

 同じギルドの仲間を手に掛けるつもりかと怒鳴るナツに、エリゴールは自身の役目を果たせないものは不要だと言い払った。

 

「よく言うぜ、躊躇ってたクセに……」

 

 冷酷な物言いをするエリゴールだったがしかし、キャロレインには見えた。呪歌(ララバイ)を扱う動作の端々で、一瞬動きが鈍くなるエリゴールが。その間、僅かコンマ数秒。しかし、その隙はナツの拳が呪歌(ララバイ)を阻止するのに十分な時間を与えたのだ。

 

「エリゴールゥゥゥッ‼︎ テメーは絶対(ぜってー)許さねェェェェ‼︎」

 

 一方、ナツは仲間に対して薄情な発言をするエリゴールに対してぶち切れた。

 怒れるナツの全身から噴出した炎は、瞬く間に彼を包んで巨大な火柱を立ち昇らせる。

 その熱気は溶岩にも負けず劣らず、ナツのすぐ側に敷かれた鋼鉄製のレールは今にも溶けてしまいそうな程の赤熱を帯び、彼の足下にある枕木はあっという間に炭化した。

 

 睨み合う竜と死神。

 仕掛けたのは、互いにほぼ同時であった。

 

「火竜の鉤爪ッ‼︎」

「風刃脚ッ‼︎」

 

 豪火と嵐。繰り出された蹴りが交差、砲撃にも等しい炸裂音が響く。

 それと共に生まれた衝撃波は空気を裂いた。

 

「うおォォォォォォ‼︎」

「カアァァァァァッ‼︎」

 

 互いに蹴り上げた脚を押し切らんと咆哮を上げる。それは深い谷底に残響した。

 二人は競り合いの末に、双方弾けるように飛び退いて後退。

 

 息を吐く間も与えないと、今度はナツが一手早くエリゴールの元へ飛び込み、怒りのままに殴る蹴るの激しいインファイトを繰り出す。

 反応に一瞬遅れたエリゴールは数発攻撃を受けるも、その後はナツの攻撃を的確に捌いていく。

 

 絶え間無く迫り来る乱打の一つを、エリゴールは掌で受け流した。

 それによって軌道を逸らされた事により、体勢を崩して前のめりになったナツ。

 エリゴールはその隙を逃さず、回し蹴りで彼を線路の橋から叩き落とした。

 

「おわぁ⁉︎ 落ちるぅぅ」

「ナツー!」

 

 (エーラ)で救出に向かおうとするハッピー。だが、オシバナから全速力で飛ばした影響で魔力切れを起こしていた為に発動できず、そのまま橋の上から身を乗り出して谷底に落ちて行くナツをただ眺める事しかできなかった。

 

 この高さから落ちてしまえば助からないだろうと勝ちを確信し、笑うエリゴール。しかし次の瞬間、炎が橋に張り付くいたかと思えば、ナツを宙から引き戻したではないか。

 

「あっぶねぇ……成る程な、火の質を変えるとこういう事もできるんだな」

 

 困惑を浮かべるエリゴールに構うことなく、復帰したナツはお返しとばかりに彼に飛び蹴りを放つ。

 それはエリゴールの暴風衣(ストームメイル)を刺し貫いて、彼の胴体に届いた。

 

暴風衣(ストームメイル)が貫かれた……しかも、奴の脚の炎が消えていない。何故だ……? もしや、魔風壁で使った魔力がまだ回復しきっていなかったか……時間をかけている場合ではなさそうだな)

 

 エリゴールは暴風衣(ストームメイル)を解いた。

 そんな彼に対して、ナツは訝しげな表情を向ける。

 

 エリゴールは考えた。攻撃を防げないのなら、わざわざ魔力を消費して風の鎧を纏う意味などない。それよりは魔力を攻撃に転換させた方がマシだろうと。

 要は短期決戦に切り替えたのだ。

 

「どうやら、とっととケリを付けねばならんようだ。喰らうがいい……全てを切り裂く風翔魔法。翠緑迅(エメラ・バラム)‼︎」

 

 そう言ったエリゴールは浮遊しながら胡座になると、両手を広げる。

 周囲の風が引き寄せられたかと思えば、彼の手の平の上で小さな竜巻が渦巻き始めた。

 

翠緑迅(エメラ・バラム)だって⁉︎ そんなの喰らったらバラバラになっちゃうよ!」

「ヤッベ、ここ射程範囲内だぞ」

 

「終わりだ‼︎ 背後の妖精(ハエ)諸共消えろ、燃えカス小僧ォォォォォ‼︎」

 

 エリゴールが二対の竜巻を合掌で纏める。

 そのままナツに向けて二本指を斜め十時に構えると、重なり合った場所からそれは放たれた。

 一見、極太の照射に見えるが、その正体はきめ細かく密集した風の刃の螺旋。

 その螺旋が幾つも重なり合っている為に、一本の光線と錯覚してしまうのである。

 翠緑迅(エメラ・バラム)。鋼鉄さえ易々と切り裂いてしまうその奔流は、生身で喰らおうものなら一瞬でスライスされてしまうだろう。

 木材、石、鉄を裂きながら激しい轟音を上げて流れる翠緑迅(エメラ・バラム)

 ナツは、眼前に大口を開けて自身を喰らおうとする髑髏を幻視した。彼の本能が死を刺激する。

 

「やらせるかァァァッ‼︎」

 

 しかし、ナツは迫る臆する事なく巨大な炎の弾丸となって正面から飛び込んでいった。彼に恐怖は無い、あるのは怒り。ただそれだけ。

 ナツが翠緑迅(エメラ・バラム)に触れた瞬間、それは彼から逸れるように八方に散って行くではないか。

 

「なッ……真っ向から弾かれている⁉︎ バカな、あり得ん‼︎」

 

 その光景を見たエリゴールは予想外の出来事に頭が真っ白になった。

 

 風は気圧の低い方へと流れて行く。

 ナツが全身に纏う超高温の炎が瞬間的に空気を熱した事によって、急激な上昇気流が発生。それによって生まれた低気圧が、翠緑迅(エメラ・バラム)をナツに接触させる事なく拡散させたのである。

 

 ……と、ハッピーは自信満々に解説した。

 

「急に賢くなるじゃん、ハッピー」

「昔、暇潰しで読んだ本にそう書いてあったんだ。確かタイトルは『タコでも分かる気象のしくみ』だったっけ……」

 

 極太な風の奔流を突き破り、火球と化したナツがエリゴールの目と鼻の先に現れる。

 

「テメェの仲間すら蔑ろにしやがって……そんな奴の魔法で……そんな道具(モノ)で、俺は、俺達は崩れねぇぞ‼︎」

 

(これ程の強大な炎の魔法……まさか)

 

 エリゴールはスローモーションとなった視界の中、記憶の引き出しから一つの答えを導き出した。

 

(実在したのか⁉︎ 古の魔法(ロストマジック)……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の使い手がッ‼︎)

 

 それは感情に呼応する炎、竜を討つ豪火。

 

「ッらァァァ! 火竜の劍角(けんかく)‼︎ ぶっ飛べェェェ‼︎」

 

 ナツは、竜角の如き鋭い頭突きをエリゴールの胴体へめり込ませ、そのまま天高く彼を垂直にカチ上げた。

 雑な回転を描きながら空に打ち上がったエリゴールは、白目を剥いてそのまま落下し鈍い音を立てて再起不能となった。

 

 エリゴールの懐から転がり落ちた呪歌(ララバイ)が、決着のゴング代わりとでも言うように軽快な音を鳴らした。

 

 勝負あり。

 

 

 

 

「う、んん……さっきから凄い音、何……?」

「くっそ……相変わらずとんでもねぇ操縦しやがって……」

 

 目を回していたグレイ達が、轟音に叩き起こされてゆっくりと目を覚ます。

 頭を押さえながら、おぼつかない足で立ち上がった彼らが見たモノは、半透明の壁の向こうに佇むナツと、戦闘不能になったエリゴール。

 グレイは、自分達がへばってる間に白黒決まったらしいとすぐに理解した。

 

 彼らの気も知らずに魔導四輪に向かって歩いて来たナツだったが、半透明の壁に阻まれて顔面がビタンと張り付く。

 

「うごッ、なんだこの壁」

「あー悪い、魔導障壁展開したまんまだったわ」

 

 キャロレインは、発進レバーの隣にある『壁・緊急用』という文字が書かれたテープが貼ってあるスイッチを押す。

 すると、カチリと小気味いい音が鳴って、魔導障壁は円状に収縮した。

 

「その装置って、確か《NBC》が提供してるんだったか……」

 

 グレイが呟く。

 

「NBC?」

「私、それ知ってる。最近有名になった会社なのよ。まあ、知ってると言っても魔導ビークルに搭載できる魔導障壁の性能が評価されて、急成長したって事位だけなんだけどね……。で、それを持ってる人達が万が一に備えてって事で、けっこう需要あるみたい」

 

 初めて聞いたと首を傾げるキャロレインに、まだ呂律の回らない口調でそう説明したルーシィ。

 キャロレインは三対六枚の羽を持つ蝶のような紋章を見降ろす。

 

《ニュー・ビヨンド・コーポレーション》通称《NBC》

 ビークル用魔導障壁以外にも家電や電子魔水晶(ラクリマ)なんかも開発しているらしいが、それ以外の詳しい情報は殆ど出回っていないとルーシィは言った。

 

「何だソレ、超うさんくさ」

「このご時世じゃ、情報外に洩らしたくないって気持ちは理解できるなぁ。見ての通り、近頃闇ギルドがチラホラと活発だからな。そういう連中に技術目当てで目ぇ付けられたく無いんだろ」

 

 キャロレインはなんとなく不信感を抱いたが、グレイは下手に知られたくないんだろうと何処となく察した雰囲気でそう言った。とはいえ、お互い深くは考えていない上での発言である。三人の会話を、ナツは何の事やらさっぱりというような顔で聞いていた。

 キャロレインはそんな会話を早々に切り上げ、呪歌(ララバイ)を回収しに行くと言って操縦席を離れる。

 

「小難しい話はよく分からんけど……そんな事より、なんで俺よりお前らの方が満身創痍なんだよ」

「あぁ? お前今までどこ見てたんだよクソ炎……」

「ホント、死ぬかと思った……もう二度とキャロレインの操縦する魔導四輪には乗らない、決めたわ……」

「キャロが……操縦……? ウッッッッッッ‼︎」

 

 ナツは泡を吹いて背面から仰向けに倒れた。

 効果音を付けるなら、ドサッというよりはビターンといった音が合うだろう。

 

「倒れちゃったんですけど⁉︎」

「拒否反応さ、キャロの世紀末的操縦を想像体験した所為でキャパシティがぶっ壊れたんだ」

「そんなに⁉︎ ……いや、乗り物に対して貧弱過ぎるナツならあり得るかも」

 

 ナツは前に一度、悪戯が過ぎて総長(じいさん)に怒られた後、お仕置きということでキャロレイン操縦の魔導四輪にぶち込まれた事があったと、グレイは言った。

 後にナツは、()()は地獄以外の何物でもなかったと遺したという。

 

 それを聞いたルーシィは「かわいそう」とは言ったものの、その声色は淡々としていた。日頃ナツに散々振り回されていた所為で、心の隅で気持ちスッキリしたのだろう。彼女にも、案外腹黒い一面はあるのかもしれない。

 

「すまない、少々眠ってしまったようだ」

 

 二人の後方で、目を瞑っていたエルザがゆっくりと瞼を開けた。

 それに気が付き、体調は大丈夫かと心配するルーシィに彼女は問題無いと答えると、辺りを忙しなく見渡し始めた。

 その様子を見たグレイは、どうかしたのかとエルザに訊いた。

 

「その……カゲヤマの姿が無いのだが」

「えっ⁉︎ ……あ、いない。どこにも」

「まさか四輪から振り落とされたか⁉︎」

「それは無いよ。オイラ、さっき座席でぐったりしてるカゲヤマを見たもん」

「じゃあ一体……」

 

 いつの間にか行方を眩ませたカゲヤマ。

 そんな時、キャロレインが手持ち無沙汰と言った様子で戻ってきた。

 

「おーいナツ……って何で倒れてんの」

「おうキャロ、呪歌(ララバイ)は回収できたか」

「いや、それがさ……無いんだよ。転がってた場所はレールの内側だったから、谷底に落ちてるって事はないんだろうけど。どこ探しても見つからないから、ナツが持ってねーかなって……」

「そうか……起きるんだナツ、キャロはお前が呪歌(ララバイ)を持っていないか確認したいらしい」

 

 エルザは倒れるナツを抱き上げると、水揚げされた魚の尾の如く素早い目覚ましビンタを彼の頬に打った。

 彼女なりに手加減しているつもりなのだが、やられる側からすれば溜まったものではない。

 

「ウッ……俺は……呪歌(ララバイ)なんて、持って、ねぇぞ……ぐふっ」

 

 ナツはその言葉を最後にくたばった。……死んでしまったわけではない。

 想像乗車による極度のストレスと、エルザの往復ビンタによる心身への負担で半死半生といった所が事実。

 

「そういえばカゲヤマは……?」

「キャロも気付いたか。カゲヤマは消えた。いつの間にかな……」

 

 疑問符を浮かべるキャロレインにグレイは答える。

 

 この短時間で消えたカゲヤマと呪歌(ララバイ)

 

「……なーんか嫌な予感するぜ」

「奇遇だなキャロ、俺もだ」

「多分、みんな同じこと考えてると思う」

「杞憂、だと良いんだけど。この流れでそれは微妙なトコよね」

 

 カゲヤマは密かに呪歌(ララバイ)を回収し、クローバーへ向かったのではないか。その考えが一同で一致した。

 

「くっ……私が魔力切れを起こしてダウンしなければこんな事には……なんて不甲斐ない、殴ってくれ‼︎」

「いや何でよ‼︎」

 

「クッソ、こんな事なら縄でキッッツく縛っとくべきだったわ。あンの野郎マジで……‼︎ 四輪出すぞ、座りなァ‼︎」

 

 額に怒筋を浮かべたキャロレインは、誰が言うよりも早く操縦席に腰掛けレバーに手を添えた。

 言葉が詰まったようにハッピーに助けを求めるグレイとルーシィ。しかし、彼は何をするでも言うでもなく、ただ不憫そうに彼らを見つめるだけであった。

 魔導ビークルの操縦席に座ったキャロレインは誰にも止められないのだ。

 

「オ、オイラは乗り物ダメなナツを連れていかなきゃだから……後ろから付いて行くよ」

「そうか。では、ナツを頼んだぞ」

 

 翼を生やし、間接的に同乗を拒否するハッピー。

 ナツを任せたと言ったエルザに彼は心底安心した様子で頷き、グロッキー状態のナツを掴み上げる。芸は身を助ける。

 

「まだ間に合う! 急ぐぞ!」

「任せな! オレの操縦技術(ドラテク)にかかれば韋駄天なんか目じゃねェってな‼︎」

 

 キャロレインの手首にはめられたSE(セルフエナジー)プラグが破裂寸前の風船のように膨張する。

 

 魔導四輪が咆哮を轟かせる。

 

「ずるいぞハッピー……」

「ね、ねぇハッピー。二人以上ってイケる……?」

「無理、重くて飛べないよ」

 

 一筋の希望に賭けたルーシィを、ハッピーは容赦なく打ち砕いた。

 グレイの顔に生気は無かった。まるで運命を受け入れるかのように、遠くを見つめながら呆然と立ち尽くしていた。

 ルーシィは半泣きでもう勘弁といった様子で車体の鉄パイプにしがみついている。

 

「目標クローバー‼︎ 快速発進‼︎ おっしゃ行くぜェェェ‼︎」

 

 キャロレインが叫んだ次の瞬間、ハッピーの体を軽々吹き飛ばしてしまう程の風圧が発生。(エーラ)で上手く体勢を維持した彼の毛並みが靡くと、それと同時に二つの絶叫が峡谷の果てに消えていった。




オリ主が千差万別なら、その物語もまた同様である

知らんけど
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